Coming soon!
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それから1か月たちました。研究室で、山本博士が石川先生とコンピューターをとおして話していました。エマも石川先生のとなりで話を聞くことができました。山本博士は言いました。
「石川先生、この間、エマさんに少し話したことなんですけれど、中尊寺の金色堂で古い手紙が見つかったんです。専門家は、その手紙は12世紀のはじめごろに書かれたもので、字も義経の字と同じようだと言っています。その手紙には義経(よしつね)がある物をここに持ってきたと書いてあったんです。」
石川先生は言いました。
「ある物とおっしゃいますと?」
「三種の神器(さんしゅのじんぎ)の剣(つるぎ)です。」
「えっ、あの壇ノ浦(だんのうら)のたたかいで、平氏といっしょに海にしずんだと言われている?」
「ええ、そうです。」
「義経が見つけたということですか。」
「ええ、その手紙は義経が藤原氏に書いたものですが、たたかいのあとで、義経が海にもぐって見つけたと書いてあります。」
「剣を義経が持っていたということですか。」
「ええ、そのようです。兄の頼朝(よりとも)は剣がなくなっておこっていました。それで、義経がいっしょうけんめいさがしたとかんがえてもふしぎではありません。見つかったあと、義経は京都にいて、頼朝(よりとも)は鎌倉に帰ったので、言うチャンスがなかったのかもしれません。」
「それで、その剣はどうなったのですか。」
「義経が藤原氏のところににげた時、お礼に藤原氏にわたしたようです。これは天皇が本物の天皇であることをあらわす物ですから、藤原氏も大切にしようとしたはずです。それで、金色堂ができた時、金色のはこに入れたという話も伝わっているそうです。」
「えっ、そうなんですか・・・。その金色のはこは金色堂にあるのですか。」
「それを知りたくて、この間、金色堂に行ったのです。その時、エマさんに会いました。」
「ああ、そうだったのですね。」
「とくべつに金色堂の中を見せてもらいました。そうしたら、金色のはこが三つありました。全部開けることができたのですが、どのはこにも何も入っていませんでした。」
「じゃあ、手紙に書いてあることも正しいかどうか、わからないということですね。」
「ええ、そうだとも言えます。けれども、こうかんがえることもできます。つまり、三種の神器を一つずつ入れるために金色のはこを三つつくりました。剣は手に入りました。あとの二つの鏡(かがみ)と玉(たま)は、源氏(げんじ)をたおして天皇から取り上げればいい、と思ったかもしれません。」
「それは、藤原氏が新しい天皇を立てて、日本をおさめようとしていたということですか。」
「そうですね。藤原氏はそれぐらいの力を持っていたと思います。」
「そうですね・・・。それでも、そんな大切な物について手紙で知らせるなんてあぶないことですよね。」
「はい、そう思います。しかし、義経は頼朝に言わないで天皇家から高い位(くらい)をもらっています。少しかんがえがたりない人だったかもしれません。そうかんがえると、手紙で知らせて藤原氏に助けてほしいと思ったかもしれません。」
「はあ、そうですね・・・。」
「義経は平泉で死んでしまいましたが、生きていれば、藤原氏といっしょに日本をおさめていたかもしれません。今話したことは仮説(かせつ)ですが、一つの新しい発見(はっけん)だとかんがえることもできます。仮説として発表したいと思っています。」
「ただ、山本博士、手紙はあっても剣がないので、エビデンスがないということですよね。発表するのはちょっと・・・。博士の名前にきずがついたら困ります。」
「いえ、仮説ですから。それに、発表すれば、そこから研究が広がっていくと思います。それが大切だと思っています。」
「そうですか・・・。そこまでおっしゃるなら・・・。」
石川先生は少し心配そうに言いました。
つぎの日、山本博士はこの話を仮説として発表しました。ある歴史学者は、そういう見方もあるだろうと言いました。他の歴史学者はエビデンスがないから、何とも言えないと言いました。
石川先生とエマは、どちらの意見もよくわかりました。とにかく山本博士の名前にきずがつかないようにと思っていました。