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自分探しの旅
謎の男
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Coming soon!
「ここはどこ……」
目を開けたとき、ベレンは自分一人で森の中に立っていた。まわりはとても静かで、自分以外は一人もいない。
思わずポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出して場所をかくにんしようとしたが、
「あれ、スマホがない!」
いつもポケットに入れているはずのスマートフォンが、なぜか行方不明になっているようだ。
「部屋に忘れていたのかな?よりによってこんな時に持っていないなんて…」
しかたがない。どうやら前に進んでだれかにたずねるしかないようだ。
まだ完全に明るくなっておらず、気味が悪いほど静かな森の中で、ベレンの足音や、たまに聞こえる鳥の声しか聞こえなかった。少しこわくなったベレンはつばを飲みこみ、まわりを見ながら気をつけて前に進んでいった。
「ちょっと静かすぎ…早くだれか見つけないと。」
ベレンは少し早く歩きはじめ、早くこのだれもいない森を出ようとする。
しかし、この道はえいえんに続くように、いくら歩いても道の終わりが見えない。
もうしばらく歩いたら、ベレンは立ち止まった。彼女は後ろを見て、また前を見て、あるぜつぼうてきなことに気づいた。
この道の前も後ろも終わりが見えない森しか広がっていない。
ずいぶん歩いていたのに、やはり出口が見えない。
「まさか…」
おそろしい考えがいくつかうかんできた。より具体的なイメージが頭にうかぶ前に、ベレンは急いで自分の考えをやめた。
「いやいやいや、そんなことがあるはずがない!自分で自分をおどろかすんじゃない!」
前に進むために、ベレンは自分のほおを強くたたき、心をしっかりさせようとする。
しかし、急に、耳のそばから高い鳴き声が聞こえた。
「カァー、カァー」
一体何が起こっているのかかくにんしようとするベレンは、そのつぎに、自分の頭とかたが何かにはげしく叩かれているのを感じた。
もう冷静に考えるよゆうはないよ!
背中にきょうふの鳥肌が立ったベレンは目を閉じて全力で走って逃げる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
不明なこうげきを防ぐようにベレンは両手で頭をまもりながら、しばらく走りつづけた。
後ろのこうげきはだんだんと遠くなって、最終的には完全に消えた。
ベレンは足を止め、後ろを見て状況をかくにんする。
「はぁ、ビックリした!」
何がこうげきしているのかはわからないが、たしかにいなくなったようで、ベレンは安心した。
「さあ、ここはどこかな…」
先ほどより少し明るくなり、しゅういがよく見えるようになった。
まわりを見回したら、自分がこれまでずっと石でできた道を走っていたことにベレンが気づいた。そして、道の両側には、高く伸びたスギの木々と…
「ここは……墓地(ぼち)!?」
まわりにぎっしりと並ぶ墓石(ぼせき)を見て、ベレンはおどろいて目を大きく開いた。
「待って、ここは、どこかで見たことがあるような…」
いっしょうけんめい考えているようにあごをおさえているベレンは、目の前の景色を見てきおくの中で手がかりを探していた。
石でできた道、スギの木々、墓石…
たしかに見覚えのある場所のような気がするが…
「あー!わかった!ここは奥之院(おくのいん)だわ!」
奥之院はたしかに墓域(ぼいき)だ。そして、高野山の大切な場所の一つでもある。ベレンが今立っている場所は、弘法大師(こうぼうだいし)がねむる場所へ行くための橋、御廟橋(ごびょうばし)というところだ。その両側には、戦国時代(せんごくじだい:15世紀から17世紀の日本のれきしの時代)の大名(だいみょう:むかしの日本で、広い土地を持っていた重要な人で、地域をかんりして、へいしも持っていた)から普通の人々まで、20万以上のはかが並んでいる。ここからさらに前に進むと、燈籠堂(とうろうどう)が見える。燈籠堂は御廟(ごびょう:大切な人をくようするための場所)の拝殿(はいでん:神社の前にある建物で、神様におまいりするための場所)で、参拝(さんぱい)と供養(くよう)の場所となっている。堂の中に、2万個以上のとうろうが光っているのが見えます。そして、弘法大師(こうぼうだいし)がなくなった場所である御廟(ごびょう)は、その奥にある。
「ここ、私がネットで調べた時に見た通りだわ。」
まわりのスギの木と墓石を見て、ベレンは思わず感心した。
「でも、なんで私がここまで来ちゃったんだろう…」
先ほどから起こったことがすべてみょうな感じがする。
こんな時間に自分がまだ寝ているはずなのに、なんで奥之院まで来てしまったのだろう。
「しかも、早すぎてだれもいなくて、こわいな…」
ベレンはうでを抱えて、体がふるえている。
「まあでも、もう来ちゃったし、前に進んでみようか。」
もともと、奥之院はあした行きたい場所のリストに入っているし。
「あれ、これって…」
御廟橋(ごびょうばし)を渡って数歩歩くと、前に井戸(いど)が見えてきた。
姿見の井戸(すがたみのいど)。
高野山には「こうや七不思議(こうやしちふしぎ)」というのがある。この井戸はその七つのふしぎの中の一つである。もしこの井戸をのぞきこんで井戸水に自分のすがたが映らなければ、三年以内に死んでしまうと言われている。
「この井戸、ここにあるはずがないんだけど…」
もし自分のきおくが正しければ、この井戸は別のルート、中の橋のほうにあるはずだった。
「おかしいな、なんでここにあらわれたんだろう…?」
井戸を見つめながら考えこんでいたベレンは、気づかないうちに井戸に近づいていた。
「見た感じ、特におかしいところとかないみたいだけど」
ベレンは井戸の口に近づかないように気をつけながら、まわりを見ている。
「やっぱりやめとこう。」
ただのうそかもしれないが、命にえいきょうがあるかもしれないので、問題にまきこまれないように気をつけよう。
しかし、その場所を出ようとするベレンは、自分の足をコントロールできないかのように、少しずつ井戸に向かって近づいている。
「足がかってに…」
自分の行動におどろいたベレンは自分の足をひっしに止めようとするが、ダメだった。
やがて彼女は井戸の前に止まった。
「やだやだやだ!」
ベレンは目をとじたまま頭をよこに向けた。
こんなの、見るもんか!
しかし、彼女の足はまるで床にくっつけられたように、ぜんぜん動かない。
「まさかずっとこんなじょうたいでいられるじゃないわよね…」
動かないじょうたいが続いた後、ベレンはどうしようもなく目を開けた。
「どうやら、私の運をためすしかないみたいだね…」
こんなところには一秒もいたくない!さっさと井戸を見て、さっさとはなれよう!
しかたがなく、ベレンはゆっくりと顔を井戸の口に近づけている。
「大丈夫、大丈夫…」
自分を安心させようといきをはきながらささやいたが、ベレンのひたいからは少しあせが出ていた。
しんこきゅうをした後、ベレンはゆうきを出して体を井戸のふちまで近づけ、下を見た。
すると、
「キャッ!!」
静かでなみが立たない井戸水は、かがみのようにベレンの顔をはっきりと映し出していた。
しかし、それと同時に、彼女の顔のよこにはもう一人の男の顔も映っていた。
ベレンはおどろいて後ずさりし、つまずきそうになった。彼女はふるえながら、後ろをふりかえって見るべきかどうか迷っている。
「あなた、ここで何をしているんですか?」
後ろから男の声がした。
「……」
ベレンはだまっており、心の中でぎもんを抱えている。
少し前までここにはだれもいなかったのに、この男はどこから出てきたのだろう?
「おじょうちゃん?」
後ろから男が近づいてくる足音が聞こえた。
「私…」
ベレンはためらいながらも、その男の顔を見るゆうきがなかった。
「私も、自分がなぜこんなところに来てしまったのかよくわからない…」
男は何もはんのうしていなかった。
しばらくちんもくが続き、ただでさえ静かなまわりがさらに音がないじょうたいになった。
「じゃあ、あなたは?ここで何をしているんですか?」
ベレンはゆうきを出して聞きかえしたが、まだ男の顔をさけている。
「私?私はもうずっと前からここにいるんですよ。」
男は笑顔で答えた。
目を開けたとき、ベレンは自分一人で森の中に立っていた。まわりはとても静かで、自分以外は一人もいない。
思わずポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出して場所をかくにんしようとしたが、
「あれ、スマホがない!」
いつもポケットに入れているはずのスマートフォンが、なぜか行方不明になっているようだ。
「部屋に忘れていたのかな?よりによってこんな時に持っていないなんて…」
しかたがない。どうやら前に進んでだれかにたずねるしかないようだ。
まだ完全に明るくなっておらず、気味が悪いほど静かな森の中で、ベレンの足音や、たまに聞こえる鳥の声しか聞こえなかった。少しこわくなったベレンはつばを飲みこみ、まわりを見ながら気をつけて前に進んでいった。
「ちょっと静かすぎ…早くだれか見つけないと。」
ベレンは少し早く歩きはじめ、早くこのだれもいない森を出ようとする。
しかし、この道はえいえんに続くように、いくら歩いても道の終わりが見えない。
もうしばらく歩いたら、ベレンは立ち止まった。彼女は後ろを見て、また前を見て、あるぜつぼうてきなことに気づいた。
この道の前も後ろも終わりが見えない森しか広がっていない。
ずいぶん歩いていたのに、やはり出口が見えない。
「まさか…」
おそろしい考えがいくつかうかんできた。より具体的なイメージが頭にうかぶ前に、ベレンは急いで自分の考えをやめた。
「いやいやいや、そんなことがあるはずがない!自分で自分をおどろかすんじゃない!」
前に進むために、ベレンは自分のほおを強くたたき、心をしっかりさせようとする。
しかし、急に、耳のそばから高い鳴き声が聞こえた。
「カァー、カァー」
一体何が起こっているのかかくにんしようとするベレンは、そのつぎに、自分の頭とかたが何かにはげしく叩かれているのを感じた。
もう冷静に考えるよゆうはないよ!
背中にきょうふの鳥肌が立ったベレンは目を閉じて全力で走って逃げる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
不明なこうげきを防ぐようにベレンは両手で頭をまもりながら、しばらく走りつづけた。
後ろのこうげきはだんだんと遠くなって、最終的には完全に消えた。
ベレンは足を止め、後ろを見て状況をかくにんする。
「はぁ、ビックリした!」
何がこうげきしているのかはわからないが、たしかにいなくなったようで、ベレンは安心した。
「さあ、ここはどこかな…」
先ほどより少し明るくなり、しゅういがよく見えるようになった。
まわりを見回したら、自分がこれまでずっと石でできた道を走っていたことにベレンが気づいた。そして、道の両側には、高く伸びたスギの木々と…
「ここは……墓地(ぼち)!?」
まわりにぎっしりと並ぶ墓石(ぼせき)を見て、ベレンはおどろいて目を大きく開いた。
「待って、ここは、どこかで見たことがあるような…」
いっしょうけんめい考えているようにあごをおさえているベレンは、目の前の景色を見てきおくの中で手がかりを探していた。
石でできた道、スギの木々、墓石…
たしかに見覚えのある場所のような気がするが…
「あー!わかった!ここは奥之院(おくのいん)だわ!」
奥之院はたしかに墓域(ぼいき)だ。そして、高野山の大切な場所の一つでもある。ベレンが今立っている場所は、弘法大師(こうぼうだいし)がねむる場所へ行くための橋、御廟橋(ごびょうばし)というところだ。その両側には、戦国時代(せんごくじだい:15世紀から17世紀の日本のれきしの時代)の大名(だいみょう:むかしの日本で、広い土地を持っていた重要な人で、地域をかんりして、へいしも持っていた)から普通の人々まで、20万以上のはかが並んでいる。ここからさらに前に進むと、燈籠堂(とうろうどう)が見える。燈籠堂は御廟(ごびょう:大切な人をくようするための場所)の拝殿(はいでん:神社の前にある建物で、神様におまいりするための場所)で、参拝(さんぱい)と供養(くよう)の場所となっている。堂の中に、2万個以上のとうろうが光っているのが見えます。そして、弘法大師(こうぼうだいし)がなくなった場所である御廟(ごびょう)は、その奥にある。
「ここ、私がネットで調べた時に見た通りだわ。」
まわりのスギの木と墓石を見て、ベレンは思わず感心した。
「でも、なんで私がここまで来ちゃったんだろう…」
先ほどから起こったことがすべてみょうな感じがする。
こんな時間に自分がまだ寝ているはずなのに、なんで奥之院まで来てしまったのだろう。
「しかも、早すぎてだれもいなくて、こわいな…」
ベレンはうでを抱えて、体がふるえている。
「まあでも、もう来ちゃったし、前に進んでみようか。」
もともと、奥之院はあした行きたい場所のリストに入っているし。
「あれ、これって…」
御廟橋(ごびょうばし)を渡って数歩歩くと、前に井戸(いど)が見えてきた。
姿見の井戸(すがたみのいど)。
高野山には「こうや七不思議(こうやしちふしぎ)」というのがある。この井戸はその七つのふしぎの中の一つである。もしこの井戸をのぞきこんで井戸水に自分のすがたが映らなければ、三年以内に死んでしまうと言われている。
「この井戸、ここにあるはずがないんだけど…」
もし自分のきおくが正しければ、この井戸は別のルート、中の橋のほうにあるはずだった。
「おかしいな、なんでここにあらわれたんだろう…?」
井戸を見つめながら考えこんでいたベレンは、気づかないうちに井戸に近づいていた。
「見た感じ、特におかしいところとかないみたいだけど」
ベレンは井戸の口に近づかないように気をつけながら、まわりを見ている。
「やっぱりやめとこう。」
ただのうそかもしれないが、命にえいきょうがあるかもしれないので、問題にまきこまれないように気をつけよう。
しかし、その場所を出ようとするベレンは、自分の足をコントロールできないかのように、少しずつ井戸に向かって近づいている。
「足がかってに…」
自分の行動におどろいたベレンは自分の足をひっしに止めようとするが、ダメだった。
やがて彼女は井戸の前に止まった。
「やだやだやだ!」
ベレンは目をとじたまま頭をよこに向けた。
こんなの、見るもんか!
しかし、彼女の足はまるで床にくっつけられたように、ぜんぜん動かない。
「まさかずっとこんなじょうたいでいられるじゃないわよね…」
動かないじょうたいが続いた後、ベレンはどうしようもなく目を開けた。
「どうやら、私の運をためすしかないみたいだね…」
こんなところには一秒もいたくない!さっさと井戸を見て、さっさとはなれよう!
しかたがなく、ベレンはゆっくりと顔を井戸の口に近づけている。
「大丈夫、大丈夫…」
自分を安心させようといきをはきながらささやいたが、ベレンのひたいからは少しあせが出ていた。
しんこきゅうをした後、ベレンはゆうきを出して体を井戸のふちまで近づけ、下を見た。
すると、
「キャッ!!」
静かでなみが立たない井戸水は、かがみのようにベレンの顔をはっきりと映し出していた。
しかし、それと同時に、彼女の顔のよこにはもう一人の男の顔も映っていた。
ベレンはおどろいて後ずさりし、つまずきそうになった。彼女はふるえながら、後ろをふりかえって見るべきかどうか迷っている。
「あなた、ここで何をしているんですか?」
後ろから男の声がした。
「……」
ベレンはだまっており、心の中でぎもんを抱えている。
少し前までここにはだれもいなかったのに、この男はどこから出てきたのだろう?
「おじょうちゃん?」
後ろから男が近づいてくる足音が聞こえた。
「私…」
ベレンはためらいながらも、その男の顔を見るゆうきがなかった。
「私も、自分がなぜこんなところに来てしまったのかよくわからない…」
男は何もはんのうしていなかった。
しばらくちんもくが続き、ただでさえ静かなまわりがさらに音がないじょうたいになった。
「じゃあ、あなたは?ここで何をしているんですか?」
ベレンはゆうきを出して聞きかえしたが、まだ男の顔をさけている。
「私?私はもうずっと前からここにいるんですよ。」
男は笑顔で答えた。
「ここはどこ……」
目を開けたとき、ベレンは自分一人で森の中に立っていた。周りはとても静かで、自分以外は一人も見当たらない。
思わずポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出して位置情報を確認しようとしたが、
「あれ、スマホがない!」
いつもポケットに入れているはずのスマートフォンが、なぜか行方不明になっているようだ。
「部屋に忘れていたのかな?よりによってこんな時に手元にないなんて…」
しかたがない。どうやら前に進んでだれかに尋ねるしかないようだ。
まだ完全に明るくなっておらず、不気味に静まり返っている森の中で、ベレンの足音や時折聞こえる鳥の鳴き声しか響いていない。少し怖くなったベレンは唾を飲み込み、周りを見ながら慎重に前に進んでいった。
「ちょっと静かすぎ…早くだれか見つけないと。」
ベレンは少し歩みを速め、早くこの誰もいない森を出ようとする。
しかし、この道は永遠に続くように、いくら歩いても道の終わりが見えない。
もうしばらく歩いたら、ベレンは立ち止まった。彼女は後ろを振り返り、そしてまた前を振り返り、ある絶望的なことに気づいた。
この道の前も後ろも果てしない森しか広がっていない。
散々歩いていたのに、やはり出口が見えない。
「まさか…」
恐ろしい考えがいくつか浮かんできた。より具体的なイメージが頭に浮かぶ前に、ベレンは急いで自分の考えをやめた。
「いやいやいや、そんなことがあるはずがない!自分で自分を驚かすんじゃない!」
前に進むために、ベレンは自分の頬を強く叩き、立ち直ろうとする。
しかし、突然、耳のそばから高い鳴き声が聞こえた。
「カァー、カァー」
一体何が起こっているのか確認しようとするベレンは、その次に、自分の頭と肩が何かに激しく叩かれているのを感じた。
もう冷静に分析するどころじゃないよ!
背中に恐怖の鳥肌が立ったベレンは目を閉じてひたすら走って逃げる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
未知の攻撃を防ぐようにベレンは両手で頭をかばいながらしばらく走り続けた。
後ろからの攻撃はだんだん遠ざかり、最終的には完全に消えた。
ベレンは足を止め、後ろを振り返って状況を確認する。
「はぁ、ビックリした!」
攻撃の正体はわからないが、確かにいなくなったようで、ベレンはほっとした。
「さあ、ここはどこかな…」
先ほどより少し明るくなり、周囲がよく見えるようになった。
周りを見回したら、自分がこれまでずっと石畳の道を走っていたことにベレンが気づいた。そして、道の両側には、そびえたつ杉木立と…
「ここは……墓地!?」
周りにびっしりと立ち並ぶ墓石を見て、ベレンは思わず目を見張った。
「待って、ここは、どこかで見たことがあるような…」
一生懸命考えているように顎をおさえているベレンは、目の前にある光景に関する記憶を頭の中で探ろうとした。
石畳の道、杉木立、墓石…
確かに見覚えのある場所のような気がするが…
「あー!わかった!ここは奥之院だわ!」
奥之院は確かに墓域だ。そして、高野山の聖地の一つでもある。ベレンが今立っている場所は、弘法大師が入定されている御廟へ向かう御廟橋というところだ。その両側には戦国大名から庶民まで20万基以上の墓碑が並んでいる。ここからさらに前に進むと、燈籠堂が見える。燈籠堂は御廟の拝殿で、参拝と供養の場所となっている。堂内には、参拝者から献じられた灯籠が2万基以上灯っている。そして、弘法大師入定の御廟はその奥にある。
「ここ、私がネットで調べた時に見た通りだわ。」
周りの杉木立と墓石群を見回し、ベレンはつい感嘆した。
「でも、なんで私がここまで来ちゃったんだろう…」
先ほどから起こったことがすべて妙な感じがする。
こんな時間に自分がまだ寝ているはずなのに、なんで奥之院まで来てしまったのだろう。
「しかも、早すぎて誰もいなくて、怖いな…」
ベレンは腕を抱え、ぶるぶる震えている。
「まあでも、もう来ちゃったし、前に進んでみようか。」
元々、奥之院は翌日に行ってみたい場所のリストに入っているし。
「あれ、これって…」
御廟橋を渡って数歩歩くと、目の前にある井戸が現れた。
姿見の井戸。
高野山には「こうや七不思議」というのがある。この井戸はその七つの不思議の中の一つである。もしこの井戸を覗き込んで井戸水に自分の姿が映らなければ、三年以内に死んでしまうと言われている。
「この井戸、ここにあるはずがないんだけど…」
もし自分の記憶が正しければ、この井戸は別のルート、中の橋のほうにあるはずだった。
「おかしいな、なんでここに現れたんだろう…?」
井戸を見つめながら考え込んでいたベレンは、気づかないうちに井戸に近づいていた。
「見た感じ、特におかしいところとかないみたいだけど」
ベレンは慎重に井戸の口を避けながら周囲を探っている。
「やっぱりやめとこう。」
根も葉もない噂にすぎないが、命にかかわることだし、厄介なことに巻き込まれないように気を付けよう。
しかし、その場を立ち去ろうとするベレンは、自分の足をコントロールできないかのように、少しずつ井戸に向かって近づいている。
「足が勝手に…」
自分の行動に驚いたベレンは自分の足を必死に止めようとするが、無駄だった。
やがて彼女は井戸の前に止まった。
「やだやだやだ!」
ベレンは目を閉じたまま頭をそらす。
こんなの、見るもんか!
しかし、彼女の足はまるで床に釘づけにされたかのように、一歩も動けない。
「まさかずっとこんな状態でいられるじゃないわよね…」
膠着状態がしばらく続いた後、ベレンはどうしようもなく目を開けた。
「どうやら、私の運を試すしかないみたいだね…」
こんなところには一秒もいたくない!さっさと井戸を見て、さっさと離れよう!
仕方がなく、ベレンはゆっくりと顔を井戸の口に近づけている。
「大丈夫、大丈夫…」
自分を安心させようと息を吐きながらつぶやいたが、ベレンの額からはすでに薄い汗がにじみ出ていた。
深呼吸をした後、ベレンは勇気を振り絞り、体を一気に井戸の縁まで寄せて下を向いた。すると、
「キャッ!!」
静かで波が立たない井戸水は、鏡のようにベレンの顔をはっきりと映し出していた。
しかし、それと同時に、彼女の顔の横にはもう一人の男の顔も映っていた。
ベレンは驚いて後ずさりし、つまずきそうになった。彼女は震えながら、後ろを振り返って見るべきかどうか迷っている。
「あなた、ここで何をしているんですか?」
後ろから男の声がした。
「……」
ベレンは黙っており、心の中で疑問を抱えている。
少し前までここには誰もいなかったのに、この男はどこから出てきたのだろう?
「お嬢ちゃん?」
後ろから男が近づいてくる足音が聞こえた。
「私…」
ベレンはためらいながらも、その男の顔を見る勇気がなかった。
「私も、自分がなぜこんなところに来てしまったのかよくわからない…」
男は何も反応していなかった。
しばらく沈黙が続き、ただでさえ静かな周囲は一層静寂になった。
「じゃあ、あなたは?ここで何をしているんですか?」
ベレンは勇気を出して聞き返したが、まだ男の顔を避けている。
「私?私はもうずっと前からここにいるんですよ。」
男は笑顔で答えた。
目を開けたとき、ベレンは自分一人で森の中に立っていた。周りはとても静かで、自分以外は一人も見当たらない。
思わずポケットに手を入れ、スマートフォンを取り出して位置情報を確認しようとしたが、
「あれ、スマホがない!」
いつもポケットに入れているはずのスマートフォンが、なぜか行方不明になっているようだ。
「部屋に忘れていたのかな?よりによってこんな時に手元にないなんて…」
しかたがない。どうやら前に進んでだれかに尋ねるしかないようだ。
まだ完全に明るくなっておらず、不気味に静まり返っている森の中で、ベレンの足音や時折聞こえる鳥の鳴き声しか響いていない。少し怖くなったベレンは唾を飲み込み、周りを見ながら慎重に前に進んでいった。
「ちょっと静かすぎ…早くだれか見つけないと。」
ベレンは少し歩みを速め、早くこの誰もいない森を出ようとする。
しかし、この道は永遠に続くように、いくら歩いても道の終わりが見えない。
もうしばらく歩いたら、ベレンは立ち止まった。彼女は後ろを振り返り、そしてまた前を振り返り、ある絶望的なことに気づいた。
この道の前も後ろも果てしない森しか広がっていない。
散々歩いていたのに、やはり出口が見えない。
「まさか…」
恐ろしい考えがいくつか浮かんできた。より具体的なイメージが頭に浮かぶ前に、ベレンは急いで自分の考えをやめた。
「いやいやいや、そんなことがあるはずがない!自分で自分を驚かすんじゃない!」
前に進むために、ベレンは自分の頬を強く叩き、立ち直ろうとする。
しかし、突然、耳のそばから高い鳴き声が聞こえた。
「カァー、カァー」
一体何が起こっているのか確認しようとするベレンは、その次に、自分の頭と肩が何かに激しく叩かれているのを感じた。
もう冷静に分析するどころじゃないよ!
背中に恐怖の鳥肌が立ったベレンは目を閉じてひたすら走って逃げる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
未知の攻撃を防ぐようにベレンは両手で頭をかばいながらしばらく走り続けた。
後ろからの攻撃はだんだん遠ざかり、最終的には完全に消えた。
ベレンは足を止め、後ろを振り返って状況を確認する。
「はぁ、ビックリした!」
攻撃の正体はわからないが、確かにいなくなったようで、ベレンはほっとした。
「さあ、ここはどこかな…」
先ほどより少し明るくなり、周囲がよく見えるようになった。
周りを見回したら、自分がこれまでずっと石畳の道を走っていたことにベレンが気づいた。そして、道の両側には、そびえたつ杉木立と…
「ここは……墓地!?」
周りにびっしりと立ち並ぶ墓石を見て、ベレンは思わず目を見張った。
「待って、ここは、どこかで見たことがあるような…」
一生懸命考えているように顎をおさえているベレンは、目の前にある光景に関する記憶を頭の中で探ろうとした。
石畳の道、杉木立、墓石…
確かに見覚えのある場所のような気がするが…
「あー!わかった!ここは奥之院だわ!」
奥之院は確かに墓域だ。そして、高野山の聖地の一つでもある。ベレンが今立っている場所は、弘法大師が入定されている御廟へ向かう御廟橋というところだ。その両側には戦国大名から庶民まで20万基以上の墓碑が並んでいる。ここからさらに前に進むと、燈籠堂が見える。燈籠堂は御廟の拝殿で、参拝と供養の場所となっている。堂内には、参拝者から献じられた灯籠が2万基以上灯っている。そして、弘法大師入定の御廟はその奥にある。
「ここ、私がネットで調べた時に見た通りだわ。」
周りの杉木立と墓石群を見回し、ベレンはつい感嘆した。
「でも、なんで私がここまで来ちゃったんだろう…」
先ほどから起こったことがすべて妙な感じがする。
こんな時間に自分がまだ寝ているはずなのに、なんで奥之院まで来てしまったのだろう。
「しかも、早すぎて誰もいなくて、怖いな…」
ベレンは腕を抱え、ぶるぶる震えている。
「まあでも、もう来ちゃったし、前に進んでみようか。」
元々、奥之院は翌日に行ってみたい場所のリストに入っているし。
「あれ、これって…」
御廟橋を渡って数歩歩くと、目の前にある井戸が現れた。
姿見の井戸。
高野山には「こうや七不思議」というのがある。この井戸はその七つの不思議の中の一つである。もしこの井戸を覗き込んで井戸水に自分の姿が映らなければ、三年以内に死んでしまうと言われている。
「この井戸、ここにあるはずがないんだけど…」
もし自分の記憶が正しければ、この井戸は別のルート、中の橋のほうにあるはずだった。
「おかしいな、なんでここに現れたんだろう…?」
井戸を見つめながら考え込んでいたベレンは、気づかないうちに井戸に近づいていた。
「見た感じ、特におかしいところとかないみたいだけど」
ベレンは慎重に井戸の口を避けながら周囲を探っている。
「やっぱりやめとこう。」
根も葉もない噂にすぎないが、命にかかわることだし、厄介なことに巻き込まれないように気を付けよう。
しかし、その場を立ち去ろうとするベレンは、自分の足をコントロールできないかのように、少しずつ井戸に向かって近づいている。
「足が勝手に…」
自分の行動に驚いたベレンは自分の足を必死に止めようとするが、無駄だった。
やがて彼女は井戸の前に止まった。
「やだやだやだ!」
ベレンは目を閉じたまま頭をそらす。
こんなの、見るもんか!
しかし、彼女の足はまるで床に釘づけにされたかのように、一歩も動けない。
「まさかずっとこんな状態でいられるじゃないわよね…」
膠着状態がしばらく続いた後、ベレンはどうしようもなく目を開けた。
「どうやら、私の運を試すしかないみたいだね…」
こんなところには一秒もいたくない!さっさと井戸を見て、さっさと離れよう!
仕方がなく、ベレンはゆっくりと顔を井戸の口に近づけている。
「大丈夫、大丈夫…」
自分を安心させようと息を吐きながらつぶやいたが、ベレンの額からはすでに薄い汗がにじみ出ていた。
深呼吸をした後、ベレンは勇気を振り絞り、体を一気に井戸の縁まで寄せて下を向いた。すると、
「キャッ!!」
静かで波が立たない井戸水は、鏡のようにベレンの顔をはっきりと映し出していた。
しかし、それと同時に、彼女の顔の横にはもう一人の男の顔も映っていた。
ベレンは驚いて後ずさりし、つまずきそうになった。彼女は震えながら、後ろを振り返って見るべきかどうか迷っている。
「あなた、ここで何をしているんですか?」
後ろから男の声がした。
「……」
ベレンは黙っており、心の中で疑問を抱えている。
少し前までここには誰もいなかったのに、この男はどこから出てきたのだろう?
「お嬢ちゃん?」
後ろから男が近づいてくる足音が聞こえた。
「私…」
ベレンはためらいながらも、その男の顔を見る勇気がなかった。
「私も、自分がなぜこんなところに来てしまったのかよくわからない…」
男は何も反応していなかった。
しばらく沈黙が続き、ただでさえ静かな周囲は一層静寂になった。
「じゃあ、あなたは?ここで何をしているんですか?」
ベレンは勇気を出して聞き返したが、まだ男の顔を避けている。
「私?私はもうずっと前からここにいるんですよ。」
男は笑顔で答えた。