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妖怪の囁き・上
ゴーストハンティング
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Coming soon!
夜になって、ベレンはアガサの部屋に来た。
「きのう、幽霊を探しに行ったんだよね?何をしたの?」とたずねた。
彼女たちはふとんに座って、コンビニで買ったおかしを食べながら、ゴーストハンティングの計画を立ててみた。
「まあ・・・何か特別なことをしたわけじゃないけど。暗くなった時、旅館のまわりを散歩したり、人のいないところに行ったり、旅館の中を歩き回ったりしただけだよ」とアガサは小さな声で言った。
「それから、一階のろうかに電灯がゆれ始めて、ふしぎな人のすがたを見たのね」
「うん。そして、幽霊のごうきゅうが聞こえた」とアガサはうなずいた。
「じゃあ、今日も同じことをくりかえそう」
「いいの?もし二人でいたら、幽霊が出ないかも」
アガサがそう言ったとたん、悲しそうに泣いている声が聞こえた。二人は動かないまま、注意深く聞いた。また、もっと大きな泣き声が聞こえた。ベレンは立ち上がって、ドアに近づいた。
「ろうかからかな」と言って、ドアを開けようとした。
「待って!もし本当に幽霊がいるなら、どうする?」
「その時にならないとわからない」ベレンは部屋を出た。
アガサもベレンを追いかけて、ろうかに入った。電灯は明るくかがやいていて、変なかげもなかったし、ふつうのろうかに見えた。ふすぎな泣き声も消えてしまった。ベレンはがっかりして、ろうかを歩いていた。
「まだ早いし、ほかのところで探そう」とアガサは言った。
彼女たちは旅館の外に出て、まわりを歩いていた。にわではベンチに座っていたおじいさんとおばあさんを見つけたけど、ふしぎなかげはなかったので、ほかのところに行った。でも、どこに行っても、何もなくて、ただの旅館だ。
「昨夜のところに行ってみよう」とベレンは言った。それが最後のきかいかなという感じがした。
アガサとベレンは一階のろうかにゆっくり入った。旅館のろうかは四角のようなかたちだったが、アガサがゆうれいを見た部分はまっすぐで、奥に角がある。左に曲がると、短いろうかが続いているが、つきあたりが行き止まりになっていて、部屋がない。電灯もないし、あやしい雰囲気だし、何のためのろうかなのかよく分からなかった。アガサはスマホのライトをつけて、暗闇をてらした。ただのかべしかなかった。
「風呂屋に行かないの?」とアガサはたずねた。
ベレンはきのうの風呂屋の暗闇の中、近づいてくる足音を思い出して、とりはだが立った。でも、しかたなく、行くことにした。
もうおそいからか、風呂屋には人がいなかった。静かな中で水の音がかべからひびいていた。アガサとベレンはシャワーを浴びてから、お風呂に入って、待っていた。でも、しばらくしても、電気が普段通りひかっていて、何も起こらなかった。変なかげや人のすがた、足音など、何もなかった。ベレンとアガサは元気がなくなって、風呂屋を出た。
「きょうはもうダメかな」とベレンはがっかりした声で言った。
「幽霊だから、あらわれるスケジュールなんてないのでしょう」とアガサは言った。
「本当に幽霊がいると信じているの?」
「かのうせいがあるでしょ。すべてが女将さんのだましって証明はないからね」
アガサが言った通り、証明はなかったけど、女将さんはあやしいなとベレンは思った。その時、やっと悲しいごうきゅうが聞こえた。ベレンとアガサは止まって、音のげんいんがわかるように、よく聞いた。また、泣き声が聞こえた。
「こっちだ!」とベレンはささやいて、音を追いかけようとして、走り出した。アガサもベレンの後ろに走り出した。ごうきゅうがだんだん大きくなった。ついに、彼女たちはあのろうかにいると気づいた。きのうアガサがふしぎなすがたを見たろうか、さっきチェックしたろうかだった。電灯の光がゆれていて、奥には泣き声のげんいんがあった。暗いすみには着物を着ていて、黒くて長い髪の女の人が立っていた。着物のそでで顔をかくして、泣いていた。アガサの体がかたまって、動けなくなって、
「やっぱり幽霊だ」といきが切れた。
女の人は二人に気づかないようで、大きい声で泣き続けて、歩き始めた。ベレンは思わず後ろに歩いて、女の人を見つめた。泣いている女の人は角を曲がって、去っていった。ごうきゅうも消えてしまった。ベレンとアガサは動けるようになって、女を追いかけようとして、ゆっくり前に進み始めた。角を曲がると、つきあたりがふくろこうじになる短いろうかに着いた。暗い中に女の人はいなかった。
「幽霊だったよ」とアガサはねっちゅうして、ベレンを見つめた。ベレンはポケットからスマホを取り出して、スマホのライトをつけて、もう一回かべをてらした。
「何をしてるの?部屋はないよね。何かをかくす場所もないし」
ベレンはそれをむしして、ライトでてらしながら、細かくかべをチェックし続けた。何かがあるはずだと思って、そんなに簡単にあきらめるつもりはなかった。
「アガサ、見て」
かべにはすきまがあった。アガサはおどろいて、信じられなかった。かべにはかくされたドアがあった。取っ手がなかったけど、押すとドアが開いた。ベレンはアガサと目をあわせて、中に入った。そして、弱い光の部屋に入った二人は、さっき泣いている女の人のせなかを見た。かみがたが違っただけ。右手には黒くて長い髪のかつら(人工の髪の毛で、頭にかぶるもの)を持っていた。
「もういいよ、女将さん」とベレンは大きい声で言った。
女の人はびっくりして、かつらを落としてしまって、急にふりむいた。ベレンとアガサを見て、困った顔になった。
「バレたね」と女将さんはためいきをついた。
「きのう、幽霊を探しに行ったんだよね?何をしたの?」とたずねた。
彼女たちはふとんに座って、コンビニで買ったおかしを食べながら、ゴーストハンティングの計画を立ててみた。
「まあ・・・何か特別なことをしたわけじゃないけど。暗くなった時、旅館のまわりを散歩したり、人のいないところに行ったり、旅館の中を歩き回ったりしただけだよ」とアガサは小さな声で言った。
「それから、一階のろうかに電灯がゆれ始めて、ふしぎな人のすがたを見たのね」
「うん。そして、幽霊のごうきゅうが聞こえた」とアガサはうなずいた。
「じゃあ、今日も同じことをくりかえそう」
「いいの?もし二人でいたら、幽霊が出ないかも」
アガサがそう言ったとたん、悲しそうに泣いている声が聞こえた。二人は動かないまま、注意深く聞いた。また、もっと大きな泣き声が聞こえた。ベレンは立ち上がって、ドアに近づいた。
「ろうかからかな」と言って、ドアを開けようとした。
「待って!もし本当に幽霊がいるなら、どうする?」
「その時にならないとわからない」ベレンは部屋を出た。
アガサもベレンを追いかけて、ろうかに入った。電灯は明るくかがやいていて、変なかげもなかったし、ふつうのろうかに見えた。ふすぎな泣き声も消えてしまった。ベレンはがっかりして、ろうかを歩いていた。
「まだ早いし、ほかのところで探そう」とアガサは言った。
彼女たちは旅館の外に出て、まわりを歩いていた。にわではベンチに座っていたおじいさんとおばあさんを見つけたけど、ふしぎなかげはなかったので、ほかのところに行った。でも、どこに行っても、何もなくて、ただの旅館だ。
「昨夜のところに行ってみよう」とベレンは言った。それが最後のきかいかなという感じがした。
アガサとベレンは一階のろうかにゆっくり入った。旅館のろうかは四角のようなかたちだったが、アガサがゆうれいを見た部分はまっすぐで、奥に角がある。左に曲がると、短いろうかが続いているが、つきあたりが行き止まりになっていて、部屋がない。電灯もないし、あやしい雰囲気だし、何のためのろうかなのかよく分からなかった。アガサはスマホのライトをつけて、暗闇をてらした。ただのかべしかなかった。
「風呂屋に行かないの?」とアガサはたずねた。
ベレンはきのうの風呂屋の暗闇の中、近づいてくる足音を思い出して、とりはだが立った。でも、しかたなく、行くことにした。
もうおそいからか、風呂屋には人がいなかった。静かな中で水の音がかべからひびいていた。アガサとベレンはシャワーを浴びてから、お風呂に入って、待っていた。でも、しばらくしても、電気が普段通りひかっていて、何も起こらなかった。変なかげや人のすがた、足音など、何もなかった。ベレンとアガサは元気がなくなって、風呂屋を出た。
「きょうはもうダメかな」とベレンはがっかりした声で言った。
「幽霊だから、あらわれるスケジュールなんてないのでしょう」とアガサは言った。
「本当に幽霊がいると信じているの?」
「かのうせいがあるでしょ。すべてが女将さんのだましって証明はないからね」
アガサが言った通り、証明はなかったけど、女将さんはあやしいなとベレンは思った。その時、やっと悲しいごうきゅうが聞こえた。ベレンとアガサは止まって、音のげんいんがわかるように、よく聞いた。また、泣き声が聞こえた。
「こっちだ!」とベレンはささやいて、音を追いかけようとして、走り出した。アガサもベレンの後ろに走り出した。ごうきゅうがだんだん大きくなった。ついに、彼女たちはあのろうかにいると気づいた。きのうアガサがふしぎなすがたを見たろうか、さっきチェックしたろうかだった。電灯の光がゆれていて、奥には泣き声のげんいんがあった。暗いすみには着物を着ていて、黒くて長い髪の女の人が立っていた。着物のそでで顔をかくして、泣いていた。アガサの体がかたまって、動けなくなって、
「やっぱり幽霊だ」といきが切れた。
女の人は二人に気づかないようで、大きい声で泣き続けて、歩き始めた。ベレンは思わず後ろに歩いて、女の人を見つめた。泣いている女の人は角を曲がって、去っていった。ごうきゅうも消えてしまった。ベレンとアガサは動けるようになって、女を追いかけようとして、ゆっくり前に進み始めた。角を曲がると、つきあたりがふくろこうじになる短いろうかに着いた。暗い中に女の人はいなかった。
「幽霊だったよ」とアガサはねっちゅうして、ベレンを見つめた。ベレンはポケットからスマホを取り出して、スマホのライトをつけて、もう一回かべをてらした。
「何をしてるの?部屋はないよね。何かをかくす場所もないし」
ベレンはそれをむしして、ライトでてらしながら、細かくかべをチェックし続けた。何かがあるはずだと思って、そんなに簡単にあきらめるつもりはなかった。
「アガサ、見て」
かべにはすきまがあった。アガサはおどろいて、信じられなかった。かべにはかくされたドアがあった。取っ手がなかったけど、押すとドアが開いた。ベレンはアガサと目をあわせて、中に入った。そして、弱い光の部屋に入った二人は、さっき泣いている女の人のせなかを見た。かみがたが違っただけ。右手には黒くて長い髪のかつら(人工の髪の毛で、頭にかぶるもの)を持っていた。
「もういいよ、女将さん」とベレンは大きい声で言った。
女の人はびっくりして、かつらを落としてしまって、急にふりむいた。ベレンとアガサを見て、困った顔になった。
「バレたね」と女将さんはためいきをついた。
夜になって、ベレンはアガサの部屋に来た。
「昨日幽霊を探しに行ったんだよね?何をしたの?」と尋ねた。
彼女たちは布団に座って、コンビニで買ったお菓子を食べながら、ゴーストハンティングの計画を立ててみた。
「まあ・・・何か特別なことをしたわけじゃないけど。暗くなった時、旅館の周りを散歩したり、人のいない所に行ったり、旅館の中をぶらぶらしたりしただけだよ」とアガサはつぶやいた。
「それから、一階の廊下に電灯のゆらぎが始まって、不思議な人の姿を見たのね」
「うん。そして、幽霊の号泣が聞こえた」とアガサは頷いた。
「じゃあ、今日も同じことを繰り返そう」
「いいの?もし二人でいたら、幽霊が出ないかも」
アガサがそう言った途端、悲しそうな号泣が聞こえた。二人は動かないまま、耳を傾けた。また、もっと大きな泣き声が聞こえた。ベレンは立ち上がって、ドアに近づいた。
「廊下からかな」とつぶやいて、ドアを開けようとした。
「待って!もし本物の幽霊なら、どうする?」
「その時にならないとわからない」ベレンは部屋を出た。
アガサもベレンを追いかけて、廊下に入った。電灯は明るく輝いていて、変な影もなかったし、普通の廊下に見えた。不思議な泣き声も消えてしまった。ベレンはがっかりして、廊下を歩いていた。
「まだ早いし、他の所で探そう」とアガサは提案した。
彼女たちは旅館の外に出て、周りを歩いていた。庭ではベンチに座っていたおじいさんとおばあさんを見つけたけど、不思議な影はなかったので、他の所に移動した。でも、どこに行っても、何もなくて、ただの旅館だ。
「昨夜のとこに行ってみよう」とベレンは言った。それが最後の機会かなという感じがした。
アガサとベレンは一階の廊下にゆっくり入った。旅館の廊下は四角のような形だったが、アガサが幽霊を見た部分はまっすぐで、奥に角がある。左に曲がると、短い廊下が続いているが、突き当りが袋小路になっていて、部屋がない。電灯もないし、なんだか妖しい雰囲気だし、何のための廊下かよく分からなかった。アガサはスマホのライトをつけて、暗闇を照らした。ただの壁しかなかった。
「銭湯に行かないの?」とアガサは尋ねた。
ベレンは昨日の銭湯の暗闇の中、近づいてくる足音を思い出して、鳥肌が立った。でも、仕方なく、行くことにした。
もう遅いからか、銭湯には人がいなかった。静かな中でポタッという水が滴る音が壁から響いていた。アガサとベレンはシャワーを浴びてから、湯船に入って、待っていた。でも、しばらくしても、電気が普段通り光っていて、何も起こらなかった。変な影や人の姿、足音など、何もなかった。ベレンとアガサは気落ちしながら、銭湯を出た。
「きょうはもうダメかな」とベレンはがっかりした声で言った。
「幽霊だから、現れるスケジュールなんてないのでしょう」とアガサはつぶやいた。
「本当に幽霊がいると信じているの?」
「可能性があるでしょ。すべてが女将さんの騙しって証拠はないからね」
アガサが言った通り、証拠はなかったけど、女将さんは怪しいなとベレンは思った。その時、やっと悲しい号泣が聞こえた。ベレンとアガサは止まって、音の原因がわかるように、耳をそばだてた。また、泣き声が聞こえた。
「こっちだ!」とベレンは囁いて、音を追いかけようとして、走り出した。アガサもベレンの後ろに走り出した。号泣がだんだん大きくなった。ついに、彼女たちはあの廊下にいると気づいた。昨日アガサが不思議な姿を見た廊下、さっきチェックした廊下だった。電灯の光が揺らいでいて、奥には泣き声の原因があった。暗い隅には着物を着ていて、黒くて長い髪の女の人が立っていた。着物の袖で顔を隠して、泣いていた。アガサの体が固まって、動けなくなって、
「やっぱり幽霊だ」と息が切れた。
女の人は二人に気づかないようで、大きい声で泣き続けて、歩き始めた。ベレンは思わず後退りして、女の人を見つめた。泣いている女の人は角を曲がって、去っていった。号泣も消えてしまった。ベレンとアガサは動けるようになって、女を追いかけようとして、ゆっくり前に進み始めた。角を曲がると、突き当りが袋小路になる短い廊下に辿り着いた。闇の中に女の人はいなかった。
「幽霊だったよ」とアガサは盛り上がって、ベレンを見つめた。ベレンはポケットからスマホを取り出して、スマホのライトをつけて、もう一回壁を照らした。
「何をしてるの?部屋はないよね。何かを隠す場所もないし」
ベレンはそれを無視して、ライトで照らしながら、徹底的に壁をチェックし続けた。何かがあるはずだと思って、そんなに簡単に諦めるつもりはなかった。
「アガサ、見て」
壁には隙間があった。アガサは驚いて、目を疑った。壁には隠されたドアがあった。取っ手がなかったけど、押すとドアが開いた。ベレンはアガサと目をあわせて、中に入った。そして、弱い光の部屋に入った二人は、さっき泣いている女の人の背中を見た。髪型が違っただけ。右手には黒くて長い髪の鬘を持っていた。
「もういいよ、女将さん」とベレンは大きい声で言った。
女の人はびっくりして、鬘を落としてしまって、急に振り向いた。ベレンとアガサを見て、おろおろとした表情になった。
「バレたね」と女将さんはため息をついた。
「昨日幽霊を探しに行ったんだよね?何をしたの?」と尋ねた。
彼女たちは布団に座って、コンビニで買ったお菓子を食べながら、ゴーストハンティングの計画を立ててみた。
「まあ・・・何か特別なことをしたわけじゃないけど。暗くなった時、旅館の周りを散歩したり、人のいない所に行ったり、旅館の中をぶらぶらしたりしただけだよ」とアガサはつぶやいた。
「それから、一階の廊下に電灯のゆらぎが始まって、不思議な人の姿を見たのね」
「うん。そして、幽霊の号泣が聞こえた」とアガサは頷いた。
「じゃあ、今日も同じことを繰り返そう」
「いいの?もし二人でいたら、幽霊が出ないかも」
アガサがそう言った途端、悲しそうな号泣が聞こえた。二人は動かないまま、耳を傾けた。また、もっと大きな泣き声が聞こえた。ベレンは立ち上がって、ドアに近づいた。
「廊下からかな」とつぶやいて、ドアを開けようとした。
「待って!もし本物の幽霊なら、どうする?」
「その時にならないとわからない」ベレンは部屋を出た。
アガサもベレンを追いかけて、廊下に入った。電灯は明るく輝いていて、変な影もなかったし、普通の廊下に見えた。不思議な泣き声も消えてしまった。ベレンはがっかりして、廊下を歩いていた。
「まだ早いし、他の所で探そう」とアガサは提案した。
彼女たちは旅館の外に出て、周りを歩いていた。庭ではベンチに座っていたおじいさんとおばあさんを見つけたけど、不思議な影はなかったので、他の所に移動した。でも、どこに行っても、何もなくて、ただの旅館だ。
「昨夜のとこに行ってみよう」とベレンは言った。それが最後の機会かなという感じがした。
アガサとベレンは一階の廊下にゆっくり入った。旅館の廊下は四角のような形だったが、アガサが幽霊を見た部分はまっすぐで、奥に角がある。左に曲がると、短い廊下が続いているが、突き当りが袋小路になっていて、部屋がない。電灯もないし、なんだか妖しい雰囲気だし、何のための廊下かよく分からなかった。アガサはスマホのライトをつけて、暗闇を照らした。ただの壁しかなかった。
「銭湯に行かないの?」とアガサは尋ねた。
ベレンは昨日の銭湯の暗闇の中、近づいてくる足音を思い出して、鳥肌が立った。でも、仕方なく、行くことにした。
もう遅いからか、銭湯には人がいなかった。静かな中でポタッという水が滴る音が壁から響いていた。アガサとベレンはシャワーを浴びてから、湯船に入って、待っていた。でも、しばらくしても、電気が普段通り光っていて、何も起こらなかった。変な影や人の姿、足音など、何もなかった。ベレンとアガサは気落ちしながら、銭湯を出た。
「きょうはもうダメかな」とベレンはがっかりした声で言った。
「幽霊だから、現れるスケジュールなんてないのでしょう」とアガサはつぶやいた。
「本当に幽霊がいると信じているの?」
「可能性があるでしょ。すべてが女将さんの騙しって証拠はないからね」
アガサが言った通り、証拠はなかったけど、女将さんは怪しいなとベレンは思った。その時、やっと悲しい号泣が聞こえた。ベレンとアガサは止まって、音の原因がわかるように、耳をそばだてた。また、泣き声が聞こえた。
「こっちだ!」とベレンは囁いて、音を追いかけようとして、走り出した。アガサもベレンの後ろに走り出した。号泣がだんだん大きくなった。ついに、彼女たちはあの廊下にいると気づいた。昨日アガサが不思議な姿を見た廊下、さっきチェックした廊下だった。電灯の光が揺らいでいて、奥には泣き声の原因があった。暗い隅には着物を着ていて、黒くて長い髪の女の人が立っていた。着物の袖で顔を隠して、泣いていた。アガサの体が固まって、動けなくなって、
「やっぱり幽霊だ」と息が切れた。
女の人は二人に気づかないようで、大きい声で泣き続けて、歩き始めた。ベレンは思わず後退りして、女の人を見つめた。泣いている女の人は角を曲がって、去っていった。号泣も消えてしまった。ベレンとアガサは動けるようになって、女を追いかけようとして、ゆっくり前に進み始めた。角を曲がると、突き当りが袋小路になる短い廊下に辿り着いた。闇の中に女の人はいなかった。
「幽霊だったよ」とアガサは盛り上がって、ベレンを見つめた。ベレンはポケットからスマホを取り出して、スマホのライトをつけて、もう一回壁を照らした。
「何をしてるの?部屋はないよね。何かを隠す場所もないし」
ベレンはそれを無視して、ライトで照らしながら、徹底的に壁をチェックし続けた。何かがあるはずだと思って、そんなに簡単に諦めるつもりはなかった。
「アガサ、見て」
壁には隙間があった。アガサは驚いて、目を疑った。壁には隠されたドアがあった。取っ手がなかったけど、押すとドアが開いた。ベレンはアガサと目をあわせて、中に入った。そして、弱い光の部屋に入った二人は、さっき泣いている女の人の背中を見た。髪型が違っただけ。右手には黒くて長い髪の鬘を持っていた。
「もういいよ、女将さん」とベレンは大きい声で言った。
女の人はびっくりして、鬘を落としてしまって、急に振り向いた。ベレンとアガサを見て、おろおろとした表情になった。
「バレたね」と女将さんはため息をついた。