閉じる
閉じる
📌
閉じる
📌
妖怪の囁き・下
記憶の中
現在の再生速度: 1.0倍
Coming soon!
「むすめと結婚させてください」
部屋には佐那と佐那の両親いがいに、もう一人の男の人がいた。見た目はきぞくのようだが、顔には怖いひょうじょうが出ていた。佐那のお父さんはおじぎをしながら、
「申し訳ございません。答えは前と同じです。むすめはもうほかの人と婚約しています」と言った。
「私はその人よりみぶんが高いでしょう」と男の人はじまんそうに答えた。
「そうですが、それは何もかわりません」
男の人は冷たいひょうじょうで、
「ちがいます。ぜったいかわりますよ」と言って、急いで部屋を出た。
佐那はためいきをついて、手で顔をかくした。
「どうしよう、お父さん。この人が来るのは、もう3回目だよ」
「だいじょうぶだよ。安心して。きっとあきらめるから」
佐那の婚約者はきぞくではなくて、ふつうの人だったが、やさしく、まじめな人だ。それにいっしょうけんめいに働いていた。佐那はあいてをとても愛していて、ほかの人と結婚するなんてそうぞうできなかった。特にあの気味の悪いお金持ちの男の人はぜったいむりだ。でも、その人は何回もふられても、あきらめるつもりはなかったみたいだ。そして、佐那にとって、そんなつめたい顔を見るのがほんとうに怖かった。
つぎの日の朝、佐那の婚約者が来た時、佐那はしつこい男の人について話したが、彼は佐那をなぐさめて、
「結婚式はもうそろそろだから、しんぱいしないで。何かあっても、私はかならず君をまもるよ」と言った。それを聞いた佐那の顔には明るいえがおが広がった。
でも、すうじつが過ぎて、結婚式のじゅんびがだいたいできた時、きぞくのような男の人がまた来た。でも、今回は一人ではなく、ぐんじんたちといっしょだ。以前と同じように、佐那のお父さんの顔をつめたく見ながら、
「むすめと結婚させてください」と言った。
お父さんも、前と同じで、
「申し訳ございません。むすめは婚約していますから」と答えた。
佐那とお母さんは不安そうに男の人とそのぐんじんを見つめていて、お父さんの後ろに立っていた。
「それはもう問題ではありません」と男の人はお父さんにふくろをなげて、言った。ふくろの中には何かまるいものが入っていて、ぬののあっちこっち何かのえきたいの黒いシミがあった。お父さんはふくろのなかみを見て、おどろきでこえが出なかった。
「これ、なんだ?」と佐那のこえだった。
お父さんはだまっていて、男の人の顔にはつめたいわらいが出た。
「中にあるのは何?」と佐那が急いで、お父さんの手からふくろを取ろうとした。やっとなかみを見て、佐那の顔にきょうふかんが出て、むねをさくようなさけびが上がった。佐那はおこって、男の人をこうげきしようとしたが、ぐんじんたちがかたなをぬいて……
「もういいよ」とベレンは言って、一つ目小僧の手をはなした。
子どもはかなしそうにほほえんで、
「もうわかったでしょ。どうして佐那さんは鬼女になったのか」と言った。
ベレンはうなずいた。
うちに帰った時、高橋はまだじぶんの部屋にいるみたいだったから、ベレンもじぶんの部屋に行って、ねた。
つぎの朝、ベレンは起きて、高橋と話そうと思って、さがしに行った。高橋はお茶を飲みながら、リビングルームで待っていた。
「おはよう」
立ち上がって、ベレンのためにお茶をカップに入れた。ベレンはすわって、
「体のちょうしはだいじょうぶですか」とたずねた。
「うん、もうだいじょうぶだよ。ありがとう。きのう、さんぽに行ったの?」
ベレンはかぶりをふって、
「佐那さんの家へ行ったの」と答えた。高橋はその名前を聞いて、かるくふるえた。
「そこまでしらべたのか。さすがベレンだな。どうしたか、教えてくれる?」
ベレンはネギのおじいさんとの出会いから佐那のかこについてのこわい思い出までのことを高橋に話してあげた。
「いっしょに行ってあげられなくて、ごめんね。こわくなかった?」
「かこのきおくを見るのがつらかったです」
高橋はだまって、うなずいた。
「あのきぞくのような男の人は、佐那さんをころしたんですか」
「その通りだ。死んだ時、鬼になった佐那は村のすべての人をたたった」
「どうしてこの男の人だけではないですか」
「村の人はね。佐那の恋人がころされた時、たすけることができたのに、だれも何もしなかったから」
ベレンはふかく考えて、またふくろの中を見た時の佐那の顔が頭の中にうかんだ。
「ちなみに、なんでわかったの?佐那さんのこと」と高橋はベレンを見て、言った。
「あのゆめの時、森の中で、のろわれた人のたましいを見たでしょ」
高橋はうなずいた。
「旅館からの奥さんにも会いましたね。佐那さんをころしたいと言ったじゃないですか」
「たしかに言ったね」
「旅館の奥さんは死ぬ前に、森へ鬼女をころしに行ったと高橋さんが言っていました。だから、佐那は鬼女の名前だと思いました」
「あ、なるほど」
ベレンは少しだまってから、テーマをかえた。
「あのおじいさんは生まれてからずっとこの村に住んでいると言いました。高橋さんもそう言ったでしょう。それはのろいのせいですか」
高橋はいつも通り猫のようにほほえんで、
「その通りだ。のろいのせいで、村からはなれると、さいしょはげんかくが見えるようになって、そのあと病気になっちゃう。それから、村にもどらないと、かならず死ぬ」と答えた。
「のろいがあるのに、鬼女とけいやくをむすぶ人がいっぱいいるのですね」とベレンは言った。
「ざんねんなことにね。けいやくをむすんだ人は死んでから、たましいがえいえんにあの森でくるしんでいるのに」
「高橋さんもけいやくをむすびましたか」
「うん」と高橋はかなしそうに答えた。そして、少しだまってから、つづけた。
「この村の人は子どものころから鬼女とのろいについての注意をうけているけど、大人になって、だんだん信じなくなる。鬼女と森についてのこわいゆめしかへんなことが起こらないからね。私もそうだった。18さいになった時、だいとしに引っこそうと思っていた。だから、のろいのそんざいをむしして、東京に来た。さいしょの2週間は人生でいちばんしあわせな時だったかもしれない。ゆめがかなったからね。でも、あとはじごくのような日々がはじまった」
「げんかくやもうそうが見えましたか」
「そうだよ。こわいげんかくが見えるようになった。そして、いつもだれかのけはいをかんじた。ある日、ゆめかげんじつか分からなくなり、とてもこわくなって、村にかえることにした」
「きついですね。その時からのろいはほんとうにあると信じたのですか?」
「うん。そして、かならずのろいをときたいと思った。だから、けいやくをむすぶことにした」
ベレンは分からない顔をした。
「それはね。りかいできないかもしれないけれど、私は18さいの時、鬼女をたおす自信があったんだ。だから、まんげつの夜に、あの家に行って、鬼女とはじめて出会った。たましいの代わりに、何がほしいかと聞かれたから、ちょうのうりょくがほしいと答えた」
「ちょうのうりょくっていろいろあるんじゃないですか」
「そうだけど。なにかちょうのうりょくがあれば、かならずのろいがとけると思った。私は、おもに猫になったり、人のゆめとかにはいれたり、ふつうの人が見られないものを見たりするのうりょくを手に入れて」
「そういえば、高橋さんは化け猫じゃないですか」
「うん、化け猫じゃないよ。化け猫ってふつうの猫が化け猫になってしまうかのうせいがあるけど、人は化け猫にならない。私は猫ににているってよく言われているので、猫になることにしただけ。けど、そののうりょくのせいで、よくつかれて、体のちょうしが悪くなる」
ベレンはきのうの高橋の悪いぐあいを思い出して、かるくうなずいた。
「話をもどすと、ちょうのうりょくがあっても、じぶんでは鬼女をたおせないとわかった」と高橋は言った。
ベレンはためいきをつき、少し考えてから、言った。
「じゃあ、じぶんでのろいをとけなくて、ほかの人のガイドになって、のろいをとくことができる人をさがしはじめたということですか」
「そうだ」
「私いがい、だれかがいましたか」
「いたけど、けっきょく、みんなにげたり、ことわったりした。でも、ベレンはちがう。はじめて会った時、すぐわかったよ。私はさがしていた人はベレンだよ」
「私には別に特別な力なんてないでしょう」とベレンは頭をふって、言った。
「なくても、にげなかったよ。あきらめずに前にすすむだろ。強い人からだね」
「私はただてつだいたいだけです。のろいがとけるかどうか分からないけど、考えがあります」
高橋はそれを聞いて、まんぞくそうにわらった。
部屋には佐那と佐那の両親いがいに、もう一人の男の人がいた。見た目はきぞくのようだが、顔には怖いひょうじょうが出ていた。佐那のお父さんはおじぎをしながら、
「申し訳ございません。答えは前と同じです。むすめはもうほかの人と婚約しています」と言った。
「私はその人よりみぶんが高いでしょう」と男の人はじまんそうに答えた。
「そうですが、それは何もかわりません」
男の人は冷たいひょうじょうで、
「ちがいます。ぜったいかわりますよ」と言って、急いで部屋を出た。
佐那はためいきをついて、手で顔をかくした。
「どうしよう、お父さん。この人が来るのは、もう3回目だよ」
「だいじょうぶだよ。安心して。きっとあきらめるから」
佐那の婚約者はきぞくではなくて、ふつうの人だったが、やさしく、まじめな人だ。それにいっしょうけんめいに働いていた。佐那はあいてをとても愛していて、ほかの人と結婚するなんてそうぞうできなかった。特にあの気味の悪いお金持ちの男の人はぜったいむりだ。でも、その人は何回もふられても、あきらめるつもりはなかったみたいだ。そして、佐那にとって、そんなつめたい顔を見るのがほんとうに怖かった。
つぎの日の朝、佐那の婚約者が来た時、佐那はしつこい男の人について話したが、彼は佐那をなぐさめて、
「結婚式はもうそろそろだから、しんぱいしないで。何かあっても、私はかならず君をまもるよ」と言った。それを聞いた佐那の顔には明るいえがおが広がった。
でも、すうじつが過ぎて、結婚式のじゅんびがだいたいできた時、きぞくのような男の人がまた来た。でも、今回は一人ではなく、ぐんじんたちといっしょだ。以前と同じように、佐那のお父さんの顔をつめたく見ながら、
「むすめと結婚させてください」と言った。
お父さんも、前と同じで、
「申し訳ございません。むすめは婚約していますから」と答えた。
佐那とお母さんは不安そうに男の人とそのぐんじんを見つめていて、お父さんの後ろに立っていた。
「それはもう問題ではありません」と男の人はお父さんにふくろをなげて、言った。ふくろの中には何かまるいものが入っていて、ぬののあっちこっち何かのえきたいの黒いシミがあった。お父さんはふくろのなかみを見て、おどろきでこえが出なかった。
「これ、なんだ?」と佐那のこえだった。
お父さんはだまっていて、男の人の顔にはつめたいわらいが出た。
「中にあるのは何?」と佐那が急いで、お父さんの手からふくろを取ろうとした。やっとなかみを見て、佐那の顔にきょうふかんが出て、むねをさくようなさけびが上がった。佐那はおこって、男の人をこうげきしようとしたが、ぐんじんたちがかたなをぬいて……
「もういいよ」とベレンは言って、一つ目小僧の手をはなした。
子どもはかなしそうにほほえんで、
「もうわかったでしょ。どうして佐那さんは鬼女になったのか」と言った。
ベレンはうなずいた。
うちに帰った時、高橋はまだじぶんの部屋にいるみたいだったから、ベレンもじぶんの部屋に行って、ねた。
つぎの朝、ベレンは起きて、高橋と話そうと思って、さがしに行った。高橋はお茶を飲みながら、リビングルームで待っていた。
「おはよう」
立ち上がって、ベレンのためにお茶をカップに入れた。ベレンはすわって、
「体のちょうしはだいじょうぶですか」とたずねた。
「うん、もうだいじょうぶだよ。ありがとう。きのう、さんぽに行ったの?」
ベレンはかぶりをふって、
「佐那さんの家へ行ったの」と答えた。高橋はその名前を聞いて、かるくふるえた。
「そこまでしらべたのか。さすがベレンだな。どうしたか、教えてくれる?」
ベレンはネギのおじいさんとの出会いから佐那のかこについてのこわい思い出までのことを高橋に話してあげた。
「いっしょに行ってあげられなくて、ごめんね。こわくなかった?」
「かこのきおくを見るのがつらかったです」
高橋はだまって、うなずいた。
「あのきぞくのような男の人は、佐那さんをころしたんですか」
「その通りだ。死んだ時、鬼になった佐那は村のすべての人をたたった」
「どうしてこの男の人だけではないですか」
「村の人はね。佐那の恋人がころされた時、たすけることができたのに、だれも何もしなかったから」
ベレンはふかく考えて、またふくろの中を見た時の佐那の顔が頭の中にうかんだ。
「ちなみに、なんでわかったの?佐那さんのこと」と高橋はベレンを見て、言った。
「あのゆめの時、森の中で、のろわれた人のたましいを見たでしょ」
高橋はうなずいた。
「旅館からの奥さんにも会いましたね。佐那さんをころしたいと言ったじゃないですか」
「たしかに言ったね」
「旅館の奥さんは死ぬ前に、森へ鬼女をころしに行ったと高橋さんが言っていました。だから、佐那は鬼女の名前だと思いました」
「あ、なるほど」
ベレンは少しだまってから、テーマをかえた。
「あのおじいさんは生まれてからずっとこの村に住んでいると言いました。高橋さんもそう言ったでしょう。それはのろいのせいですか」
高橋はいつも通り猫のようにほほえんで、
「その通りだ。のろいのせいで、村からはなれると、さいしょはげんかくが見えるようになって、そのあと病気になっちゃう。それから、村にもどらないと、かならず死ぬ」と答えた。
「のろいがあるのに、鬼女とけいやくをむすぶ人がいっぱいいるのですね」とベレンは言った。
「ざんねんなことにね。けいやくをむすんだ人は死んでから、たましいがえいえんにあの森でくるしんでいるのに」
「高橋さんもけいやくをむすびましたか」
「うん」と高橋はかなしそうに答えた。そして、少しだまってから、つづけた。
「この村の人は子どものころから鬼女とのろいについての注意をうけているけど、大人になって、だんだん信じなくなる。鬼女と森についてのこわいゆめしかへんなことが起こらないからね。私もそうだった。18さいになった時、だいとしに引っこそうと思っていた。だから、のろいのそんざいをむしして、東京に来た。さいしょの2週間は人生でいちばんしあわせな時だったかもしれない。ゆめがかなったからね。でも、あとはじごくのような日々がはじまった」
「げんかくやもうそうが見えましたか」
「そうだよ。こわいげんかくが見えるようになった。そして、いつもだれかのけはいをかんじた。ある日、ゆめかげんじつか分からなくなり、とてもこわくなって、村にかえることにした」
「きついですね。その時からのろいはほんとうにあると信じたのですか?」
「うん。そして、かならずのろいをときたいと思った。だから、けいやくをむすぶことにした」
ベレンは分からない顔をした。
「それはね。りかいできないかもしれないけれど、私は18さいの時、鬼女をたおす自信があったんだ。だから、まんげつの夜に、あの家に行って、鬼女とはじめて出会った。たましいの代わりに、何がほしいかと聞かれたから、ちょうのうりょくがほしいと答えた」
「ちょうのうりょくっていろいろあるんじゃないですか」
「そうだけど。なにかちょうのうりょくがあれば、かならずのろいがとけると思った。私は、おもに猫になったり、人のゆめとかにはいれたり、ふつうの人が見られないものを見たりするのうりょくを手に入れて」
「そういえば、高橋さんは化け猫じゃないですか」
「うん、化け猫じゃないよ。化け猫ってふつうの猫が化け猫になってしまうかのうせいがあるけど、人は化け猫にならない。私は猫ににているってよく言われているので、猫になることにしただけ。けど、そののうりょくのせいで、よくつかれて、体のちょうしが悪くなる」
ベレンはきのうの高橋の悪いぐあいを思い出して、かるくうなずいた。
「話をもどすと、ちょうのうりょくがあっても、じぶんでは鬼女をたおせないとわかった」と高橋は言った。
ベレンはためいきをつき、少し考えてから、言った。
「じゃあ、じぶんでのろいをとけなくて、ほかの人のガイドになって、のろいをとくことができる人をさがしはじめたということですか」
「そうだ」
「私いがい、だれかがいましたか」
「いたけど、けっきょく、みんなにげたり、ことわったりした。でも、ベレンはちがう。はじめて会った時、すぐわかったよ。私はさがしていた人はベレンだよ」
「私には別に特別な力なんてないでしょう」とベレンは頭をふって、言った。
「なくても、にげなかったよ。あきらめずに前にすすむだろ。強い人からだね」
「私はただてつだいたいだけです。のろいがとけるかどうか分からないけど、考えがあります」
高橋はそれを聞いて、まんぞくそうにわらった。
「娘と結婚させてください」
部屋には佐那と佐那の両親以外に、もう一人の男の人がいた。見た目は貴族のようだが、顔には薄気味悪い表情が出ていた。佐那のお父さんはお辞儀をしながら、
「申し訳ございません。答えは前と同じです。娘はもう他の人と婚約しています」と言った。
「私はその人より身分が高いでしょう」と男の人は自慢そうに答えた。
「そうですが、それは何も変わりません」
男の人は冷たい表情で、
「違います。絶対変わりますよ」と言って、急いで部屋を出た。
佐那はため息をついて、手で顔を隠した。
「どうしよう、お父さん。この人が来るのは、もう3回目だよ」
「大丈夫だよ。安心して。きっと諦めるから」
佐那の婚約者は貴族ではなくて、普通の人だったが、優しく、真面目な人だ。それに勤勉に働いていた。佐那は相手をとても愛していて、他の人と結婚するなんて想像できなかった。特にあの薄気味悪い金持ちの男の人は絶対無理だ。でも、その人は何回もふられても、諦めるつもりはなかったみたいだ。そして、佐那にとって、そんな冷たい顔を見るのが本当に怖かった。
翌日の朝、佐那の婚約者が来た時、佐那はしつこい男の人について話したが、彼は佐那を慰めて、
「結婚式はもうそろそろだから、心配しないで。何かあっても、私は必ず君を守るよ」と言った。それを聞いた佐那の顔には明るいほほ笑みが浮かんだ。
でも、数日経って、結婚式の準備がだいたいできた時、貴族のような男の人がまた来た。でも、今回は一人ではなく、兵士たちと一緒だ。相変わらず、佐那のお父さんの顔を冷たく見ながら、
「娘と結婚させてください」と言った。
お父さんも、前と同じで、
「申し訳ございません。娘は婚約していますから」と答えた。
佐那とお母さんはびくびくしながら男の人とその兵士を見つめていて、お父さんの後ろに立っていた。
「それはもう問題ではありません」と男の人はお父さんに袋を投げて、言った。袋の中には何か丸いものが入っていて、布のあっちこっち何かの液体の黒いシミがあった。お父さんは袋の中身を見て、息を呑んだ。
「これ、なんだ?」と佐那の声だった。
お父さんは黙っていて、男の人の顔には冷たい笑みが浮かんだ。
「中にあるのは何?」と佐那が慌てて、お父さんの手から袋を取ろうとした。やっと中身を見て、佐那の顔には恐ろしい表情が出て、胸が張り裂けるような悲鳴が上がった。佐那は怒りに溢れて、男の人を攻撃しようとしたが、兵士たちが刀を抜いて……
「もういいよ」とベレンは言って、一つ目小僧の手を離した。
子どもは物悲しげに微笑んで、
「もうわかったでしょ。どうして佐那さんは鬼女になったのか」と言った。
ベレンは頷いた。
うちに帰った時、高橋はまだ自分の部屋にいるみたいだったから、ベレンも自分の部屋に行って、寝た。
翌朝、ベレンは起きて、高橋と話そうと思って、探しに行った。高橋はお茶を飲みながら、リビングルームで待っていた。
「おはよう」
立ち上がって、ベレンのためにお茶をカップに注いだ。ベレンは座って、
「体調は大丈夫ですか」と尋ねた。
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう。昨日、散歩に行ったの?」
ベレンはかぶりを振って、
「佐那さんの家へ行ったの」と答えた。高橋はその名前を聞いて、少し震え上がった。
「そこまで調べたのか。さすがベレンだな。どうしたか、教えてくれる?」
ベレンはネギのおじいさんとの出会いから佐那の過去についての恐ろしい記憶までの出来事を高橋に話してあげた。
「一緒に行ってあげられなくて、ごめんね。怖くなかった?」
「過去の記憶を見るのが切なかったです」
高橋は黙って、頷いた。
「あの貴族のような男の人は、結局佐那さんを殺したんですか」
「その通りだ。死んだ時、恨みから鬼になった佐那は村のすべての人を祟った」
「どうしてこの男の人だけではないですか」
「村の人はね。佐那の恋人が殺された時、助けることができたのに、結局誰も何もしなかったから」
ベレンは考え込んで、また袋の中身を見た時の佐那の顔と号泣が頭の中に浮かんだ。
「ちなみに、なんでわかったの?佐那さんのこと」と高橋はベレンを見つめて、言った。
「あの夢の時、森の中で、呪われた人の魂を見たでしょ」
高橋は頷いた。
「旅館からの奥さんにも会いましたね。佐那さんを殺したいと言ったじゃないですか」
「確かに言ったね」
「旅館の奥さんは死ぬ前に、森へ鬼女を殺しに行ったと高橋さんが言っていました。だから、佐那は鬼女の名前だと思いました」
「あ、なるほど」
ベレンは少し黙ってから、テーマを変えた。
「あのおじいさんは生まれてからずっとこの村に住んでいると言いました。高橋さんもそう言ったでしょう。それは呪いのせいですか」
高橋はいつも通り猫のような表情で微笑んで、
「その通りだ。呪いのせいで、村から離れると、最初は幻覚が見えるようになって、そのあと病気になっちゃう。それから、村に戻らないと、必ず死ぬ」と答えた。
「呪いがあるのに、鬼女と契約を結ぶ人がいっぱいいるのですね」とベレンは言った。
「残念なことにね。契約を結んだ人は死んでから、魂が永遠にあの森で苦しんでいるのに」
「高橋さんも契約を結びましたか」
「うん」と高橋は悲しそうに答えた。そして、少し黙ってから、続けた。
「この村の人は子どもの頃から鬼女と呪いについての忠告を受けているけど、大人になって、段々信じなくなる。鬼女と森についての悪夢しか変なことが起こらないからね。私もそうだった。18歳になった時、大都市に引っ越そうと思っていた。だから、呪いの存在を無視して、東京に来た。最初の2週間は生涯で一番幸せな時だったかもしれない。夢が叶ったからね。でも、あとは地獄のような日々が始まった」
「幻覚や妄想が現れましたか」
「そうだよ。残酷な幻覚が見えるようになった。しかも、いつも誰かの気配を感じた。ある日、夢か現実か分からない状態になり、恐怖が増して、村に帰ることにした」
「きついですね。その時から呪いは本当に存在すると信じたのですか?」
「うん。そして、必ず呪いを解きたいと思った。だから、契約を結ぶことにした」
ベレンは分からない顔をした。
「それはね。理解できないかもしれないけれど、私は18歳の時、鬼女を倒す自信があったんだ。だから、満月の夜に、あの家に行って、鬼女とはじめて出会った。魂の代わりに、何が欲しいかと聞かれたから、超能力がほしいと答えた」
「超能力って色々あるんじゃないですか」
「そうだけど。なにか超能力があれば、必ず呪いが解けると思った。私は、主に猫に化けたり、人の夢とかにはいれたり、普通の人が見られないものを見たりする能力を手に入れて」
「そういえば、高橋さんは化け猫じゃないですか」
「うん、化け猫じゃないよ。化け猫って普通の猫が化け猫になってしまう可能性があるけど、人間は化け猫にならない。私は猫に似ているってよく言われているので、猫に化けることにしただけ。けど、その能力のせいで、よく疲れて、体の調子が悪くなる」
ベレンは昨日の高橋の悪い具合を思い出して、軽く頷いた。
「話を戻すと、超能力があっても、自分では鬼女を倒せないとわかった」と高橋は言った。
ベレンはため息をつき、考え込んでから、語った。
「じゃあ、自分で呪いを解けなくて、他の人のガイドになって、呪いを解くことができる人を探しはじめたということですか」
「そうだ」
「私以外、誰かがいましたか」
「いたけど、結局、恐れおののいて、みんな逃げたり、断ったりした。でも、ベレンは違う。初めて会った時、すぐわかったよ。私は探していた人はベレンだよ」
「私は別に特別な能力なんてないでしょう」とベレンは頭を振って、言った。
「なくても、逃げなかったよ。徹底的に前に進むだろ。芯が強い人からだね」
「私はただ手伝いたいだけです。呪いが解けるかどうか分からないけど、考えがあります」
高橋はそれを聞いて、満足そうに微笑んだ。
部屋には佐那と佐那の両親以外に、もう一人の男の人がいた。見た目は貴族のようだが、顔には薄気味悪い表情が出ていた。佐那のお父さんはお辞儀をしながら、
「申し訳ございません。答えは前と同じです。娘はもう他の人と婚約しています」と言った。
「私はその人より身分が高いでしょう」と男の人は自慢そうに答えた。
「そうですが、それは何も変わりません」
男の人は冷たい表情で、
「違います。絶対変わりますよ」と言って、急いで部屋を出た。
佐那はため息をついて、手で顔を隠した。
「どうしよう、お父さん。この人が来るのは、もう3回目だよ」
「大丈夫だよ。安心して。きっと諦めるから」
佐那の婚約者は貴族ではなくて、普通の人だったが、優しく、真面目な人だ。それに勤勉に働いていた。佐那は相手をとても愛していて、他の人と結婚するなんて想像できなかった。特にあの薄気味悪い金持ちの男の人は絶対無理だ。でも、その人は何回もふられても、諦めるつもりはなかったみたいだ。そして、佐那にとって、そんな冷たい顔を見るのが本当に怖かった。
翌日の朝、佐那の婚約者が来た時、佐那はしつこい男の人について話したが、彼は佐那を慰めて、
「結婚式はもうそろそろだから、心配しないで。何かあっても、私は必ず君を守るよ」と言った。それを聞いた佐那の顔には明るいほほ笑みが浮かんだ。
でも、数日経って、結婚式の準備がだいたいできた時、貴族のような男の人がまた来た。でも、今回は一人ではなく、兵士たちと一緒だ。相変わらず、佐那のお父さんの顔を冷たく見ながら、
「娘と結婚させてください」と言った。
お父さんも、前と同じで、
「申し訳ございません。娘は婚約していますから」と答えた。
佐那とお母さんはびくびくしながら男の人とその兵士を見つめていて、お父さんの後ろに立っていた。
「それはもう問題ではありません」と男の人はお父さんに袋を投げて、言った。袋の中には何か丸いものが入っていて、布のあっちこっち何かの液体の黒いシミがあった。お父さんは袋の中身を見て、息を呑んだ。
「これ、なんだ?」と佐那の声だった。
お父さんは黙っていて、男の人の顔には冷たい笑みが浮かんだ。
「中にあるのは何?」と佐那が慌てて、お父さんの手から袋を取ろうとした。やっと中身を見て、佐那の顔には恐ろしい表情が出て、胸が張り裂けるような悲鳴が上がった。佐那は怒りに溢れて、男の人を攻撃しようとしたが、兵士たちが刀を抜いて……
「もういいよ」とベレンは言って、一つ目小僧の手を離した。
子どもは物悲しげに微笑んで、
「もうわかったでしょ。どうして佐那さんは鬼女になったのか」と言った。
ベレンは頷いた。
うちに帰った時、高橋はまだ自分の部屋にいるみたいだったから、ベレンも自分の部屋に行って、寝た。
翌朝、ベレンは起きて、高橋と話そうと思って、探しに行った。高橋はお茶を飲みながら、リビングルームで待っていた。
「おはよう」
立ち上がって、ベレンのためにお茶をカップに注いだ。ベレンは座って、
「体調は大丈夫ですか」と尋ねた。
「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう。昨日、散歩に行ったの?」
ベレンはかぶりを振って、
「佐那さんの家へ行ったの」と答えた。高橋はその名前を聞いて、少し震え上がった。
「そこまで調べたのか。さすがベレンだな。どうしたか、教えてくれる?」
ベレンはネギのおじいさんとの出会いから佐那の過去についての恐ろしい記憶までの出来事を高橋に話してあげた。
「一緒に行ってあげられなくて、ごめんね。怖くなかった?」
「過去の記憶を見るのが切なかったです」
高橋は黙って、頷いた。
「あの貴族のような男の人は、結局佐那さんを殺したんですか」
「その通りだ。死んだ時、恨みから鬼になった佐那は村のすべての人を祟った」
「どうしてこの男の人だけではないですか」
「村の人はね。佐那の恋人が殺された時、助けることができたのに、結局誰も何もしなかったから」
ベレンは考え込んで、また袋の中身を見た時の佐那の顔と号泣が頭の中に浮かんだ。
「ちなみに、なんでわかったの?佐那さんのこと」と高橋はベレンを見つめて、言った。
「あの夢の時、森の中で、呪われた人の魂を見たでしょ」
高橋は頷いた。
「旅館からの奥さんにも会いましたね。佐那さんを殺したいと言ったじゃないですか」
「確かに言ったね」
「旅館の奥さんは死ぬ前に、森へ鬼女を殺しに行ったと高橋さんが言っていました。だから、佐那は鬼女の名前だと思いました」
「あ、なるほど」
ベレンは少し黙ってから、テーマを変えた。
「あのおじいさんは生まれてからずっとこの村に住んでいると言いました。高橋さんもそう言ったでしょう。それは呪いのせいですか」
高橋はいつも通り猫のような表情で微笑んで、
「その通りだ。呪いのせいで、村から離れると、最初は幻覚が見えるようになって、そのあと病気になっちゃう。それから、村に戻らないと、必ず死ぬ」と答えた。
「呪いがあるのに、鬼女と契約を結ぶ人がいっぱいいるのですね」とベレンは言った。
「残念なことにね。契約を結んだ人は死んでから、魂が永遠にあの森で苦しんでいるのに」
「高橋さんも契約を結びましたか」
「うん」と高橋は悲しそうに答えた。そして、少し黙ってから、続けた。
「この村の人は子どもの頃から鬼女と呪いについての忠告を受けているけど、大人になって、段々信じなくなる。鬼女と森についての悪夢しか変なことが起こらないからね。私もそうだった。18歳になった時、大都市に引っ越そうと思っていた。だから、呪いの存在を無視して、東京に来た。最初の2週間は生涯で一番幸せな時だったかもしれない。夢が叶ったからね。でも、あとは地獄のような日々が始まった」
「幻覚や妄想が現れましたか」
「そうだよ。残酷な幻覚が見えるようになった。しかも、いつも誰かの気配を感じた。ある日、夢か現実か分からない状態になり、恐怖が増して、村に帰ることにした」
「きついですね。その時から呪いは本当に存在すると信じたのですか?」
「うん。そして、必ず呪いを解きたいと思った。だから、契約を結ぶことにした」
ベレンは分からない顔をした。
「それはね。理解できないかもしれないけれど、私は18歳の時、鬼女を倒す自信があったんだ。だから、満月の夜に、あの家に行って、鬼女とはじめて出会った。魂の代わりに、何が欲しいかと聞かれたから、超能力がほしいと答えた」
「超能力って色々あるんじゃないですか」
「そうだけど。なにか超能力があれば、必ず呪いが解けると思った。私は、主に猫に化けたり、人の夢とかにはいれたり、普通の人が見られないものを見たりする能力を手に入れて」
「そういえば、高橋さんは化け猫じゃないですか」
「うん、化け猫じゃないよ。化け猫って普通の猫が化け猫になってしまう可能性があるけど、人間は化け猫にならない。私は猫に似ているってよく言われているので、猫に化けることにしただけ。けど、その能力のせいで、よく疲れて、体の調子が悪くなる」
ベレンは昨日の高橋の悪い具合を思い出して、軽く頷いた。
「話を戻すと、超能力があっても、自分では鬼女を倒せないとわかった」と高橋は言った。
ベレンはため息をつき、考え込んでから、語った。
「じゃあ、自分で呪いを解けなくて、他の人のガイドになって、呪いを解くことができる人を探しはじめたということですか」
「そうだ」
「私以外、誰かがいましたか」
「いたけど、結局、恐れおののいて、みんな逃げたり、断ったりした。でも、ベレンは違う。初めて会った時、すぐわかったよ。私は探していた人はベレンだよ」
「私は別に特別な能力なんてないでしょう」とベレンは頭を振って、言った。
「なくても、逃げなかったよ。徹底的に前に進むだろ。芯が強い人からだね」
「私はただ手伝いたいだけです。呪いが解けるかどうか分からないけど、考えがあります」
高橋はそれを聞いて、満足そうに微笑んだ。