Coming soon!
ターミナル内にあるあんないばんの前にチケットを持っている女性がいた。出発あんないばんに「欠航(けっこう)」という文字が出た時、いきが止まるかと思った。これで終わりか。さいしょからムリだったのかな。いくつかのメッセージの音がしたのに、女性は気づかなかったようだ。むねの中が急にからっぽになった。この女性はベレンだった。
にもつがとどいた時から、ヒロシとベレンはおたがいにあやまって、まただんだん話すようになった。全部の問題がなくなったとは言えないけど。このおつきあいにしょうらいがあるかどうか、まだベレンにははっきりとわかっていなかった。でも、それをはっきりさせるつもりだった。なので、アカリがたのんだおいわいのビデオの代わりに、自分で日本に行くことにした。ヒロシをサプライズするため。だが、やっぱり運が悪い。
またメッセージの音がした。ベレンはやっとスマホを見た。姉からいくつかのメッセージが来た。
「フライトはキャンセルになった」とベレンは答えた。
「ほかのフライトは?」
「ない。つぎの直行便(ちょっこうびん:とちゅうで止まらない便)はあさって」
「しらべるから、待って」
ヒロシの誕生日は12月3日だ。アルゼンチンから日本までのフライトは24時間かかる。時間のちがいをふくめて、今日出発しないと、誕生日のパーティーに間に合わないのはたしかだ。
「あさってならぜったいムリ?」また姉からのメッセージだ。
「誕生日じゃないから、ムリ」
「誕生日じゃなくても、だいじょうぶじゃないか。会えるなら」
「それもそうかも」
「元気を出して」
「だって、うんめいじゃないだろう。このおつきあいは最初からしょうらいがなかったから」
ベレンはふかいかなしみを感じて、泣き出した。ムリだろう。いっしょうけんめいがんばったのに、このえんきょり恋愛ってぜんぜんうまくいかない。きょりは問題にはならないと思ったのに、間違えた。ヒロシに会いたくてたまらない。じっさいに話したくてたまらない。手をつなぎたくてたまらない。そばにいないので、彼氏がいても心の中にかなしさしかない。それはえんきょり恋愛だ。
電話がかかってきた。
「もしもし」
「ベレン、ほかのフライトがあるそう」と姉が言った。
「本当に?」
「直行便じゃないので、もっと時間がかかる。でも、日本時間で3日の19時に日本に着く。少し遅いけど、誕生日になんとか間に合いそう」
「…新しいチケットを買うためのお金がないけど」
「私は買ってあげる」
「そんな」
「だいじょうぶだよ。キャンセルになったフライトのお金をもらってから、返すことができる」
「ごめん!きっと返すよ」
「だいじょうぶだって」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ベレン」
「ん?」
「うんめいは自分の力でかえられるよ。かんけいにしょうらいがあるかどうかも、きみたちは決める。あきらめるのは一番簡単だから」
ベレンはだまったままうなずいた。
姉が言ったことを何回も頭の中でくりかえしながら、ベレンは飛行機に乗った。
ターミナル内にある案内板の前に航空券を握り締めている女性がいた。出発案内板に「欠航」という文字が表示された時、息が止まるかと思った。これで終わりか。最初から無理だったのかな。いくつかのメッセージの音がしたのに、女性は気づかなかったようだ。胸の中が急に空っぽになったように感じた。この女性はベレンだった。
荷物が届いた時から、ヒロシとベレンはお互いに謝って、また段々話すようになった。全部の問題を解決できたとは言えないけど。このお付き合いに将来があるかどうか、まだベレンにとって明らかではなかった。でも、それを明らかにするつもりだった。なので、アカリが頼んだお祝いのビデオの代わりに、自分で日本に行くことにした。ヒロシをサプライズするため。だが、やっぱり運が悪い。
またメッセージの音がした。ベレンはやっとスマホの画面を見た。姉からいくつかのメッセージが来た。
「フライトは欠航になった」とベレンは答えた。
「他のフライトは?」
「ない。次の直行便は明後日」
「調べるから、待って」
ヒロシの誕生日は12月3日だ。アルゼンチンから日本までのフライトは24時間かかる。時差を含めて、今日出発しないと、誕生日のパーティーに間に合わないのは確かだ。
「明後日なら絶対無理?」また姉からのメッセージだ。
「誕生日じゃないから、無理」
「誕生日じゃなくても、大丈夫じゃないか。会えるなら」
「それもそうかも」
「元気を出して」
「だって、運命じゃないだろう。このお付き合いは最初から将来がなかったから」
ベレンは絶望感に襲われて、泣き出した。無理だろう。一所懸命頑張ったのに、この遠距離恋愛って全然うまくいかない。距離は障害にはならないと思ったのに、間違えた。ヒロシに会いたくてたまらない。直接話したくてたまらない。手を繋ぎたくてたまらない。側にいないので、彼氏がいても寂しさしか感じない。それは遠距離恋愛だ。
電話が鳴った。
「もしもし」
「ベレン、他のフライトがあるそう」と姉が言った。
「本当に?」
「直行便じゃないので、もっと時間がかかる。でも、日本時間で3日の19時に日本に着く。少し遅いけど、誕生日になんとか間に合いそう」
「…新しいチケットを買うためのお金がないけど」
「私は買ってあげる」
「そんな」
「大丈夫だよ。欠航のフライトの返金をもらってから、返すことができる」
「ごめん!きっと返すよ」
「大丈夫だって」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ベレン」
「ん?」
「運命って人が左右できるよ。関係に将来があるかどうかも、君たちは決める。諦めるのは一番簡単な選択だから」
ベレンは黙ったまま頷いた。
姉が言ったことを何回も頭の中で繰り返しながら、ベレンは飛行機に乗った。