閉じる
閉じる
📌
閉じる
📌
『心の旅』続編:愛のタペストリー
11月下旬
現在の再生速度: 1.0倍
Coming soon!
「いらっしゃいませ!」とベレンのこえがした。
コーヒーショップに入った女性はあいさつに手をふった。髪が長くて、黒くて、くせっけの女性だった。いつも来てくれるお客さんだった。いつもたんぱつで、鼻が高い男といっしょに来たけれども、今日は一人だ。ベレンはテーブルに近づいて、注文を聞いた。ふだんはLサイズのカプチーノとチーズケーキだったが、今日は飲み物だけ。あの女は注文を待っている間、せつない笑顔でまどからのけしきを見た。
「お待たせしました」とベレンはカプチーノをテーブルに置いた。そして、チーズケーキも持ってきた。
「チーズケーキはサービスです。もしよかったら、めしあがってください」
「やさしいですね。ありがとうございます」と女の顔は明るくなった。
「名前はベレンさんですね」
はい、とベレンはうなずいた。
「私はダニエラと言います」
「よろしくおねがいします」
「ベレンさんはだいじょうぶですか。しつれいですが、今日はなんか元気じゃなさそうです」
それは私のセリフじゃないかとベレンは思った。
「ちょっと、彼氏とひどいけんかをしたのです」
ベレンはあの女について何も知らなかった。友だちではないし、知り合いでもない。ただのお客だ。今まで名前すら知らなかった。だが、ときどきまったく知らない人に話すほうが気楽なこともあるだろう。だから、ベレンはヒロシとのかんけいのなやみをすべてダニエラに話した。
「ああ、そういうことですか」
「本当の愛なら、何でものりこえられると思ったのに」
「どんなに本当の愛でもしあわせになるわけではありません」とダニエラはまじめに言った。そして、少しだまってから、つづけた。
「少なくとも私の場合はそうです。えんきょり恋愛ではなかったですが、とても愛していた彼氏と別れることにしました。きょうつうのもくひょうがなかったからです。その場合は愛してもしなくても、けっきょく別れるべきです。いっしょにいる意味がありませんから。時間のむだじゃないかなと思います。そして、だれかがかならずきずつくのはたしかなんです。そのおつきあいはとにかくしょうらいがありませんから」
ベレンはふかく考えた。時間のむだなのか。ヒロシとのおつきあいは本当にしょうらいがないのか。けんかしたあと、一週間ぐらいだ。ヒロシからのれんらくはなかった。ベレンも電話とかしなかった。言いたいことがいっぱいあったけど、いつもスマホで彼の名前を見ると、なぜか言葉が消えてしまった。毎日の「おはよう」と「おやすみ」もなくなった。しゅうかんだったのに。あの時の会話が頭の中で何回もくりかえされた。スペイン語のことでそんなにおこらなくてもよかった。本当に言語の問題ではなかったから。ただのけんかのきっかけかな。ベレンとヒロシは前におたがいのことがよく分かっていた。でも、あのさいごの言葉。「人生は公平ではない。それに慣れよ」と。ヒロシらしくないかな。前にかくされたヒロシのもう一つの顔かも。それに慣れる気がない。
数時間後、ベレンはうちに帰った。
「ベレン、にもつがとどいた」と母のやさしいこえだった。
「えっ、にもつって」
母の言った通り、ベレンのベッドの上に大きくないだんボールがあった。ふしぎだな。何も注文しなかったし、誕生日のプレゼントなら早すぎる。近づいて、送った人の名前をさがしてみた。「日本」という文字を見て、おどろいた。心がドキドキした。ヒロシからのにもつだ。たぶんサプライズをしたかったのかな。けんかの前に。
ボールばこの中には、日本のおかしとベレンが大好きなマンガがあった。マンガを開けると、小さなカードがおちた。「アルゼンチンにはないものを送ったらいいなと思った。ちょくせつわたせなくて、ざんねんだが、会えるときまで待てなかった。12月を楽しみにしている」と書いてあった。そして、カードの下に「Te amo」という言葉があった。ベレンの目にはなみだが出てきた。
ヒロシに書くために、ベレンはスマホを出した。
「にもつがとどいた。ありがとう。とてもうれしい」
それを送ったとたん、メッセージの音がした。でも、ヒロシではなかった。ヒロシの友だちのアカリだ。
「ベレン、ひさしぶり!元気?おねがいがあるんだけど」
「ひさしぶり!何のおねがい?」とベレンの答えだった。
「来週ヒロシの誕生日でしょ。入試のせいで、とてもおちこんでいるので、パーティーをすることにしたの。ヒロシをおうえんするためにね」
「あ、わかった。ごうかくのおいわいなの?」
「えっ、知らないの?ふごうかくだった」
うそだよ。ベレンは目をうたがって、スマホをじっと見つめた。
「いつけっかが出たの?」
「一週間前かな。ごめん、かってに言っちゃった。もう知っていると思った」
一週間なのか。ちょうどあの時かな。「人生は公平ではない。それに慣れよ」という言葉はベレンのためだけではなかったかな。
「だいじょうぶ。何のおねがいだっけ?」
「誕生日のプレゼントとしておいわいのビデオをとってくれない?ヒロシはきっとうれしくなると思う」
ベレンは少し考えてから、答えた。
「もっといいアイディアがあるよ」
コーヒーショップに入った女性はあいさつに手をふった。髪が長くて、黒くて、くせっけの女性だった。いつも来てくれるお客さんだった。いつもたんぱつで、鼻が高い男といっしょに来たけれども、今日は一人だ。ベレンはテーブルに近づいて、注文を聞いた。ふだんはLサイズのカプチーノとチーズケーキだったが、今日は飲み物だけ。あの女は注文を待っている間、せつない笑顔でまどからのけしきを見た。
「お待たせしました」とベレンはカプチーノをテーブルに置いた。そして、チーズケーキも持ってきた。
「チーズケーキはサービスです。もしよかったら、めしあがってください」
「やさしいですね。ありがとうございます」と女の顔は明るくなった。
「名前はベレンさんですね」
はい、とベレンはうなずいた。
「私はダニエラと言います」
「よろしくおねがいします」
「ベレンさんはだいじょうぶですか。しつれいですが、今日はなんか元気じゃなさそうです」
それは私のセリフじゃないかとベレンは思った。
「ちょっと、彼氏とひどいけんかをしたのです」
ベレンはあの女について何も知らなかった。友だちではないし、知り合いでもない。ただのお客だ。今まで名前すら知らなかった。だが、ときどきまったく知らない人に話すほうが気楽なこともあるだろう。だから、ベレンはヒロシとのかんけいのなやみをすべてダニエラに話した。
「ああ、そういうことですか」
「本当の愛なら、何でものりこえられると思ったのに」
「どんなに本当の愛でもしあわせになるわけではありません」とダニエラはまじめに言った。そして、少しだまってから、つづけた。
「少なくとも私の場合はそうです。えんきょり恋愛ではなかったですが、とても愛していた彼氏と別れることにしました。きょうつうのもくひょうがなかったからです。その場合は愛してもしなくても、けっきょく別れるべきです。いっしょにいる意味がありませんから。時間のむだじゃないかなと思います。そして、だれかがかならずきずつくのはたしかなんです。そのおつきあいはとにかくしょうらいがありませんから」
ベレンはふかく考えた。時間のむだなのか。ヒロシとのおつきあいは本当にしょうらいがないのか。けんかしたあと、一週間ぐらいだ。ヒロシからのれんらくはなかった。ベレンも電話とかしなかった。言いたいことがいっぱいあったけど、いつもスマホで彼の名前を見ると、なぜか言葉が消えてしまった。毎日の「おはよう」と「おやすみ」もなくなった。しゅうかんだったのに。あの時の会話が頭の中で何回もくりかえされた。スペイン語のことでそんなにおこらなくてもよかった。本当に言語の問題ではなかったから。ただのけんかのきっかけかな。ベレンとヒロシは前におたがいのことがよく分かっていた。でも、あのさいごの言葉。「人生は公平ではない。それに慣れよ」と。ヒロシらしくないかな。前にかくされたヒロシのもう一つの顔かも。それに慣れる気がない。
数時間後、ベレンはうちに帰った。
「ベレン、にもつがとどいた」と母のやさしいこえだった。
「えっ、にもつって」
母の言った通り、ベレンのベッドの上に大きくないだんボールがあった。ふしぎだな。何も注文しなかったし、誕生日のプレゼントなら早すぎる。近づいて、送った人の名前をさがしてみた。「日本」という文字を見て、おどろいた。心がドキドキした。ヒロシからのにもつだ。たぶんサプライズをしたかったのかな。けんかの前に。
ボールばこの中には、日本のおかしとベレンが大好きなマンガがあった。マンガを開けると、小さなカードがおちた。「アルゼンチンにはないものを送ったらいいなと思った。ちょくせつわたせなくて、ざんねんだが、会えるときまで待てなかった。12月を楽しみにしている」と書いてあった。そして、カードの下に「Te amo」という言葉があった。ベレンの目にはなみだが出てきた。
ヒロシに書くために、ベレンはスマホを出した。
「にもつがとどいた。ありがとう。とてもうれしい」
それを送ったとたん、メッセージの音がした。でも、ヒロシではなかった。ヒロシの友だちのアカリだ。
「ベレン、ひさしぶり!元気?おねがいがあるんだけど」
「ひさしぶり!何のおねがい?」とベレンの答えだった。
「来週ヒロシの誕生日でしょ。入試のせいで、とてもおちこんでいるので、パーティーをすることにしたの。ヒロシをおうえんするためにね」
「あ、わかった。ごうかくのおいわいなの?」
「えっ、知らないの?ふごうかくだった」
うそだよ。ベレンは目をうたがって、スマホをじっと見つめた。
「いつけっかが出たの?」
「一週間前かな。ごめん、かってに言っちゃった。もう知っていると思った」
一週間なのか。ちょうどあの時かな。「人生は公平ではない。それに慣れよ」という言葉はベレンのためだけではなかったかな。
「だいじょうぶ。何のおねがいだっけ?」
「誕生日のプレゼントとしておいわいのビデオをとってくれない?ヒロシはきっとうれしくなると思う」
ベレンは少し考えてから、答えた。
「もっといいアイディアがあるよ」
「いらっしゃいませ!」とベレンの声がした。
コーヒーショップに入った女性は挨拶に手を振った。髪が長くて、黒くて、くせっ毛の女性だった。常連客だった。いつも短髪で、鼻が高い男性と一緒に来たけれども、今日は一人だ。ベレンはテーブルに近づいて、注文を伺った。普段はLサイズのカプチーノとチーズケーキだったが、今日は飲み物だけ。あの女は注文を待っている間、切ない笑顔で窓からの景色を眺めた。
「お待たせしました」とベレンはカプチーノをテーブルに置いた。そして、チーズケーキも持ってきた。
「チーズケーキはサービスです。もしよかったら、召し上がってください」
「優しいですね。ありがとうございます」と女の顔は明るくなった。
「名前はベレンさんですね」
はい、とベレンは頷いた。
「私はダニエラと言います」
「よろしくお願いします」
「ベレンさんは大丈夫ですか。失礼ですが、今日はなんか元気じゃなさそうです」
それは私のセリフじゃないかとベレンは思った。
「ちょっと、彼氏とひどい喧嘩をしたのです」
ベレンはあの女について何も知らなかった。友だちではないし、知り合いでもない。ただの常連客だ。今まで名前すら知らなかった。だが、時々まったく知らない人に相談する方が気楽なこともあるだろう。だから、ベレンはヒロシとの関係の悩みをすべてダニエラに話した。
「ああ、そういうことですか」
「真実の愛なら、何でも乗り越えられると思ったのに」
「どんなに真実の愛でも幸せになるわけではありません」とダニエラは思慮深く言った。そして、少し黙ってから、続けた。
「少なくとも私の場合はそうです。遠距離恋愛ではなかったですが、とても愛していた彼氏と別れることにしました。共通の目標がなかったからです。その場合は愛してもしなくても、結局別れるべきです。一緒にいる意味がありませんから。時間の無駄じゃないかなと思います。そして、誰かが必ず傷つくのは確かなんです。そのお付き合いはとにかく将来がありませんから」
ベレンは考え込んだ。時間の無駄なのか。ヒロシとのお付き合いは本当に将来がないのか。喧嘩したあと、一週間ぐらい経った。ヒロシからの連絡はなかった。ベレンも電話とかしなかった。言いたいことがいっぱいあったけど、いつもスマホの画面に彼の名前を見ると、なぜか言葉が消えてしまった。毎日の「おはよう」と「おやすみ」もなくなった。習慣だったのに。あの時の会話が頭の中で何回も繰り返された。どうせスペイン語のことでそんなに怒らなくてもよかった。実際には言語の問題ではなかったから。ただの喧嘩の口実かな。ベレンとヒロシは普段はお互いのことがよく分かっていた。でも、あの最後の言葉。「人生は公平ではない。それに慣れよ」と。ヒロシらしくないかな。あるいは、前に隠されたヒロシの一面かも。残酷な面。それに慣れる気がない。
数時間後、ベレンはうちに帰った。
「ベレン、荷物が届いた」と母の優しい声だった。
「えっ、荷物って」
母の言った通り、ベレンのベッドの上に大きくない段ボールがあった。不思議だな。何も注文しなかったし、誕生日のプレゼントなら早すぎる。近づいて、差出人の名前を探してみた。「日本」という文字を見て、目を疑った。心がドキドキした。ヒロシからの荷物だ。たぶんサプライズをしたかったのかな。喧嘩の前に。
ボール箱の中には、日本のお菓子とベレンが大好きなマンガの新刊があった。マンガを開けると、小さなカードが落ちた。「アルゼンチンにはないものを送ったらいいなと思った。直接渡せなくて、残念だが、会えるときまで待てなかった。12月を楽しみにしている」と書いてあった。そして、カードの右隅に「Te amo」という言葉があった。ベレンは胸を打って、目には涙が出てきた。
ヒロシに書くために、ベレンはスマホを取り出した。
「荷物が届いた。ありがとう。とても嬉しい」
それを送った途端、メッセージの音がした。でも、ヒロシからのメッセージではなかった。ヒロシの幼馴染のアカリからだ。
「ベレン、久しぶり!元気?お願いがあるんだけど」
「久しぶり!何のお願い?」とベレンの返信だった。
「来週ヒロシの誕生日でしょ。入試のせいで、めっちゃ落ち込んでいるので、あたしはパーティーをすることにしたの。ヒロシを応援するためにね」
「あ、わかった。合格のお祝いなの?」
「えっ、知らないの?不合格だった」
嘘だよ。ベレンは目を疑って、スマホの画面をじっと見詰めた。
「いつ結果が出たの?」
「一週間前かな。ごめん、勝手に言っちゃった。もう知っていると思った」
一週間前なのか。ちょうどあの時かな。「人生は公平ではない。それに慣れよ」という言葉はベレンのためだけではなかったかな。
「大丈夫。何のお願いだっけ?」
「誕生日のプレゼントとしてお祝いのビデオを撮ってくれない?ヒロシはきっと嬉しくなると思う」
ベレンは少し考えてから、答えた。
「もっといいアイディアがあるよ」
コーヒーショップに入った女性は挨拶に手を振った。髪が長くて、黒くて、くせっ毛の女性だった。常連客だった。いつも短髪で、鼻が高い男性と一緒に来たけれども、今日は一人だ。ベレンはテーブルに近づいて、注文を伺った。普段はLサイズのカプチーノとチーズケーキだったが、今日は飲み物だけ。あの女は注文を待っている間、切ない笑顔で窓からの景色を眺めた。
「お待たせしました」とベレンはカプチーノをテーブルに置いた。そして、チーズケーキも持ってきた。
「チーズケーキはサービスです。もしよかったら、召し上がってください」
「優しいですね。ありがとうございます」と女の顔は明るくなった。
「名前はベレンさんですね」
はい、とベレンは頷いた。
「私はダニエラと言います」
「よろしくお願いします」
「ベレンさんは大丈夫ですか。失礼ですが、今日はなんか元気じゃなさそうです」
それは私のセリフじゃないかとベレンは思った。
「ちょっと、彼氏とひどい喧嘩をしたのです」
ベレンはあの女について何も知らなかった。友だちではないし、知り合いでもない。ただの常連客だ。今まで名前すら知らなかった。だが、時々まったく知らない人に相談する方が気楽なこともあるだろう。だから、ベレンはヒロシとの関係の悩みをすべてダニエラに話した。
「ああ、そういうことですか」
「真実の愛なら、何でも乗り越えられると思ったのに」
「どんなに真実の愛でも幸せになるわけではありません」とダニエラは思慮深く言った。そして、少し黙ってから、続けた。
「少なくとも私の場合はそうです。遠距離恋愛ではなかったですが、とても愛していた彼氏と別れることにしました。共通の目標がなかったからです。その場合は愛してもしなくても、結局別れるべきです。一緒にいる意味がありませんから。時間の無駄じゃないかなと思います。そして、誰かが必ず傷つくのは確かなんです。そのお付き合いはとにかく将来がありませんから」
ベレンは考え込んだ。時間の無駄なのか。ヒロシとのお付き合いは本当に将来がないのか。喧嘩したあと、一週間ぐらい経った。ヒロシからの連絡はなかった。ベレンも電話とかしなかった。言いたいことがいっぱいあったけど、いつもスマホの画面に彼の名前を見ると、なぜか言葉が消えてしまった。毎日の「おはよう」と「おやすみ」もなくなった。習慣だったのに。あの時の会話が頭の中で何回も繰り返された。どうせスペイン語のことでそんなに怒らなくてもよかった。実際には言語の問題ではなかったから。ただの喧嘩の口実かな。ベレンとヒロシは普段はお互いのことがよく分かっていた。でも、あの最後の言葉。「人生は公平ではない。それに慣れよ」と。ヒロシらしくないかな。あるいは、前に隠されたヒロシの一面かも。残酷な面。それに慣れる気がない。
数時間後、ベレンはうちに帰った。
「ベレン、荷物が届いた」と母の優しい声だった。
「えっ、荷物って」
母の言った通り、ベレンのベッドの上に大きくない段ボールがあった。不思議だな。何も注文しなかったし、誕生日のプレゼントなら早すぎる。近づいて、差出人の名前を探してみた。「日本」という文字を見て、目を疑った。心がドキドキした。ヒロシからの荷物だ。たぶんサプライズをしたかったのかな。喧嘩の前に。
ボール箱の中には、日本のお菓子とベレンが大好きなマンガの新刊があった。マンガを開けると、小さなカードが落ちた。「アルゼンチンにはないものを送ったらいいなと思った。直接渡せなくて、残念だが、会えるときまで待てなかった。12月を楽しみにしている」と書いてあった。そして、カードの右隅に「Te amo」という言葉があった。ベレンは胸を打って、目には涙が出てきた。
ヒロシに書くために、ベレンはスマホを取り出した。
「荷物が届いた。ありがとう。とても嬉しい」
それを送った途端、メッセージの音がした。でも、ヒロシからのメッセージではなかった。ヒロシの幼馴染のアカリからだ。
「ベレン、久しぶり!元気?お願いがあるんだけど」
「久しぶり!何のお願い?」とベレンの返信だった。
「来週ヒロシの誕生日でしょ。入試のせいで、めっちゃ落ち込んでいるので、あたしはパーティーをすることにしたの。ヒロシを応援するためにね」
「あ、わかった。合格のお祝いなの?」
「えっ、知らないの?不合格だった」
嘘だよ。ベレンは目を疑って、スマホの画面をじっと見詰めた。
「いつ結果が出たの?」
「一週間前かな。ごめん、勝手に言っちゃった。もう知っていると思った」
一週間前なのか。ちょうどあの時かな。「人生は公平ではない。それに慣れよ」という言葉はベレンのためだけではなかったかな。
「大丈夫。何のお願いだっけ?」
「誕生日のプレゼントとしてお祝いのビデオを撮ってくれない?ヒロシはきっと嬉しくなると思う」
ベレンは少し考えてから、答えた。
「もっといいアイディアがあるよ」