Coming soon!
Coming soon!
軽トラに乗る人を誰にするかは、みんなで相談した。
運転手は淳さんとして、残りは誰がついていくのか。
「こういう時は体力が必要だから俺が行ってくるよ」
ひろしがそう言う。
「ここまで食料の話を村の人たちと相談したのは私たちだから、私たちのうちだれかはついていった方がいいと思う」
ベレンはそのつもりだった。
「いやいや、ここは男手に任せておきなよ」
そう言ったのは淳さんだ。
「でも…」
そう言いかけたベレンに、淳さんがそっと耳打ちした。
「彼、ひろしくん、だっけ?は君のことが心配なのさ。危ないことはしてほしくないって車の中でもずっと言ってた」
「…!!」
ひろしは淳さんの耳打ちの内容を察したようだ。
「ちょ、淳さん!それは言わないって…!」
真っ赤になりながら慌てている。
「ふふ、それじゃ、行ってくるよ」
そう言ってから、思い出したように淳さんはつぶやく
「あ、場所が判んないや。どこにいけばいい?」
「もう…ほらこれ」
そう言って歩美さんは地図を渡した。
「この赤い点がついているのが協力を申し出てくれた人の家の場所。詳細な保管場所はこのメモに書いておいたから」
歩美さんとヤスさん、芳子さんが手分けしてやってくれたのだそうだ。
「いやあ、頼りっきりになっちまって済まねえな、まあこっちでの荷下ろしとかは任せろな」
「配分とか、整理とかは私たちでもできますから、任せて下さいね」
ヤスさんと芳子さんは元気そうに言った。
「…気をつけていってきなさいよね」
歩美さんは淳さんの厚い胸板をそっと小突く。
「ああ」
淳さんはにっこり笑った。
「ひろしも、気をつけてね」
ベレンは声音から少しの不安も悟られまいとしていた。
「大丈夫だよ、任せて。避難所はよろしく」
淳さんとひろしは、早速軽トラに乗り込んだ。歩美さんからもらった地図を開くと、そこには赤いペンで印と番号が振られており、メモには番号ごとに食料物資の保管場所や種類、量などが事細かに書かれていた。
「歩美は、こういうとこしっかりしてるんだよね」
そういう淳さんはどこか嬉しそうだ。
ひろしも釣られて楽しそうな声になる。
「とりあえず、どこから向かいます?」
「そうだね、まずは近いところで水と非常用の米、カップ麺なんかがある場所がいいな。とりあえずそのあたりがあれば最低限食事になるから」
しばらく地図を見つめてから、ひろしが淳さんに地図を見せた。
「それならまずはこことこの辺り、でしょうか」
「オッケー、ナビ、お願いできる?」
近場で5,6件をまわると、すぐにかなりの量が集まった。
「おお、これは結構すごいですね」
「うん、一度小学校に戻ろうか」
軽トラが小学校に着くと、ヤスさんが知り合いの男手を集めて駆け寄ってきた。
「こいつらに話したら、手伝いたいっていうからよ」
「それはとてもありがたいです。お願いします」
軽トラに殆どいっぱいに積まれていた荷物は、あっという間に降ろされた。
ベレン達は体育館に集積されたそれを仕分ける役目だ。
「とりあえず水はこっち、缶詰はここ、それからお米は…」
歩美さんがテキパキと指示を出す。周囲で見守っていた人たちも手伝い始めた。
「まだ足りないよね、それじゃ、次取りに行こうかな」
淳さんがそう言った。確かに積みあがった食料は相当な量だが、200人で食べるとなると1日分もないだろう。
「次はどこ行く?」
「そうですね…村役場に相当量が備蓄されているようなので、それをいただきたいのですが」
ひろしはメモを見ながら言った。
それを聞いた先ほど協力を申し出てくれた村役場の職員さんが近づいてきた。
「役場になら、様々な種類の物資があります。恐らくは200人が数日食べられるだけの」
「でも、やってみて思いましたけど、1台の軽トラと2人じゃあ結構しんどいですね。どうします?」
「いやあ、どうもこうも俺はこれしか持ってないし…」
淳さんが困ったように呟いた。
「あ、軽トラで良ければ俺も持ってるぞ」
「おう、儂も」
「おいらも」
「某も」
荷下ろしを手伝ってくれたおじさんたちから、次々に手が上がった。
「「「「手伝おうか?」」」」
村役場までは5台の軽トラックが向かうことになった。
「役場までは距離がそこそこありますよね…」
「そうだね、それに、途中には増水してる姫川を渡るし、土砂崩れで寸断とか、されてないといいなあ」
役場までは倒木や土砂崩れで道がふさがっていないか心配だったが、それは杞憂だった。停電になり、孤立して静まり返った村で5台のトラックが谷あいを一列になって進んでいく様子はどこか頼もしいものですらあった。
増水した姫川は轟音を立てて流れていたが、その上の橋を小さな隊列は静かに進んだ。そして、しばらく進んでようやく村役場に辿り着いた。
「…ついた!ゆっくり来たから時間はかかったけど、これはすごい量だ…」
役場の職員さんが開けた備蓄倉庫の中を見て、淳さんは感嘆の声を上げた。
「持っていけるだけ持っていきましょう」
職員さんはその場で上司や村長に許可をもらったようだ。
積み込みにも1時間ほどがかかったが、何とか5台の軽トラがいっぱいになるほどに物資を積み込んだ。食料以外にも、毛布や衣服、ストーブなんかも積み込むことができた。
「よし、じゃあ持ち帰ろう。また俺が先導するから、ついてきてください」
淳さんはまた5台のトラックを引き連れて、来た道を慎重に帰る。
小学校に帰り着くころには辺りも薄暗くなっていたが、到着した5台のトラックは避難していた人たちから拍手喝采で迎えられた。
「よっしゃ、じゃあどんどん降ろすな!」
ヤスさんはまた荷下ろしの陣頭指揮を執り、
「任せて、じゃあどんどん仕分けましょう」
ベレンやあかり、歩美さんは届いた物資の整理を進めた。
その日の夜は避難者全員に水、缶詰、ご飯が渡された。
殆ど1日ぶりのまともな食事で、まずは一息がつけた、といったところだった。