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妖怪の囁き・下
右に曲がると、苦しみに立ち向かう
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夜中の暗い交差点にいたベレンの前には大きな石があって、三つの小道が広がっていた。石には何かの文字が書かれていた。ベレンが近づいてきて、読もうとした。【右に曲がると、苦しみに立ち向かう】と書かれて、その下には【左に曲がると、かくされた事実を知るけど、力を失ってしまう】と。最後に【前に進むと、死に向かう】と書かれた。どうせどれも行きたくない小道だ。
「せっかくここにいるのだから、選ばないといけないね」と石のそばに座っている黒猫は声を出した。
ベレンはうなずいて、
「わかってますよ」と答えた。
かならずその中から一つ選ばなければならないけど、どうしたらいいのか。見た目からすると、違いのない小道だし、どちらも森をぬけている。ベレンはもう一回左右を見て、ためいきをついて、右の小道を歩きはじめた。黒猫が不思議な笑顔で、ベレンについて行った。
小道には、地面に広がる木のかげのほかに何もなかった。だが、しばらくして、前に聞き覚えのない小さな声が聞こえるようになった。近づいてみると、木の下に座っている男の人のすがたが目についた。古い服を着ていて、遠くの夜空を見上げながら独り言をささやいた。
「あのう、すみません。大丈夫ですか?」とベレンは話しかけたけど、男の人はだれもいないかのように、ずっと何かをささやき続けていた。
「彼は私たちを見ることも、聞くこともできない」と黒猫の声だった。
もう少し近づいてみると、男の人の顔が月の光にてらされた。落ち込んだ顔に涙のように、目から血が流れていた。ベレンはおどろいて、思わず後ろに下がった。むねの中で不安な気持ちをおさえきれなくなった。
「ベレン、行こう」と黒猫が言った。
ベレンは最後にもう一回男の人の血だらけの顔を見て、また小道を歩きはじめた。前に進んでみると、またほかの人のすがたが見えるようになった。今回はどろだらけの着物を着ている女の人だった。彼女は小道と少しはなれて、森の木に囲まれている所でいっしょうけんめいに手で土をほっていた。
「どこだい?ここにあるはずだよ!」と女の人はかすれたような声で何回も何回もくり返していた。女の人の着物だけではなく、うでも顔もどろと汗でよごれて、顔にはふかい苦しみがあらわれている。夢中になって、ひっしにほり続けているすがたを見ると、ベレンは心の中で痛みを感じた。
でも、ためいきをついて、小道を歩き続けた。もう少し前に進むと、女の怒ったさけびが聞こえてきた。
「佐那(さな)!どこにいる?!出てこい!」
そんなに怖い声の人とぜったい出会いたくないとベレンは思った。そのすぐあと、少しはなれている所で女の人のすがたを見た。どろだらけのぼろのような着物を着ていて、バサバサの長い髪がのびている。手には大きなナイフを持っていて、
「佐那!殺すぞ!」と怒ってひっしにさけんでいた。
夢中でだれかを追うかのように、女の人がさけびながら、森に行ってしまった。ベレンはびっくりしていきが止まりそうだった。
少しだまってから、
「さっき見た人たちっていったいだれですか」とたずねた。
「たたられた魂(たましい:人の「心」や体の中の見えない部分)だよ。鬼女といろいろなけいやくをむすんだ村人の魂だ。しゅうじんのように、この森から出られない」
「じゃあ、もしかすると、さけんだ女の人は・・・」
「そうだね。伝説に出てきた旅館の奥さんだよ」と黒猫がうなずいた。
ベレンの頭の中で女の人のさけびがひびいていて、心がドキドキした。
「もう帰っていいよ」と猫の声だ。
ベレンは急に自分の部屋で起きた。
「せっかくここにいるのだから、選ばないといけないね」と石のそばに座っている黒猫は声を出した。
ベレンはうなずいて、
「わかってますよ」と答えた。
かならずその中から一つ選ばなければならないけど、どうしたらいいのか。見た目からすると、違いのない小道だし、どちらも森をぬけている。ベレンはもう一回左右を見て、ためいきをついて、右の小道を歩きはじめた。黒猫が不思議な笑顔で、ベレンについて行った。
小道には、地面に広がる木のかげのほかに何もなかった。だが、しばらくして、前に聞き覚えのない小さな声が聞こえるようになった。近づいてみると、木の下に座っている男の人のすがたが目についた。古い服を着ていて、遠くの夜空を見上げながら独り言をささやいた。
「あのう、すみません。大丈夫ですか?」とベレンは話しかけたけど、男の人はだれもいないかのように、ずっと何かをささやき続けていた。
「彼は私たちを見ることも、聞くこともできない」と黒猫の声だった。
もう少し近づいてみると、男の人の顔が月の光にてらされた。落ち込んだ顔に涙のように、目から血が流れていた。ベレンはおどろいて、思わず後ろに下がった。むねの中で不安な気持ちをおさえきれなくなった。
「ベレン、行こう」と黒猫が言った。
ベレンは最後にもう一回男の人の血だらけの顔を見て、また小道を歩きはじめた。前に進んでみると、またほかの人のすがたが見えるようになった。今回はどろだらけの着物を着ている女の人だった。彼女は小道と少しはなれて、森の木に囲まれている所でいっしょうけんめいに手で土をほっていた。
「どこだい?ここにあるはずだよ!」と女の人はかすれたような声で何回も何回もくり返していた。女の人の着物だけではなく、うでも顔もどろと汗でよごれて、顔にはふかい苦しみがあらわれている。夢中になって、ひっしにほり続けているすがたを見ると、ベレンは心の中で痛みを感じた。
でも、ためいきをついて、小道を歩き続けた。もう少し前に進むと、女の怒ったさけびが聞こえてきた。
「佐那(さな)!どこにいる?!出てこい!」
そんなに怖い声の人とぜったい出会いたくないとベレンは思った。そのすぐあと、少しはなれている所で女の人のすがたを見た。どろだらけのぼろのような着物を着ていて、バサバサの長い髪がのびている。手には大きなナイフを持っていて、
「佐那!殺すぞ!」と怒ってひっしにさけんでいた。
夢中でだれかを追うかのように、女の人がさけびながら、森に行ってしまった。ベレンはびっくりしていきが止まりそうだった。
少しだまってから、
「さっき見た人たちっていったいだれですか」とたずねた。
「たたられた魂(たましい:人の「心」や体の中の見えない部分)だよ。鬼女といろいろなけいやくをむすんだ村人の魂だ。しゅうじんのように、この森から出られない」
「じゃあ、もしかすると、さけんだ女の人は・・・」
「そうだね。伝説に出てきた旅館の奥さんだよ」と黒猫がうなずいた。
ベレンの頭の中で女の人のさけびがひびいていて、心がドキドキした。
「もう帰っていいよ」と猫の声だ。
ベレンは急に自分の部屋で起きた。
夜中の暗い交差点にいたベレンの前には大きな石があって、三つの小道が広がっていた。石には何かの文字が彫られていた。ベレンが近づいてきて、読もうとした。【右に曲がると、苦しみに立ち向かう】と書かれて、その下には【左に曲がると、隠された真実を知るけど、力を失ってしまう】と。最後に【前に進むと、死に向かう】と彫られた。どうせどれも行きたくない小道だ。
「せっかくここにいるのだから、選ばないといけないね」と石のそばに座っている黒猫は声を出した。
ベレンは頷いて、
「わかってますよ」と答えた。
必ずその中から一つ選ばなければならないけど、どうしたらいいのか。見た目からすると、違いのない小道だし、どちらも森を突き抜けている。ベレンはもう一回左右を見て、ため息をついて、右の小道を歩き始めた。黒猫が神秘的に微笑みながら、ベレンに付いて行った。
小道には、地面に広がる木の影のほかに何もなかった。だが、しばらくして、前に聞き覚えのない小さな声が聞こえるようになった。近づいてみると、木の下に座っている男の人の姿が目についた。古い服を着ていて、遠くの夜空を見上げながら独り言を囁いた。
「あのう、すみません。大丈夫ですか?」とベレンは話しかけたけど、男の人は誰もいないかのように、ずっと何かを呟き続けていた。
「彼は私達を見ることも、聞くこともできない」と黒猫の声だった。
もう少し近づいてみると、男の人の顔が月の光に照らされた。絶望に満ちた顔に涙のように、目から血が流れていた。ベレンは驚いて、思わず後退りした。胸の中で動揺する気持ちを抑えきれなくなった。
「ベレン、行こう」と黒猫が言った。
ベレンは最後にもう一回男の人の血だらけの顔に振り向いて、また小道を歩き始めた。前に進んでみると、また他の人の姿が見えるようになった。今回は泥だらけの着物を着ている女の人だった。彼女は小道と少し離れて、森の木に囲まれている所で一生懸命に手で土を掘っていた。
「どこだい?ここにあるはずだよ!」と女の人はかすれたような声で何回も何回も繰り返していた。女の人の着物だけではなく、腕も顔も泥と汗まみれで、顔には狂った絶望による深い心の悩みがあらわれている。夢中になって、必死に掘り続けている姿を見ると、ベレンは心の中で痛みを感じた。
でも、ため息をついて、小道を歩き続けた。もう少し前に進むと、女性の怒りの叫び声が聞こえてきた。
「佐那!どこにいる?!出てこい!」
そんなに恐ろしい声の人と絶対出会いたくないとベレンは思った。直後、少し離れている所で女の人の姿を見た。泥だらけのぼろのような着物を着ていて、ばらばらに乱れた長い髪が伸びている。手には大きなナイフを持っていて、
「佐那!殺すぞ!」と怒りに溢れて必死に叫んでいた。
熱狂的に誰かを追いかけるかのように、女の人が叫びながら、森に去っていった。ベレンは驚きのあまり息が止まりそうだった。
少し黙ってから、
「さっき見た人々っていったい何者ですか」と尋ねた。
「祟られた魂だよ。鬼女といろいろな契約を結んだ村人の魂だ。監獄のように、永遠にこの森に捕らわれている」
「じゃあ、もしかして、叫んだ女の人は・・・」
「そうだね。伝説で出てきた旅館の奥さんだよ」と黒猫が頷いた。
ベレンの頭の中で女の人の叫び声が響いていて、心がドキドキした。
「もう帰っていいよ」とまた猫の声だ。
ベレンは急に自分の部屋で目覚めた。
「せっかくここにいるのだから、選ばないといけないね」と石のそばに座っている黒猫は声を出した。
ベレンは頷いて、
「わかってますよ」と答えた。
必ずその中から一つ選ばなければならないけど、どうしたらいいのか。見た目からすると、違いのない小道だし、どちらも森を突き抜けている。ベレンはもう一回左右を見て、ため息をついて、右の小道を歩き始めた。黒猫が神秘的に微笑みながら、ベレンに付いて行った。
小道には、地面に広がる木の影のほかに何もなかった。だが、しばらくして、前に聞き覚えのない小さな声が聞こえるようになった。近づいてみると、木の下に座っている男の人の姿が目についた。古い服を着ていて、遠くの夜空を見上げながら独り言を囁いた。
「あのう、すみません。大丈夫ですか?」とベレンは話しかけたけど、男の人は誰もいないかのように、ずっと何かを呟き続けていた。
「彼は私達を見ることも、聞くこともできない」と黒猫の声だった。
もう少し近づいてみると、男の人の顔が月の光に照らされた。絶望に満ちた顔に涙のように、目から血が流れていた。ベレンは驚いて、思わず後退りした。胸の中で動揺する気持ちを抑えきれなくなった。
「ベレン、行こう」と黒猫が言った。
ベレンは最後にもう一回男の人の血だらけの顔に振り向いて、また小道を歩き始めた。前に進んでみると、また他の人の姿が見えるようになった。今回は泥だらけの着物を着ている女の人だった。彼女は小道と少し離れて、森の木に囲まれている所で一生懸命に手で土を掘っていた。
「どこだい?ここにあるはずだよ!」と女の人はかすれたような声で何回も何回も繰り返していた。女の人の着物だけではなく、腕も顔も泥と汗まみれで、顔には狂った絶望による深い心の悩みがあらわれている。夢中になって、必死に掘り続けている姿を見ると、ベレンは心の中で痛みを感じた。
でも、ため息をついて、小道を歩き続けた。もう少し前に進むと、女性の怒りの叫び声が聞こえてきた。
「佐那!どこにいる?!出てこい!」
そんなに恐ろしい声の人と絶対出会いたくないとベレンは思った。直後、少し離れている所で女の人の姿を見た。泥だらけのぼろのような着物を着ていて、ばらばらに乱れた長い髪が伸びている。手には大きなナイフを持っていて、
「佐那!殺すぞ!」と怒りに溢れて必死に叫んでいた。
熱狂的に誰かを追いかけるかのように、女の人が叫びながら、森に去っていった。ベレンは驚きのあまり息が止まりそうだった。
少し黙ってから、
「さっき見た人々っていったい何者ですか」と尋ねた。
「祟られた魂だよ。鬼女といろいろな契約を結んだ村人の魂だ。監獄のように、永遠にこの森に捕らわれている」
「じゃあ、もしかして、叫んだ女の人は・・・」
「そうだね。伝説で出てきた旅館の奥さんだよ」と黒猫が頷いた。
ベレンの頭の中で女の人の叫び声が響いていて、心がドキドキした。
「もう帰っていいよ」とまた猫の声だ。
ベレンは急に自分の部屋で目覚めた。