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妖怪の囁き・下
契約
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外はまっくらだった。ベレンはあきやになった古い日本の家の前に立っていた。中に入ったら、どうなるかベレンには分からないけど、入るしかない。
「心のじゅんびはできた?」ととなりに立っている高橋はささやいた。
「うん」とベレンは小さなこえで言って、中に入った。高橋は動かなくて、外に立ったままだ。
またほこりと木のにおいがした。ベレンはライトでげんかんをてらして、奥にすすんだ。でも、ライトがなくても、行かないといけない部屋はすぐわかった。この部屋の襖から、ろうそくの光があったから。それは一つ目小僧と出会った部屋だった。ゆっくり奥を開けてみると、床の間の前にすわっているすがたが見えた。黒くて、赤の花のもようの着物を着ていた女の人だ。長くのびている黒い髪で、頭にツノが二本あって、顔が雪のようにまっしろだ。うつくしい顔にはとりはだが立つくらいおそろしいわらいが出た。ベレンを待っていたようだ。手をのばして、ジェスチャーですわるようにしめした。ベレンは体が石のようになっていたけれど、ゆっくりすわってみて、
「おじゃまします」と小さなこえで言った。
「外国人が来たのか。めずらしいわ」と鬼女の低いこえの答えだった。
ベレンはだまって、動かないまま、鬼をじっと見つめていた。
「なんで来たのか」
「けいやくをむすびたいのです」
「そうなの?おもしろいな」と鬼女は歯を見せた。そして、少し考えてから、つづけた。
「いいよ。たましいの代わりに何がほしい?」
「なくなった人のたましいを呼ぶことができるようになりたいです」とベレンはれいせいに答えた。
「へえ、死んだ人に会いたいのか。わかった」と鬼女が言って、小さなナイフとまきものを出した。まきものを広げて、ナイフをベレンにわたした。
ベレンはナイフをとって、手をかるく切ってから、まきものの白い紙に赤い血をおとした。むねの中でへんなあたたかさが広がっているとかんじた時、けいやくがむすばれたと分かった。
それから、ベレンは目をとじて、一つ目小僧が見せてくれたかこのきおくで見た佐那の恋人を思い出して、彼の顔に集中して、呼ぼうとした。すると、まどが開いていない部屋にきゅうに強い風がふいて、ろうそくの光が強くゆれはじめた。それから、ベレンと鬼女がいる部屋にもう一人があらわれた。鬼女はすごくおどろいて、きゅうに立ち上がった。ベレンも立ち上がって、かべのほうに後ろに下がった。部屋にあらわれたのはころされた佐那の恋人だった。彼は鬼女を見つめながら、
「佐那…」とささやいた。
「…三郎」と鬼女は低いこえで答えた。
「まもれなくて、ごめん」と三郎は言いながら、前に手をのばして、ゆっくり鬼女に近づきはじめた。鬼女はおどろいたまま、言葉が出なくなって、動かなかった。ただ三郎をじっと見つめていた。
「ずっと会いたかったよ」と三郎は鬼女と目をあわせて、彼女の手をとった。
「あの人は…あの人はあなたをころしたんだよ。みんなそれを見て、何もしなかったから、みんなにかならずふくしゅうすると決めて…」
「気持ちがわかるけど、にくしみからは何も生まれないから」
「でも…でも…」
「もうふくしゅうするひつようなんてないじゃないか。これからずっとそばにいるから」
三郎は鬼女を強くだきしめて、やさしくキスをした。とたん、鬼女のすがたがかわって、きおくに見た元の佐那になった。三郎は彼女をだきしめながら、
「帰ろう」とささやいた。それから、二人のすがたがゆっくりきえていった。
「心のじゅんびはできた?」ととなりに立っている高橋はささやいた。
「うん」とベレンは小さなこえで言って、中に入った。高橋は動かなくて、外に立ったままだ。
またほこりと木のにおいがした。ベレンはライトでげんかんをてらして、奥にすすんだ。でも、ライトがなくても、行かないといけない部屋はすぐわかった。この部屋の襖から、ろうそくの光があったから。それは一つ目小僧と出会った部屋だった。ゆっくり奥を開けてみると、床の間の前にすわっているすがたが見えた。黒くて、赤の花のもようの着物を着ていた女の人だ。長くのびている黒い髪で、頭にツノが二本あって、顔が雪のようにまっしろだ。うつくしい顔にはとりはだが立つくらいおそろしいわらいが出た。ベレンを待っていたようだ。手をのばして、ジェスチャーですわるようにしめした。ベレンは体が石のようになっていたけれど、ゆっくりすわってみて、
「おじゃまします」と小さなこえで言った。
「外国人が来たのか。めずらしいわ」と鬼女の低いこえの答えだった。
ベレンはだまって、動かないまま、鬼をじっと見つめていた。
「なんで来たのか」
「けいやくをむすびたいのです」
「そうなの?おもしろいな」と鬼女は歯を見せた。そして、少し考えてから、つづけた。
「いいよ。たましいの代わりに何がほしい?」
「なくなった人のたましいを呼ぶことができるようになりたいです」とベレンはれいせいに答えた。
「へえ、死んだ人に会いたいのか。わかった」と鬼女が言って、小さなナイフとまきものを出した。まきものを広げて、ナイフをベレンにわたした。
ベレンはナイフをとって、手をかるく切ってから、まきものの白い紙に赤い血をおとした。むねの中でへんなあたたかさが広がっているとかんじた時、けいやくがむすばれたと分かった。
それから、ベレンは目をとじて、一つ目小僧が見せてくれたかこのきおくで見た佐那の恋人を思い出して、彼の顔に集中して、呼ぼうとした。すると、まどが開いていない部屋にきゅうに強い風がふいて、ろうそくの光が強くゆれはじめた。それから、ベレンと鬼女がいる部屋にもう一人があらわれた。鬼女はすごくおどろいて、きゅうに立ち上がった。ベレンも立ち上がって、かべのほうに後ろに下がった。部屋にあらわれたのはころされた佐那の恋人だった。彼は鬼女を見つめながら、
「佐那…」とささやいた。
「…三郎」と鬼女は低いこえで答えた。
「まもれなくて、ごめん」と三郎は言いながら、前に手をのばして、ゆっくり鬼女に近づきはじめた。鬼女はおどろいたまま、言葉が出なくなって、動かなかった。ただ三郎をじっと見つめていた。
「ずっと会いたかったよ」と三郎は鬼女と目をあわせて、彼女の手をとった。
「あの人は…あの人はあなたをころしたんだよ。みんなそれを見て、何もしなかったから、みんなにかならずふくしゅうすると決めて…」
「気持ちがわかるけど、にくしみからは何も生まれないから」
「でも…でも…」
「もうふくしゅうするひつようなんてないじゃないか。これからずっとそばにいるから」
三郎は鬼女を強くだきしめて、やさしくキスをした。とたん、鬼女のすがたがかわって、きおくに見た元の佐那になった。三郎は彼女をだきしめながら、
「帰ろう」とささやいた。それから、二人のすがたがゆっくりきえていった。
外は真っ暗だった。ベレンは空き家になった古い日本家屋の前に立っていた。中に入ったら、どうなるかベレンには分からないけど、入るしかない。
「心の準備はできた?」と隣に立っている高橋は囁いた。
「うん」とベレンは呟いて、中に入った。高橋は動かなくて、外に立ったままだ。
また埃と木の匂いがした。ベレンはライトで玄関を照らして、奥に進んだ。でも、ライトがなくても、行かないといけない部屋はすぐわかった。この部屋の襖から、ろうそくの揺らいでいる光が差し込んでいたから。それは一つ目の小僧と出会った部屋だった。ゆっくり襖を開けてみると、床の間の前に座っている姿が目についた。黒くて、赤の花の模様の着物を着ていた女の人だ。長く伸びている黒い髪で、頭にツノが二本生えていて、顔が雪のように真っ白だ。美しい顔には鳥肌が立つくらい恐ろしい微笑が浮かんだ。ベレンを待っていたようだ。手を伸ばして、ジェスチャーで座ってと指摘した。ベレンは体が石のようになっていたけれど、ゆっくり座ってみて、
「お邪魔します」と小さな声で言った。
「異国人が来たのか。珍しいわ」と鬼女の低い声の答えだった。
ベレンは黙って、動かないまま、鬼をじっと見つめていた。
「なんで来たのか」
「契約を結びたいのです」
「そうなの?おもしろいな」と鬼女は歯を見せた。そして、少し考えてから、続けた。
「いいよ。魂の代わりに何がほしい?」
「亡くなった方の魂を呼び寄せることができるようになりたいです」とベレンは冷静に答えた。
「へえ、死んだ人に会いたいのか。分かった」と鬼女が言って、小さなナイフと巻物を出した。巻物を広げて、ナイフをベレンに渡した。
ベレンはナイフを取って、手を軽く切ってから、巻物の白い紙に赤い血を滴らせた。胸の中で変な暖かさが広がっていると感じた時、契約が結ばれたと分かった。
それから、ベレンは目をつぶって、一つ目小僧が見せてくれた過去の記憶で見た佐那の恋人を思い出して、彼の顔に集中して、呼び寄せようとした。すると、窓が開いていない部屋に急に強い風が吹いて、ろうそくの光がさっきよりもっと強く揺らぎ始めた。それから、ベレンと鬼女がいる部屋にもう一人が現れた。鬼女は衝撃を受けたような表情をしていて、急に立ち上がった。ベレンも立ち上がって、襖の方に後退りした。部屋に現れたのは殺された佐那の恋人だった。彼は鬼女を見つめながら、
「佐那…」と呟いた。
「…三郎」と鬼女はかすれた声で答えた。
「守れなくて、ごめん」と三郎は言いながら、前に手を伸ばして、ゆっくり鬼女に近づき始めた。鬼女は驚いたまま、言葉が出なくなって、動かなかった。ただ三郎をじっと見つめていた。
「ずっと会いたかったよ」と三郎は鬼女と目を合わせて、彼女の手を握った。
「あの人は…あの人はあなたを殺したんだよ。みんなそれを見て、何もしなかったから、みんなに絶対復讐すると誓って…」
「気持ちがわかるけど、憎しみからは何も生まれないから」
「でも…でも…」
「もう復讐する必要なんてないじゃないか。これからずっとそばにいるから」
三郎は鬼女をギュッと抱きしめて、優しく口づけをした。途端、鬼女の姿が変わって、記憶に見た元の佐那になった。三郎は彼女を抱きしめながら、
「帰ろう」と囁いた。それから、二人の姿がゆっくり消えていった。
「心の準備はできた?」と隣に立っている高橋は囁いた。
「うん」とベレンは呟いて、中に入った。高橋は動かなくて、外に立ったままだ。
また埃と木の匂いがした。ベレンはライトで玄関を照らして、奥に進んだ。でも、ライトがなくても、行かないといけない部屋はすぐわかった。この部屋の襖から、ろうそくの揺らいでいる光が差し込んでいたから。それは一つ目の小僧と出会った部屋だった。ゆっくり襖を開けてみると、床の間の前に座っている姿が目についた。黒くて、赤の花の模様の着物を着ていた女の人だ。長く伸びている黒い髪で、頭にツノが二本生えていて、顔が雪のように真っ白だ。美しい顔には鳥肌が立つくらい恐ろしい微笑が浮かんだ。ベレンを待っていたようだ。手を伸ばして、ジェスチャーで座ってと指摘した。ベレンは体が石のようになっていたけれど、ゆっくり座ってみて、
「お邪魔します」と小さな声で言った。
「異国人が来たのか。珍しいわ」と鬼女の低い声の答えだった。
ベレンは黙って、動かないまま、鬼をじっと見つめていた。
「なんで来たのか」
「契約を結びたいのです」
「そうなの?おもしろいな」と鬼女は歯を見せた。そして、少し考えてから、続けた。
「いいよ。魂の代わりに何がほしい?」
「亡くなった方の魂を呼び寄せることができるようになりたいです」とベレンは冷静に答えた。
「へえ、死んだ人に会いたいのか。分かった」と鬼女が言って、小さなナイフと巻物を出した。巻物を広げて、ナイフをベレンに渡した。
ベレンはナイフを取って、手を軽く切ってから、巻物の白い紙に赤い血を滴らせた。胸の中で変な暖かさが広がっていると感じた時、契約が結ばれたと分かった。
それから、ベレンは目をつぶって、一つ目小僧が見せてくれた過去の記憶で見た佐那の恋人を思い出して、彼の顔に集中して、呼び寄せようとした。すると、窓が開いていない部屋に急に強い風が吹いて、ろうそくの光がさっきよりもっと強く揺らぎ始めた。それから、ベレンと鬼女がいる部屋にもう一人が現れた。鬼女は衝撃を受けたような表情をしていて、急に立ち上がった。ベレンも立ち上がって、襖の方に後退りした。部屋に現れたのは殺された佐那の恋人だった。彼は鬼女を見つめながら、
「佐那…」と呟いた。
「…三郎」と鬼女はかすれた声で答えた。
「守れなくて、ごめん」と三郎は言いながら、前に手を伸ばして、ゆっくり鬼女に近づき始めた。鬼女は驚いたまま、言葉が出なくなって、動かなかった。ただ三郎をじっと見つめていた。
「ずっと会いたかったよ」と三郎は鬼女と目を合わせて、彼女の手を握った。
「あの人は…あの人はあなたを殺したんだよ。みんなそれを見て、何もしなかったから、みんなに絶対復讐すると誓って…」
「気持ちがわかるけど、憎しみからは何も生まれないから」
「でも…でも…」
「もう復讐する必要なんてないじゃないか。これからずっとそばにいるから」
三郎は鬼女をギュッと抱きしめて、優しく口づけをした。途端、鬼女の姿が変わって、記憶に見た元の佐那になった。三郎は彼女を抱きしめながら、
「帰ろう」と囁いた。それから、二人の姿がゆっくり消えていった。