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選考会
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4月の終わり、やっと選考会の日が来た。5月にある関東対抗戦(たいこうせん)に出られるのは、選考会で勝った上位2人だけだ。
主将(しゅしょう)は選考会のルールをみんなにわかりやすく話した。
「ほとんど公式戦(こうしきせん)と同じルール。形式は、一人ひとりが全員と試合をする方法だ。もっとも勝ち数が多かった上位2名が選ばれる。勝ちの数が同じになったら、その人たちでもう一度試合をして、勝った人が出場。質問は?」
しずかな道場の中は、あつい空気でいっぱいだった。特に出場をめざしてはげしく戦う上位の人たちは、目をかがやかせて座っている。もちろんここ2か月で一気に強くなったベレンもその一人だ。
しかし今のところ、部ではライバルの歩美と2年生のエースの由香(ゆか)と同じくらいで、3~5番目くらいだ。みんなは、主将(しゅしょう)や2番目に強い凛(りん)先輩との対戦は、少しきびしいだろうと考えていた。
対戦表もくまれ、それぞれが試合のじゅんびを始める。
防具(ぼうぐ)をつけ、手ぬぐいをまいていると歩美から声をかけられた。
「私の最初の相手、ベレンみたいね」
「うん」
「わかっていると思うけど、手かげんなんてしないから。ライバルとしてぜったい負けない」
「こっちこそ。ぜったい勝つよ」
そう言って歩美を見ると面の中で本当にうれしそうに笑っているのが見えた。
(お礼を言うのは全部終わってからかな)
そんなことを思いながら面をかぶり、竹刀(しない)を力強くにぎった。
『はじめ!』しんぱんをつとめる男子部員の声が低く聞こえる。
二人で声を出して、少しきょりを取る。と思った時、歩美が急にするどい突きをしてきた。なんとかさけて、はんげきをする。おたがいのことをよく知っている相手だから、ゆだんするとすぐに負けてしまうかもしれない。
(ベレン、成長したのはあなただけじゃないってところ、見せてあげる…!)
目をあわせている歩美の目がそう言ったように感じた。
せいげん時間4分をほぼ使い切ったその試合は、2-1でベレンの勝ちになった。歩美はとてもくやしい気持ちを持ちながらも、ベレンのせなかを強くたたいて言った。
「私に勝った以上、ぜったいに対抗戦(たいこうせん)に出なさいよね!」
その言葉が力になったのか、そこから先ベレンは次々に勝った。
3回続けて勝って、次に当たるのは同じく全勝で勝ち上がっている主将(しゅしょう)だ。どれも心配せずに勝つのは、本当にすごい力と言えた。
試合の前、主将(しゅしょう)は笑顔で声をかけてきた。
「すごい、ぜっこうちょうじゃないベレン。これはてきに塩を送ってしまったかな…」
「いえ、主将(しゅしょう)のおかげです。本当にありがとうございます」
「私はベレンがだれよりも努力していたのを見ていた。ほんの少しでも力になれたのならさいわいだよ。だからこそ全力でいかせてもらうよ。“部内最強”の座はゆずれないからね!」
主将(しゅしょう)は本当にすごい強さだった。試合が始まったばかりなのに、すぐにたくさんせめられて1本取られてしまった。ベレンもいっしょうけんめいにしがみつく。ちゅうばんで1本を取り返してしっかりねばったが、結局あせって無理にせめたせいで、きれいに小手をきめられて負けてしまった。
「…完敗です」
「いや、じつはこの試合、初めて1本を取られた。本当に強くなったね、ベレン」
「まだまだです。こんなことでは主将(しゅしょう)とせりあう凛(りん)先輩には…」
「ふふ、ここだけの話だけど、凛(りん)はベレンのことはすごく気にかけているよ。ここ最近すごく強くなって、もうすぐおいこされそうって。ふあいそうだから顔には出ないだろうけど…とにかく、自分を信じて立ちむかうこと。相手が強いなら、気持ちだけでも勝たなくちゃね」
そういって主将(しゅしょう)はベレンの胴(どう)を軽くたたいた。
「がんばっておいで」
「ありがとうございます。…勝ってきます」
凛(りん)先輩との試合は、最後の試合だった。
主将(しゅしょう)は選考会のルールをみんなにわかりやすく話した。
「ほとんど公式戦(こうしきせん)と同じルール。形式は、一人ひとりが全員と試合をする方法だ。もっとも勝ち数が多かった上位2名が選ばれる。勝ちの数が同じになったら、その人たちでもう一度試合をして、勝った人が出場。質問は?」
しずかな道場の中は、あつい空気でいっぱいだった。特に出場をめざしてはげしく戦う上位の人たちは、目をかがやかせて座っている。もちろんここ2か月で一気に強くなったベレンもその一人だ。
しかし今のところ、部ではライバルの歩美と2年生のエースの由香(ゆか)と同じくらいで、3~5番目くらいだ。みんなは、主将(しゅしょう)や2番目に強い凛(りん)先輩との対戦は、少しきびしいだろうと考えていた。
対戦表もくまれ、それぞれが試合のじゅんびを始める。
防具(ぼうぐ)をつけ、手ぬぐいをまいていると歩美から声をかけられた。
「私の最初の相手、ベレンみたいね」
「うん」
「わかっていると思うけど、手かげんなんてしないから。ライバルとしてぜったい負けない」
「こっちこそ。ぜったい勝つよ」
そう言って歩美を見ると面の中で本当にうれしそうに笑っているのが見えた。
(お礼を言うのは全部終わってからかな)
そんなことを思いながら面をかぶり、竹刀(しない)を力強くにぎった。
『はじめ!』しんぱんをつとめる男子部員の声が低く聞こえる。
二人で声を出して、少しきょりを取る。と思った時、歩美が急にするどい突きをしてきた。なんとかさけて、はんげきをする。おたがいのことをよく知っている相手だから、ゆだんするとすぐに負けてしまうかもしれない。
(ベレン、成長したのはあなただけじゃないってところ、見せてあげる…!)
目をあわせている歩美の目がそう言ったように感じた。
せいげん時間4分をほぼ使い切ったその試合は、2-1でベレンの勝ちになった。歩美はとてもくやしい気持ちを持ちながらも、ベレンのせなかを強くたたいて言った。
「私に勝った以上、ぜったいに対抗戦(たいこうせん)に出なさいよね!」
その言葉が力になったのか、そこから先ベレンは次々に勝った。
3回続けて勝って、次に当たるのは同じく全勝で勝ち上がっている主将(しゅしょう)だ。どれも心配せずに勝つのは、本当にすごい力と言えた。
試合の前、主将(しゅしょう)は笑顔で声をかけてきた。
「すごい、ぜっこうちょうじゃないベレン。これはてきに塩を送ってしまったかな…」
「いえ、主将(しゅしょう)のおかげです。本当にありがとうございます」
「私はベレンがだれよりも努力していたのを見ていた。ほんの少しでも力になれたのならさいわいだよ。だからこそ全力でいかせてもらうよ。“部内最強”の座はゆずれないからね!」
主将(しゅしょう)は本当にすごい強さだった。試合が始まったばかりなのに、すぐにたくさんせめられて1本取られてしまった。ベレンもいっしょうけんめいにしがみつく。ちゅうばんで1本を取り返してしっかりねばったが、結局あせって無理にせめたせいで、きれいに小手をきめられて負けてしまった。
「…完敗です」
「いや、じつはこの試合、初めて1本を取られた。本当に強くなったね、ベレン」
「まだまだです。こんなことでは主将(しゅしょう)とせりあう凛(りん)先輩には…」
「ふふ、ここだけの話だけど、凛(りん)はベレンのことはすごく気にかけているよ。ここ最近すごく強くなって、もうすぐおいこされそうって。ふあいそうだから顔には出ないだろうけど…とにかく、自分を信じて立ちむかうこと。相手が強いなら、気持ちだけでも勝たなくちゃね」
そういって主将(しゅしょう)はベレンの胴(どう)を軽くたたいた。
「がんばっておいで」
「ありがとうございます。…勝ってきます」
凛(りん)先輩との試合は、最後の試合だった。
4月の終わり、遂に選考会の日がやってきた。5月に開催される関東対抗戦に出場できるのは選考会を勝ち抜いた上位2人だけだ。
主将は選考会のルールを朗々と言い渡した。
「基本的には公式戦と同じルール。形式は総当たり戦。最も勝ち数が多かった上位2名が選ばれる。勝ち数が並んだ場合、その人たちで再度試合をして勝った方が出場。質問は?」
しんと静まり返った道場には熱気がこもっていた。特に出場をかけて激しく争う上位陣は目をキラキラと光らせながら座っている。もちろんここ2か月で一気に強くなったベレンもその一人だ。
しかし現状では部内ではライバルの歩美、2年のエースである由香と並んで3~5番手といったところ。周囲からは、主将や2番手の凛先輩相手ではやや分が悪い勝負になると見込まれていた。
対戦表も組まれ、それぞれが試合の準備を始める。
防具をつけ、手拭いを巻いていると歩美から声をかけられた。
「私の最初の相手、ベレンみたいね」
「うん」
「わかっていると思うけど、手加減なんてしないから。ライバルとして絶対負けない」
「こっちこそ。絶対勝つよ」
そう言って歩美を見ると面の中で本当に嬉しそうに笑っているのが見えた。
(お礼を言うのは全部終わってからかな)
そんなことを思いながら面を被り、竹刀を力強く握った。
『はじめ!』審判を務める男子部員の声が低く響く。
お互い掛け声を出して、少し間合いを取る。と思った刹那、歩美から鋭い突きが飛んできた。辛くも避け、カウンターにつなげる。お互い手の内のわかり切った相手だと油断していると、一気に崩されてしまいそうだ。
(ベレン、成長したのは貴方だけじゃないってところ、見せてあげる…!)
向かい合う歩美の目がそう言ったように感じた。
制限時間4分をほぼ使い切ったその試合は、2-1でベレンの勝利に終わった。歩美は本気で悔しがりながらも、ベレンの背中を強くたたいて言った。
「私に勝った以上、絶対に対抗戦に出なさいよね!」
その激励が効いたのか、そこから先ベレンは次々に勝利を収めた。
3連勝を決めて、次に当たるのは同じく全勝で勝ち上がっている主将だ。どれも危なげなく勝利を収めるのはさすがの実力と言えた。
試合の前、主将はにこやかに微笑みながら声をかけてきた。
「すごい、絶好調じゃないベレン。これは敵に塩を送ってしまったかな…」
「いえ、主将のおかげです。その節は本当にありがとうございます」
「私はベレンが誰よりも努力していたのを見ていた。ほんの少しでも力になれたのなら幸いだよ。だからこそ全力でいかせてもらうよ。“部内最強”の座は譲れないからね!」
主将はまさに圧巻の強さだった。試合開始直後、怒涛の攻勢ですぐに1本とられてしまった。ベレンも何とか喰らいつく。中盤、1本を取り返して粘ったが、最後には焦って無理に攻めたところを鮮やかに小手を決められて負けてしまった。
「…完敗です」
「いや、実はこの試合、初めて1本を取られた。本当に強くなったね、ベレン」
「まだまだです。こんなことでは主将と競り合う凛先輩には…」
「ふふ、ここだけの話だけど、凛はベレンのことはすごく気にかけているよ。ここ最近ぐんぐん強くなって今にも抜かされそうって。不愛想だから顔には出ないだろうけど…とにかく、自信をもって挑むこと。相手が格上なら、気持ちだけでも勝たなくちゃね」
そういって主将はベレンの胴を軽く叩いた。
「頑張っておいで」
「ありがとうございます。…勝ってきます」
凛先輩と当たるのは、奇しくも最後の試合だった。
主将は選考会のルールを朗々と言い渡した。
「基本的には公式戦と同じルール。形式は総当たり戦。最も勝ち数が多かった上位2名が選ばれる。勝ち数が並んだ場合、その人たちで再度試合をして勝った方が出場。質問は?」
しんと静まり返った道場には熱気がこもっていた。特に出場をかけて激しく争う上位陣は目をキラキラと光らせながら座っている。もちろんここ2か月で一気に強くなったベレンもその一人だ。
しかし現状では部内ではライバルの歩美、2年のエースである由香と並んで3~5番手といったところ。周囲からは、主将や2番手の凛先輩相手ではやや分が悪い勝負になると見込まれていた。
対戦表も組まれ、それぞれが試合の準備を始める。
防具をつけ、手拭いを巻いていると歩美から声をかけられた。
「私の最初の相手、ベレンみたいね」
「うん」
「わかっていると思うけど、手加減なんてしないから。ライバルとして絶対負けない」
「こっちこそ。絶対勝つよ」
そう言って歩美を見ると面の中で本当に嬉しそうに笑っているのが見えた。
(お礼を言うのは全部終わってからかな)
そんなことを思いながら面を被り、竹刀を力強く握った。
『はじめ!』審判を務める男子部員の声が低く響く。
お互い掛け声を出して、少し間合いを取る。と思った刹那、歩美から鋭い突きが飛んできた。辛くも避け、カウンターにつなげる。お互い手の内のわかり切った相手だと油断していると、一気に崩されてしまいそうだ。
(ベレン、成長したのは貴方だけじゃないってところ、見せてあげる…!)
向かい合う歩美の目がそう言ったように感じた。
制限時間4分をほぼ使い切ったその試合は、2-1でベレンの勝利に終わった。歩美は本気で悔しがりながらも、ベレンの背中を強くたたいて言った。
「私に勝った以上、絶対に対抗戦に出なさいよね!」
その激励が効いたのか、そこから先ベレンは次々に勝利を収めた。
3連勝を決めて、次に当たるのは同じく全勝で勝ち上がっている主将だ。どれも危なげなく勝利を収めるのはさすがの実力と言えた。
試合の前、主将はにこやかに微笑みながら声をかけてきた。
「すごい、絶好調じゃないベレン。これは敵に塩を送ってしまったかな…」
「いえ、主将のおかげです。その節は本当にありがとうございます」
「私はベレンが誰よりも努力していたのを見ていた。ほんの少しでも力になれたのなら幸いだよ。だからこそ全力でいかせてもらうよ。“部内最強”の座は譲れないからね!」
主将はまさに圧巻の強さだった。試合開始直後、怒涛の攻勢ですぐに1本とられてしまった。ベレンも何とか喰らいつく。中盤、1本を取り返して粘ったが、最後には焦って無理に攻めたところを鮮やかに小手を決められて負けてしまった。
「…完敗です」
「いや、実はこの試合、初めて1本を取られた。本当に強くなったね、ベレン」
「まだまだです。こんなことでは主将と競り合う凛先輩には…」
「ふふ、ここだけの話だけど、凛はベレンのことはすごく気にかけているよ。ここ最近ぐんぐん強くなって今にも抜かされそうって。不愛想だから顔には出ないだろうけど…とにかく、自信をもって挑むこと。相手が格上なら、気持ちだけでも勝たなくちゃね」
そういって主将はベレンの胴を軽く叩いた。
「頑張っておいで」
「ありがとうございます。…勝ってきます」
凛先輩と当たるのは、奇しくも最後の試合だった。