Coming soon!

猫ねこもうすぐバレンタインデーだ。ベレンが日本に来てから半年が過すぎようとしている。この半年間、毎週ヒロシと一緒いっしょに勉強することで、ベレンの日本語はじょじょにうまくなっていった。そして、ヒロシへの気持ちも変かわってきた。

「最近さいきん、ヒロシとはどうだった？」
　毎週の姉との電話だ。
　「なんで急にそんなことを…まあ、毎週一緒いっしょに勉強しているよ」
　姉からの急な質問でドキッとした。ベレンはそれをかくそうとした。
　「もうすぐバレンタインデーじゃない？ヒロシに何かプレゼントをあげたら？」
姉はくすくすと笑わらった。この半年で、電話の中でヒロシの話がますます多くなっていた。姉はベレンの気持ちにとっくに知っていた。
　「なんで！私たち、ただの友達ともだちだし！」
　アルゼンチンでは、バレンタインデーにプレゼントを贈おくり合あうのは恋人こいびとや夫婦ふうふだけなのだ。ヒロシとはそのような関係かんけいでもないのに。
　「じゃあ、バレンタインデーにヒロシに気持ちを伝えちゃえば？そうすれば、プレゼントを贈おくり合う関係になることができるでしょう。」

　電話では認みとめなかったが、姉がじょうだん半分で言った言葉ことばはずっとベレンは考えていた。
　私、ヒロシが好すきなのかな？
　その名前を思い出すと、この半年の間のきおくが次々つぎつぎと思い出された。
　初はじめて会ったとき、親切に道をあん内ないをしてくれたすがた。一緒いっしょに日本料理に行ったとき、私の不安をなくしてくれた笑顔えがお。ココが亡なくなったとき、優やさしくなぐさめてくれた言葉ことば。そして、一緒いっしょに勉強している時、いつもていねいに教えてくれた声こえ…思い出すと、ヒロシは今の自分にとっていなくてはならない存在そんざいになっていた。
　私、ヒロシのことが本当ほんとうに好すき。ベレンの胸むねはドキドキと高鳴なっている。

　バレンタインデーの日。
　ベレンは自分が持っている一番いちばん美うつくしいドレスを着て、自分で作ったエンパナーダを持って、きんちょうと期待きたいを感かんじながらヒロシに会いに行った。

　日本では、バレンタインデーに男性だんせいにチョコレートを贈おくるのが一般的いっぱんてきだ。しかし、何度も考えて、やはり特別なプレゼントを用意したいと思い、アルゼンチンの家庭かてい料理であるエンパナーダにした。初はじめて会った時、写真を見せたときも美味猫おいしそうだと言ってくれたし、よくあるチョコレートよりも、きっとエンパナーダのほうが喜よろこばれるだろう。

　自分が用意したプレゼントを見たら、ヒロシはどんな反はんのうをするだろう。
　ヒロシに会いに行く途と中で、ベレンは思わず考え始めてしまった。
　ヒロシは喜よろこんでくれるかな？私の気持ちをわかってもらえるかな？
　私からもっと直接ちょくせつ気持ちを伝つたえたほうがいいかな？
　ヒロシは私のことを好すきになってくれるかな？
　もし好すきと言って、断ことわられたらどうしよう…？
　考えが止まらない。
　ヒロシの気持ちを知りたい。
　しかし、その気持ちが自分が望のぞむものでなければ…心配しんぱいで押おしつぶされそうだ。

　もういい！余よ計なことを考えてもどうしようもない。
　ヒロシの気持ちはどうだろうか、会わないとわからないものだから。
　そう、会いに行こう。ていねいに包つつまれているエンパナーダを強くにぎって、ベレンは前に進すすみ続つづけた。

　「ヒロ…」
　ヒロシのすがたを見つけ、すぐに彼かれの名前を呼よぼうとしたが、ヒロシのそばにもう一人がいた。
　アカリだ。
　ベレンの体は動かなくなった。
　今日はバレンタインデーじゃないか？なぜあの二人は一緒いっしょにいるのか？
　それに、アカリもめずらしくけしょうをして美うつくしいドレスを着ている。
　ベレンの心はだんだん沈しずんでいった。

　遠とおくにいるヒロシとアカリは笑顔えがおで話している。とても楽しそうに見えた。
そうね、あの二人は一緒いっしょにいるといつも楽しいのだ。はじめて二人と会った日からすでにそのような関係かんけいだったのだ。いつも一緒いっしょに遊あそび、いつも楽しそうに見える。

　「私って…本当ほんとうにバカみたい…」
　遠とおくからヒロシとアカリの笑わらい声ごえが聞こえ、この間、ずっと一人で勝手かってに期き待していた自分が実じつにおろかだとベレンは感かんじた。

　「ポタッ」
　ベレンの涙なみだが手ににぎっていたエンパナーダに落おちた。

　もうすぐバレンタインデーだ。ベレンが日本に来てから半年が経とうとしている。この半年間、毎週ヒロシと一緒に勉強することで、ベレンの日本語は徐々に上達していった。そして、ヒロシに対する気持ちも変わりつつあった。

　「最近、ヒロシとはどうだった？」
　毎週の姉との電話だ。
　「なんで急にそんなことを…まあ、毎週一緒に勉強しているんだけど」
　姉から突然の質問でドキッとした。ベレンはぶつぶつとごまかそうとした。
　「もうすぐバレンタインデーじゃない？ヒロシに何かプレゼントをあげたら？」
姉はくすくすと笑った。この半年で、電話の中でヒロシの話がますます頻繁になっていた。姉はベレンの気持ちにとっくに気づいていた。
　「なんで！私たち、ただの友達だし！」
　アルゼンチンでは、バレンタインデーにプレゼントを贈り合うのは恋人や夫婦だけなのだ。ヒロシとはそのような関係でもないのに。
　「じゃあ、バレンタインデーにヒロシに気持ちを伝えちゃえば？そうすれば、プレゼントを贈り合う関係になれるでしょう。」

　電話では認めなかったが、姉が冗談半分で言った言葉はずっとベレンの心に響いていた。
　私、ヒロシが好きなのかしら？
　その名前を思い出すと、この半年の間の記憶が次々と蘇ってきた。
　初めて会ったとき、親切に道案内をしてくれた姿。一緒に日本料理に行ったとき、不安を一掃してくれた笑顔。ココが亡くなったとき、優しく慰めてくれた言葉。そして、一緒に勉強している時、いつも丁寧に教えてくれた声…気が付けば、ヒロシはもはや自分にとって欠かせない存在になっていた。
　私、ヒロシのことが本当に好きかも。ベレンの胸はドキドキと高鳴っている。

　バレンタインデー当日。
　ベレンは自分が持っている一番美しいドレスに着替え、手作りのエンパナーダを持って、緊張と期待に胸を膨らませながらヒロシに会いに行った。

　日本では、バレンタインデーに男性にチョコレートを贈るのが一般的だが、何度も考えた結果、やはり特別なプレゼントを用意したいと思い、アルゼンチンの家庭料理であるエンパナーダにした。初めて会った時、写真を見せたときも美味しそうだと言ってくれたし、定番のチョコレートよりも、きっとエンパナーダのほうが喜ばれるだろう。

　自分が用意したプレゼントを見たら、ヒロシはどんな反応をするだろう。
　ヒロシに会いに行く途中で、ベレンはつい考え始めてしまった。
　ヒロシは喜んでくれるかな？私の気持ちをわかってもらえるかな？
　私からもっとストレートに気持ちを伝えたほうがいいかな？
　ヒロシは私のことを好きになってくれるかな？
　もし告白して、振られたらどうしよう…？
　考えが止まらない。
　ヒロシの反応を知りたい。
　しかし、その反応が自分が望むものでなければ…心配でたまらない。

　もういい！余計なことを考えてもしょうがない。
　ヒロシの気持ちはどうだろうか、会ってみないとわからないものだから。
　そう、会いに行こう。丁寧に包まれているエンパナーダを握り締め、ベレンは前に進み続けた。

　「ヒロ…」
　ヒロシの姿を見つけ、すぐに彼の名前を呼ぼうとしたが、ヒロシのそばにもう一人がいた。
　アカリだ。
　ベレンの体は固まった。
　今日はバレンタインデーじゃないか？なぜあの二人は一緒にいるのか？
　しかも、アカリもめずらしくメイクをして美しいドレスを着ている。
　ベレンの心はだんだん沈んでいった。

　遠くにいるヒロシとアカリは笑顔で話しており、とても楽しそうに見えた。
　そうね、あの二人は一緒にいるといつも楽しいのだ。初日からすでにそのような関係だったのだ。いつも一緒に遊び、いつも楽しそうに見える。

　「私って…本当にバカみたい…」
　遠くからヒロシとアカリの笑い声が聞こえ、この間、ずっと勝手に期待していた自分が実に愚かしいとベレンは感じた。

　「ポタッ」
　ベレンの涙が手に握っていたエンパナーダに落ちた。