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一週間ぶりの道場は、なんだかきんちょうした。入る時の礼はいつもよりもふかく、ていねいなものになった。
(これから半年、がんばってみます)
目の前の神棚(かみだな:家の中にある神様をおまつりするための場所)に向かって、心の中でつぶやいた。
道場では主将と歩美、それから何人かが自主練習ですぶりをしていた。主将は遠くにベレンを見ると軽く手をあげる。ベレンは軽くおじぎをしてかえした。歩美は昨日の様子がうそみたいにうれしそうに走ってきた。
「ベレン!」
「歩美、昨日はごめんなさい、ありがとう」
歩美はかぶりをふる。
「ううん、こっちこそ、言いすぎちゃったかなって気にしてた。ベレンががんばってきたの知っていたから、あのままあきらめちゃうなんてくやしくて…戻ってきてくれてよかったあ…」
そう言うと、力がぬけたようにペタリと座りこんだ。
いい友だちをもったのだと、ベレンはしみじみ感じた。
その日は2時間くらいすぶりを続けて、竹刀(しない)を持つかんかくを取り戻すために時間を使った。
帰るとちゅう、歩美と一緒に歩きながら、ベレンはそうだんした。
「歩美、私、半年後の関東対抗戦に出ようと思うの」
歩美はおどろいたような、うれしそうな顔でふりむく。
「ほんと?じゃあがんばらなくちゃだね」
うん、とうなずいてベレンは続ける。
「でも、関東対抗戦は個人戦(こじんせん)の2わくしかないから…そこに入らなくちゃいけない」
「凛(りん)先輩にかたなきゃいけないのか」
歩美はまじめな顔をして答えた。
ベレンは少しだけ笑って、小さな声で言った。
「自分でも、むずかしいことはわかっているの。でも、あと半年しかないし、全力でたたかってみたい。その方がこうかいしないと思うから」
歩美はちゃんと聞いてくれている。
「で、その…凛(りん)先輩にかつためには、どうしたらいいと思う?半年間、ただ練習するだけではきっとあの人にはかてないと思うの」
「う~ん、そうだなあ…」
歩美は顔を下げて、しばらく考えてから言った。
「ベレンの強みを使うしかないよね」
「私の強み?」
ベレンは首を少し曲げた。
相手はぎじゅつも経験もすごくすぐれている。凛(りん)先輩にたいして自分が持っている強み…
「…スペイン語?」
「あの人は外国語学科だからきっとスペイン語も上手だよ、って、そういうことじゃないでしょ!!」
歩美はしばらく笑った後、またまじめな顔で言った。
「私が思うに、凛(りん)先輩にたいしてベレンが持つ強みは二つあるの。一つは“リーチの長さ”、もう一つは“打突(だとつ:剣(けん)や棒(ぼう)などで相手をうつこと)の速さ”。やっぱりみがくならここじゃないかな」
リーチの長さと打突(だとつ)の速さ…ベレンが考えている間、歩美は続けて話した。
「ベレンは身長が高いでしょ?たいしょうてきに凛(りん)先輩はせが低い。はたから見ると腕の長さとかもけっこう違うのよね。それに、足が長いから、一歩が大きくなる。つまり、より遠くからこうげきできるはず」
「…た、たしかに…」自分の身長が高いことは、あまり気にしないことだ。写真を見ると、ひさしぶりに気づくことがよくある。
「考え方では、相手がこうげきできないところからこうげきできるんだよ?もちろん現実にはふみこみや残心があるから間合いには入らなきゃいけないけど…でも、うまく使えば強いぶきになると思うよ」
「もう一つの、打突(だとつ)の速さ、というのは?」
「あのね、今言ったように身長が大きくてリーチが長い人はぎゃくに動きがゆっくりなことも多いの。たんにうでや足が長いから、早く動くことが下手だということなんだね。でもベレンは違う。それが生まれ持ったさいのうなのか、努力のけっかなのかわからないけれど、あなたの打突(だとつ)はすごく速いよ。それはもう、びっくりするくらい。これをみがかない手はないわ」
目から鱗(めからうろこ:何かを知っておどろいたり、りかいがふかまったりすること)、の意味をベレンは初めてじっかんした気がした。今までずっとわざの練習をして、ぎじゅつをみがくことを大切にしていたのだ。それが、こんな強みが自分にあったなんて。まったく気付かなかった。ベレンと努力をかさねている歩美だからこその、てっかくな意見だった。
でも…またベレンは少し心配だ。
たしかにその二つはやくに立つぶきだ。でも、そこを練習してもあと半年で凛(りん)先輩にかてるとは思えない。
「ただそれをみがいても難しそう、って思っているよね?」
歩美は笑った。
「そんなベレンに、特別なわざを教えてあげるね。ベレンの長いリーチと速い打突(だとつ)が一番活かせる、最強のわざなんだよ」
「おお…?」
ワクワクしながら歩美を見つめる。
「それは『突き(剣道(けんどう)では、竹刀(しない)を使って相手の面などをねらってつく動作)』。ベレン、あなた、突ききの練習をしなさい」
「『突き』?え、ええ…」
ベレンは力が入らなくなって、倒れそうになった。
「なによ、不満?」
歩美がいやそうな顔で言ってくる。
「不満っていうか…」
最強のわざだって言ってたのに、出てきたのが「突きき」とは…
突きは剣道(けんどう)においてめずしいわざではない。面、胴(どう)、小手と同じように、効果があるきほんのわざだ。でも、のどをねらうのできけんが高く、高校生以上しか使えない。
「突き」のとくちょうはその難しさだ。相手ののどの小さい場所を竹刀(しない)の先で正しく突かないと、効果が出にくい。だから、面、胴(どう)、小手とくらべて、上手さにさが出やすいわざだった。ベレンは剣道(けんどう)を始めてまだ半年。もちろん相手も使うし、ベレンも必要なときには使うことがあるけれど、他のわざに比べて『突き』を上手に使えているとは言えなかった。
「突きは、私はあまり得意じゃないよ?他のわざじゃダメなの?」
歩美がニコニコしながらこちらを見ている。
「どうして私が他のどれでもなく『突き』をすすめるのか、説明してあげる」
「いい?突きには他の打突(だとつ)とは違ったいいところがあるの。何だと思う?」
ベレンは首をかしげる。
「ええ…?難しいからみんなあまり使わないし、意外性がある、とか?」
「たしかに他のオーソドックスなわざに比べたら意外性はあるね。でも、とてもめずらしい、というほどではない。他にいいところがあるの」
「…??わからないかも…」
ベレンにとっては、ただゆうこうだを取るのが難しいわざといういんしょうしかなかった。
「教えてあげる。『突き』には二つの特徴があるわ。一つはよび動作がほとんどないこと。もう一つはよりえんきょりからこうげきできること」
「なるほど?」
「まだわかっていない顔をしているね。一つずつ説明するわ」
「お、お願いします」
まるで先生に授業をうけているみたいだ。
「まず一つ目。面、胴(どう)、小手などをうつときは、相手にうつ前に一度剣先(けんさき)を上げる必要があるよね?もちろんその動きを少なくすることはできるけれど、こうげきの前にどうしても少し時間が必要になる。でも、突きは違う。中段でかまえていると、剣先(けんさき)が相手ののどにむいているから、そのままこうげきできる。うつ前に何かを準備する動作は必要ないんだ」
「ほうほう」
「二つ目。突きには他とは違うとくちょうがある。それは、『剣先(けんさき)を使う』ということ。他のうちかたでは竹刀(しない)のねもとから90%くらいの部分を使ってうてと言われているけれど、突きは竹刀(しない)の長さを100%使ってこうげきできる。面や胴(どう)とくらべると、リーチの長さがはっきりしているし、近くをうつ小手とくらべても同じくらい、遠くからでもこうげきできるの」
「突きの長所は何となくわかった…でも、私の長所とあわせるって?」
「さっきも言ったけれど、ベレンの長所は『リーチの長さ』と『打突(だとつ)の速さ』。ただし…ベレンは、うつ動作自体は速くて遠くまで届くけれど、うちはじめるまでの時間が長い。よび動作が少し遅いのね。チャンスを読む力や経験が必要な部分だから仕方がないけれど、じゅんびの動作でうつことがバレることもよくあるよね?」
その通りだった。ここだ!と思ってこうげきを始めると、すぐに相手のはんげきが来ることがよくあった。
「けれど、思い出して。『突き』であればよび動作はほとんど必要ない。すぐにうつことができる。ベレンが『突き』を上手に使えるようになれば、じゅんびの動作がないから相手は気づかず、うてばベレンの速さでいっしゅんで相手ののどをこうげきできる。それにリーチが長いからひじょうに遠い、相手の届かないところから相手をこうげきできる。まさに最強のこうげきじゃない?」
ベレンはびっくりした。歩美がこれほど深く物事を考えているとは。
「たしかに…歩美の言う通りだね。わかった。でも、さっきも言ったように私はまだ突きをうまく使えない。お願い、私に突きを教えてくれない?」
歩美はにっこり笑ってむねをはって答えた。
「まかせなさい!知っているでしょうけど、私、突きはけっこう得意なんだから!」
その通りだった。歩美の突きは本当に正確で、ベレンも何度もやられてしまった。
「でも、どうしてここまでいろいろよくしてくれるの?どうしてこういう、えっと、『てきに塩を送る』ようなことをしてくれるの?」
「ふふ、だって、ベレンは私のライバルであり、友だちだもの。それに、ベレンに突きを教えたからといって、私は簡単にまけるつもりはないよ。『てきに塩を送った上で』正々堂々とたたかって勝つのが、日本人やさむらいの大切な考えだと思うから」
本当によい友人を持ったと、ベレンは感じた。
「歩美…本当にありがとう」
「別にどうってことないよ。それより、時間はかぎられている。さっそく明日から特訓よ!」
次の日から、ベレンの特訓が始まった。
(これから半年、がんばってみます)
目の前の神棚(かみだな:家の中にある神様をおまつりするための場所)に向かって、心の中でつぶやいた。
道場では主将と歩美、それから何人かが自主練習ですぶりをしていた。主将は遠くにベレンを見ると軽く手をあげる。ベレンは軽くおじぎをしてかえした。歩美は昨日の様子がうそみたいにうれしそうに走ってきた。
「ベレン!」
「歩美、昨日はごめんなさい、ありがとう」
歩美はかぶりをふる。
「ううん、こっちこそ、言いすぎちゃったかなって気にしてた。ベレンががんばってきたの知っていたから、あのままあきらめちゃうなんてくやしくて…戻ってきてくれてよかったあ…」
そう言うと、力がぬけたようにペタリと座りこんだ。
いい友だちをもったのだと、ベレンはしみじみ感じた。
その日は2時間くらいすぶりを続けて、竹刀(しない)を持つかんかくを取り戻すために時間を使った。
帰るとちゅう、歩美と一緒に歩きながら、ベレンはそうだんした。
「歩美、私、半年後の関東対抗戦に出ようと思うの」
歩美はおどろいたような、うれしそうな顔でふりむく。
「ほんと?じゃあがんばらなくちゃだね」
うん、とうなずいてベレンは続ける。
「でも、関東対抗戦は個人戦(こじんせん)の2わくしかないから…そこに入らなくちゃいけない」
「凛(りん)先輩にかたなきゃいけないのか」
歩美はまじめな顔をして答えた。
ベレンは少しだけ笑って、小さな声で言った。
「自分でも、むずかしいことはわかっているの。でも、あと半年しかないし、全力でたたかってみたい。その方がこうかいしないと思うから」
歩美はちゃんと聞いてくれている。
「で、その…凛(りん)先輩にかつためには、どうしたらいいと思う?半年間、ただ練習するだけではきっとあの人にはかてないと思うの」
「う~ん、そうだなあ…」
歩美は顔を下げて、しばらく考えてから言った。
「ベレンの強みを使うしかないよね」
「私の強み?」
ベレンは首を少し曲げた。
相手はぎじゅつも経験もすごくすぐれている。凛(りん)先輩にたいして自分が持っている強み…
「…スペイン語?」
「あの人は外国語学科だからきっとスペイン語も上手だよ、って、そういうことじゃないでしょ!!」
歩美はしばらく笑った後、またまじめな顔で言った。
「私が思うに、凛(りん)先輩にたいしてベレンが持つ強みは二つあるの。一つは“リーチの長さ”、もう一つは“打突(だとつ:剣(けん)や棒(ぼう)などで相手をうつこと)の速さ”。やっぱりみがくならここじゃないかな」
リーチの長さと打突(だとつ)の速さ…ベレンが考えている間、歩美は続けて話した。
「ベレンは身長が高いでしょ?たいしょうてきに凛(りん)先輩はせが低い。はたから見ると腕の長さとかもけっこう違うのよね。それに、足が長いから、一歩が大きくなる。つまり、より遠くからこうげきできるはず」
「…た、たしかに…」自分の身長が高いことは、あまり気にしないことだ。写真を見ると、ひさしぶりに気づくことがよくある。
「考え方では、相手がこうげきできないところからこうげきできるんだよ?もちろん現実にはふみこみや残心があるから間合いには入らなきゃいけないけど…でも、うまく使えば強いぶきになると思うよ」
「もう一つの、打突(だとつ)の速さ、というのは?」
「あのね、今言ったように身長が大きくてリーチが長い人はぎゃくに動きがゆっくりなことも多いの。たんにうでや足が長いから、早く動くことが下手だということなんだね。でもベレンは違う。それが生まれ持ったさいのうなのか、努力のけっかなのかわからないけれど、あなたの打突(だとつ)はすごく速いよ。それはもう、びっくりするくらい。これをみがかない手はないわ」
目から鱗(めからうろこ:何かを知っておどろいたり、りかいがふかまったりすること)、の意味をベレンは初めてじっかんした気がした。今までずっとわざの練習をして、ぎじゅつをみがくことを大切にしていたのだ。それが、こんな強みが自分にあったなんて。まったく気付かなかった。ベレンと努力をかさねている歩美だからこその、てっかくな意見だった。
でも…またベレンは少し心配だ。
たしかにその二つはやくに立つぶきだ。でも、そこを練習してもあと半年で凛(りん)先輩にかてるとは思えない。
「ただそれをみがいても難しそう、って思っているよね?」
歩美は笑った。
「そんなベレンに、特別なわざを教えてあげるね。ベレンの長いリーチと速い打突(だとつ)が一番活かせる、最強のわざなんだよ」
「おお…?」
ワクワクしながら歩美を見つめる。
「それは『突き(剣道(けんどう)では、竹刀(しない)を使って相手の面などをねらってつく動作)』。ベレン、あなた、突ききの練習をしなさい」
「『突き』?え、ええ…」
ベレンは力が入らなくなって、倒れそうになった。
「なによ、不満?」
歩美がいやそうな顔で言ってくる。
「不満っていうか…」
最強のわざだって言ってたのに、出てきたのが「突きき」とは…
突きは剣道(けんどう)においてめずしいわざではない。面、胴(どう)、小手と同じように、効果があるきほんのわざだ。でも、のどをねらうのできけんが高く、高校生以上しか使えない。
「突き」のとくちょうはその難しさだ。相手ののどの小さい場所を竹刀(しない)の先で正しく突かないと、効果が出にくい。だから、面、胴(どう)、小手とくらべて、上手さにさが出やすいわざだった。ベレンは剣道(けんどう)を始めてまだ半年。もちろん相手も使うし、ベレンも必要なときには使うことがあるけれど、他のわざに比べて『突き』を上手に使えているとは言えなかった。
「突きは、私はあまり得意じゃないよ?他のわざじゃダメなの?」
歩美がニコニコしながらこちらを見ている。
「どうして私が他のどれでもなく『突き』をすすめるのか、説明してあげる」
「いい?突きには他の打突(だとつ)とは違ったいいところがあるの。何だと思う?」
ベレンは首をかしげる。
「ええ…?難しいからみんなあまり使わないし、意外性がある、とか?」
「たしかに他のオーソドックスなわざに比べたら意外性はあるね。でも、とてもめずらしい、というほどではない。他にいいところがあるの」
「…??わからないかも…」
ベレンにとっては、ただゆうこうだを取るのが難しいわざといういんしょうしかなかった。
「教えてあげる。『突き』には二つの特徴があるわ。一つはよび動作がほとんどないこと。もう一つはよりえんきょりからこうげきできること」
「なるほど?」
「まだわかっていない顔をしているね。一つずつ説明するわ」
「お、お願いします」
まるで先生に授業をうけているみたいだ。
「まず一つ目。面、胴(どう)、小手などをうつときは、相手にうつ前に一度剣先(けんさき)を上げる必要があるよね?もちろんその動きを少なくすることはできるけれど、こうげきの前にどうしても少し時間が必要になる。でも、突きは違う。中段でかまえていると、剣先(けんさき)が相手ののどにむいているから、そのままこうげきできる。うつ前に何かを準備する動作は必要ないんだ」
「ほうほう」
「二つ目。突きには他とは違うとくちょうがある。それは、『剣先(けんさき)を使う』ということ。他のうちかたでは竹刀(しない)のねもとから90%くらいの部分を使ってうてと言われているけれど、突きは竹刀(しない)の長さを100%使ってこうげきできる。面や胴(どう)とくらべると、リーチの長さがはっきりしているし、近くをうつ小手とくらべても同じくらい、遠くからでもこうげきできるの」
「突きの長所は何となくわかった…でも、私の長所とあわせるって?」
「さっきも言ったけれど、ベレンの長所は『リーチの長さ』と『打突(だとつ)の速さ』。ただし…ベレンは、うつ動作自体は速くて遠くまで届くけれど、うちはじめるまでの時間が長い。よび動作が少し遅いのね。チャンスを読む力や経験が必要な部分だから仕方がないけれど、じゅんびの動作でうつことがバレることもよくあるよね?」
その通りだった。ここだ!と思ってこうげきを始めると、すぐに相手のはんげきが来ることがよくあった。
「けれど、思い出して。『突き』であればよび動作はほとんど必要ない。すぐにうつことができる。ベレンが『突き』を上手に使えるようになれば、じゅんびの動作がないから相手は気づかず、うてばベレンの速さでいっしゅんで相手ののどをこうげきできる。それにリーチが長いからひじょうに遠い、相手の届かないところから相手をこうげきできる。まさに最強のこうげきじゃない?」
ベレンはびっくりした。歩美がこれほど深く物事を考えているとは。
「たしかに…歩美の言う通りだね。わかった。でも、さっきも言ったように私はまだ突きをうまく使えない。お願い、私に突きを教えてくれない?」
歩美はにっこり笑ってむねをはって答えた。
「まかせなさい!知っているでしょうけど、私、突きはけっこう得意なんだから!」
その通りだった。歩美の突きは本当に正確で、ベレンも何度もやられてしまった。
「でも、どうしてここまでいろいろよくしてくれるの?どうしてこういう、えっと、『てきに塩を送る』ようなことをしてくれるの?」
「ふふ、だって、ベレンは私のライバルであり、友だちだもの。それに、ベレンに突きを教えたからといって、私は簡単にまけるつもりはないよ。『てきに塩を送った上で』正々堂々とたたかって勝つのが、日本人やさむらいの大切な考えだと思うから」
本当によい友人を持ったと、ベレンは感じた。
「歩美…本当にありがとう」
「別にどうってことないよ。それより、時間はかぎられている。さっそく明日から特訓よ!」
次の日から、ベレンの特訓が始まった。
一週間ぶりの道場は、なんだか緊張した。入る時の礼はいつもよりも深く、丁寧なものになった。
(これから半年、もがいてみます)
正面の神棚に向かって、心の中で呟いた。
道場では主将と歩美、それから何人かが自主練習で素振りをしていた。主将は遠くにベレンを見かけると軽く手をあげる。ベレンはぺこりとお辞儀をして返した。歩美は昨日の様子が嘘みたいに嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ベレン!」
「歩美、昨日はごめんなさい、ありがとう」
歩美はかぶりを振る。
「ううん、こっちこそ、言いすぎちゃったかなって気にしてた。ベレンが頑張ってきたの知っていたから、あのまま辞めちゃうなんて悔しくて…戻ってきてくれてよかったあ…」
そう言うと、力が抜けたようにペタリと座り込んだ。
いい友達をもったのだと、ベレンはしみじみ感じた。
その日は2時間ほどひたすら素振りをして、竹刀を持つ感覚を取り戻すことに費やした。
帰り道、歩美と一緒に歩きながら、ベレンは相談した。
「歩美、私、半年後の関東対抗戦出場を目指そうと思うの」
歩美は驚いたような、嬉しそうな顔で振り返る。
「ほんと?じゃあ頑張らなくちゃだね」
うん、と頷いてベレンは続ける。
「でも、関東対抗戦は個人戦の2枠しかないから…そこに入らなくちゃいけない」
「凛先輩に勝たなきゃいけないのか」
歩美は真剣な表情で返した。
ベレンは少しだけ苦笑して、呟いた。
「自分でも、難しいことはわかっているの。でも、あと半年しかないし、どうせならもがいて戦ってみたい。その方が後悔しないと思うから」
歩美は真剣に聞いてくれている。
「で、その…凛先輩に勝つためには、どうしたらいいと思う?半年間、ただ稽古するだけではきっとあの人には勝てないと思うの」
「う~ん、そうだなあ…」
歩美はうつむいて、暫く考えてから言った。
「ベレンの強みを活かすしかないよね」
「私の強み?」
ベレンは首を捻った。
相手は技術も経験も圧倒的だ。凛先輩に対して自分が持っている強み…
「…スペイン語?」
「あの人は外国語学科だからきっとスペイン語もペラペラだよ、って、そういうことじゃないでしょ!!」
歩美はひとしきり笑い転げた後、また真面目な顔で言った。
「私が思うに、凛先輩に対してベレンが持つ強みは二つあるの。一つは“リーチの長さ”、もう一つは“打突の速さ”。やっぱり磨くならここじゃないかな」
リーチの長さと打突の速さ…ベレンが考え込む中、歩美は更に続ける。
「ベレンは身長が高いでしょ?対照的に凛先輩は小柄。はたから見ると腕の長さとかも結構違うのよね。それに、脚も長いから踏み込むときの一歩が大きい。つまり、より遠くから攻撃できるはず」
「…た、確かに…」自分の身長が高いことは、普段は意外と忘れているものだ。写真を見て久しぶりに意識することも多い。
「理論上、相手が攻撃できない距離から攻撃に移れるのよ?もちろん現実には踏み込みや残心があるから間合いには入らなきゃいけないけど…でも、上手く活かせば強力な武器になるはずよ」
「もう一つの、打突の速さ、というのは?」
「あのね、今言ったように身長が大きくてリーチが長い人は逆に動きがゆっくりなことも多いの。単純に腕や脚が長いから素早く動かすことが苦手なのね。でもベレンは違う。天性の才能なのか努力の結果なのかわからないけれど、あなたは打突がとても速いのよ。それはもう、びっくりするくらい。これを磨かない手はないわ」
目から鱗、の意味をベレンは初めて実感した気がした。今までずっと技の練習をして、技術を磨くことを重視してきたのだ。それが、こんな強みが自分にあったなんて。全く気付かなかった。ベレンと切磋琢磨する歩美ならではの的確な指摘だった。
でも…またベレンは少し悩んだ。
確かにその二つは有用な武器だ。でも、ただそこを磨いてもあと半年で凛先輩に勝てるようになるとは到底思えない。
「ただそれを磨いても難しそう、って思っているよね?」
歩美が悪戯っぽく笑った。
「そんなベレンにとっておきの必殺技を教えてあげる。ベレンの持ち味、リーチの長さと打突の速さが最大限に活きる最強の技よ」
「おお…?」
ワクワクしながら歩美を見つめる。
「それは『突き』。ベレン、あなた、突きの練習をしなさい」
「『突き』?え、ええ…」
ベレンは力が抜けて崩れ落ちそうになった。
「なによ、不満?」
歩美がむっとした顔で言ってくる。
「不満っていうか…」
最強の技云々と盛り上げておいて出てくるのが「突き」とは…
突きは剣道において珍しい技ではない。面、胴、小手とともに有効打として扱われる基本的な技だ。ただし喉を狙う関係上危険性が高いため、使用は高校生以上になっている。
「突き」の特徴はその難しさだ。相手の喉元の小さな範囲を竹刀の先で正確に突かなければ、有効打にはなりにくい。それゆえ、面、胴、小手に比べて習熟度に差が出やすい技でもあった。ベレンは剣道を始めてまだ半年。もちろん相手も使ってくるしベレンも必要に応じて繰り出すことはあるが、他の技に比べ、『突き』を使いこなせているとは言い難かった。
「突きは、私はあまり得意じゃないよ?他の技じゃダメなの?」
歩美がにんまり笑ってこちらを見る。
「どうして私が他のどれでもなく『突き』を推すのか、説明してあげる」
「いい?突きには他の打突とは違った利点があるの。何だと思う?」
ベレンは首をかしげる。
「ええ…?難しくてみんなあまり使わないから意表をつける、とか?」
「確かに他のオーソドックスな技に比べたら意外性はあるね。でも、極めて珍しい、というほどではない。他に利点があるの」
「…??わからないかも…」
ベレンにとってはただ有効打が得にくい難しい技、という印象しかなかった。
「教えてあげる。『突き』には二つの特徴があるわ。一つは予備動作が殆ど無いこと。もう一つはより遠距離から攻撃できること」
「なるほど?」
「まだ理解しきれていないって顔ね。一つずつ説明するわ」
「お、お願いします」
なんだか先生に授業を受けているみたいだ。
「まず一つ目。面、胴、小手などの打撃は基本的に相手に打つ前に一度剣先を上げる必要があるよね?もちろんその動きを最小限にすることは出来るけれど、攻撃の前にどうしてもワンテンポ必要になる。でも、突きは違う。中段で構えていれば基本的に剣先は相手の喉元に向いているのだから、そのまま攻撃に移ることが出来る。打突の前の予備動作が必要ないのよ」
「ほうほう」
「二つ目。突きには他とは違うある特色がある。それは、『剣先を使う』ということ。『剣先まで使える』ということよ。他の打突では竹刀の根元から90%くらいの場所を使って打てと言われているけれど、突きは竹刀の長さを100%活かして繰り出すことができる。面や胴に比べたらリーチの長さは明らか、より手前を打つ小手に比べても遜色のない、遠距離からの攻撃が可能なの」
「突きの長所は何となくわかった…でも、私の長所と併せるって?」
「さっきも言ったけれど、ベレンの長所は『リーチの長さ』と『打突の速さ』。ただし…ベレンは、打突そのものは速く、遠くまで届くのだけれど、打突に入るまでが長いの。予備動作が少し遅いのね。これはチャンスを読み取る勝負勘とか、経験がモノを言う部分だから仕方ない部分ではあるのだけれど、予備動作を見て打撃を察知されることも多いじゃない?」
その通りだった。ここだ!と思って打撃に入るとすぐさま相手の反撃の一手が飛んでくる、なんてことがよくあった。
「けれど、思い出して。『突き』であれば予備動作は殆ど必要ない。即座に打てる。ベレンが『突き』を極めれば、予備動作が無いので察知もできず、打てばベレンの持ち前の速さで一瞬で相手の喉元を貫く。それにリーチが長いから非常に遠い、相手の届かないところから相手を攻撃できる。まさに最強の一撃じゃない?」
ベレンは驚愕した。歩美がこれほど深く物事を考えているとは。
「確かに…歩美の言う通りだね。わかった。でも、さっきも言ったように私はまだ突きをうまく使いこなせない。お願い、私に突きを教えてくれない?」
歩美はにっこり笑って胸を張って答えた。
「任せなさい!知っているでしょうけど、私、突きは結構得意なんだから!」
その通りだった。歩美の突きはまさに正確無比で、ベレンも何度もしてやられたものだ。
「でも、どうしてここまで色々よくしてくれるの?どうしてこういう、えっと、『敵に塩を送る』ようなことをしてくれるの?」
「ふふ、だって、ベレンは私のライバルであり、友達だもの。それに、ベレンに突きを教えたからって私も易々と負けてあげるつもりはないよ。『敵に塩を送った上で』正々堂々と戦って勝つのが日本人の、侍の美学だと思うから」
本当によい友人を持ったと、ベレンはつくづく感じた。
「歩美…本当にありがとう」
「別にどうってことないよ。それより、時間は限られている。早速明日から特訓よ!」
次の日から、ベレンの特訓が始まった。
(これから半年、もがいてみます)
正面の神棚に向かって、心の中で呟いた。
道場では主将と歩美、それから何人かが自主練習で素振りをしていた。主将は遠くにベレンを見かけると軽く手をあげる。ベレンはぺこりとお辞儀をして返した。歩美は昨日の様子が嘘みたいに嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ベレン!」
「歩美、昨日はごめんなさい、ありがとう」
歩美はかぶりを振る。
「ううん、こっちこそ、言いすぎちゃったかなって気にしてた。ベレンが頑張ってきたの知っていたから、あのまま辞めちゃうなんて悔しくて…戻ってきてくれてよかったあ…」
そう言うと、力が抜けたようにペタリと座り込んだ。
いい友達をもったのだと、ベレンはしみじみ感じた。
その日は2時間ほどひたすら素振りをして、竹刀を持つ感覚を取り戻すことに費やした。
帰り道、歩美と一緒に歩きながら、ベレンは相談した。
「歩美、私、半年後の関東対抗戦出場を目指そうと思うの」
歩美は驚いたような、嬉しそうな顔で振り返る。
「ほんと?じゃあ頑張らなくちゃだね」
うん、と頷いてベレンは続ける。
「でも、関東対抗戦は個人戦の2枠しかないから…そこに入らなくちゃいけない」
「凛先輩に勝たなきゃいけないのか」
歩美は真剣な表情で返した。
ベレンは少しだけ苦笑して、呟いた。
「自分でも、難しいことはわかっているの。でも、あと半年しかないし、どうせならもがいて戦ってみたい。その方が後悔しないと思うから」
歩美は真剣に聞いてくれている。
「で、その…凛先輩に勝つためには、どうしたらいいと思う?半年間、ただ稽古するだけではきっとあの人には勝てないと思うの」
「う~ん、そうだなあ…」
歩美はうつむいて、暫く考えてから言った。
「ベレンの強みを活かすしかないよね」
「私の強み?」
ベレンは首を捻った。
相手は技術も経験も圧倒的だ。凛先輩に対して自分が持っている強み…
「…スペイン語?」
「あの人は外国語学科だからきっとスペイン語もペラペラだよ、って、そういうことじゃないでしょ!!」
歩美はひとしきり笑い転げた後、また真面目な顔で言った。
「私が思うに、凛先輩に対してベレンが持つ強みは二つあるの。一つは“リーチの長さ”、もう一つは“打突の速さ”。やっぱり磨くならここじゃないかな」
リーチの長さと打突の速さ…ベレンが考え込む中、歩美は更に続ける。
「ベレンは身長が高いでしょ?対照的に凛先輩は小柄。はたから見ると腕の長さとかも結構違うのよね。それに、脚も長いから踏み込むときの一歩が大きい。つまり、より遠くから攻撃できるはず」
「…た、確かに…」自分の身長が高いことは、普段は意外と忘れているものだ。写真を見て久しぶりに意識することも多い。
「理論上、相手が攻撃できない距離から攻撃に移れるのよ?もちろん現実には踏み込みや残心があるから間合いには入らなきゃいけないけど…でも、上手く活かせば強力な武器になるはずよ」
「もう一つの、打突の速さ、というのは?」
「あのね、今言ったように身長が大きくてリーチが長い人は逆に動きがゆっくりなことも多いの。単純に腕や脚が長いから素早く動かすことが苦手なのね。でもベレンは違う。天性の才能なのか努力の結果なのかわからないけれど、あなたは打突がとても速いのよ。それはもう、びっくりするくらい。これを磨かない手はないわ」
目から鱗、の意味をベレンは初めて実感した気がした。今までずっと技の練習をして、技術を磨くことを重視してきたのだ。それが、こんな強みが自分にあったなんて。全く気付かなかった。ベレンと切磋琢磨する歩美ならではの的確な指摘だった。
でも…またベレンは少し悩んだ。
確かにその二つは有用な武器だ。でも、ただそこを磨いてもあと半年で凛先輩に勝てるようになるとは到底思えない。
「ただそれを磨いても難しそう、って思っているよね?」
歩美が悪戯っぽく笑った。
「そんなベレンにとっておきの必殺技を教えてあげる。ベレンの持ち味、リーチの長さと打突の速さが最大限に活きる最強の技よ」
「おお…?」
ワクワクしながら歩美を見つめる。
「それは『突き』。ベレン、あなた、突きの練習をしなさい」
「『突き』?え、ええ…」
ベレンは力が抜けて崩れ落ちそうになった。
「なによ、不満?」
歩美がむっとした顔で言ってくる。
「不満っていうか…」
最強の技云々と盛り上げておいて出てくるのが「突き」とは…
突きは剣道において珍しい技ではない。面、胴、小手とともに有効打として扱われる基本的な技だ。ただし喉を狙う関係上危険性が高いため、使用は高校生以上になっている。
「突き」の特徴はその難しさだ。相手の喉元の小さな範囲を竹刀の先で正確に突かなければ、有効打にはなりにくい。それゆえ、面、胴、小手に比べて習熟度に差が出やすい技でもあった。ベレンは剣道を始めてまだ半年。もちろん相手も使ってくるしベレンも必要に応じて繰り出すことはあるが、他の技に比べ、『突き』を使いこなせているとは言い難かった。
「突きは、私はあまり得意じゃないよ?他の技じゃダメなの?」
歩美がにんまり笑ってこちらを見る。
「どうして私が他のどれでもなく『突き』を推すのか、説明してあげる」
「いい?突きには他の打突とは違った利点があるの。何だと思う?」
ベレンは首をかしげる。
「ええ…?難しくてみんなあまり使わないから意表をつける、とか?」
「確かに他のオーソドックスな技に比べたら意外性はあるね。でも、極めて珍しい、というほどではない。他に利点があるの」
「…??わからないかも…」
ベレンにとってはただ有効打が得にくい難しい技、という印象しかなかった。
「教えてあげる。『突き』には二つの特徴があるわ。一つは予備動作が殆ど無いこと。もう一つはより遠距離から攻撃できること」
「なるほど?」
「まだ理解しきれていないって顔ね。一つずつ説明するわ」
「お、お願いします」
なんだか先生に授業を受けているみたいだ。
「まず一つ目。面、胴、小手などの打撃は基本的に相手に打つ前に一度剣先を上げる必要があるよね?もちろんその動きを最小限にすることは出来るけれど、攻撃の前にどうしてもワンテンポ必要になる。でも、突きは違う。中段で構えていれば基本的に剣先は相手の喉元に向いているのだから、そのまま攻撃に移ることが出来る。打突の前の予備動作が必要ないのよ」
「ほうほう」
「二つ目。突きには他とは違うある特色がある。それは、『剣先を使う』ということ。『剣先まで使える』ということよ。他の打突では竹刀の根元から90%くらいの場所を使って打てと言われているけれど、突きは竹刀の長さを100%活かして繰り出すことができる。面や胴に比べたらリーチの長さは明らか、より手前を打つ小手に比べても遜色のない、遠距離からの攻撃が可能なの」
「突きの長所は何となくわかった…でも、私の長所と併せるって?」
「さっきも言ったけれど、ベレンの長所は『リーチの長さ』と『打突の速さ』。ただし…ベレンは、打突そのものは速く、遠くまで届くのだけれど、打突に入るまでが長いの。予備動作が少し遅いのね。これはチャンスを読み取る勝負勘とか、経験がモノを言う部分だから仕方ない部分ではあるのだけれど、予備動作を見て打撃を察知されることも多いじゃない?」
その通りだった。ここだ!と思って打撃に入るとすぐさま相手の反撃の一手が飛んでくる、なんてことがよくあった。
「けれど、思い出して。『突き』であれば予備動作は殆ど必要ない。即座に打てる。ベレンが『突き』を極めれば、予備動作が無いので察知もできず、打てばベレンの持ち前の速さで一瞬で相手の喉元を貫く。それにリーチが長いから非常に遠い、相手の届かないところから相手を攻撃できる。まさに最強の一撃じゃない?」
ベレンは驚愕した。歩美がこれほど深く物事を考えているとは。
「確かに…歩美の言う通りだね。わかった。でも、さっきも言ったように私はまだ突きをうまく使いこなせない。お願い、私に突きを教えてくれない?」
歩美はにっこり笑って胸を張って答えた。
「任せなさい!知っているでしょうけど、私、突きは結構得意なんだから!」
その通りだった。歩美の突きはまさに正確無比で、ベレンも何度もしてやられたものだ。
「でも、どうしてここまで色々よくしてくれるの?どうしてこういう、えっと、『敵に塩を送る』ようなことをしてくれるの?」
「ふふ、だって、ベレンは私のライバルであり、友達だもの。それに、ベレンに突きを教えたからって私も易々と負けてあげるつもりはないよ。『敵に塩を送った上で』正々堂々と戦って勝つのが日本人の、侍の美学だと思うから」
本当によい友人を持ったと、ベレンはつくづく感じた。
「歩美…本当にありがとう」
「別にどうってことないよ。それより、時間は限られている。早速明日から特訓よ!」
次の日から、ベレンの特訓が始まった。