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『心の旅』続編:愛のタペストリー
10月
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「いらっしゃいませ!」とベレンのさわやかな声がした。
コーヒーショップに入った二人はあいさつに手をふった。つねに来ていたお客さんだった。女は髪が長くて、黒くて、少しくせっけだった。男はたんぱつで、鼻が高い。ベレンはこの二人の名前を知らなかったが、注文は毎回同じだった。女はLサイズのカプチーノとチーズケーキ、男はキャラメルマキアートだ。今日もかわりはなかった。週に2、3回くらい来ているし、話しながらコーヒーを飲んでいた。たしかに恋人同士だった。注文を待っている間、いつもテーブルの上で手をつないだり、さわったりしていた。男はやわらかくほほえみながら、女の顔を見つめていた。だれが見てもおにあいのカップルだった。この二人を見たとき、ベレンは心の中であたたかさをかんじた。そして、すぐヒロシについてなつかしく思った。ヒロシの手はすべすべで、あたたかい。2か月前のことだが、ベレンはその手のかんかくを今でも覚えていた。お客さんのその二人と同じようにヒロシといっしょにいたくて、手をつなぎたくてたまらない。
「おい、ベレン。こっち行って」
ベレンは目をさましたようにふり向いた。バリスタのアルマンドだった。アルマンドのとなりにコーヒーショップのマークがついている黒いエプロンを着ている男がいた。エプロンには名前の代わりに「けんしゅうちゅう」と書いてあった。
「こちらは新入員のバリスタのテオだ」
テオはつめたい目でベレンを見た。彼の顔に気味の悪いわらいが出てきた。
ベレンが働いているコーヒーショップはそんなに広くなかったが、せまいとも言えない。ふつうのシフトの中ではホールスタッフが2人とバリスタが1人。そして、店長だ。でも、店長はじむしつにいて、顔を出さなかった。今日バリスタはアルマンドで、ホールはベレンとソフィアだった。ソフィアは20代の女性だった。きんぱつにした髪を長くのばしているし、顔が少しまるかった。せいかくは明るくて、ユーモアもあり、いっしょに働くのは楽しかった。アルマンドは少し年上で、せが高い男性だった。コーヒーが好きなので、バリスタになった。そして、いつか自分のコーヒーショップを作るというゆめを持っていた。ベレンはぜんいんのスタッフの中でソフィアとアルマンドと一番なかがよかった。仕事以外でもときどきいっしょに時間をすごしていた。でも、このテオ… 友だちになれないみたいだ。
つぎの2週間アルマンドのしどうによって、テオのけんしゅうが行われていた。ベレンが思った通り、なかよくなれない人だった。いつもひにくなくちょうで、いつもふまんそうな顔をしていた。そして、彼のじょうだんがしつこいとベレンは思った。テオはコーヒーを作るのにきょうみないように見えたが、おどろいたことに仕事をうまくすすめていた。そして、ソフィアとアルマンドとだいぶなかよくなったらしい。特にソフィアと。前はひまな時があれば、ベレンといろいろしゃべったり、わらったりしたけど、今はいつもテオのカウンターの前にいた。
「信じられない」とベレンはヒロシと話している時、テオについてふまんを言った。
「そんなに悪い人なの?」
「まあ、仕事なら特に問題ないけど、話す時、へんな話し方、へんなじょうだん、めんどうくさい。そして、私は白い目で見られるような気がする」
「へー、なんでだろう」
「なかなかわからない。それで、私の友だちはこんな気味の悪いやつとなかよくするなんて…信じられない」
「いやなら、そいつと友だちになるひつようなんてないでしょ。ただのどうりょうだから。そして、けんしゅうが終わった後、かならずいっしょに働くわけがないよ」
「うん、その通りだ」
たしかに、テオのけんしゅうが終わったら、ベレンと別の日につとめるようになるかも。なので、すべては元の通りになるだろう。
「ごめん。私は仕事のもんくばかり」
「へいきだよ」
「これからあなたのことについて話そう!」
「オッケー」とヒロシはわらいはじめた。
「さいきん、どう?入試が終わったあと、ホットした?」
「まあまあ。めんせつがうまくできたかどうかわからないので、少し不安かな。そして、4年生だから、卒業論文も書かないといけないし」
「そっか。たいへんだね。けど、入試ってきっとうまくできたと思うよ。かしこいし、いっしょうけんめいがんばっていたから。少しでもリラックスしたらいいじゃないのかな」
「卒業式にリラックスできる」ヒロシはそれをじょうだんっぽく言ったけど、ぜんぜんじょうだんに聞こえなかった。
「勉強でも仕事でもリラックスが大事だね。ちゃんと休まないと、勉強もできなくなるから」
「わかった、わかった」ヒロシはつかれたように手で顔をかくした。
「もしベレンがそばにいたらうれしいな。きっと安心できる」
「そばにいるよ。スマホの中だけど…会いたいとき、ポケットの中から出すだけでよい」
「たしかにね」とさびしいほほえみをうかべて、ヒロシは答えた。
ああいうなぐさめる言葉はだれのためだったのか。
コーヒーショップに入った二人はあいさつに手をふった。つねに来ていたお客さんだった。女は髪が長くて、黒くて、少しくせっけだった。男はたんぱつで、鼻が高い。ベレンはこの二人の名前を知らなかったが、注文は毎回同じだった。女はLサイズのカプチーノとチーズケーキ、男はキャラメルマキアートだ。今日もかわりはなかった。週に2、3回くらい来ているし、話しながらコーヒーを飲んでいた。たしかに恋人同士だった。注文を待っている間、いつもテーブルの上で手をつないだり、さわったりしていた。男はやわらかくほほえみながら、女の顔を見つめていた。だれが見てもおにあいのカップルだった。この二人を見たとき、ベレンは心の中であたたかさをかんじた。そして、すぐヒロシについてなつかしく思った。ヒロシの手はすべすべで、あたたかい。2か月前のことだが、ベレンはその手のかんかくを今でも覚えていた。お客さんのその二人と同じようにヒロシといっしょにいたくて、手をつなぎたくてたまらない。
「おい、ベレン。こっち行って」
ベレンは目をさましたようにふり向いた。バリスタのアルマンドだった。アルマンドのとなりにコーヒーショップのマークがついている黒いエプロンを着ている男がいた。エプロンには名前の代わりに「けんしゅうちゅう」と書いてあった。
「こちらは新入員のバリスタのテオだ」
テオはつめたい目でベレンを見た。彼の顔に気味の悪いわらいが出てきた。
ベレンが働いているコーヒーショップはそんなに広くなかったが、せまいとも言えない。ふつうのシフトの中ではホールスタッフが2人とバリスタが1人。そして、店長だ。でも、店長はじむしつにいて、顔を出さなかった。今日バリスタはアルマンドで、ホールはベレンとソフィアだった。ソフィアは20代の女性だった。きんぱつにした髪を長くのばしているし、顔が少しまるかった。せいかくは明るくて、ユーモアもあり、いっしょに働くのは楽しかった。アルマンドは少し年上で、せが高い男性だった。コーヒーが好きなので、バリスタになった。そして、いつか自分のコーヒーショップを作るというゆめを持っていた。ベレンはぜんいんのスタッフの中でソフィアとアルマンドと一番なかがよかった。仕事以外でもときどきいっしょに時間をすごしていた。でも、このテオ… 友だちになれないみたいだ。
つぎの2週間アルマンドのしどうによって、テオのけんしゅうが行われていた。ベレンが思った通り、なかよくなれない人だった。いつもひにくなくちょうで、いつもふまんそうな顔をしていた。そして、彼のじょうだんがしつこいとベレンは思った。テオはコーヒーを作るのにきょうみないように見えたが、おどろいたことに仕事をうまくすすめていた。そして、ソフィアとアルマンドとだいぶなかよくなったらしい。特にソフィアと。前はひまな時があれば、ベレンといろいろしゃべったり、わらったりしたけど、今はいつもテオのカウンターの前にいた。
「信じられない」とベレンはヒロシと話している時、テオについてふまんを言った。
「そんなに悪い人なの?」
「まあ、仕事なら特に問題ないけど、話す時、へんな話し方、へんなじょうだん、めんどうくさい。そして、私は白い目で見られるような気がする」
「へー、なんでだろう」
「なかなかわからない。それで、私の友だちはこんな気味の悪いやつとなかよくするなんて…信じられない」
「いやなら、そいつと友だちになるひつようなんてないでしょ。ただのどうりょうだから。そして、けんしゅうが終わった後、かならずいっしょに働くわけがないよ」
「うん、その通りだ」
たしかに、テオのけんしゅうが終わったら、ベレンと別の日につとめるようになるかも。なので、すべては元の通りになるだろう。
「ごめん。私は仕事のもんくばかり」
「へいきだよ」
「これからあなたのことについて話そう!」
「オッケー」とヒロシはわらいはじめた。
「さいきん、どう?入試が終わったあと、ホットした?」
「まあまあ。めんせつがうまくできたかどうかわからないので、少し不安かな。そして、4年生だから、卒業論文も書かないといけないし」
「そっか。たいへんだね。けど、入試ってきっとうまくできたと思うよ。かしこいし、いっしょうけんめいがんばっていたから。少しでもリラックスしたらいいじゃないのかな」
「卒業式にリラックスできる」ヒロシはそれをじょうだんっぽく言ったけど、ぜんぜんじょうだんに聞こえなかった。
「勉強でも仕事でもリラックスが大事だね。ちゃんと休まないと、勉強もできなくなるから」
「わかった、わかった」ヒロシはつかれたように手で顔をかくした。
「もしベレンがそばにいたらうれしいな。きっと安心できる」
「そばにいるよ。スマホの中だけど…会いたいとき、ポケットの中から出すだけでよい」
「たしかにね」とさびしいほほえみをうかべて、ヒロシは答えた。
ああいうなぐさめる言葉はだれのためだったのか。
「いらっしゃいませ!」とベレンの爽やかな声がした。
コーヒーショップに入った二人は挨拶に手を振った。常連客だった。女は髪が長くて、黒くて、少しくせっ毛だった。男は短髪で、鼻が高い。ベレンはこの二人の名前を知らなかったが、注文は毎回同じだった。女はLサイズのカプチーノとチーズケーキ、男はキャラメルマキアートだ。今日も変わりはなかった。週に2、3回くらい来ているし、話しながらコーヒーを飲んでいた。確かに恋人同士だった。注文を待っている間、いつもテーブルの上で手を繋いだり、触ったりしていた。男は柔らかく微笑みながら、女の顔を見つめていた。誰が見てもお似合いのカップルだった。この二人を見たとき、ベレンは心の中で暖かさを感じた。そして、すぐヒロシについて懐かしく思った。ヒロシの手はすべすべで、あたたかい。2か月前のことだが、ベレンはその手の感覚を今でも覚えていた。常連客のその二人と同じようにヒロシと一緒にいたくて、手を繋ぎたくてたまらない。
「おい、ベレン。こっち行って」
ベレンは夢から目覚めたように振り向いた。バリスタのアルマンドだった。アルマンドの隣にコーヒーショップのマークがついている黒いエプロンを着ている男がいた。名札には名前の代わりに「研修中」と書いてあった。
「こちらは新入社員のバリスタのテオだ」
テオは嘲るような冷たい目でベレンを見た。彼の顔には薄気味の悪い微笑が浮かんだ。
ベレンが働いているコーヒーショップはそんなに広くなかったが、狭いとも言えない。普通のシフトの中ではホールスタッフが2人とバリスタが1人。そして、店長だ。でも、店長は普段は事務室にいて、顔を出さなかった。今日バリスタはアルマンドで、ホールはベレンとソフィアだった。ソフィアは20代の女性だった。金髪に染めた髪を長く伸ばしているし、顔が少し丸かった。性格は活発で、ユーモアもあり、一緒に働くのは楽しかった。アルマンドは少し年上で、背が高い男性だった。コーヒーが好きなので、バリスタになった。そして、いつか自分のコーヒーショップを作るという夢を持っていた。ベレンは全員のスタッフの中でソフィアとアルマンドと一番仲がよかった。仕事以外でも時々一緒に時間を過ごしていた。でも、このテオ…友だちになれないみたいだ。
次の2週間アルマンドの指導のもとに、テオの研修が行われていた。ベレンが思った通り、仲良くなれない人だった。いつも皮肉そうな言葉づかいで、いつも不満そうな顔をしていた。そして、彼の冗談がしつこいとベレンは感じた。テオはコーヒーを作るのに興味ないような印象を与えたが、ベレンの予想より仕事を上手く進めていた。そして、意外とソフィアとアルマンドと大分仲良くなったらしい。特にソフィアと。前は暇な時があれば、ベレンといろいろ喋ったり、笑ったりした。今は魔法にかかったようにいつもテオのカウンターの前にいた。
「信じられない」とベレンはヒロシと話している時、テオに対する苦情を言った。
「そんなに悪い奴なの?」
「まあ、仕事なら特に問題ないけど、直接話す時、変なふるまい、変な冗談、とにかく面倒くさい。そして、私は白い目で見られるような気がする」
「へー、なんでだろう」
「なかなか理解できない。それで、私の友だちはこんな気味悪い奴と仲良くするなんて…信じられない」
「嫌なら、そいつと友だちになる必要なんてないでしょ。ただの同僚だから。そして、研修が終わった後、毎回必ず一緒に働くわけがないよ」
「うん、その通りだ」
確かに、テオが正社員になったら、ベレンと別の日に勤めるようになるかも。なので、全ては元の通りになるだろう。
「ごめん。私は仕事の文句ばかり」
「平気だよ」
「これからあなたのことについて話そう!」
「オッケー」とヒロシは笑い始めた。
「最近、どう?入試が終わったあと、ホットした?」
「まあまあ。面接がうまくできたかどうかわからないので、少し不安かな。しかも、4年生だから、入試のほかに、卒業論文も書かないといけないし」ヒロシの眉間にシワを寄せた。
「そっか。大変だね。けど、入試ってきっとうまくできたと思うよ。賢いし、一生懸命頑張っていたから。少しでもリラックスしたらいいじゃないのかな」
「卒業式にリラックスできる」ヒロシはそれを冗談っぽく言ったけど、全然冗談に聞こえなかった。
「勉強でも仕事でもリラックスが大事だね。ちゃんと休まないと、勉強もできなくなるから」
「わかった、わかった」ヒロシは疲れたように手で顔を隠した。
「もしベレンがそばにいたら嬉しいな。きっと安心できる」
「そばにいるよ。スマホの中だけど…会いたいとき、ポケットの中から出すだけでよい」
「確かにね」と寂しい微笑を浮かべて、ヒロシは答えた。
ああいう慰める言葉は誰のためだったのか。
コーヒーショップに入った二人は挨拶に手を振った。常連客だった。女は髪が長くて、黒くて、少しくせっ毛だった。男は短髪で、鼻が高い。ベレンはこの二人の名前を知らなかったが、注文は毎回同じだった。女はLサイズのカプチーノとチーズケーキ、男はキャラメルマキアートだ。今日も変わりはなかった。週に2、3回くらい来ているし、話しながらコーヒーを飲んでいた。確かに恋人同士だった。注文を待っている間、いつもテーブルの上で手を繋いだり、触ったりしていた。男は柔らかく微笑みながら、女の顔を見つめていた。誰が見てもお似合いのカップルだった。この二人を見たとき、ベレンは心の中で暖かさを感じた。そして、すぐヒロシについて懐かしく思った。ヒロシの手はすべすべで、あたたかい。2か月前のことだが、ベレンはその手の感覚を今でも覚えていた。常連客のその二人と同じようにヒロシと一緒にいたくて、手を繋ぎたくてたまらない。
「おい、ベレン。こっち行って」
ベレンは夢から目覚めたように振り向いた。バリスタのアルマンドだった。アルマンドの隣にコーヒーショップのマークがついている黒いエプロンを着ている男がいた。名札には名前の代わりに「研修中」と書いてあった。
「こちらは新入社員のバリスタのテオだ」
テオは嘲るような冷たい目でベレンを見た。彼の顔には薄気味の悪い微笑が浮かんだ。
ベレンが働いているコーヒーショップはそんなに広くなかったが、狭いとも言えない。普通のシフトの中ではホールスタッフが2人とバリスタが1人。そして、店長だ。でも、店長は普段は事務室にいて、顔を出さなかった。今日バリスタはアルマンドで、ホールはベレンとソフィアだった。ソフィアは20代の女性だった。金髪に染めた髪を長く伸ばしているし、顔が少し丸かった。性格は活発で、ユーモアもあり、一緒に働くのは楽しかった。アルマンドは少し年上で、背が高い男性だった。コーヒーが好きなので、バリスタになった。そして、いつか自分のコーヒーショップを作るという夢を持っていた。ベレンは全員のスタッフの中でソフィアとアルマンドと一番仲がよかった。仕事以外でも時々一緒に時間を過ごしていた。でも、このテオ…友だちになれないみたいだ。
次の2週間アルマンドの指導のもとに、テオの研修が行われていた。ベレンが思った通り、仲良くなれない人だった。いつも皮肉そうな言葉づかいで、いつも不満そうな顔をしていた。そして、彼の冗談がしつこいとベレンは感じた。テオはコーヒーを作るのに興味ないような印象を与えたが、ベレンの予想より仕事を上手く進めていた。そして、意外とソフィアとアルマンドと大分仲良くなったらしい。特にソフィアと。前は暇な時があれば、ベレンといろいろ喋ったり、笑ったりした。今は魔法にかかったようにいつもテオのカウンターの前にいた。
「信じられない」とベレンはヒロシと話している時、テオに対する苦情を言った。
「そんなに悪い奴なの?」
「まあ、仕事なら特に問題ないけど、直接話す時、変なふるまい、変な冗談、とにかく面倒くさい。そして、私は白い目で見られるような気がする」
「へー、なんでだろう」
「なかなか理解できない。それで、私の友だちはこんな気味悪い奴と仲良くするなんて…信じられない」
「嫌なら、そいつと友だちになる必要なんてないでしょ。ただの同僚だから。そして、研修が終わった後、毎回必ず一緒に働くわけがないよ」
「うん、その通りだ」
確かに、テオが正社員になったら、ベレンと別の日に勤めるようになるかも。なので、全ては元の通りになるだろう。
「ごめん。私は仕事の文句ばかり」
「平気だよ」
「これからあなたのことについて話そう!」
「オッケー」とヒロシは笑い始めた。
「最近、どう?入試が終わったあと、ホットした?」
「まあまあ。面接がうまくできたかどうかわからないので、少し不安かな。しかも、4年生だから、入試のほかに、卒業論文も書かないといけないし」ヒロシの眉間にシワを寄せた。
「そっか。大変だね。けど、入試ってきっとうまくできたと思うよ。賢いし、一生懸命頑張っていたから。少しでもリラックスしたらいいじゃないのかな」
「卒業式にリラックスできる」ヒロシはそれを冗談っぽく言ったけど、全然冗談に聞こえなかった。
「勉強でも仕事でもリラックスが大事だね。ちゃんと休まないと、勉強もできなくなるから」
「わかった、わかった」ヒロシは疲れたように手で顔を隠した。
「もしベレンがそばにいたら嬉しいな。きっと安心できる」
「そばにいるよ。スマホの中だけど…会いたいとき、ポケットの中から出すだけでよい」
「確かにね」と寂しい微笑を浮かべて、ヒロシは答えた。
ああいう慰める言葉は誰のためだったのか。