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じゅうどう部に入ったルカ、どうなった?
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Coming soon!
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。たくさんの学生がじゅうどうをしていました。ルカはいすにすわって見ている人に聞きました。
「あのう、すみません。森先生はいらっしゃいますか。」
「森は私ですが。」
ルカはあわてて
「あ、ルカともうします。イタリアからまいりました。」
と言いました。
「ああ、きみがルカさん。話を聞きましたよ。じゅうどうを習っていたそうですね。日本でもつづけるんでしょう?」
「はい、そう思っていますが、だいじょうぶですか。」
「ええ、もちろん。じゅうどう部に入ることになりますが、いいですか。」
「はい、どうぞよろしくおねがいします。」
ルカは言いました。
「じゅうどうぶは毎日、朝は午前7時から10時まで、午後は午後5時から8時までここでれんしゅうしています。授業の前やあと、れんしゅうに来てください。たくさんれんしゅうしたら、じょうずになりますよ。」
森先生は言いました。
「はい、わかりました。明日からまいります。」
ルカは元気にこたえました。
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。いえ、行ったと思いました。じゅうどう部の入り口はすもう部の入り口のとなりにあります。ルカが入った入り口には「相撲部(すもうぶ)」と書かれていましたが、ルカは漢字が読めませんでした。
中に入ると、大きい先ぱいが来て、
「きみ、留学生でしょ。はやくまわし(力士(りきし)がしめる帯(おび))をつけてきて。」
と言いました。
「まわし?」
とルカは言いましたが、それいじょう、話すことができません。
(なんかへんだなあ。まあいいや。じゅうどうぎの下にまわしみたいなのをつけるっていう話を聞いたことがあるし・・・。)
そう思って、
「どこでまわしを・・・」と言うと、
先ぱいは
「あそこ、わかるよね。」
と少しはなれた右のほうを指(ゆび)でさしました。
「は、はい。わかりました。」
わかったようなわからないような気持ちでルカは言いました。そして、少しはなれた右のほうに歩いていきました。すると、人の声が聞こえました。中を見ると、みなさん、まわしをつけているところです。ルカは安心して、
「しつれいします。留学生のルカともうします。どうぞよろしくおねがいします。」
と大きい声であいさつしました。中にいた人たちは、ルカをちらっと見て低い声で言いました。
「おっす。」
「よろしくっす。」
1人が言いました。
「留学生が来るってだれか聞いた?」
「はい、古川(ふるかわ)先ぱい、きのう、かんとくから聞きました。」
とほかの1人がこたえました。すると、古川先ぱいという人が言いました。
「じゃ、そこにある白いまわしをつけてください。」
「はい、わかりました。」
とルカは答えましたが、じつはまわしのつけかたを知りません。
(どうしよう。どうしたらいいんだ・・・。だれかに聞くしかないよ。)
ルカはまわりを見ましたが、みんな何だかこわそうです。でも、しようがない、聞くしかない、と思って、近くの人に聞きました。
「あのう、どうやってつけますか。わからないんですが・・・。」
「えっ、知らないの。まあ、留学生だからしかたないよね。ちょっと、1年生、手伝ってあげて。」
こうして、1年生が2人で手伝ってくれたので、ルカはまわしをつけることができました。
(ああ、よかった。この上にじゅうどうぎをきればいいんだよね。)
そう思ったルカは、持ってきたじゅうどうぎを上に着ようとしました。すると、
「ねえ、きみ、じゅうどうでもするの?」
「はい、今日からじゅうどう部でれんしゅうするので・・・。」
「えっ、ここはすもう部だよ。」
「えっ・・・」
ルカはことばが出ませんでした。
「ここはじゅうどう部の道場じゃないんですか・・・?」
「だから、すもう部だよ。となりの部屋を見てよ。どひょうがあるから。」
ルカがそっととなりの部屋を見ると、そこにはまるいどひょうがありました。
「えっ、どうして・・・」
そこに、少し年を取った大きい人が来て言いました。
「ああ、きみが留学生のマリオくんか。はじめまして。かんとくの水田です。」
「それが、ちがうみたいなんですよ。」
「えっ、きみ、マリオくんじゃないの?」
「ルカです・・・。」
「ハッハハハハ。なんだ。まわしまでつけて。でも、りっぱな体してるから、じゅうどう部じゃなくてすもう部に入ったら?」
かんとくは言いました。ルカはあわてて言いました。
「いえ、もうじゅうどう部に入るって言ったんです・・・。」
「そう。じゃ、りょうほう入れば?」
かんとくはぐいぐいと話しかけましたが、古川先ぱいが言いました。
「かんとく、それはむりですよ。」
「そっか。ざんねんだね。」
かんとくは、やっとあきらめました。でも、ルカはうれしそうな顔で言いました。
「ぼく、すもうも大好きなんです。子どもの時、国でよくすもうをとりました。テレビでもよくすもうを見ました。」
「なんだ。それなら、入ったらいいよ。ときどきれんしゅうに来ればいいから。」
とかんとくは言いました。
「えっ、ほんとうですか!? じゃ、ぜひ入りたいです!!」
ルカはうれしそうに大きい声で言いました。
それから、ルカは、すもうのまわしの上にじゅうどうぎを着て、じゅうどう部の道場にむかいました。そして、じゅうどう部の森先生にすもう部にも入ることになったと言いました。森先生は、
「じゅうどうもすもうも一対一(いっついいち)のスポーツですが、ぜんぜんちがいます。わざの数はじゅうどうが100こ、すもうが48こあると言います。始めたばかりの人はわざを覚えるだけでも大変です。ですから、じゅうどうとすもうをりょうほうするのはね、むりだと思いますよ。」
と心配して言いました。けれども、ルカはそんな心配をぜんぜん気にしないで、
「だいじょうぶです! がんばります!」
と大きい声で言いました。
こうして、ルカは1週間おきに、じゅうどう部とすもう部にれんしゅうに行くようになりました。先週はじゅうどうをして、今週はすもうをとって、来週はじゅうどうをして、・・・とくりかえしました。少しずつじゅうどうのわざとすもうのわざがわかってきました。でも、まだじょうずにできません。ですから、ルカはいっしょうけんめいれんしゅうしようとしました。でも、わざがたくさんあって、何が何だかわからなくなってきました。森先生が心配した通りになったのです。それでも、ルカはどんどんれんしゅうしました。じゅうどうのときもすもうのときも、使うわざがすもうのわざか、じゅうどうのわざか、もうそんなことはどうでもよくなりました。とにかくわざをれんしゅうしたい、ルカは思いました。そして、じゅうどうの道場で、すもうのわざを使った時、
「うわてなげ(すもうのわざの一つ)! やった!」
すもうのどひょうで、じゅうどうのわざを使った時、
「せおいなげ~! きまった!」
というルカの大きい声が聞こえるようになりました。そんな時、すもう部の水田かんとくは
「ハッハハハ。おもしろいねえ。」
とわらいましたが、じゅうどう部の森先生は
「それはじゅうどうのわざじゃないですよ。」
とちゅういしました。でも、ルカはどんな時でもニコニコしていてほんとうに楽しそうです。わざをめちゃくちゃに使っていますが、それでも少しずつわざが上手になりました。 そんなルカを見て、じゅうどう部のれんしゅうの時、部員が言いました。
「ルカくん、『せおいなげ』は、道場ではあまりれんしゅうしてなかったけど、上手になったね。どこでれんしゅうしたの?」
ルカは言いました。
「すもう部でれんしゅうしました。」
「じゃ、じゅうどう部では何をれんしゅうするの?」
「もちろん、すもうのわざですよ~。」
また、すもう部のれんしゅうの時、部員が
「ルカくんの『うわてなげ』って、すもう部のれんしゅうで見たことなかったなあ。じゅうどう部でれんしゅうしたんでしょ?」
と聞くと、ルカはとぼけて言いました。
「どうしてわかるんですか? すごいですねえ。」
「とうぜんでしょ! ぼくをだれだと思ってるの? でも、ルカくんもすごいね。じゅうどう部ですもうのわざをれんしゅうするなんて。おめでたいね。」
「おめでたい? おめでとうございます?」
「そうそう、おめでとうございます!」
「お~、ありがとう~。」
よくわからない会話ですが、ルカと話すと、何だかいつもおもしろくなりました。
11月になると、ルカはすもう部でれんしゅう試合(しあい)のことを聞きました。すもう部では、毎年1回、れんしゅう試合をトーナメントでします。トーナメントのどこに入るかは、くじびきで決めます。先ぱいがルカに言いました。
「このわりばしを1本取って。番号が書いてあるから。」
「はい、わかりました。じゃ、これ。」
ルカが取ったわりばしは5番でした。
「5番は1回戦(せん)は6番の人とやるんだよ。」
「6番はだれですか。」
「まだわかんない。これからみんなくじをひくから。」
「そうですか。」
今、みんながくじをひいています。
「あっ、1番だ。」
「おれ、2番。きみとだね。」
「おれ、8番。」
そのとき、大きい声が聞こえました。
「6ば~ん! 5番ってだれ?」
「はい、ぼくでーす。」
ルカはこたえました。あいてはあの古川先ぱいでした。古川せんぱいはすもう部のしゅしょう――リーダーのことですが――で、すもう部で一番強い部員です。
「ああ、ルカくんね。よろしく。」
古川先ぱいはすずしい顔で言いました。ルカはめずらしく小さい声で
「先ぱい、よろしくお願いします。」
と言いました。
(あーあ、1回戦でまけそうだなあ。まあ、いいや。強い人だからしょうがない。)
とルカは思いました。
1週間後、れんしゅう試合の日が来ました。いよいよルカの番です。古川先ぱいとすもうをとります。ルカと古川先ぱいはどひょうに上がりました。行司(ぎょうじ)の声がひびきました。
「はっけよーい、のこった。」
ルカと古川先ぱいはおたがいのまわしをつかんでくみあいました。二人とも大きくて力持ちです。どひょうの真ん中で動きません。ルカはだんだんつかれてきました。
(ああ、このままじゃ、おしだされる・・・。)
古川先ぱいがルカに近づいた時、とっさにルカは体をよじらせて古川先ぱいの右足に自分の右足を外からかけました。すると、なんと、先ぱいがどひょうにたおれたのです。
「えっ・・・」
ルカは大きい声を出しました。見ていた部員ももっと大きい声を出しました。
「え~っ・・・」
それから、いっしゅん、声も音も消えてしずかになったと思ったら、
「やったー! やったやったー!!」
ルカの大きい声が部屋にひびきました。ルカはとびはねてガッツポーズ。ルカは古川せんぱいにかったのです。使ったのは、じゅうどうの時は「おおそとがり」、すもうの時は「二丁(にちょう)なげ」というわざで、よくにています。じゅうどうとすもうをれんしゅうしていたからできたのでしょう。
ルカのうれしさはみんなよくわかりましたが、水田かんとくはめずらしくしぶい顔で、
「ルカ、よろこぶな! かったって、すもうのことを何もわかってない! すもうは、かっても、あいての気持ちを考えて、よろこんだりしないんだ!」
と、ルカを大きい声でしかりました。
「すもうは心技体(しんぎたい)。このことばの意味、わかってるんだろうな!? もう少し心を勉強してこい!」
きびしくしかられたルカは、すっかりしょげてしまいました。トーナメントの2回戦(せん)は力が入らなくて、かんたんにおしだされてまけてしまいました。
それからしばらくの間、いつも明るくて楽しいルカは、暗くてかなしいルカになりました。水田かんとくにしかられたことが頭からはなれなくて、じゅうどう部もすもう部もれんしゅうを休んでいました。そして、もう少し心を勉強するためにはどうしたらいいか、ずっと考えていました。
(どうやって勉強すればいいの・・・? わからない・・・。すもう部やじゅうどう部の人に聞くのも何だかはずかしいし・・・。)
そこで思い出したのが、日本に来た時、大学までつれて来てくれた事務(じむ)スタッフの林さんです。
(そうだ。林さんにそうだんしてみよう。)
「あのう、すみません。森先生はいらっしゃいますか。」
「森は私ですが。」
ルカはあわてて
「あ、ルカともうします。イタリアからまいりました。」
と言いました。
「ああ、きみがルカさん。話を聞きましたよ。じゅうどうを習っていたそうですね。日本でもつづけるんでしょう?」
「はい、そう思っていますが、だいじょうぶですか。」
「ええ、もちろん。じゅうどう部に入ることになりますが、いいですか。」
「はい、どうぞよろしくおねがいします。」
ルカは言いました。
「じゅうどうぶは毎日、朝は午前7時から10時まで、午後は午後5時から8時までここでれんしゅうしています。授業の前やあと、れんしゅうに来てください。たくさんれんしゅうしたら、じょうずになりますよ。」
森先生は言いました。
「はい、わかりました。明日からまいります。」
ルカは元気にこたえました。
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。いえ、行ったと思いました。じゅうどう部の入り口はすもう部の入り口のとなりにあります。ルカが入った入り口には「相撲部(すもうぶ)」と書かれていましたが、ルカは漢字が読めませんでした。
中に入ると、大きい先ぱいが来て、
「きみ、留学生でしょ。はやくまわし(力士(りきし)がしめる帯(おび))をつけてきて。」
と言いました。
「まわし?」
とルカは言いましたが、それいじょう、話すことができません。
(なんかへんだなあ。まあいいや。じゅうどうぎの下にまわしみたいなのをつけるっていう話を聞いたことがあるし・・・。)
そう思って、
「どこでまわしを・・・」と言うと、
先ぱいは
「あそこ、わかるよね。」
と少しはなれた右のほうを指(ゆび)でさしました。
「は、はい。わかりました。」
わかったようなわからないような気持ちでルカは言いました。そして、少しはなれた右のほうに歩いていきました。すると、人の声が聞こえました。中を見ると、みなさん、まわしをつけているところです。ルカは安心して、
「しつれいします。留学生のルカともうします。どうぞよろしくおねがいします。」
と大きい声であいさつしました。中にいた人たちは、ルカをちらっと見て低い声で言いました。
「おっす。」
「よろしくっす。」
1人が言いました。
「留学生が来るってだれか聞いた?」
「はい、古川(ふるかわ)先ぱい、きのう、かんとくから聞きました。」
とほかの1人がこたえました。すると、古川先ぱいという人が言いました。
「じゃ、そこにある白いまわしをつけてください。」
「はい、わかりました。」
とルカは答えましたが、じつはまわしのつけかたを知りません。
(どうしよう。どうしたらいいんだ・・・。だれかに聞くしかないよ。)
ルカはまわりを見ましたが、みんな何だかこわそうです。でも、しようがない、聞くしかない、と思って、近くの人に聞きました。
「あのう、どうやってつけますか。わからないんですが・・・。」
「えっ、知らないの。まあ、留学生だからしかたないよね。ちょっと、1年生、手伝ってあげて。」
こうして、1年生が2人で手伝ってくれたので、ルカはまわしをつけることができました。
(ああ、よかった。この上にじゅうどうぎをきればいいんだよね。)
そう思ったルカは、持ってきたじゅうどうぎを上に着ようとしました。すると、
「ねえ、きみ、じゅうどうでもするの?」
「はい、今日からじゅうどう部でれんしゅうするので・・・。」
「えっ、ここはすもう部だよ。」
「えっ・・・」
ルカはことばが出ませんでした。
「ここはじゅうどう部の道場じゃないんですか・・・?」
「だから、すもう部だよ。となりの部屋を見てよ。どひょうがあるから。」
ルカがそっととなりの部屋を見ると、そこにはまるいどひょうがありました。
「えっ、どうして・・・」
そこに、少し年を取った大きい人が来て言いました。
「ああ、きみが留学生のマリオくんか。はじめまして。かんとくの水田です。」
「それが、ちがうみたいなんですよ。」
「えっ、きみ、マリオくんじゃないの?」
「ルカです・・・。」
「ハッハハハハ。なんだ。まわしまでつけて。でも、りっぱな体してるから、じゅうどう部じゃなくてすもう部に入ったら?」
かんとくは言いました。ルカはあわてて言いました。
「いえ、もうじゅうどう部に入るって言ったんです・・・。」
「そう。じゃ、りょうほう入れば?」
かんとくはぐいぐいと話しかけましたが、古川先ぱいが言いました。
「かんとく、それはむりですよ。」
「そっか。ざんねんだね。」
かんとくは、やっとあきらめました。でも、ルカはうれしそうな顔で言いました。
「ぼく、すもうも大好きなんです。子どもの時、国でよくすもうをとりました。テレビでもよくすもうを見ました。」
「なんだ。それなら、入ったらいいよ。ときどきれんしゅうに来ればいいから。」
とかんとくは言いました。
「えっ、ほんとうですか!? じゃ、ぜひ入りたいです!!」
ルカはうれしそうに大きい声で言いました。
それから、ルカは、すもうのまわしの上にじゅうどうぎを着て、じゅうどう部の道場にむかいました。そして、じゅうどう部の森先生にすもう部にも入ることになったと言いました。森先生は、
「じゅうどうもすもうも一対一(いっついいち)のスポーツですが、ぜんぜんちがいます。わざの数はじゅうどうが100こ、すもうが48こあると言います。始めたばかりの人はわざを覚えるだけでも大変です。ですから、じゅうどうとすもうをりょうほうするのはね、むりだと思いますよ。」
と心配して言いました。けれども、ルカはそんな心配をぜんぜん気にしないで、
「だいじょうぶです! がんばります!」
と大きい声で言いました。
こうして、ルカは1週間おきに、じゅうどう部とすもう部にれんしゅうに行くようになりました。先週はじゅうどうをして、今週はすもうをとって、来週はじゅうどうをして、・・・とくりかえしました。少しずつじゅうどうのわざとすもうのわざがわかってきました。でも、まだじょうずにできません。ですから、ルカはいっしょうけんめいれんしゅうしようとしました。でも、わざがたくさんあって、何が何だかわからなくなってきました。森先生が心配した通りになったのです。それでも、ルカはどんどんれんしゅうしました。じゅうどうのときもすもうのときも、使うわざがすもうのわざか、じゅうどうのわざか、もうそんなことはどうでもよくなりました。とにかくわざをれんしゅうしたい、ルカは思いました。そして、じゅうどうの道場で、すもうのわざを使った時、
「うわてなげ(すもうのわざの一つ)! やった!」
すもうのどひょうで、じゅうどうのわざを使った時、
「せおいなげ~! きまった!」
というルカの大きい声が聞こえるようになりました。そんな時、すもう部の水田かんとくは
「ハッハハハ。おもしろいねえ。」
とわらいましたが、じゅうどう部の森先生は
「それはじゅうどうのわざじゃないですよ。」
とちゅういしました。でも、ルカはどんな時でもニコニコしていてほんとうに楽しそうです。わざをめちゃくちゃに使っていますが、それでも少しずつわざが上手になりました。 そんなルカを見て、じゅうどう部のれんしゅうの時、部員が言いました。
「ルカくん、『せおいなげ』は、道場ではあまりれんしゅうしてなかったけど、上手になったね。どこでれんしゅうしたの?」
ルカは言いました。
「すもう部でれんしゅうしました。」
「じゃ、じゅうどう部では何をれんしゅうするの?」
「もちろん、すもうのわざですよ~。」
また、すもう部のれんしゅうの時、部員が
「ルカくんの『うわてなげ』って、すもう部のれんしゅうで見たことなかったなあ。じゅうどう部でれんしゅうしたんでしょ?」
と聞くと、ルカはとぼけて言いました。
「どうしてわかるんですか? すごいですねえ。」
「とうぜんでしょ! ぼくをだれだと思ってるの? でも、ルカくんもすごいね。じゅうどう部ですもうのわざをれんしゅうするなんて。おめでたいね。」
「おめでたい? おめでとうございます?」
「そうそう、おめでとうございます!」
「お~、ありがとう~。」
よくわからない会話ですが、ルカと話すと、何だかいつもおもしろくなりました。
11月になると、ルカはすもう部でれんしゅう試合(しあい)のことを聞きました。すもう部では、毎年1回、れんしゅう試合をトーナメントでします。トーナメントのどこに入るかは、くじびきで決めます。先ぱいがルカに言いました。
「このわりばしを1本取って。番号が書いてあるから。」
「はい、わかりました。じゃ、これ。」
ルカが取ったわりばしは5番でした。
「5番は1回戦(せん)は6番の人とやるんだよ。」
「6番はだれですか。」
「まだわかんない。これからみんなくじをひくから。」
「そうですか。」
今、みんながくじをひいています。
「あっ、1番だ。」
「おれ、2番。きみとだね。」
「おれ、8番。」
そのとき、大きい声が聞こえました。
「6ば~ん! 5番ってだれ?」
「はい、ぼくでーす。」
ルカはこたえました。あいてはあの古川先ぱいでした。古川せんぱいはすもう部のしゅしょう――リーダーのことですが――で、すもう部で一番強い部員です。
「ああ、ルカくんね。よろしく。」
古川先ぱいはすずしい顔で言いました。ルカはめずらしく小さい声で
「先ぱい、よろしくお願いします。」
と言いました。
(あーあ、1回戦でまけそうだなあ。まあ、いいや。強い人だからしょうがない。)
とルカは思いました。
1週間後、れんしゅう試合の日が来ました。いよいよルカの番です。古川先ぱいとすもうをとります。ルカと古川先ぱいはどひょうに上がりました。行司(ぎょうじ)の声がひびきました。
「はっけよーい、のこった。」
ルカと古川先ぱいはおたがいのまわしをつかんでくみあいました。二人とも大きくて力持ちです。どひょうの真ん中で動きません。ルカはだんだんつかれてきました。
(ああ、このままじゃ、おしだされる・・・。)
古川先ぱいがルカに近づいた時、とっさにルカは体をよじらせて古川先ぱいの右足に自分の右足を外からかけました。すると、なんと、先ぱいがどひょうにたおれたのです。
「えっ・・・」
ルカは大きい声を出しました。見ていた部員ももっと大きい声を出しました。
「え~っ・・・」
それから、いっしゅん、声も音も消えてしずかになったと思ったら、
「やったー! やったやったー!!」
ルカの大きい声が部屋にひびきました。ルカはとびはねてガッツポーズ。ルカは古川せんぱいにかったのです。使ったのは、じゅうどうの時は「おおそとがり」、すもうの時は「二丁(にちょう)なげ」というわざで、よくにています。じゅうどうとすもうをれんしゅうしていたからできたのでしょう。
ルカのうれしさはみんなよくわかりましたが、水田かんとくはめずらしくしぶい顔で、
「ルカ、よろこぶな! かったって、すもうのことを何もわかってない! すもうは、かっても、あいての気持ちを考えて、よろこんだりしないんだ!」
と、ルカを大きい声でしかりました。
「すもうは心技体(しんぎたい)。このことばの意味、わかってるんだろうな!? もう少し心を勉強してこい!」
きびしくしかられたルカは、すっかりしょげてしまいました。トーナメントの2回戦(せん)は力が入らなくて、かんたんにおしだされてまけてしまいました。
それからしばらくの間、いつも明るくて楽しいルカは、暗くてかなしいルカになりました。水田かんとくにしかられたことが頭からはなれなくて、じゅうどう部もすもう部もれんしゅうを休んでいました。そして、もう少し心を勉強するためにはどうしたらいいか、ずっと考えていました。
(どうやって勉強すればいいの・・・? わからない・・・。すもう部やじゅうどう部の人に聞くのも何だかはずかしいし・・・。)
そこで思い出したのが、日本に来た時、大学までつれて来てくれた事務(じむ)スタッフの林さんです。
(そうだ。林さんにそうだんしてみよう。)
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。たくさんの学生がじゅうどうをしていました。ルカはいすにすわって見ている人に聞きました。
「あのう、すみません。森先生はいらっしゃいますか。」
「森は私ですが。」
ルカはあわてて
「あ、ルカともうします。イタリアからまいりました。」
と言いました。
「ああ、きみがルカさん。話を聞きましたよ。じゅうどうを習っていたそうですね。日本でもつづけるんでしょう?」
「はい、そう思っていますが、だいじょうぶですか。」
「ええ、もちろん。じゅうどう部に入ることになりますが、いいですか。」
「はい、どうぞよろしくおねがいします。」
ルカは言いました。
「じゅうどうぶは毎日、朝は午前7時から10時まで、午後は午後5時から8時までここでれんしゅうしています。授業の前やあと、れんしゅうに来てください。たくさんれんしゅうしたら、じょうずになりますよ。」
森先生は言いました。
「はい、わかりました。明日からまいります。」
ルカは元気にこたえました。
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。いえ、行ったと思いました。じゅうどう部の入り口はすもう部の入り口のとなりにあります。ルカが入った入り口には「相撲部(すもうぶ)」と書かれていましたが、ルカは漢字が読めませんでした。
中に入ると、大きい先ぱいが来て、
「きみ、留学生でしょ。はやくまわしをつけてきて。」
と言いました。
「まわし?」
とルカは言いましたが、それいじょう、話すことができません。
(なんかへんだなあ。まあいいや。じゅうどうぎの下にまわしみたいなのをつけるっていう話を聞いたことがあるし・・・。)
そう思って、
「どこでまわしを・・・」と言うと、
先ぱいは
「あそこ、わかるよね。」
と少しはなれた右のほうを指(ゆび)でさしました。
「は、はい。わかりました。」
わかったようなわからないような気持ちでルカは言いました。そして、少しはなれた右のほうに歩いていきました。すると、人の声が聞こえました。中を見ると、みなさん、まわしをつけているところです。ルカは安心して、
「しつれいします。留学生のルカともうします。どうぞよろしくおねがいします。」
と大きい声であいさつしました。中にいた人たちは、ルカをちらっと見て低い声で言いました。
「おっす。」
「よろしくっす。」
1人が言いました。
「留学生が来るってだれか聞いた?」
「はい、古川先ぱい、きのう、かんとくから聞きました。」
とほかの1人がこたえました。すると、古川先ぱいという人が言いました。
「じゃ、そこにある白いまわしをつけてください。」
「はい、わかりました。」
とルカは答えましたが、じつはまわしのつけかたを知りません。
(どうしよう。どうしたらいいんだ・・・。だれかに聞くしかないよ。)
ルカはまわりを見ましたが、みんな何だかこわそうです。でも、しようがない、聞くしかない、と思って、近くの人に聞きました。
「あのう、どうやってつけますか。わからないんですが・・・。」
「えっ、知らないの。まあ、留学生だからしかたないよね。ちょっと、1年生、手伝ってあげて。」
こうして、1年生が2人で手伝ってくれたので、ルカはまわしをつけることができました。
(ああ、よかった。この上にじゅうどうぎをきればいいんだよね。)
そう思ったルカは、持ってきたじゅうどうぎを上に着ようとしました。すると、
「ねえ、きみ、じゅうどうでもするの?」
「はい、今日からじゅうどう部でれんしゅうするので・・・。」
「えっ、ここはすもう部だよ。」
「えっ・・・」
ルカはことばが出ませんでした。
「ここはじゅうどう部の道場じゃないんですか・・・?」
「だから、すもう部だよ。となりの部屋を見てよ。どひょうがあるから。」
ルカがそっととなりの部屋を見ると、そこにはまるいどひょうがありました。
「えっ、どうして・・・」
そこに、少し年を取った大きい人が来て言いました。
「ああ、きみが留学生のマリオくんか。はじめまして。かんとくの水田です。」
「それが、ちがうみたいなんですよ。」
「えっ、きみ、マリオくんじゃないの?」
「ルカです・・・。」
「ハッハハハハ。なんだ。まわしまでつけて。でも、りっぱな体してるから、じゅうどう部じゃなくてすもう部に入ったら?」
かんとくは言いました。ルカはあわてて言いました。
「いえ、もうじゅうどう部に入るって言ったんです・・・。」
「そう。じゃ、りょうほう入れば?」
かんとくはぐいぐいと話しかけましたが、古川先ぱいが言いました。
「かんとく、それはむりですよ。」
「そっか。ざんねんだね。」
かんとくは、やっとあきらめました。でも、ルカはうれしそうな顔で言いました。
「ぼく、すもうも大好きなんです。子どもの時、国でよくすもうをとりました。テレビでもよくすもうを見ました。」
「なんだ。それなら、入ったらいいよ。ときどきれんしゅうに来ればいいから。」
とかんとくは言いました。
「えっ、ほんとうですか!? じゃ、ぜひ入りたいです!!」
ルカはうれしそうに大きい声で言いました。
それから、ルカは、すもうのまわしの上にじゅうどうぎを着て、じゅうどう部の道場に向かいました。そして、じゅうどう部の森先生にすもう部にも入ることになったと言いました。森先生は、
「じゅうどうもすもうも一対一のスポーツですが、ぜんぜんちがいます。わざの数はじゅうどうが100こ、すもうが48こあると言います。始めたばかりの人はわざを覚えるだけでも大変です。ですから、じゅうどうとすもうをりょうほうするのはね、むりだと思いますよ。」
と心配して言いました。けれども、ルカはそんな心配をぜんぜん気にしないで、
「だいじょうぶです! がんばります!」
と大きい声で言いました。
こうして、ルカは1週間おきに、じゅうどう部とすもう部にれんしゅうに行くようになりました。先週はじゅうどうをして、今週はすもうをとって、来週はじゅうどうをして、・・・とくりかえしました。少しずつじゅうどうのわざとすもうのわざがわかってきました。でも、まだじょうずにできません。ですから、ルカはいっしょうけんめいれんしゅうしようとしました。でも、わざがたくさんあって、何が何だかわからなくなってきました。森先生が心配した通りになったのです。それでも、ルカはどんどんれんしゅうしました。じゅうどうのときもすもうのときも、使うわざがすもうのわざか、じゅうどうのわざか、もうそんなことはどうでもよくなりました。とにかくわざをれんしゅうしたい、ルカは思いました。そして、じゅうどうの道場で、すもうのわざを使った時、
「うわてなげ! やった!」
すもうのどひょうで、じゅうどうの技を使った時、
「せおいなげ~! きまった!」
というルカの大きい声が聞こえるようになりました。そんな時、すもう部の水田かんとくは
「ハッハハハ。おもしろいねえ。」
とわらいましたが、じゅうどう部の森先生は
「それはじゅうどうのわざじゃないですよ。」
とちゅういしました。でも、ルカはどんな時でもニコニコしていてほんとうに楽しそうです。わざをめちゃくちゃに使っていますが、それでも少しずつわざが上手になりました。 そんなルカを見て、じゅうどう部のれんしゅうの時、部員が言いました。
「ルカくん、『せおいなげ』は、道場ではあまりれんしゅうしてなかったけど、上手になったね。どこでれんしゅうしたの?」
ルカは言いました。
「すもう部でれんしゅうしました。」
「じゃ、じゅうどう部では何をれんしゅうするの?」
「もちろん、すもうのわざですよ~。」
また、すもう部のれんしゅうの時、部員が
「ルカくんの『うわてなげ』って、すもう部のれんしゅうで見たことなかったなあ。じゅうどう部でれんしゅうしたんでしょ?」
と聞くと、ルカはとぼけて言いました。
「どうしてわかるんですか? すごいですねえ。」
「とうぜんでしょ! ぼくをだれだと思ってるの? でも、ルカくんもすごいね。じゅうどう部ですもうのわざをれんしゅうするなんて。おめでたいね。」
「おめでたい? おめでとうございます?」
「そうそう、おめでとうございます!」
「お~、ありがとう~。」
よくわからない会話ですが、ルカと話すと、何だかいつもおもしろくなりました。
11月になると、ルカはすもう部でれんしゅう試合のことを聞きました。すもう部では、毎年1回、れんしゅう試合をトーナメントでします。トーナメントのどこに入るかは、くじびきで決めます。先ぱいがルカに言いました。
「このわりばしを1本取って。番号が書いてあるから。」
「はい、わかりました。じゃ、これ。」
ルカが取ったわりばしは5番でした。
「5番は1回戦(せん)は6番の人とやるんだよ。」
「6番はだれですか。」
「まだわかんない。これからみんなくじをひくから。」
「そうですか。」
今、みんながくじをひいています。
「あっ、1番だ。」
「おれ、2番。きみとだね。」
「おれ、8番。」
そのとき、大きい声が聞こえました。
「6ば~ん! 5番ってだれ?」
「はい、ぼくでーす。」
ルカはこたえました。あいてはあの古川先ぱいでした。古川せんぱいはすもう部のしゅしょう――リーダーのことですが――で、すもう部で一番強い部員です。
「ああ、ルカくんね。よろしく。」
古川先ぱいはすずしい顔で言いました。ルカはめずらしく小さい声で
「先ぱい、よろしくお願いします。」
と言いました。
(あーあ、1回戦でまけそうだなあ。まあ、いいや。強い人だからしょうがない。)
とルカは思いました。
1週間後、れんしゅう試合の日が来ました。いよいよルカの番です。古川先ぱいとすもうをとります。ルカと古川先ぱいはどひょうに上がりました。行司(ぎょうじ)の声がひびきました。
「はっけよーい、のこった。」
ルカと古川先ぱいはおたがいのまわしをつかんで組み合いました。二人とも大きくて力持ちです。どひょうの真ん中で動きません。ルカはだんだんつかれてきました。
(ああ、このままじゃ、おしだされる・・・。)
古川先ぱいがルカに近づいた時、とっさにルカは体をよじらせて古川先ぱいの右足に自分の右足を外からかけました。すると、なんと、先ぱいがどひょうにたおれたのです。
「えっ・・・」
ルカは大きい声を出しました。見ていた部員ももっと大きい声を出しました。
「え~っ・・・」
それから、いっしゅん、声も音も消えてしずかになったと思ったら、
「やったー! やったやったー!!」
ルカの大きい声が部屋にひびきました。ルカはとびはねてガッツポーズ。ルカは古川せんぱいにかったのです。使ったのは、じゅうどうの時は「おおそとがり」、すもうの時は「二丁(にちょう)投げ」というわざで、よくにています。じゅうどうとすもうをれんしゅうしていたからできたのでしょう。
ルカのうれしさはみんなよくわかりましたが、水田かんとくはめずらしくしぶい顔で、
「ルカ、よろこぶな! かったって、すもうのことを何もわかってない! すもうは、かっても、あいての気持ちを考えて、よろこんだりしないんだ!」
と、ルカを大きい声でしかりました。
「すもうは心技体(しんぎたい)。このことばの意味、わかってるんだろうな!? もう少し心を勉強してこい!」
きびしくしかられたルカは、すっかりしょげてしまいました。トーナメントの2回戦(せん)は力が入らなくて、かんたんにおしだされてまけてしまいました。
それからしばらくの間、いつも明るくて楽しいルカは、暗くてかなしいルカになりました。水田かんとくにしかられたことが頭からはなれなくて、じゅうどう部もすもう部もれんしゅうを休んでいました。そして、もう少し心を勉強するためにはどうしたらいいか、ずっと考えていました。
(どうやって勉強すればいいの・・・? わからない・・・。すもう部やじゅうどう部の人に聞くのも何だかはずかしいし・・・。)
そこで思い出したのが、日本に来た時、大学までつれて来てくれた事務スタッフの林さんです。
(そうだ。林さんにそうだんしてみよう。)
「あのう、すみません。森先生はいらっしゃいますか。」
「森は私ですが。」
ルカはあわてて
「あ、ルカともうします。イタリアからまいりました。」
と言いました。
「ああ、きみがルカさん。話を聞きましたよ。じゅうどうを習っていたそうですね。日本でもつづけるんでしょう?」
「はい、そう思っていますが、だいじょうぶですか。」
「ええ、もちろん。じゅうどう部に入ることになりますが、いいですか。」
「はい、どうぞよろしくおねがいします。」
ルカは言いました。
「じゅうどうぶは毎日、朝は午前7時から10時まで、午後は午後5時から8時までここでれんしゅうしています。授業の前やあと、れんしゅうに来てください。たくさんれんしゅうしたら、じょうずになりますよ。」
森先生は言いました。
「はい、わかりました。明日からまいります。」
ルカは元気にこたえました。
つぎの日、ルカはじゅうどうの道場に行きました。いえ、行ったと思いました。じゅうどう部の入り口はすもう部の入り口のとなりにあります。ルカが入った入り口には「相撲部(すもうぶ)」と書かれていましたが、ルカは漢字が読めませんでした。
中に入ると、大きい先ぱいが来て、
「きみ、留学生でしょ。はやくまわしをつけてきて。」
と言いました。
「まわし?」
とルカは言いましたが、それいじょう、話すことができません。
(なんかへんだなあ。まあいいや。じゅうどうぎの下にまわしみたいなのをつけるっていう話を聞いたことがあるし・・・。)
そう思って、
「どこでまわしを・・・」と言うと、
先ぱいは
「あそこ、わかるよね。」
と少しはなれた右のほうを指(ゆび)でさしました。
「は、はい。わかりました。」
わかったようなわからないような気持ちでルカは言いました。そして、少しはなれた右のほうに歩いていきました。すると、人の声が聞こえました。中を見ると、みなさん、まわしをつけているところです。ルカは安心して、
「しつれいします。留学生のルカともうします。どうぞよろしくおねがいします。」
と大きい声であいさつしました。中にいた人たちは、ルカをちらっと見て低い声で言いました。
「おっす。」
「よろしくっす。」
1人が言いました。
「留学生が来るってだれか聞いた?」
「はい、古川先ぱい、きのう、かんとくから聞きました。」
とほかの1人がこたえました。すると、古川先ぱいという人が言いました。
「じゃ、そこにある白いまわしをつけてください。」
「はい、わかりました。」
とルカは答えましたが、じつはまわしのつけかたを知りません。
(どうしよう。どうしたらいいんだ・・・。だれかに聞くしかないよ。)
ルカはまわりを見ましたが、みんな何だかこわそうです。でも、しようがない、聞くしかない、と思って、近くの人に聞きました。
「あのう、どうやってつけますか。わからないんですが・・・。」
「えっ、知らないの。まあ、留学生だからしかたないよね。ちょっと、1年生、手伝ってあげて。」
こうして、1年生が2人で手伝ってくれたので、ルカはまわしをつけることができました。
(ああ、よかった。この上にじゅうどうぎをきればいいんだよね。)
そう思ったルカは、持ってきたじゅうどうぎを上に着ようとしました。すると、
「ねえ、きみ、じゅうどうでもするの?」
「はい、今日からじゅうどう部でれんしゅうするので・・・。」
「えっ、ここはすもう部だよ。」
「えっ・・・」
ルカはことばが出ませんでした。
「ここはじゅうどう部の道場じゃないんですか・・・?」
「だから、すもう部だよ。となりの部屋を見てよ。どひょうがあるから。」
ルカがそっととなりの部屋を見ると、そこにはまるいどひょうがありました。
「えっ、どうして・・・」
そこに、少し年を取った大きい人が来て言いました。
「ああ、きみが留学生のマリオくんか。はじめまして。かんとくの水田です。」
「それが、ちがうみたいなんですよ。」
「えっ、きみ、マリオくんじゃないの?」
「ルカです・・・。」
「ハッハハハハ。なんだ。まわしまでつけて。でも、りっぱな体してるから、じゅうどう部じゃなくてすもう部に入ったら?」
かんとくは言いました。ルカはあわてて言いました。
「いえ、もうじゅうどう部に入るって言ったんです・・・。」
「そう。じゃ、りょうほう入れば?」
かんとくはぐいぐいと話しかけましたが、古川先ぱいが言いました。
「かんとく、それはむりですよ。」
「そっか。ざんねんだね。」
かんとくは、やっとあきらめました。でも、ルカはうれしそうな顔で言いました。
「ぼく、すもうも大好きなんです。子どもの時、国でよくすもうをとりました。テレビでもよくすもうを見ました。」
「なんだ。それなら、入ったらいいよ。ときどきれんしゅうに来ればいいから。」
とかんとくは言いました。
「えっ、ほんとうですか!? じゃ、ぜひ入りたいです!!」
ルカはうれしそうに大きい声で言いました。
それから、ルカは、すもうのまわしの上にじゅうどうぎを着て、じゅうどう部の道場に向かいました。そして、じゅうどう部の森先生にすもう部にも入ることになったと言いました。森先生は、
「じゅうどうもすもうも一対一のスポーツですが、ぜんぜんちがいます。わざの数はじゅうどうが100こ、すもうが48こあると言います。始めたばかりの人はわざを覚えるだけでも大変です。ですから、じゅうどうとすもうをりょうほうするのはね、むりだと思いますよ。」
と心配して言いました。けれども、ルカはそんな心配をぜんぜん気にしないで、
「だいじょうぶです! がんばります!」
と大きい声で言いました。
こうして、ルカは1週間おきに、じゅうどう部とすもう部にれんしゅうに行くようになりました。先週はじゅうどうをして、今週はすもうをとって、来週はじゅうどうをして、・・・とくりかえしました。少しずつじゅうどうのわざとすもうのわざがわかってきました。でも、まだじょうずにできません。ですから、ルカはいっしょうけんめいれんしゅうしようとしました。でも、わざがたくさんあって、何が何だかわからなくなってきました。森先生が心配した通りになったのです。それでも、ルカはどんどんれんしゅうしました。じゅうどうのときもすもうのときも、使うわざがすもうのわざか、じゅうどうのわざか、もうそんなことはどうでもよくなりました。とにかくわざをれんしゅうしたい、ルカは思いました。そして、じゅうどうの道場で、すもうのわざを使った時、
「うわてなげ! やった!」
すもうのどひょうで、じゅうどうの技を使った時、
「せおいなげ~! きまった!」
というルカの大きい声が聞こえるようになりました。そんな時、すもう部の水田かんとくは
「ハッハハハ。おもしろいねえ。」
とわらいましたが、じゅうどう部の森先生は
「それはじゅうどうのわざじゃないですよ。」
とちゅういしました。でも、ルカはどんな時でもニコニコしていてほんとうに楽しそうです。わざをめちゃくちゃに使っていますが、それでも少しずつわざが上手になりました。 そんなルカを見て、じゅうどう部のれんしゅうの時、部員が言いました。
「ルカくん、『せおいなげ』は、道場ではあまりれんしゅうしてなかったけど、上手になったね。どこでれんしゅうしたの?」
ルカは言いました。
「すもう部でれんしゅうしました。」
「じゃ、じゅうどう部では何をれんしゅうするの?」
「もちろん、すもうのわざですよ~。」
また、すもう部のれんしゅうの時、部員が
「ルカくんの『うわてなげ』って、すもう部のれんしゅうで見たことなかったなあ。じゅうどう部でれんしゅうしたんでしょ?」
と聞くと、ルカはとぼけて言いました。
「どうしてわかるんですか? すごいですねえ。」
「とうぜんでしょ! ぼくをだれだと思ってるの? でも、ルカくんもすごいね。じゅうどう部ですもうのわざをれんしゅうするなんて。おめでたいね。」
「おめでたい? おめでとうございます?」
「そうそう、おめでとうございます!」
「お~、ありがとう~。」
よくわからない会話ですが、ルカと話すと、何だかいつもおもしろくなりました。
11月になると、ルカはすもう部でれんしゅう試合のことを聞きました。すもう部では、毎年1回、れんしゅう試合をトーナメントでします。トーナメントのどこに入るかは、くじびきで決めます。先ぱいがルカに言いました。
「このわりばしを1本取って。番号が書いてあるから。」
「はい、わかりました。じゃ、これ。」
ルカが取ったわりばしは5番でした。
「5番は1回戦(せん)は6番の人とやるんだよ。」
「6番はだれですか。」
「まだわかんない。これからみんなくじをひくから。」
「そうですか。」
今、みんながくじをひいています。
「あっ、1番だ。」
「おれ、2番。きみとだね。」
「おれ、8番。」
そのとき、大きい声が聞こえました。
「6ば~ん! 5番ってだれ?」
「はい、ぼくでーす。」
ルカはこたえました。あいてはあの古川先ぱいでした。古川せんぱいはすもう部のしゅしょう――リーダーのことですが――で、すもう部で一番強い部員です。
「ああ、ルカくんね。よろしく。」
古川先ぱいはすずしい顔で言いました。ルカはめずらしく小さい声で
「先ぱい、よろしくお願いします。」
と言いました。
(あーあ、1回戦でまけそうだなあ。まあ、いいや。強い人だからしょうがない。)
とルカは思いました。
1週間後、れんしゅう試合の日が来ました。いよいよルカの番です。古川先ぱいとすもうをとります。ルカと古川先ぱいはどひょうに上がりました。行司(ぎょうじ)の声がひびきました。
「はっけよーい、のこった。」
ルカと古川先ぱいはおたがいのまわしをつかんで組み合いました。二人とも大きくて力持ちです。どひょうの真ん中で動きません。ルカはだんだんつかれてきました。
(ああ、このままじゃ、おしだされる・・・。)
古川先ぱいがルカに近づいた時、とっさにルカは体をよじらせて古川先ぱいの右足に自分の右足を外からかけました。すると、なんと、先ぱいがどひょうにたおれたのです。
「えっ・・・」
ルカは大きい声を出しました。見ていた部員ももっと大きい声を出しました。
「え~っ・・・」
それから、いっしゅん、声も音も消えてしずかになったと思ったら、
「やったー! やったやったー!!」
ルカの大きい声が部屋にひびきました。ルカはとびはねてガッツポーズ。ルカは古川せんぱいにかったのです。使ったのは、じゅうどうの時は「おおそとがり」、すもうの時は「二丁(にちょう)投げ」というわざで、よくにています。じゅうどうとすもうをれんしゅうしていたからできたのでしょう。
ルカのうれしさはみんなよくわかりましたが、水田かんとくはめずらしくしぶい顔で、
「ルカ、よろこぶな! かったって、すもうのことを何もわかってない! すもうは、かっても、あいての気持ちを考えて、よろこんだりしないんだ!」
と、ルカを大きい声でしかりました。
「すもうは心技体(しんぎたい)。このことばの意味、わかってるんだろうな!? もう少し心を勉強してこい!」
きびしくしかられたルカは、すっかりしょげてしまいました。トーナメントの2回戦(せん)は力が入らなくて、かんたんにおしだされてまけてしまいました。
それからしばらくの間、いつも明るくて楽しいルカは、暗くてかなしいルカになりました。水田かんとくにしかられたことが頭からはなれなくて、じゅうどう部もすもう部もれんしゅうを休んでいました。そして、もう少し心を勉強するためにはどうしたらいいか、ずっと考えていました。
(どうやって勉強すればいいの・・・? わからない・・・。すもう部やじゅうどう部の人に聞くのも何だかはずかしいし・・・。)
そこで思い出したのが、日本に来た時、大学までつれて来てくれた事務スタッフの林さんです。
(そうだ。林さんにそうだんしてみよう。)