Coming soon!
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そんなことがあってから、あるはれた日曜日にエマはさんぽに出かけました。浅草寺まで歩いてみようと思いました。雷門をとおって、右と左にあるお店を見ながら、ゆっくり歩きました。お寺の前には、けむりが出ているところがあります。線香(せんこう)から出るけむりです。このけむりをあびると、心も体もきれいになると言われています。エマはけむりが自分の体に来るように両手(りょうて)をふりました。それから、かいだんを上がって、さいせんばこにお金を入れて、両手を合わせておじぎをしながら、日本での生活がこれからもうまくいきますように、とおいのりをしました。それから、もう一度おじぎをして、かいだんをおりました。
エマは、来るときに歩いた道をもう一度歩きました。
(右にも左にもたくさんお店があるなあ。あっ、あの人形焼き(にんぎょうやき)――人形の形をした、中にあんが入っているお菓子――はおいしそう。)
そう思いながら歩いていると、地面(じめん)が少しゆれました。
(えっ、じしん?)
と思ったら、まわりが白くなって何も見えなくなりました。
(えっ、どうしよう! どうなってるの? こわい・・・・・・。)
エマは何もわからなくなりました。
目を開けると、エマは土の上によこになっていました。まわりには着物を着た人たちが歩いています。野菜を持っている人、魚を持っている人、地面にすわって地面に何か書いている子どもなど、いろいろな人がいます。
「あれっ、ここはどこ? どこなの?」
エマは体を起こして言いました。
「どうしたんだ?」
女の人がエマに声をかけました。50さいぐらいに見えました。
「あのう、ここはどこですか?」
とエマが聞くと、その人は、
「平泉(ひらいずみ)だ。」
と答えました。
「えっ、浅草にいたのに・・・。」
「何言ってんだよ。でも、あんた、めずらしいもの着てるね。それに、目が青いよ。」
「えっ・・・・・・。」
エマはことばが出ませんでした。
「どっから来たんだ? 家はあるか?」
そのおばさんはエマに聞きました。
「どっからって、浅草からです。家は浅草3丁目・・・・・・、あっちに・・・・・・。」
とエマが指をさしたほうには何もありません。
「あの、今、いつですか。」
「いつですかって、義経様(よしつねさま)が来てるの、知らないのか?」
(義経様って、あの源義経(みなもとのよしつね)? どうして、私、鎌倉(かまくら)時代に来たってこと・・・・・・?)
エマはことばが出ませんでした。ただ土の上にすわることしかできませんでした。
「とにかく、うちで少し休め。」
おばさんは言いました。そして、エマをうちにつれて行ってくれました。
おばさんのうちは、木でできた小さい家でした。入ると、床(ゆか)は土で、かごに入った野菜や魚がおいてあります。その奥(おく)に床が木の部屋があるだけでした。エマは少しおちついたので、おばさんに聞きました。
「あの、義経様が平泉に来て何をするんですか。」
「知らん。でも剣を持ってきたって聞いたよ。」
「剣って?」
「大切な剣らしいよ。平氏をたおしたんだから、それでもらったんかなあ。」
「ええっ・・・・・・。」
エマはびっくりしてことばが出ませんでした。
(もしかしたら、それが山本博士が言っていた剣かもしれない。山本博士と石川先生に伝えたい。でもどうしたら帰れるの?)
エマは、やっと口を開けて言いました。
「あの、その剣って、どこにあるんですか。」
「そんなこと知らねえ。でも、大切なものだから、いい所にあるんじゃね?」
「いいところ?」
「あの金色のお寺とか。」
「金色のお寺って、金色堂(こんじきどう)のことですか。」
「名前はわかんねえけど、金色のお寺って言ったら、一つしかないよ。」
エマは金色堂のことだと思いました。どうにかして金色堂に入って剣があるかどうか、たしかめたい、と思いました。
つぎの日、エマは金色堂まで歩いていきました。お参(まい)りをすることはできましたが、建物の中に入ることはできませんでした。
(中に入らないとわからない。でも、どうやって入るの? 夜、行ってみる? でもこわいよ。)
エマは思いました。その時、白いけむりが出てきてエマをかこみました。そのけむりは動いていきます。
(あれっ、浅草の浅草寺のけむりみたい。)
とエマは思いながら、そのけむりをおっていきました。けむりは建物の中に入っていきます。エマもいっしょに建物の中に入りました。ふしぎなことに、だれも気がついていないようです。
(ふしぎ・・・、けむりで私が見えないってこと?)
建物の中にいたお坊さんも何も気がついていないようです。エマはけむりをおって、小さい部屋に入りました。中には小さいたながあって、そこに金色のはこが三つおいてありました。
(えっ、はこが三つ、山本博士がおっしゃっていたとおりだ!)
エマはふるえました。そして、はこを左から一つずつ開けました。一つ目には何もありませんでした。二つ目にも何もありませんでした。やっぱり三つ目も何もないかと思って開けると、そこには剣がありました。ふるえる手で剣を持ち上げると、重くてしっかりとした剣です。
(あ、あった! 本当にあった! 山本博士の仮説は本当のことだったんだ!)
エマは感動(かんどう)してもう一度ふるえました。
すると、白いけむりが部屋の出口に動きました。エマの足もけむりといっしょにしぜんに部屋の出口に向かいました。エマはけむりといっしょに金色堂から出ました。外に出ると、白いけむりは消えていました。そこにいた人たちがエマを見たり、声をかけたりすることはありませんでした。何もなかったように、エマはおばさんのうちに帰りました。
つぎの日、エマが目をさますと、見たことがある部屋にいました。東京の自分の部屋でした。
(あれっ、昨日はむかしの平泉にいたと思ったんだけど、いつの間にか東京に帰ってたんだ。どうやってかえったんだろう? よくわからない・・・。)
エマはふしぎに思いました。
(でも、昨日見たことははっきりおぼえてる。早く石川先生と山本博士に伝えなきゃ!)
エマは急いで部屋をとび出して、研究室に向かいました。