Coming soon!

　つぎの日、ベレンは村むらに着ついた。駅の近くに小さな白い車が止まっていて、車の前で高橋たかはしは待っていた。いつも通り猫ねこのようなほほえみの高橋たかはしはベレンを見て、手をふった。
「あらためて、ようこそ、わが村むらへ」
「おひさしぶりだと言いたいですが…」とベレンはさっき夢ゆめの中での出会いを思い出して、答こたえた。
「じっさいに会うのは確たしかにひさしぶりだね」と高橋たかはしはわらった。
　今回こんかいは旅館りょかんではなく、高橋たかはしのうちにとまるので、車に乗のって、村むらのけしきを見ながら、家に向むかった。村むらは森もりにかこまれていたので、ベレンの側から見ると、木がしげっている風景ふうけい、高橋たかはしの側から見ると畑はたけと建物たてものだった。村むらの中の建物たてものと言えば、だいたい一戸建いっこだてだった。高いビルなどがないし、ベレンが見た建物たてものの中では、いちばん高いのは4階建てだった。高橋たかはしの家も一戸建いっこだてだった。見た目からすると、ごくへいぼんな日本の家だった。中に入ると、思ったより広いなとベレンは思った。そして、ベレンがとまった部屋へやは洋室ようしつだった。
　ベレンは部屋へやににもつを置おいて、高橋たかはしと話そうとした。高橋たかはしは自分の部屋へやにいたみたいで、ドアが閉まっていた。軽かるくノックしたら、
「ベレン、私は少し休んでから話そう。その時までゆっくりしてね」と高橋たかはしの小さな声こえが聞こえた。元気のなさそうな声こえだった。ベレンはうなずいて、リビングルームに行った。大きいまどから光ひかりがさし込こんで、はれた空そらが見えた。そのあと、ベレンはげんかんのドアを開けて、周囲しゅうへんを見回まわした。高橋たかはしの家のとなりには、ネギとだいこんの畑はたけが広がっていた。その青空あおぞらと畑はたけのけしきにかんどうして、そこに向むかって、高橋たかはしが休んでいる間、散歩さんぽをすることにした。さわやかな畑はたけの風かぜにふかれながら、ゆっくり歩いて、おだやかな気持きもちになった。
「今日はいい天気だね」と急きゅうにうしろから声こえが聞こえた。ベレンはびっくりして、ふり向むくと、知しらないおじいさんだった。ベレンはうなずいて、
「うん、畑はたけもとてもきれいです」と言った。
「わしがたがやしたもんだ」とおじいさんはじまんして笑わらった。ベレンもほほえんだが、どう答こたえたらいいかわからなくて、だまっていた。
「村むらの人の中には農家のうかがたくさんいるが、わしのネギが一番いちばんおいしいよ。全国ぜんこくで売うれたらいいな」
「じゃあ、どうして全国ぜんこくで売うらないのですか」
「それはできないそうだんさ。村むらからはなれなくて、生うまれてからずっとここに住すんでいるよ」
これを聞いて、ベレンは高橋たかはしとのはじめての出会いを思い出した。その時、彼女かのじょもそう言ったじゃないか。生まれてから、ずっとその村むらに住すんでいると。
「でも、なんでですか」とベレンはわからないといった顔かおをした。
おじいさんは質問しつもんをむしして、
「ネギはね、この村むらとその近辺きんぺん、とくにとなりの町まちで売うっているよ。おじょうさんも食べてみないか？」と急きゅうに言った。
「えっ、いいのですか」とベレンの目が少すこしまるくなって、ふといネギを取とるおじいさんのすがたを見た。
「ぜひ食べてみてね。きっと、東京とうきょうのネギよりもうまいよ」とおじいさんはネギをベレンの手にわたしながら言った。
「ありがとうございます」とベレンはちょっと迷まよって、おれいをした。
そして、急きゅうにあらわれたおじいさんは急きゅうにはんたいがわに歩あるき出した。
「あのう、すみません」とベレンはおじいさんを呼よんでみた。
「…？」
「佐那さなさんという人を知しっていますか」
　おじいさんはゆっくり後ろを向むいて、顔かおにこわさと心配しんぱいが見えた。不安ふあんそうな顔かおで何も言わずに、もう一回いっかいベレンを見つめてから、また歩あるきはじめた。ベレンはネギを手に持って、おじいさんが去さっていくすがたを見つめた。それから、高橋たかはしの家いえにもどった。
　高橋たかはしはまだ自分の部屋へやにいるみたいだ。しかたないので、台所だいどころでやかんを見つけて、お茶を作ることにした。お湯ゆをわかしている間、おじいさんからもらったネギをじっと見つめていた。この村むらからはなれず、生うまれてからずっとここに住すんでいるという言葉ことばが頭あたまの中にうかんだ。どうしてはなれなかったっていうベレンの質問しつもんに答こたえなかったことも少し気になった。そして、佐那さなという名前を聞いた時、なぜそんなにおどろいたのか。このおじいさんはやっぱり何かを知しっているのではないかという気がした。立たち上あがって、ネギを取とって、食べてみようと思った。かみちぎったしゅんかんに、ノックの音おとがした。ドアを開けると、おどろいたことにあのおじいさんだった。彼かれはベレンの手にあるかみちぎられたネギを見て、
「おいしいでしょ」と言った。
「はい」とベレンはうなずいた。
そして、おじいさんは何も言わずベレンにおった紙かみをわたしてあげてから、すぐ去さっていった。紙かみにはベレンの知しらない住所じゅうしょが書かれていた。

　翌日、ベレンは村に着いた。駅の近くに小さな白い車が止まっていて、車の前で高橋は待っていた。いつも通り猫のような微笑みが顔に浮かんでいた高橋はベレンを見て、手を振った。
「改めて、ようこそ、我が村へ」
「お久しぶりだと言いたいですが…」とベレンはさっき夢の中での出会いを思い出して、答えた。
「実際に会うのは確かに久しぶりだね」と高橋は笑った。
　今回は旅館ではなく、高橋のうちに泊まるので、車に乗って、村の景色を見ながら、家に向かった。村は深緑の森に囲まれていたので、ベレンの側から見ると、木々が茂っている風景、高橋の側から見ると畑と建物だった。村の中の建物と言えば、だいたい一戸建てだった。高いビルなどがないし、ベレンが見た建物の中では、一番高いのは4階建てだった。高橋の家も一戸建てだった。見た目からすると、ごく平凡な日本家屋だった。中に入ると、意外と広いなとベレンは思った。そして、ベレンが泊まった部屋は洋室だった。
　ベレンは部屋に荷物を置いて、高橋と話そうとした。高橋は自分の部屋にいたみたいで、ドアが閉まっていた。軽くノックしたら、
「ベレン、私は少し休んでから話そう。その時までゆっくりしてね」と高橋の小さな声が聞こえた。元気のなさそうな声だった。ベレンは頷いて、リビングルームに行った。大きい窓から光が差し込んで、晴れた空が見えた。その後、ベレンは玄関のドアを開けて、周囲を見回した。高橋の家の隣には、ネギと大根の緑色の畑が広がっていた。その青空と畑の景色に感動して、そこに向かって、高橋が休んでいる間、散歩をすることにした。爽やかな畑の風に吹かれながら、のんびり、ゆっくり歩いて、穏やかな気持ちになった。
「今日はいい天気だね」と急に後ろから声が聞こえた。ベレンはびっくりして、振り向くと、知らないおじいさんだった。ベレンは頷いて、
「うん、畑もとても綺麗です」と言った。
「わしが耕したもんだ」とおじいさんは自慢げな笑みを浮かべた。ベレンも微笑んだが、どう答えたらいいかわからなくて、黙っていた。
「地元の村人の中には農家がたくさんいるが、わしのネギが上等で、一番おいしいよ。全国で売れたらいいな」
「じゃあ、どうして全国で売らないのですか」
「それはできない相談さ。村から離れなくて、生まれてからずっとここに住んでいるよ」
これを聞いて、ベレンは高橋との初めての出会いを思い出した。その時、彼女もそう言ったじゃないか。生まれてから、ずっとその村に住んでいると。
「でも、なんでですか」とベレンはわからないといった顔をした。
おじいさんは質問を無視して、
「ネギはね、この村とその近辺、特に隣の町で売っているよ。お嬢さんも食べてみないか？」と急に提供した。
「えっ、いいのですか」とベレンの目が少し丸くなって、太いネギを収穫するおじいさんの姿を見た。
「ぜひ試してみてね。きっと、東京のネギよりもうまいよ」とおじいさんはネギをベレンの手に渡しながら言った。
「ありがとうございます」とベレンは少し戸惑って、お礼をした。
そして、急に現れたおじいさんは急に反対側に歩き出した。
「あのう、すみません」とベレンはおじいさんを呼び止めてみた。
「…？」
「佐那さんという人を知っていますか」
　おじいさんはゆっくり振り向いて、顔には恐怖と不安が現れた。おどおどした表情で無言のまま、もう一回ベレンを見つめてから、また歩き始めた。ベレンは手にネギを握りながら、おじいさんが去っていく姿を見つめた。それから、高橋の家に戻った。
　高橋はまだ自分の部屋にいるみたいだ。しかたないので、台所でやかんを見つけて、お茶を作ることにした。お湯を沸かしている間、おじいさんからもらったネギをじっと見つめていた。この村から離れず、生まれてからずっとここに住んでいるという言葉が頭の中に浮かんだ。どうして離れなかったっていうベレンの質問に答えなかったことも少し気になった。そして、佐那という名前を聞いた時、なぜそんなに驚いたのか。このおじいさんはやっぱり何かを知っているのではないかという気がした。立ち上がって、ネギを取って、食べてみようと思った。噛みちぎった瞬間に、ノックの音がした。ドアを開けると、驚いたことにあのおじいさんだった。彼はベレンの手にある噛みちぎられたネギを見て、
「おいしいでしょ」と言った。
「はい」とベレンは頷いた。
そして、おじいさんは無言のままベレンに折った紙を渡してあげてから、すぐ去っていった。紙にはベレンの知らない住所が書かれていた。