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旅館での出来事のあと、一か月ぐらいたった。ベレンは大学の図書館で、妖怪(ようかい:不思議であやしい生き物)についての本を読んでいた。目の前にある化け物(ばけもの:怖いものや変なかたちをした生き物)の絵を見て、ふかく考え込んだ。高橋とのさいごの会話が何回も頭の中でくり返されていた。「この村は何世紀も前の呪い(のろい:悪いことが起こるようにするもの)にまき込まれている」、「ベレンなら、呪いをとくことができると思う」。呪いがあるとしても、呪いにくわしくなく、ふつうの留学生であり、超能力(ちょうのうりょく:ふつうではできない不思議な力)なんて持ってないベレンに何ができるのか。
目の前のページにはもみじの模様(もよう:ふくにある絵などのこと)で、緑と赤色の着物を着ている女の人の絵があった。長くのびている黒い髪で、顔がゆきのように真っ白だ。そして、頭にツノ(どうぶつの頭にあるかたいもの)が一本生えていて、手に大きなナイフを持っている。絵の上に「鬼女(きじょ:女の鬼(おに))」という文字で書かれていた。顔は美人だけど、怖く見えた。あんな鬼女と出会って、呪いをとくなんてぜったいできないとベレンは思った。断ったほうがいいのか。
ベレンはためいきをついて、また本に目を落とした。鬼女についての説明を見つけて、読んでみた。恨み(うらみ:だれかに対するいやな気持ち)などから鬼になってしまった女性である鬼女は、人を呪ったり、殺したりする能力を持っていると書いてあった。そして、とてもしつこいと。
「もともと人間だったのか。かなしいじゃん」とベレンはささやいた。
あの村の鬼女もそうだろう。人だったが、何かが起こったせいで、鬼になってしまって、村人をたたったり(神、れい(死んだ人)が悪いことを起こすこと)、殺したりするようになったのかな。そして、旅館の伝説(でんせつ:むかしから伝わるふしぎな話のこと)に出てきた奥さんが愛している人とけっこんするために鬼女とけいやくをむすんだように、ほかの村人といろいろなけいやくをむすんだかもしれない。もし、あんな鬼女がてきになったら、自分がたたられてしまうかもしれない。それだけではなく、殺されるかもしれない。とにかく、何世紀も前の呪いを相手に、ベレンのようなふつうの人は何ができるだろう。
ほかのページを見ると、パイプを吸っている猫の絵が目についた。絵の上に「化け猫」ということが書いてあった。ベレンはあのミステリアスな夢を思い出した。夢の中で、魔女(まじょ:まほうを使う女)の家へ送ってくれた黒猫は高橋だった。高橋は化け猫と言えるだろうか。でも、説明を読んでみると、ふつうの猫が化け猫になるというパターンが多いそうだ。人に殺された猫が、化け猫になってしまって、人をたたると書いてあった。なかなか高橋らしくない。そして、高橋は人の形をしていて、猫になることができるという能力を持っているみたいだ。あるいは、人になることができる猫かもしれない。高橋が、もともと人間なのか、猫なのか、ベレンにはわからない。とにかくおそろしいものに見えなくて、信頼できるものだとベレンは感じた。でも、呪いをとくことにベレンが力になれるのか、心配だ。
その夜、ベッドでよこになった時、高橋からメッセージが来た。
「ベレン、心の準備はできた?」
ベレンは返事をせず、電気を消して、目をとじた。
旅館での出来事が起こってから一か月ぐらい経った。ベレンは大学の図書館で、妖怪についての本のページをめくっていた。目の前にある化け物の挿絵を見て、深く考え込んだ。高橋との最後の会話が何回も頭の中で繰り返されていた。「この村は何世紀も前の呪いに巻き込まれている」、「ベレンなら、呪いを解くことができると思う」。呪いが存在しても、呪いの解き方に詳しくなく、普通の留学生であり、超能力なんて持ってないベレンに何ができるのか。
目の前のページには紅葉の模様で、緑と赤色の着物を着ている女の人の挿絵があった。長く伸びている黒い髪で、顔が雪のように真っ白だ。そして、頭にツノが一本生えていて、片手で大きなナイフを持っている。絵の上に「鬼女」という目立つ文字で書かれていた。顔は美人だけど、怖く見えた。あんな鬼女と出会って、呪いを解くなんて絶対できないとベレンは思った。断ったほうがいいのか。
ベレンはため息をついて、また本に目を落とした。鬼女についての説明を見つけて、読んでみた。恨みなどから鬼になってしまった女性である鬼女は、人を呪ったり、殺したりする能力を持っていると書いてあった。そして、非常に執念深いと。
「もともと人間だったのか。悲しいじゃん」とベレンは呟いた。
あの村の鬼女もそうだろう。人間だったが、何かが起こったせいで、鬼になってしまって、村人を祟ったり、殺したりするようになったのかな。そして、旅館の伝説に出てきた奥さんが愛している人と結婚するために鬼女と契約を結んだように、他の村人といろいろな契約を結んだかもしれない。もし、あんな鬼女が敵になったら、自分が祟られてしまうかもしれない。それだけではなく、殺される可能性もあるじゃないか。とにかく、何世紀も前の呪いを相手に、ベレンのような普通の人は何ができるだろう。
ページをめくると、パイプを吸っている猫の絵が目についた。挿絵の上に「化け猫」という大きい文字が書いてあった。ベレンはあのミステリアスな夢を思い出した。夢の中で、魔女の小屋へ送ってくれた黒猫は高橋だったということは明らかだ。高橋は化け猫と言えるだろうか。でも、説明を読んでみると、普通の猫が化け猫になるというパターンが多いそうだ。人間に殺された猫が、化け猫になってしまって、人を祟るという恐ろしい存在であると書いてあった。なかなか高橋らしくない。そして、高橋は人の形をしていて、猫に化けることができるという能力を持っているみたいだ。あるいは、人間に化けることができる猫かもしれない。高橋が、もともと人間なのか、猫なのか、ベレンにはわからない。とにかく恐ろしい存在には見えなくて、信頼できるものだとベレンは感じた。でも、呪いを解くことにベレンが力になれるのか、心配だ。
その夜、ベッドであおむけになった時、高橋からメッセージが来た。
「ベレン、心の準備はできた?」
ベレンはメッセージが既読無視の状態で、電気を消して、目をつぶった。