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メイ
よさこいソーラン
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Coming soon!
ゆう子さんと話した日の夜、ゆう子さんからメイに電話がありました。
「あした、午後4時に、メイは何か用事ある?」
夏休みなので、メイには何の用事もありませんでした。
「じゃあ、4時に図書館のうらにある第2体育館に行って。練習が始まるのが4時30分からだから、少し前に行って。前田なお美さんという人がいるから。その人が私の後輩なんだ。なお美さんに会いに行くのは、メイ一人でもだいじょうぶ? 私は明日は研究室のあつまりがあって行けないから」
「うん、わかった」
次の日、メイはやくそくした時間の10分前に第2体育館に着きました。ドアの前に立つと急にドキドキしてきました。
ドアを開けると、たくさんの学生がいて、練習前の運動をしていました。
「前田さん、いますか?」
メイがドアの近くにいた学生に声をかけると、
「前田……? ああ、なお美さん!」
と、大きなこえでなお美さんのことをよんでくれました。そして体育館のおくの方から、せが高くて、日にやけた肌の学生が走ってきました。
「あなたがメイさん? 私、前田なお美。『なお美』とよんで。このサークルでは、みんな下の名前でよぶんだ」
「したの、なまえ?」
メイが聞くと、なお美さんは
「ああ、First nameのこと。あなたのことは、ゆう子さんから聞いている」
なお美さんはわらいながら、そう答えました。そして、
「どうぞ入って」
とメイを体育館の中に入れてくれました。なお美さんが言わなかったので、メイも「はじめまして」と言わないで体育館に入りました。
「今日は私たちの練習を見ていって。いすがあるから、このいすにすわって」
メイがすわって見ていると、4時30分ちょうどに練習が始まりました。メイが聞いたことがない音楽がスピーカーから聞こえました。そして、サークルの人たちがおどり始めました。聞いていて気持ちのいいリズムと、力強いおどりでした。おどっている人が、手に何かを持っていて、それが時々リズムにのった気持ちのいい音を出します。また、「ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン」とか「ドッコイショ~ ドッコイショ」とみじかい歌を歌っています。
メイはびっくりしました。おどっている人はたくさんいるのに、みんなの音と歌とおどりがよく合っていて、ぜんぜんずれません。とてもきれいでした。メイはドキドキして、じっと練習を見ていました。
練習が終わると、なお美さんはすぐに服を着がえるためのへやから出てきて、
「いっしょに帰ろう」
とメイに言いました。
歩いていいるときに、なお美さんはメイに聞きました。
「どうだった?」
「すごかったです。とてもおもしろかったです」
メイは答えました。
「時間ある? ちょっと私のへやによっていく? よさこいのビデオとかあるし」
メイはなお美さんのアパートに行くことにしました。へやに入ると、
「そこに座って。コーヒーでいい? かんたんなインスタントコーヒーしかないけれど」
と言って、なお美さんはコーヒーのふくろを開けて、カップにおゆを入れました。
コーヒーを飲みながら、なお美さんは、今日メイが体育館で見たおどりについて教えてくれました。メイがわかるかどうかを聞きながら、言葉をえらんで、なお美さんは「よさこいソーラン」についていろいろなことを教えてくれました。
「よさこいソーランは、1992年に高知県の『よさこい祭り』からはじまったの。高知よさこい祭りのよさこいおどりに使われる『なるこ』という楽器と北海道のみんよう『ソーラン節』をまぜたおどりだから、よさこいソーランという名前になったらしい」
「みんよう?」
メイは聞きました。
「『みんよう』は、むかしからある歌のこと。英語だと……Folk Songかな。北海道で魚をとるりょうしさんが歌っていた歌らしい」
なお美さんは話をつづけます。
「おどりや音楽、おどるときに着る服はチームの自由だけど、『なるこ』を持って、音楽にソーラン節の歌の言葉を入れなければならないと決まっているの」
話しながら、なお美さんはパソコンを開きました。
「いろいろ言うより、見てみようか。毎年6月に北海道のさっぽろ市でみんながよさこいソーランをおどる祭りなの。うちの大学も出て、おどったんだよ」
パソコンに映ったビデオを見ると、少し前に体育館で見たおどりを、みんながおどっていました。体育館では全員がジャージを着ていましたが、ビデオの中の人たちは、みんなとてもきれいな服を着ていました。
「きれいな服ですね」
とメイが言うと、
「それは『はっぴ』という服。よさこいソーランをおどる時に着る服は、みんなで作るの」
メイは夢中でビデオを見ていましたが、5つ目のビデオを見終わったところで、もう9時になっていたことに気づきました。
「今日はおせわになりました。そろそろ失礼します」
と言ってメイはアパートへ帰りました。
帰る前に、なお美さんは
「練習は月曜日から金曜日、午後4時30分から6時。夕方からアルバイトがある人もいるから、時間はかならず守って。場所は今日の第2体育館。土曜日と日曜日は、祭りがある時はみんなで行くけど、ない時は休み。明日から来る? 来るでしょう」
と言いました。メイはすっかり行くつもりになっていました。
へやに帰って夜ごはんを食べてから、youtubeを見ました。よさこいソーランのどうががたくさんありました。メイは朝までよさこいソーランのどうがを見ていました。
次の日、体育館へ行くとなお美さんは、ほかのメンバーにメイを紹介してくれました。
「こんにちは。メイです。これからどうぞよろしくお願いします」
メイがあいさつをすると、なお美さんは一人の女の学生を呼んで、
「彼女も留学生。アイナ」
と言いました。
「はじめまして。アイナグルです。ウズベキスタンから来ました。3年生です。アイナとよんでください」
「メイです。アメリカ人です。今年の春、日本へ来ました。1年生です。よろしくお願いします」
そして、メイのはじめての練習が始まりました。みんな楽しそうにおどっていましたが、メイはほかの人たちと同じ動きができませんでした。練習が終わり、メイはつかれて座ったままになってしまい、動けませんでした。そして、他のメンバーが帰っていくのを見ていることしかできませんでした。
なお美さんがこえをかけてくれました。
「最初から、上手にできる人はいないの。だんだんみんなと同じようにできるようになっていけばいいから」
アパートに帰ると、メイは少し休んでから、なお美さんに借りたビデオを見ながら練習を始めました。そして、つかれて寝てしまいました。
サークルはとても楽しかったです。おどりだけではなく、どんな練習をするか話すためのあつまりや、ご飯を食べたり話したりするあつまりで、ほかの仲間と話すのもとても楽しい時間でした。メイはよさこいソーランに夢中になりました。
練習が終わったあとでアパートに帰って家で練習して、寝てしまう。毎日毎日、同じことをしました。メイは大好きなアニメを見ることも忘れて、練習しました。
サークルに入って4か月がたちました。でも、メイはまだみんなと同じようにおどれませんでした。
「どれだけがんばって練習しても上手にならない。リズムに合わせることもできないし、ステップも下手なまま。なるこも上手に鳴らせない……」
メイはだんだん自信をなくしていきました。
「あした、午後4時に、メイは何か用事ある?」
夏休みなので、メイには何の用事もありませんでした。
「じゃあ、4時に図書館のうらにある第2体育館に行って。練習が始まるのが4時30分からだから、少し前に行って。前田なお美さんという人がいるから。その人が私の後輩なんだ。なお美さんに会いに行くのは、メイ一人でもだいじょうぶ? 私は明日は研究室のあつまりがあって行けないから」
「うん、わかった」
次の日、メイはやくそくした時間の10分前に第2体育館に着きました。ドアの前に立つと急にドキドキしてきました。
ドアを開けると、たくさんの学生がいて、練習前の運動をしていました。
「前田さん、いますか?」
メイがドアの近くにいた学生に声をかけると、
「前田……? ああ、なお美さん!」
と、大きなこえでなお美さんのことをよんでくれました。そして体育館のおくの方から、せが高くて、日にやけた肌の学生が走ってきました。
「あなたがメイさん? 私、前田なお美。『なお美』とよんで。このサークルでは、みんな下の名前でよぶんだ」
「したの、なまえ?」
メイが聞くと、なお美さんは
「ああ、First nameのこと。あなたのことは、ゆう子さんから聞いている」
なお美さんはわらいながら、そう答えました。そして、
「どうぞ入って」
とメイを体育館の中に入れてくれました。なお美さんが言わなかったので、メイも「はじめまして」と言わないで体育館に入りました。
「今日は私たちの練習を見ていって。いすがあるから、このいすにすわって」
メイがすわって見ていると、4時30分ちょうどに練習が始まりました。メイが聞いたことがない音楽がスピーカーから聞こえました。そして、サークルの人たちがおどり始めました。聞いていて気持ちのいいリズムと、力強いおどりでした。おどっている人が、手に何かを持っていて、それが時々リズムにのった気持ちのいい音を出します。また、「ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン」とか「ドッコイショ~ ドッコイショ」とみじかい歌を歌っています。
メイはびっくりしました。おどっている人はたくさんいるのに、みんなの音と歌とおどりがよく合っていて、ぜんぜんずれません。とてもきれいでした。メイはドキドキして、じっと練習を見ていました。
練習が終わると、なお美さんはすぐに服を着がえるためのへやから出てきて、
「いっしょに帰ろう」
とメイに言いました。
歩いていいるときに、なお美さんはメイに聞きました。
「どうだった?」
「すごかったです。とてもおもしろかったです」
メイは答えました。
「時間ある? ちょっと私のへやによっていく? よさこいのビデオとかあるし」
メイはなお美さんのアパートに行くことにしました。へやに入ると、
「そこに座って。コーヒーでいい? かんたんなインスタントコーヒーしかないけれど」
と言って、なお美さんはコーヒーのふくろを開けて、カップにおゆを入れました。
コーヒーを飲みながら、なお美さんは、今日メイが体育館で見たおどりについて教えてくれました。メイがわかるかどうかを聞きながら、言葉をえらんで、なお美さんは「よさこいソーラン」についていろいろなことを教えてくれました。
「よさこいソーランは、1992年に高知県の『よさこい祭り』からはじまったの。高知よさこい祭りのよさこいおどりに使われる『なるこ』という楽器と北海道のみんよう『ソーラン節』をまぜたおどりだから、よさこいソーランという名前になったらしい」
「みんよう?」
メイは聞きました。
「『みんよう』は、むかしからある歌のこと。英語だと……Folk Songかな。北海道で魚をとるりょうしさんが歌っていた歌らしい」
なお美さんは話をつづけます。
「おどりや音楽、おどるときに着る服はチームの自由だけど、『なるこ』を持って、音楽にソーラン節の歌の言葉を入れなければならないと決まっているの」
話しながら、なお美さんはパソコンを開きました。
「いろいろ言うより、見てみようか。毎年6月に北海道のさっぽろ市でみんながよさこいソーランをおどる祭りなの。うちの大学も出て、おどったんだよ」
パソコンに映ったビデオを見ると、少し前に体育館で見たおどりを、みんながおどっていました。体育館では全員がジャージを着ていましたが、ビデオの中の人たちは、みんなとてもきれいな服を着ていました。
「きれいな服ですね」
とメイが言うと、
「それは『はっぴ』という服。よさこいソーランをおどる時に着る服は、みんなで作るの」
メイは夢中でビデオを見ていましたが、5つ目のビデオを見終わったところで、もう9時になっていたことに気づきました。
「今日はおせわになりました。そろそろ失礼します」
と言ってメイはアパートへ帰りました。
帰る前に、なお美さんは
「練習は月曜日から金曜日、午後4時30分から6時。夕方からアルバイトがある人もいるから、時間はかならず守って。場所は今日の第2体育館。土曜日と日曜日は、祭りがある時はみんなで行くけど、ない時は休み。明日から来る? 来るでしょう」
と言いました。メイはすっかり行くつもりになっていました。
へやに帰って夜ごはんを食べてから、youtubeを見ました。よさこいソーランのどうががたくさんありました。メイは朝までよさこいソーランのどうがを見ていました。
次の日、体育館へ行くとなお美さんは、ほかのメンバーにメイを紹介してくれました。
「こんにちは。メイです。これからどうぞよろしくお願いします」
メイがあいさつをすると、なお美さんは一人の女の学生を呼んで、
「彼女も留学生。アイナ」
と言いました。
「はじめまして。アイナグルです。ウズベキスタンから来ました。3年生です。アイナとよんでください」
「メイです。アメリカ人です。今年の春、日本へ来ました。1年生です。よろしくお願いします」
そして、メイのはじめての練習が始まりました。みんな楽しそうにおどっていましたが、メイはほかの人たちと同じ動きができませんでした。練習が終わり、メイはつかれて座ったままになってしまい、動けませんでした。そして、他のメンバーが帰っていくのを見ていることしかできませんでした。
なお美さんがこえをかけてくれました。
「最初から、上手にできる人はいないの。だんだんみんなと同じようにできるようになっていけばいいから」
アパートに帰ると、メイは少し休んでから、なお美さんに借りたビデオを見ながら練習を始めました。そして、つかれて寝てしまいました。
サークルはとても楽しかったです。おどりだけではなく、どんな練習をするか話すためのあつまりや、ご飯を食べたり話したりするあつまりで、ほかの仲間と話すのもとても楽しい時間でした。メイはよさこいソーランに夢中になりました。
練習が終わったあとでアパートに帰って家で練習して、寝てしまう。毎日毎日、同じことをしました。メイは大好きなアニメを見ることも忘れて、練習しました。
サークルに入って4か月がたちました。でも、メイはまだみんなと同じようにおどれませんでした。
「どれだけがんばって練習しても上手にならない。リズムに合わせることもできないし、ステップも下手なまま。なるこも上手に鳴らせない……」
メイはだんだん自信をなくしていきました。
その晩、ゆう子さんから電話がありました。
「あした、午後4時って何か用事ある?」
夏休みだし、メイには何の予定もありませんでした。
「じゃあ、4時に図書館の裏にある第2体育館に行ってみて。練習が始まるのが4時半からだから、少し前に行って。そこに前田なお美さんっていう人がいるから…その人が私の後輩なんだけど…会ってみて。私は明日はゼミの打ち合わせがあるから行けないけど大丈夫だよね。」
「うん、わかった。」
次の日、メイは約束の時間の10分前に第2体育館に着きました。ドアの前に立つと急にドキドキしてきました。
ドアを開けると、練習の40分なのにたくさんの学生がいて、ウォーミングアップをしていました。
「前田さん、いますか?」
メイがドアの近くにいた学生に声をかけると、
「前田…? ああ、なお美さーん。」
体育館の奥の方から、背が高くて、日焼けした学生が走ってきました。
「メイさん? 私、前田なお美。なお美って呼んで。このサークルでは、みんな下の名前で呼び合ってるの。」
「下の名前?」
メイが聞くと、なお美さんは
「ああ、ファーストネームのこと。あなたのことは、ゆう子さんから聞いてるわ。」
なお美さんは笑いながら、そう答えました。そして、
「どうぞ入って。」
とメイを体育館の中に招き入れてくれました。なお美さんが言わなかったので、メイも「はじめまして」も言わないで体育館に入りました。
「今日は見学していって。ほら、そこに椅子があるから、そこに座って。」
メイが座って見ていると、4時半ちょうどに練習が始まりました。メイが聞いたことが無い音楽がスピーカーから流れました。そして、サークルのメンバーが踊り始めました。軽快なリズムに合わせた力強い踊りでした。踊っている人が、手に何かを持っていてそれが時々リズミカルな音を出します。また、「ヤーレンソーランソーランソーラン」とか「ドッコイショ~ドッコイショ」と短い歌を歌っています。メイはびっくりしました。メンバーはたくさんいるのに、みんなの音と歌と踊りがぴったり合っていて、とてもきれいでした。メイは少し興奮して、じっと練習を見つめていました。
練習が終わると、なお美さんはすぐに更衣室で着替えて、
「一緒に帰ろう。」
とメイに言いました。歩きながらなお美さんはメイに聞きました。
「どうだった?」
「すごかったです。とてもおもしろかったです。」
メイは答えました。
「時間ある? ちょっとウチに寄っていく?よさこいのビデオとかあるし。」
メイはなお美さんのアパートにお邪魔することにしました。部屋に入ると、
「そこに座って。コーヒー、インスタントだけどいい?」
コーヒーを飲みながら、なお美さんは、今日メイが体育館で見たダンスについて説明を始めました。メイがわかるかどうかを確認しながら、言葉を選んで、なお美さんは詳しく説明してくれました。
「よさこいソーランは、1992年に高知県の「よさこい祭り」がルーツなの。高知よさこい祭りのよさこい踊りに使われる鳴子(なるこ)という楽器と北海道の民謡「ソーラン節」を組み合わせて踊るから、よさこいソーランという名前になったらしいよ。踊りや曲、衣装はチームの自由だけど、鳴子を持って、曲にソーラン節のフレーズを入れることがルールなの。」
「民謡?」
メイは聞きました。
「昔からある歌。英語だと…うーん、フォークソングかな。北海道で漁師さんが歌っていた歌だって。」
説明しながら、なお美さんはパソコンを開きました。
「いろいろ説明するより、見てみようか。毎年6月に北海道の札幌市でみんながよさこいソーランを踊る祭りなの。うちの大学も出て、踊ったんだよ。」
画面を見ると、少し前に体育館で見た踊りをみんなが踊っていました。体育館では全員がジャージーを着ていましたが、ビデオの中のメンバーは、みんなとてもきれいな衣装を着ていました。
「きれいなコスチュームですね。」
とメイが言うと、
「それ、法被って言うのよ。よさこいソーランの衣装はみんなで作るの。」
メイは夢中でビデオを見ていましたが、5つ目のビデオを見終わったところで、もう9時になっていたことに気が付きました。
「今日はお世話になりました。そろそろ失礼します。」
と言ってメイはアパートへ帰りました。
帰る前に、なお美さんは
「練習は月曜日から金曜日、午後4時半から6時。夕方からアルバイトがあるメンバーもいるから、時間厳守ね。場所は今日の第2体育館。土日は祭りがある時はみんなで行くけど、無い時は休み。明日から来る?来るでしょう。」
と言いました。メイはすっかり行くつもりになっていました。
家に帰って晩御飯を食べてから、youtubeを見ました。よさこいソーランの動画がたくさんありました。メイは朝までそれを見ていました。
翌日、体育館へ行くとなお美さんは、他のメンバーにメイを紹介してくれました。
「こんにちは。メイです。これからどうぞよろしくお願いします。」
メイが挨拶をすると、なお美さんは一人の女の学生を呼んで、
「彼女も留学生。アイナって言うの。」
と言いました。
「はじめまして。アイナグルです。ウズベキスタンから来ました。3年生です。アイナって呼んでください。」
「メイです。アメリカ人です。今年の春、日本へ来ました。1年生です。よろしくお願いします。」
そして、メイの初めての練習が始まりました。みんな楽しそうに踊っていましたが、メイは全然他のメンバーの動きに合わせることができませんでした。練習が終わり、メイは疲れて座り込んでしまい、動けませんでした。そして、他のメンバーが笑顔で帰っていくのを見送りました。
なお美さんが声をかけてくれました。
「最初から、上手にできる人なんていないよ。だんだんみんなに合わせていけばいいから。」
アパートに帰ると、メイは少し休んでから、なお美さんに借りたビデオを見ながら練習を始めました。そして、疲れて寝てしまいました。
サークルはとても楽しかったです。踊りだけではなく、ミーティングやコンパで、他のメンバーと話すのもとても楽しい時間でした。メイはよさこいソーランに夢中になりました。
練習が終わった後でアパートに帰って家で練習して、寝てしまう。毎日毎日、同じことの繰り返しでした。メイは大好きなアニメを見ることも忘れて、練習しました。
サークルに入って4か月が経ちました。でも、メイはまだみんなと同じ動きができませんでした。
「どんなに一生懸命練習しても上手にならない。リズムに合わせることもできないし、ステップもぎこちない。鳴子も上手に鳴らせない。」
メイはだんだん自信を無くしていきました。
「あした、午後4時って何か用事ある?」
夏休みだし、メイには何の予定もありませんでした。
「じゃあ、4時に図書館の裏にある第2体育館に行ってみて。練習が始まるのが4時半からだから、少し前に行って。そこに前田なお美さんっていう人がいるから…その人が私の後輩なんだけど…会ってみて。私は明日はゼミの打ち合わせがあるから行けないけど大丈夫だよね。」
「うん、わかった。」
次の日、メイは約束の時間の10分前に第2体育館に着きました。ドアの前に立つと急にドキドキしてきました。
ドアを開けると、練習の40分なのにたくさんの学生がいて、ウォーミングアップをしていました。
「前田さん、いますか?」
メイがドアの近くにいた学生に声をかけると、
「前田…? ああ、なお美さーん。」
体育館の奥の方から、背が高くて、日焼けした学生が走ってきました。
「メイさん? 私、前田なお美。なお美って呼んで。このサークルでは、みんな下の名前で呼び合ってるの。」
「下の名前?」
メイが聞くと、なお美さんは
「ああ、ファーストネームのこと。あなたのことは、ゆう子さんから聞いてるわ。」
なお美さんは笑いながら、そう答えました。そして、
「どうぞ入って。」
とメイを体育館の中に招き入れてくれました。なお美さんが言わなかったので、メイも「はじめまして」も言わないで体育館に入りました。
「今日は見学していって。ほら、そこに椅子があるから、そこに座って。」
メイが座って見ていると、4時半ちょうどに練習が始まりました。メイが聞いたことが無い音楽がスピーカーから流れました。そして、サークルのメンバーが踊り始めました。軽快なリズムに合わせた力強い踊りでした。踊っている人が、手に何かを持っていてそれが時々リズミカルな音を出します。また、「ヤーレンソーランソーランソーラン」とか「ドッコイショ~ドッコイショ」と短い歌を歌っています。メイはびっくりしました。メンバーはたくさんいるのに、みんなの音と歌と踊りがぴったり合っていて、とてもきれいでした。メイは少し興奮して、じっと練習を見つめていました。
練習が終わると、なお美さんはすぐに更衣室で着替えて、
「一緒に帰ろう。」
とメイに言いました。歩きながらなお美さんはメイに聞きました。
「どうだった?」
「すごかったです。とてもおもしろかったです。」
メイは答えました。
「時間ある? ちょっとウチに寄っていく?よさこいのビデオとかあるし。」
メイはなお美さんのアパートにお邪魔することにしました。部屋に入ると、
「そこに座って。コーヒー、インスタントだけどいい?」
コーヒーを飲みながら、なお美さんは、今日メイが体育館で見たダンスについて説明を始めました。メイがわかるかどうかを確認しながら、言葉を選んで、なお美さんは詳しく説明してくれました。
「よさこいソーランは、1992年に高知県の「よさこい祭り」がルーツなの。高知よさこい祭りのよさこい踊りに使われる鳴子(なるこ)という楽器と北海道の民謡「ソーラン節」を組み合わせて踊るから、よさこいソーランという名前になったらしいよ。踊りや曲、衣装はチームの自由だけど、鳴子を持って、曲にソーラン節のフレーズを入れることがルールなの。」
「民謡?」
メイは聞きました。
「昔からある歌。英語だと…うーん、フォークソングかな。北海道で漁師さんが歌っていた歌だって。」
説明しながら、なお美さんはパソコンを開きました。
「いろいろ説明するより、見てみようか。毎年6月に北海道の札幌市でみんながよさこいソーランを踊る祭りなの。うちの大学も出て、踊ったんだよ。」
画面を見ると、少し前に体育館で見た踊りをみんなが踊っていました。体育館では全員がジャージーを着ていましたが、ビデオの中のメンバーは、みんなとてもきれいな衣装を着ていました。
「きれいなコスチュームですね。」
とメイが言うと、
「それ、法被って言うのよ。よさこいソーランの衣装はみんなで作るの。」
メイは夢中でビデオを見ていましたが、5つ目のビデオを見終わったところで、もう9時になっていたことに気が付きました。
「今日はお世話になりました。そろそろ失礼します。」
と言ってメイはアパートへ帰りました。
帰る前に、なお美さんは
「練習は月曜日から金曜日、午後4時半から6時。夕方からアルバイトがあるメンバーもいるから、時間厳守ね。場所は今日の第2体育館。土日は祭りがある時はみんなで行くけど、無い時は休み。明日から来る?来るでしょう。」
と言いました。メイはすっかり行くつもりになっていました。
家に帰って晩御飯を食べてから、youtubeを見ました。よさこいソーランの動画がたくさんありました。メイは朝までそれを見ていました。
翌日、体育館へ行くとなお美さんは、他のメンバーにメイを紹介してくれました。
「こんにちは。メイです。これからどうぞよろしくお願いします。」
メイが挨拶をすると、なお美さんは一人の女の学生を呼んで、
「彼女も留学生。アイナって言うの。」
と言いました。
「はじめまして。アイナグルです。ウズベキスタンから来ました。3年生です。アイナって呼んでください。」
「メイです。アメリカ人です。今年の春、日本へ来ました。1年生です。よろしくお願いします。」
そして、メイの初めての練習が始まりました。みんな楽しそうに踊っていましたが、メイは全然他のメンバーの動きに合わせることができませんでした。練習が終わり、メイは疲れて座り込んでしまい、動けませんでした。そして、他のメンバーが笑顔で帰っていくのを見送りました。
なお美さんが声をかけてくれました。
「最初から、上手にできる人なんていないよ。だんだんみんなに合わせていけばいいから。」
アパートに帰ると、メイは少し休んでから、なお美さんに借りたビデオを見ながら練習を始めました。そして、疲れて寝てしまいました。
サークルはとても楽しかったです。踊りだけではなく、ミーティングやコンパで、他のメンバーと話すのもとても楽しい時間でした。メイはよさこいソーランに夢中になりました。
練習が終わった後でアパートに帰って家で練習して、寝てしまう。毎日毎日、同じことの繰り返しでした。メイは大好きなアニメを見ることも忘れて、練習しました。
サークルに入って4か月が経ちました。でも、メイはまだみんなと同じ動きができませんでした。
「どんなに一生懸命練習しても上手にならない。リズムに合わせることもできないし、ステップもぎこちない。鳴子も上手に鳴らせない。」
メイはだんだん自信を無くしていきました。