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シュテファンとカールの大作戦
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シュテファンとカールは、食堂の山田さんと話したことを書いたポスターを作ります。ポスターには、大きく「学生食堂に1人用の席を作りましょう」と書きます。つぎに「1人でゆっくり食事ができる!」「1人で入ってもはずかしくない!」「1人で食べていると言われなくなる!」ということばを書くことにしました。カールが言いました。
「字だけじゃ、さびしいかな。読む人のきょうみをひけない」
「どうしよう。ぼくたちは絵がかけないから……あぁ、そうだ! 川村さんがかいてくれないかな!」
いい考えを見つけたと思ったシュテファンは、ひざをたたいて言いました。
「『あにけん』に川村さんという絵の上手なせんぱいがいるんだ」
「グッドアイデア!」
すぐにカールも、さんせいをしました。
二人は大きい紙を持って、「あにけん」の部屋へ行きました。川村さんのことを見つけられなかったので、シュテファンは部屋にいた学生たちに聞きました。
「川村さんはいらっしゃいませんか」
「はい、ここにいます」
小さいこえが聞こえました。川村さんです。かみが黒くて、こん色のふくを着ています。
「あれっ、川村さん、すみません。いつもとちがうので分かりませんでした」
「うんう、ぜんぜんちがうから。わからなくても変ではない」
「何かあったんですか」
「うん、いろいろかんがえていて……」
シュテファンは、ふかくは聞かないで、つづけました。
「そうなんですか。それで、おねがいがあるんです。ポスターに絵をかいていただけないでしょうか」
「何のポスター?」
「学生食堂に1人用の席を作ってもらおうと思っているんです。そのポスターに絵をかいていただきたいんです」
「1人用の席?」
「ええ、1人用の席を作れば、一人でもはずかしくないし、ほかの人に、1人で食べている、とか言われなくなるかと思って」
「えっ?」
「食堂は『せいきょう』が経営しています。『せいきょう』の人が、たくさんの学生がさんせいをしたら、かんがえると言ってくれたんです……紹介しわすれていました。こちらは、ともだちのカールさん。一緒に食堂に1人用の席を作ろうとしています」
「はじめまして。カールです。よろしくおねがいします。1人用の席を作るために学生たちに名前を書いてもらいたくて。そのために、ポスターを作っているんです」
「そうなんだ……」
「ポスターには、『1人用の席を作りましょう』という字と、1人でゆっくり食事ができる! 1人で入ってもはずかしくない! 1人で食べていると言われなくなる!……という字を入れたいんです。それもいっしょに書いていただけないでしょうか」
「……わかった」
川村さんは少し考えてから言いました。そして、絵をかきはじめました。すぐに食堂の1人用の席で食事をしている学生たちをかいて、1時間ぐらいでポスターができました。これを見れば、すぐに1人用の席で食事をしていることが分かります。
「すごい!」
シュテファンとカールは、大きなこえで言いました。
それから、2人は「せいきょう」で紙を買って、つくえを借りました。名前を書いてもらうために使います。
「さあ、これで大学の中で学生におねがいできる」
とシュテファンが言うと、
「うん。でも、歩いている学生に言っても、書いてくれるか分からない」
とカールが言いました。
「じゃ、どうしようか。まず、教室で声をかけてみる?」
「それはいいね。授業のあとなら、だいじょうぶだろう」
「じゃあ、ぼくはあしたの『けいえいがく』のあとで、学生に言うことにする」
「OK! じゃ、ぼくもあしたの授業で、みんなに話す」
つぎの日、シュテファンは「けいえいがく」の授業のあとで、学生たちに大きいこえで言いました。
「あの、ちょっと聞いてもらえますか。ぼくはドイツから来た留学生でシュテファンといいます。ぼくともう1人の留学生は、学生食堂に一人用の席を作ってほしいと思っています。食堂は『せいきょう』が経営しています。『せいきょう』の人によると、たくさんの学生が、きぼうするなら、考えてくれるそうです。それで、もしみなさんの中でさんせいをしてくれる人がいたら、名前を書いてもらえないでしょうか。2号館の前で待っています」
すると、学生たちから
「いいよね、1人用の席」
「もっと食堂に行きたくなる」
「私もいいと思う」
という、こえが聞こえてきました。
シュテファンはうれしくなって、
「ぜひ、よろしくおねがいします」
と言って、おじぎをしました。
シュテファンが2号館の前でポスターをはったかんばんとつくえをおいていると、カールが来ました。
「じゅぎょうの後で、学生に話をしてきた」
「どうだった?」
「よかった。みんなもそう思ってたんじゃないかと思う」
「ほんと! ぼくもそう思った」
「たくさん名前があつまるといいな」
すると、
「私も、てつだってもいい?」
と小さいこえが聞こえました。
「川村さん!」
この日も川村さんは黒いかみでこん色の服を着ていました。ふくはセーラーふくのような形で、少しアニメのキャラクターのようでした。しかし、ほかの学生の着ている服とも、にているように見えました。
「1人用の席、いいと思って」
そして、3人は
「食堂に1人用の席を作りたいと思っています。よかったら、名前を書いていってください」
と、歩いている学生たちに声をかけました。すると、「けいえいがく」の授業に出ていたあの4人の学生が来て、名前を書いてくれました。
「ありがとうございます」
川村さんが言いました。
「あれっ、あなたは、あのピンクの……」
4人のうち1人の男の学生が川村さんを見て言いました。
「えっ、はい、そうです」
と川村さんが答えると、ほかの男の学生が、
「えっ、どうして…? さいきん、ピンクの子、じゅぎょうで見ないねって言っていたんです」
と言いました。
「ええ、いろいろかんがえて……コスプレ研究会の人がコスプレのせいでほかの人がこまる時があると言っていたのを聞いて、それはよくないかもしれない……と思って」
「へえ、そうなんだ」
「この間、じゅぎょうでピンクを見ると集中できないと言っていた人ですよね。じゃまになってしまって、ごめんなさい……」
川村さんは消えそうな声で言いました。シュテファンも言いました。
「こちらの川村さんは、アニメを作りたいと思っていて、コスプレをして1人でいると、アニメのストーリーのイメージが出てきやすいそうなんです」
「あ、そうだったんですね……どんな気持ちでああいうかっこうをしていたか、ぜんぜんかんがえてなかった。すみませんでした」
4人の学生は川村さんに小さくおじぎをしました。そして、学生たちは
「がんばってください」
「よろしくおねがいします」
と口々に言って、歩いていきました。
シュテファンは、名前を書いてくれたことだけでなく、その学生たちと川村さんがわかり合えたようで、ほんとうにうれしいと思いました。「もやもや」が消えていくのを感じました。
こうして2週間ぐらい、シュテファンとカールと川村さんは名前をあつめました。やく6,000人の学生のいる大学で、やく3,000人の名前があつまって3人はよろこびました。
「たくさんあつまった」
「よかった!」
そして、名前が書かれたたくさんの紙を、食堂のけいえいをしている「せいきょう」の中西さんへ持っていきました。
「中西さん、食堂に1人用の席を作ってほしいという学生の名前をあつめました。やく3,000人です」
「たくさんあつまりましたね。この紙はあずかります。会議で話して、決まったことを、あとで電話します」
「どうぞよろしくおねがいいたします」
3人はふかくおじぎをしました。
それから3週間がたちました。シュテファンに電話がかかってきました。
「『せいきょう』の中西です。シュテファンさん、食堂に1人用の席を作ることが決まりました。夏休みに工事をして、10月から1人用の席が使えるようになります。よかったですね」
「本当ですか? ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます!」
シュテファンは何回もおれいを言いました。そして、すぐにカールと川村さんと食堂の山田さんに伝えました。そして、1人用の席ができることと署名のおれいを書いたポスターを食堂の前にはりました。
「字だけじゃ、さびしいかな。読む人のきょうみをひけない」
「どうしよう。ぼくたちは絵がかけないから……あぁ、そうだ! 川村さんがかいてくれないかな!」
いい考えを見つけたと思ったシュテファンは、ひざをたたいて言いました。
「『あにけん』に川村さんという絵の上手なせんぱいがいるんだ」
「グッドアイデア!」
すぐにカールも、さんせいをしました。
二人は大きい紙を持って、「あにけん」の部屋へ行きました。川村さんのことを見つけられなかったので、シュテファンは部屋にいた学生たちに聞きました。
「川村さんはいらっしゃいませんか」
「はい、ここにいます」
小さいこえが聞こえました。川村さんです。かみが黒くて、こん色のふくを着ています。
「あれっ、川村さん、すみません。いつもとちがうので分かりませんでした」
「うんう、ぜんぜんちがうから。わからなくても変ではない」
「何かあったんですか」
「うん、いろいろかんがえていて……」
シュテファンは、ふかくは聞かないで、つづけました。
「そうなんですか。それで、おねがいがあるんです。ポスターに絵をかいていただけないでしょうか」
「何のポスター?」
「学生食堂に1人用の席を作ってもらおうと思っているんです。そのポスターに絵をかいていただきたいんです」
「1人用の席?」
「ええ、1人用の席を作れば、一人でもはずかしくないし、ほかの人に、1人で食べている、とか言われなくなるかと思って」
「えっ?」
「食堂は『せいきょう』が経営しています。『せいきょう』の人が、たくさんの学生がさんせいをしたら、かんがえると言ってくれたんです……紹介しわすれていました。こちらは、ともだちのカールさん。一緒に食堂に1人用の席を作ろうとしています」
「はじめまして。カールです。よろしくおねがいします。1人用の席を作るために学生たちに名前を書いてもらいたくて。そのために、ポスターを作っているんです」
「そうなんだ……」
「ポスターには、『1人用の席を作りましょう』という字と、1人でゆっくり食事ができる! 1人で入ってもはずかしくない! 1人で食べていると言われなくなる!……という字を入れたいんです。それもいっしょに書いていただけないでしょうか」
「……わかった」
川村さんは少し考えてから言いました。そして、絵をかきはじめました。すぐに食堂の1人用の席で食事をしている学生たちをかいて、1時間ぐらいでポスターができました。これを見れば、すぐに1人用の席で食事をしていることが分かります。
「すごい!」
シュテファンとカールは、大きなこえで言いました。
それから、2人は「せいきょう」で紙を買って、つくえを借りました。名前を書いてもらうために使います。
「さあ、これで大学の中で学生におねがいできる」
とシュテファンが言うと、
「うん。でも、歩いている学生に言っても、書いてくれるか分からない」
とカールが言いました。
「じゃ、どうしようか。まず、教室で声をかけてみる?」
「それはいいね。授業のあとなら、だいじょうぶだろう」
「じゃあ、ぼくはあしたの『けいえいがく』のあとで、学生に言うことにする」
「OK! じゃ、ぼくもあしたの授業で、みんなに話す」
つぎの日、シュテファンは「けいえいがく」の授業のあとで、学生たちに大きいこえで言いました。
「あの、ちょっと聞いてもらえますか。ぼくはドイツから来た留学生でシュテファンといいます。ぼくともう1人の留学生は、学生食堂に一人用の席を作ってほしいと思っています。食堂は『せいきょう』が経営しています。『せいきょう』の人によると、たくさんの学生が、きぼうするなら、考えてくれるそうです。それで、もしみなさんの中でさんせいをしてくれる人がいたら、名前を書いてもらえないでしょうか。2号館の前で待っています」
すると、学生たちから
「いいよね、1人用の席」
「もっと食堂に行きたくなる」
「私もいいと思う」
という、こえが聞こえてきました。
シュテファンはうれしくなって、
「ぜひ、よろしくおねがいします」
と言って、おじぎをしました。
シュテファンが2号館の前でポスターをはったかんばんとつくえをおいていると、カールが来ました。
「じゅぎょうの後で、学生に話をしてきた」
「どうだった?」
「よかった。みんなもそう思ってたんじゃないかと思う」
「ほんと! ぼくもそう思った」
「たくさん名前があつまるといいな」
すると、
「私も、てつだってもいい?」
と小さいこえが聞こえました。
「川村さん!」
この日も川村さんは黒いかみでこん色の服を着ていました。ふくはセーラーふくのような形で、少しアニメのキャラクターのようでした。しかし、ほかの学生の着ている服とも、にているように見えました。
「1人用の席、いいと思って」
そして、3人は
「食堂に1人用の席を作りたいと思っています。よかったら、名前を書いていってください」
と、歩いている学生たちに声をかけました。すると、「けいえいがく」の授業に出ていたあの4人の学生が来て、名前を書いてくれました。
「ありがとうございます」
川村さんが言いました。
「あれっ、あなたは、あのピンクの……」
4人のうち1人の男の学生が川村さんを見て言いました。
「えっ、はい、そうです」
と川村さんが答えると、ほかの男の学生が、
「えっ、どうして…? さいきん、ピンクの子、じゅぎょうで見ないねって言っていたんです」
と言いました。
「ええ、いろいろかんがえて……コスプレ研究会の人がコスプレのせいでほかの人がこまる時があると言っていたのを聞いて、それはよくないかもしれない……と思って」
「へえ、そうなんだ」
「この間、じゅぎょうでピンクを見ると集中できないと言っていた人ですよね。じゃまになってしまって、ごめんなさい……」
川村さんは消えそうな声で言いました。シュテファンも言いました。
「こちらの川村さんは、アニメを作りたいと思っていて、コスプレをして1人でいると、アニメのストーリーのイメージが出てきやすいそうなんです」
「あ、そうだったんですね……どんな気持ちでああいうかっこうをしていたか、ぜんぜんかんがえてなかった。すみませんでした」
4人の学生は川村さんに小さくおじぎをしました。そして、学生たちは
「がんばってください」
「よろしくおねがいします」
と口々に言って、歩いていきました。
シュテファンは、名前を書いてくれたことだけでなく、その学生たちと川村さんがわかり合えたようで、ほんとうにうれしいと思いました。「もやもや」が消えていくのを感じました。
こうして2週間ぐらい、シュテファンとカールと川村さんは名前をあつめました。やく6,000人の学生のいる大学で、やく3,000人の名前があつまって3人はよろこびました。
「たくさんあつまった」
「よかった!」
そして、名前が書かれたたくさんの紙を、食堂のけいえいをしている「せいきょう」の中西さんへ持っていきました。
「中西さん、食堂に1人用の席を作ってほしいという学生の名前をあつめました。やく3,000人です」
「たくさんあつまりましたね。この紙はあずかります。会議で話して、決まったことを、あとで電話します」
「どうぞよろしくおねがいいたします」
3人はふかくおじぎをしました。
それから3週間がたちました。シュテファンに電話がかかってきました。
「『せいきょう』の中西です。シュテファンさん、食堂に1人用の席を作ることが決まりました。夏休みに工事をして、10月から1人用の席が使えるようになります。よかったですね」
「本当ですか? ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます!」
シュテファンは何回もおれいを言いました。そして、すぐにカールと川村さんと食堂の山田さんに伝えました。そして、1人用の席ができることと署名のおれいを書いたポスターを食堂の前にはりました。
シュテファンとカールは、山田さんと話したことをもとに、ポスターを作ることにしました。ポスターのタイトルは「学食に1人用の席を作りましょう」にして、「1人でリラックスして食事ができる!」、「1人で入ってもはずかしくない!」、「1人で食べてるって言われなくなる!」ということばを書くことにしました。カールが言いました。
「字だけじゃ、さびしいよね。目立たないし」
「どうしよう。ぼくたち絵がかけないよね……あっ、そうだ! 川村さんにたのめばいいよ!」
シュテファンは、ひざをたたいて大きい声で言いました。
「アニメ研究会に川村さんっていう絵の上手なせんぱいがいるんだ」
「グッドアイデア!」
すぐにカールもさんせいしました。
二人は大きい紙を持って、アニメ研究会の部室に行きました。川村さんが見当たらないと思って、シュテファンはそこにいた学生たちに聞きました。
「川村さんはいらっしゃいませんか」
「はい、ここにいます」
小さい声が聞こえました。川村さんです。かみが黒くてネイビーのふくを着ています。
「あれっ、川村さん、すみません。いつもと違うので気がつきませんでした。」
「うんう、ぜんぜんちがうから、わからないよね」
「どうかしたんですか」
「うん、ちょっといろいろかんがえて……」
シュテファンはそれいじょうは聞かないで、つづけました。
「そうなんですね。で、じつはお願いがあるんですけど。ポスターに絵をかいていただけないでしょうか」
「えっ、何のポスター?」
「学生食堂に1人用の席を作ってもらおうと思ってるんですけど、それに絵をかいていただきたいんです」
「1人用の席?」
「ええ、1人用の席を作れば、一人でもはずかしくないし、ほかの人に、1人で食べてる、とか言われなくなるかと思って」
「えっ?」
「食堂は生協が経営してるんですけど、生協の人が、たくさんの学生がさんせいしたら、かんがえるって言ってくれたんです。そうそう、こちらは友だちのカールくん」
「はじめまして。カールです。よろしくお願いします。それで、学生たちに名前を書いてもらうために、ポスターを作っているんです」
「へえ、そうなんだ……」
「ポスターには、タイトルと、1人でリラックスして食事ができる!、1人で入ってもはずかしくない!、1人で食べてるって言われなくなる! っていう字を入れたいんです。それもいっしょに書いていただけないでしょうか」
「う——ん、わかった」
川村さんはそう言って、絵をかきはじめました。食堂の1人用の席で食事をしている学生たちをすらすらとかいて、1時間ぐらいでポスターができあがりました。これを見れば、すぐに1人用の席で食事をしているところがイメージできます。
「すごい!」
シュテファンとカールは、思わずさけびました。
それから、2人は生協で名前を書いてもらう紙を買って、つくえを借りました。
「さあ、これでキャンパスでよびかけられるね」
とシュテファンが言うと、
「そうだね。でも、歩いている学生に言っても、あまり書いてくれないかなあ」
とカールが言いました。
「そうだね。じゃ、どうしようか。まず、じゅぎょうでよびかけてみる?」
「それはいいね。じゅぎょうが終わった後なら、だいじょうぶだよね」
「じゃあ、ぼくはあしたの経営学のじゅぎょうの後でよびかけてみるよ。」
「OK! じゃ、ぼくもあしたのじゅぎょうでよびかけてみる」
つぎの日、シュテファンは経営学のじゅぎょうのあとで、学生たちに大きい声で言いました。
「あの、ちょっと聞いてもらえますか。ぼくはドイツから来た留学生でシュテファンと言います。ぼくともう1人の留学生は、学生食堂に一人用の席を作ってほしいと思っています。食堂は生協が経営してるんですが、生協の人によると、たくさんの学生がきぼうするなら、考えてくれるそうです。それで、もしみなさんの中でさんせいしてくれる人がいたら、名前を書いてもらえないでしょうか。2号館の前で待っています」
すると、学生たちから
「いいよね、1人用の席」
「もっと食堂に行きたくなるよね」
「私もいいと思う」
という声が聞こえてきました。
シュテファンはうれしくなって、
「ぜひ、よろしくお願いします」
と言って、おじぎをしました。
シュテファンが2号館の前でポスターをはったかんばんとつくえをおいていると、カールが来ました。
「じゅぎょうの後で、よびかけてみたよ」
「どうだった?」
「いいかんじだった。みんなもそう思ってたんじゃないかと思う」
「ほんと! ぼくもそう思った」
「たくさん名前があつまるといいね」
すると、
「私も手伝ってもいい?」
と小さい声が聞こえました。
「あっ、川村さん!」
この日も黒いかみでネイビーの服を着ていました。ふくはセーラーふくのような形で、少しアニメのキャラクターのようでしたが、学生らしく見えました。
「1人用の席、いいなあと思って」
そして、3人は
「食堂に1人用の席を作りたいと思っています。よかったら、名前を書いていってください」
と、歩いている学生たちによびかけました。すると、経営学のじゅぎょうに出ていたあの4人の学生が近づいてきて、名前を書いてくれました。
「ありがとうございます」
川村さんが言いました。
「あれっ、もしかして、あのピンクの……」
4人のうち1人の男の学生が川村さんをちらっと見て言いました。
「えっ、はい、そうです」
と川村さんが答えると、ほかの男の学生が、
「えっ、どうして…? さいきんピンクの子、じゅぎょうで見ないねって言ってたんですよ」
と言いました。
「ええ、ちょっといろいろかんがえて……コスプレ研の人がコスプレのせいでほかの人がとても困る時があるって言ってたのを聞いて、それはよくないかも…ってほんとに思って」
「へえ、そうなんだ」
「この間、じゅぎょうでピンクを見ると気がちるって言ってましたよね。ごめんなさい……」
川村さんは消えそうな声で言いました。シュテファンも言いました。
「こちらの川村さんは、アニメを作りたいと思っていて、コスプレをして1人でいると、アニメのストーリーのイメージが出てきやすいそうなんです」
「あ、そうだったんですね…。どんな気持ちでああいうかっこうをしていたか、ぜんぜんかんがえてなかった。どうもすみません」
4人の学生は川村さんに向かって小さくおじぎをしました。そして、学生たちは
「がんばってください」
「よろしくお願いします」
と口々に言って、歩いていきました。
シュテファンは、名前を書いてくれたことだけでなく、その学生たちと川村さんがわかり合えたようで、ほんとうにうれしいと思いました。「もやもや」が消えていくのを感じました。
こうして2週間ぐらい、シュテファンとカールと川村さんは名前をあつめました。学生がやく6,000人の大学で、やく3,000人の名前があつまって3人はよろこびました。
「たくさんあつまったね」
「よかった!」
そして、名前が書かれたたくさんの紙を生協の中西さんのところに持っていきました。
「中西さん、食堂に1人用の席を作ってほしいという学生の名前をあつめました。やく3,000人です」
「たくさんあつまりましたね。おあずかりします。会議で話し合って、れんらくします」
「どうぞよろしくお願いいたします」
3人はふかくおじぎをしました。
それから3週間後、シュテファンに電話がかかってきました。
「生協の中西です。シュテファンさん、食堂に1人用の席を作ることが決まりました。夏休みに工事をして、10月から1人用の席が使えるようになります。よかったですね」
「ほんとですか? ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます!」
シュテファンは何回もおれいを言いました。そして、すぐにカールと川村さんと食堂の山田さんに伝えました。そして、1人用の席ができることと署名のおれいを書いたポスターを食堂の前にはりました。
「字だけじゃ、さびしいよね。目立たないし」
「どうしよう。ぼくたち絵がかけないよね……あっ、そうだ! 川村さんにたのめばいいよ!」
シュテファンは、ひざをたたいて大きい声で言いました。
「アニメ研究会に川村さんっていう絵の上手なせんぱいがいるんだ」
「グッドアイデア!」
すぐにカールもさんせいしました。
二人は大きい紙を持って、アニメ研究会の部室に行きました。川村さんが見当たらないと思って、シュテファンはそこにいた学生たちに聞きました。
「川村さんはいらっしゃいませんか」
「はい、ここにいます」
小さい声が聞こえました。川村さんです。かみが黒くてネイビーのふくを着ています。
「あれっ、川村さん、すみません。いつもと違うので気がつきませんでした。」
「うんう、ぜんぜんちがうから、わからないよね」
「どうかしたんですか」
「うん、ちょっといろいろかんがえて……」
シュテファンはそれいじょうは聞かないで、つづけました。
「そうなんですね。で、じつはお願いがあるんですけど。ポスターに絵をかいていただけないでしょうか」
「えっ、何のポスター?」
「学生食堂に1人用の席を作ってもらおうと思ってるんですけど、それに絵をかいていただきたいんです」
「1人用の席?」
「ええ、1人用の席を作れば、一人でもはずかしくないし、ほかの人に、1人で食べてる、とか言われなくなるかと思って」
「えっ?」
「食堂は生協が経営してるんですけど、生協の人が、たくさんの学生がさんせいしたら、かんがえるって言ってくれたんです。そうそう、こちらは友だちのカールくん」
「はじめまして。カールです。よろしくお願いします。それで、学生たちに名前を書いてもらうために、ポスターを作っているんです」
「へえ、そうなんだ……」
「ポスターには、タイトルと、1人でリラックスして食事ができる!、1人で入ってもはずかしくない!、1人で食べてるって言われなくなる! っていう字を入れたいんです。それもいっしょに書いていただけないでしょうか」
「う——ん、わかった」
川村さんはそう言って、絵をかきはじめました。食堂の1人用の席で食事をしている学生たちをすらすらとかいて、1時間ぐらいでポスターができあがりました。これを見れば、すぐに1人用の席で食事をしているところがイメージできます。
「すごい!」
シュテファンとカールは、思わずさけびました。
それから、2人は生協で名前を書いてもらう紙を買って、つくえを借りました。
「さあ、これでキャンパスでよびかけられるね」
とシュテファンが言うと、
「そうだね。でも、歩いている学生に言っても、あまり書いてくれないかなあ」
とカールが言いました。
「そうだね。じゃ、どうしようか。まず、じゅぎょうでよびかけてみる?」
「それはいいね。じゅぎょうが終わった後なら、だいじょうぶだよね」
「じゃあ、ぼくはあしたの経営学のじゅぎょうの後でよびかけてみるよ。」
「OK! じゃ、ぼくもあしたのじゅぎょうでよびかけてみる」
つぎの日、シュテファンは経営学のじゅぎょうのあとで、学生たちに大きい声で言いました。
「あの、ちょっと聞いてもらえますか。ぼくはドイツから来た留学生でシュテファンと言います。ぼくともう1人の留学生は、学生食堂に一人用の席を作ってほしいと思っています。食堂は生協が経営してるんですが、生協の人によると、たくさんの学生がきぼうするなら、考えてくれるそうです。それで、もしみなさんの中でさんせいしてくれる人がいたら、名前を書いてもらえないでしょうか。2号館の前で待っています」
すると、学生たちから
「いいよね、1人用の席」
「もっと食堂に行きたくなるよね」
「私もいいと思う」
という声が聞こえてきました。
シュテファンはうれしくなって、
「ぜひ、よろしくお願いします」
と言って、おじぎをしました。
シュテファンが2号館の前でポスターをはったかんばんとつくえをおいていると、カールが来ました。
「じゅぎょうの後で、よびかけてみたよ」
「どうだった?」
「いいかんじだった。みんなもそう思ってたんじゃないかと思う」
「ほんと! ぼくもそう思った」
「たくさん名前があつまるといいね」
すると、
「私も手伝ってもいい?」
と小さい声が聞こえました。
「あっ、川村さん!」
この日も黒いかみでネイビーの服を着ていました。ふくはセーラーふくのような形で、少しアニメのキャラクターのようでしたが、学生らしく見えました。
「1人用の席、いいなあと思って」
そして、3人は
「食堂に1人用の席を作りたいと思っています。よかったら、名前を書いていってください」
と、歩いている学生たちによびかけました。すると、経営学のじゅぎょうに出ていたあの4人の学生が近づいてきて、名前を書いてくれました。
「ありがとうございます」
川村さんが言いました。
「あれっ、もしかして、あのピンクの……」
4人のうち1人の男の学生が川村さんをちらっと見て言いました。
「えっ、はい、そうです」
と川村さんが答えると、ほかの男の学生が、
「えっ、どうして…? さいきんピンクの子、じゅぎょうで見ないねって言ってたんですよ」
と言いました。
「ええ、ちょっといろいろかんがえて……コスプレ研の人がコスプレのせいでほかの人がとても困る時があるって言ってたのを聞いて、それはよくないかも…ってほんとに思って」
「へえ、そうなんだ」
「この間、じゅぎょうでピンクを見ると気がちるって言ってましたよね。ごめんなさい……」
川村さんは消えそうな声で言いました。シュテファンも言いました。
「こちらの川村さんは、アニメを作りたいと思っていて、コスプレをして1人でいると、アニメのストーリーのイメージが出てきやすいそうなんです」
「あ、そうだったんですね…。どんな気持ちでああいうかっこうをしていたか、ぜんぜんかんがえてなかった。どうもすみません」
4人の学生は川村さんに向かって小さくおじぎをしました。そして、学生たちは
「がんばってください」
「よろしくお願いします」
と口々に言って、歩いていきました。
シュテファンは、名前を書いてくれたことだけでなく、その学生たちと川村さんがわかり合えたようで、ほんとうにうれしいと思いました。「もやもや」が消えていくのを感じました。
こうして2週間ぐらい、シュテファンとカールと川村さんは名前をあつめました。学生がやく6,000人の大学で、やく3,000人の名前があつまって3人はよろこびました。
「たくさんあつまったね」
「よかった!」
そして、名前が書かれたたくさんの紙を生協の中西さんのところに持っていきました。
「中西さん、食堂に1人用の席を作ってほしいという学生の名前をあつめました。やく3,000人です」
「たくさんあつまりましたね。おあずかりします。会議で話し合って、れんらくします」
「どうぞよろしくお願いいたします」
3人はふかくおじぎをしました。
それから3週間後、シュテファンに電話がかかってきました。
「生協の中西です。シュテファンさん、食堂に1人用の席を作ることが決まりました。夏休みに工事をして、10月から1人用の席が使えるようになります。よかったですね」
「ほんとですか? ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます!」
シュテファンは何回もおれいを言いました。そして、すぐにカールと川村さんと食堂の山田さんに伝えました。そして、1人用の席ができることと署名のおれいを書いたポスターを食堂の前にはりました。