Coming soon!
その日は春らしいあたたかい天気で、冒険(ぼうけん:たとえば、こわいことやたいへんなことをしながら新しいことをさがしに行くこと)を始めるのにぴったりの日だった。ベレンは中央本線(ちゅうおうほんせん)にのって小渕沢(こぶちさわ)まで出た後、小海線(こうみせん)で信濃川上駅(しなのかわかみえき)に着いた。信濃川上駅はとても小さくて、駅の前にベンチとバスていがあるだけだった。
下諏訪(しもすわ)からここまで電車で1時間半、ここからバスで梓山(あずさやま)のバスていまで30分、さらに甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)の入り口であり言いつたえにおける最初の場所の毛木平(もうきだいら)までは徒歩で1時間ほどもかかる。ベレンは朝7時発の電車にのったが、登山口に着くのは10時になるはずだった。
ベレンがぼんやりとベンチに座っていると、しばらくして小さなバスがやってきた。ベレンがのると、運転席に座っていた60くらいのおじさんがおどろいたように話しかけてきた。
「お客さんとは、めずらしいね…どこまでのっていくの?」
「ええと、梓山(あずさやま)のバスていまでお願いしたいです」
「梓山、てことは、甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)かい?」
「え、ええ、そうです」
「そうか。おれも登ったことがあるが、あれはなかなかいい山だ」
そういうと、運転手はハンドルをにぎりなおした。
「出発します。せきに座ってください」
川上村は、千曲川(ちくまがわ)がながれる山の中の小さな村だ。村の中心を通る2車線のせまい道路を、バスはゆっくり走った。道路のりょうがわには家や小さな店がならび、その先にはすぐにみどりの山が近くに見えている。
(ここがトシさんのこきょう…すごくしずかな場所)
バスにのっている間、ほかの乗客がのってくることはなかった。
「お客さん、梓山(あずさやま)についたよ」
ぼんやりしていたベレンは、そう言われて目がさめた。
「気をつけてな。おうえんしてるよ」
運転手はおりるときにそう言って小さくわらった。
そこは村のはずれだった。ここから毛木平(もうきだいら)まで1時間、ほんかくてきな登山はそこからだ。
だれもいないいなかの道に一人いるから、ベレンは急に不安になった。
地図を見て、歩き出す。まずは毛木平(もうきだいら)に向かう。
毛木平(もうきだいら)に向かう道は、ほとんどまっすぐで見通しがよかった。まわりには広いレタス畑が広がり、その中をまっすぐな道がとおくまでつづいていた。まわりは山にかこまれていて、春の始まりの高原の空気はつめたくかんじた。そんな道をずっと歩いてえいえんにつづくんじゃないかと思い始めたとき、道は山につきあたってまががり、それから山の中に入っていった。木がたくさん生えているほそうされていない砂利道(じゃりどう:小さな石やすながしかれた道)を少しすすむと、とつぜん広い場所に出た。
毛木平(もうきだいら)だ。いよいよ登山の始まりだ。
ベレンは目の前の山を見上げると、一人つぶやいた。
「きっとほこらを見つけてみせる!」
その日は春先の暖かい陽気で、冒険の始まりにはもってこいだった。ベレンは中央本線に乗って小渕沢まで出た後、小海線で信濃川上駅に到着した。信濃川上駅は本当に小さな駅で、長屋のような小さな駅の前には申し訳程度のベンチとバス停があった。
下諏訪からここまで電車で1時間半、ここからバスで梓山のバス停まで30分、更に甲武信ヶ岳の入り口であり言い伝えにおける最初の場所の毛木平までは徒歩で1時間ほどもかかる。ベレンは朝7時発の電車に乗ったが、登山口に着くのは10時になるはずだった。
ベレンがぼんやりとベンチに座っていると、しばらくして小さなバスがやってきた。ベレンが乗り込むと、運転席に座っていた60くらいのおじさんが驚いたように話しかけてきた。
「お客さんとは、珍しいね…どこまで乗っていくの?」
「ええと、梓山のバス停までお願いしたいです」
「梓山、てことは、甲武信ヶ岳かい?」
「え、ええ、そうです」
「そうか。俺も登ったことがあるが、あれはなかなかいい山だ」
そういうと、運転手はハンドルを握りなおした。
「出発します。席に座ってください」
川上村は千曲川の流れる山間の小さな村だ。村の中央を通っている2車線の細い道路をバスはゆっくりと走った。両側には民家や小さな商店が立ち並び、その向こうにはすぐ近くに鮮やかな緑色の山々が迫っている。
(ここがトシさんの故郷…すごく静かな場所)
バスに乗っている間、他の乗客が乗ってくることは遂になかった。
「お客さん、梓山についたよ」
ぼんやりしていたベレンはそう言われて我に返った。
「登山は気をつけてな。応援してるよ」
運転手は降りる際にそう言って小さく笑った。
そこは村のはずれだった。ここから毛木平まで1時間、本格的な登山はそこからだ。
誰もいない田舎道に取り残されると、ベレンは急に不安になった。
地図を確認し、歩き出す。まずは毛木平に向かう。
毛木平に向かう道は、殆ど一直線で開けていた。周囲には一面のレタス畑が広がっていて、その中をまっすぐな道がはるか遠くまで続いている。周囲は山々に囲われていて、春先の高原の空気はひんやりとしていた。そんな道をずっと歩いて永遠に続くんじゃないかと思い始めたとき、道は山に突き当たって曲がり、それから山の中に入っていった。木々がうっそうと生える未舗装の砂利道をしばらく進むと、不意に開けた場所に出た。
毛木平だ。いよいよ登山の始まりだ。
ベレンは目の前の山を見上げると、一人呟いた。
「きっと祠を見つけてみせる!」