閉じる
閉じる
📌
閉じる
📌
早く逃げて!
共同生活
現在の再生速度: 1.0倍
Coming soon!
Coming soon!
「…で、まず何をしたらいいんだろうな。避難所での共同生活ってのは」
ヤスさんがそういって頭を掻く。
ベレンはその様子に思わず笑みがこぼれた。
「まず、衣食住の確保でしょう。このなかで一番問題なのは食、ですね…」
緊張がほぐれたからか、自分の考えがすらすらと出てきた。
「確かに…それなら、まず食料を集めるところから、かな」
あかりがそういった。その様子を見ていた歩美さんが、ベレンたちに声をかけた。
「じゃあ私と一緒に食料を集めよう。どうしたらいいかな」
「とりあえず、私たちが民宿から持ってきた分があります」
ベレンとあかりがリュックを開けて缶詰を取り出した。
「ほんとだ!私たちは殆ど着の身着のままで避難しちゃったから持ってきてない…家にならたくさんあるんだけど」
歩美さんが少し申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、私たちが持ってきたのもたかが缶詰10個と水が4Lですから。急場のしのぎにしかなりません」
そういったのはペンションのオーナーだ。
「他にも持ってきている人たちがいるかもしれません。逆に持っていなくてお腹を減らした人がいるかも。事情を話して、訊いてみましょう」
「じゃあその間俺たちは、学校に備蓄がないか聞いてみるよ」
ヤスさんと芳子さんは小学校の関係者を探しに行った。
オーナーとベレン、あかり、それに歩美さんは避難所を回りながら、食料を持っているかどうか聞いて回った。しかし,避難した人のほとんどは慌てて避難したため食料は持ってきていなかった。
「家になら、保存食があるんだけどねえ」皆、口をそろえてそう言った。
「家が結構遠くてね。もう年だから、あれを歩いて持ってくるのも難しいね。でもここを離れるのも心細いし」
あるおばあさんがそう呟くと、周りの人たちも共感するかのように頷いた。
「確かに、家にあるなら運ぶのは大変そうですね…私たちで手分けしても、200人分は…」
オーナーはそう言って悩ましげに首を傾げる。
「なるほど…」
歩美さんが少し考え込むように呟いた。
「とりあえず、もう一度集まって話し合いましょうか」
ヤスさんたちは小学校の先生と話して戻ってきた。
「どうでした?」
ヤスさんは渋い顔で答える。
「うーん、保存食はあるにはある、が、正直かなり古くて食べられるか怪しいらしい。ちょうどほったらかしなのに気づいて入れ替えようとしていたところにこの台風が来ちまったんだと」
「そうか、それはちょっと…良くないかもしれませんね」
ひろしは深いため息をついた。
みんなが一度集まったところで、歩美さんが淳さんに声をかけた。
「ねえ、今ってもう雨は止んでるの?」
「ああ、止んでるはずだよ」
淳さんは何が何だかわからない様子で怪訝そうに答える.
「あなた、今、軽トラはどこにあるの?」
「け、軽トラ…?あ、ああ、家の前に止めてあるけど」
「…それ,使ってもいい?」
「え?」
そこまで言ってベレンはようやく歩美さんの考えがわかった。
「あのね、食料なんだけど、家にならあるって人が沢山いるの。でもね、お年寄りも多くて、自力で持ってくるのは難しいって人が多いのよね。ここを離れるのはやっぱり心細いし」
淳さんもようやく話の要旨が掴めたみたいだ。
「…つまり?」
「だから、私が軽トラで運ぼうと思って。使っていいでしょ?」
淳さんは少し考え込んだ。その様子は先ほどの歩美さんによく似ていて、やはり夫婦なのだと微笑ましくなる。
「…だめだ」
「!!」
この返事は少し意外だ。てっきり淳さんは奥さんの頼みは断れないタイプかと思っていた。
「どうして?困っている人がいるのよ?それとも歩いて運べっていうの?」
歩美さんは少し怒ったような口調だ。
大柄な淳さんは真面目な顔で、小柄な歩美さんの顔を覗き込むようにしている。
「違う。食料や物資の運搬に軽トラを使うのはいいと思う。でも…」
「でも何よ」
淳さんは奥さんに詰めよられながらも、ここまで寡黙だった淳さんがやや饒舌に続けた.
「でも、君が使うのには反対だ。雨は止んだとはいえ土砂崩れの危険はあるし、うちは川に近いから取りに行くのも少し危ない。それに、女性だけでやるには重労働だ。軽トラで食料を集めて運搬するのは、俺がやる。君にそんな危ないことさせられない。大事な奥さんなんだから」
「「「?!?!」」」
最後の一言を、みんな聞き逃さなかった。
「ば、馬鹿じゃないの?!」
そう叫んだ歩美さんの顔は耳まで真っ赤だ。
淳さんの表情はよく見えないが、耳は同じように真っ赤になっている。
真っ赤になって俯いたまま、歩美さんは淳さんにそっと、呟くように話した。
「…ありがと。じゃ、手伝って」
「もちろん」
ベレンたちはにやけが止まらなかった。
「じゃあ、軽トラとってくるから」
「あ、一人じゃ何かあったときまずいですから、僕も行きますよ」
そう言ったのはひろしだ。
淳さんとひろしは軽トラを持ってくるために歩いて淳さんの家に向かった。
「ふう、嫌になっちゃうよね。この非常時に、みんなの前であんなこと言ってさ」
淳さんとひろしを見送った後、そう言った歩美さんの口調はしかし、今までにないくらい優しげだ.
「えへへ,正直うらやましいです。ねえ、ベレン?」
あかりがそう言うと、ベレンもニコニコしながら答えた。
「そうですね。旦那さん、優しいですね」
歩美さんはまた、耳まで赤くしながら答えた。
「…そうね」
「さ、気を取り直して、とりあえずあの人たちが戻ってくるまではどうする?1時間くらいはかかるわよ」
ベレンはまた少し考えた。
「まず、自宅の食料を持ってきて皆に分けてもいい、って人を探したほうがいいんじゃない?」
横からあかりがそう提案した。
「確かに!そしたら、また聞いて回る?」
「それはちょっと手間じゃない…?」
ここでベレンに考えが浮かんだ。
「そうだ。ちょっと、やりたいことがあるんだけど」
ベレンたちが向かったのは、体育館の二階の放送室だった。
「ここで何するの?」
あかりが不思議そうに尋ねた。
「へへ、まあ見てなって」
ベレンが悪戯っぽく微笑んで、マイクのスイッチを入れた。
『…ガガガ…えーマイクテストマイクテスト。良し』
ギャラリーから下を見ると、ほとんどの避難者が驚いたように見上げている。
『こんにちは。私は東京から来た大学生のベレンと申します。ここに避難している皆さんにお願いがあります』
そこで一息ついて、
『家に食料があるけれども取りに行けないという人はいらっしゃいませんか?私たちは軽トラックを手配し、その食料を運ぶ用意があります。つきましては、運んだ食料をここの皆さんに配ってもよいという方は、私どもにお声がけください。アルゼンチン人なので容姿でわかるかとおもいます。皆さんで助け合ってこの災害を乗り越えましょう。よろしくお願いいたします』
ベレンはできるだけ多くの人に伝わるように、ゆっくりとマイクに向かって喋った。
喋り終えてマイクのスイッチを切ると、あかりが驚いたようにまくし立てた。
「すごーい!ベレン、アナウンス上手…」
「ほんとね、これならたくさんの人が手をあげてくれそう」
歩美さんも感心したように頷いている。
ベレンは少し照れ臭くなった。
階段を降りて体育館の中を歩いていると、早速何人かから声をかけられた。
「放送聞いて、協力したいんだけど…」
「家の脇の倉庫に、乾パンとか缶詰とか入ってるんだけど…」
そんな人が何人かいた。
驚いたのはそのなかに村役場の職員さんがいたことで、
「役場の非常倉庫に食料や物資があったはずです、場所鍵の開け方を知っているので、協力させてほしい」
と言ってくれた。
「ありがたいですけど…勝手にそんなことして大丈夫なんですか?」
とあかりが尋ねると、若い職員さんは首をすくめて、
「村長や偉い人たちはここにはいません。それに、村民の方々が健康的な生活を送れるようにするのが我々の仕事です」
と笑った。
しばらくして、淳さんとひろしが乗った軽トラックが、小谷小学校に到着した。
ヤスさんがそういって頭を掻く。
ベレンはその様子に思わず笑みがこぼれた。
「まず、衣食住の確保でしょう。このなかで一番問題なのは食、ですね…」
緊張がほぐれたからか、自分の考えがすらすらと出てきた。
「確かに…それなら、まず食料を集めるところから、かな」
あかりがそういった。その様子を見ていた歩美さんが、ベレンたちに声をかけた。
「じゃあ私と一緒に食料を集めよう。どうしたらいいかな」
「とりあえず、私たちが民宿から持ってきた分があります」
ベレンとあかりがリュックを開けて缶詰を取り出した。
「ほんとだ!私たちは殆ど着の身着のままで避難しちゃったから持ってきてない…家にならたくさんあるんだけど」
歩美さんが少し申し訳なさそうに言った。
「いえいえ、私たちが持ってきたのもたかが缶詰10個と水が4Lですから。急場のしのぎにしかなりません」
そういったのはペンションのオーナーだ。
「他にも持ってきている人たちがいるかもしれません。逆に持っていなくてお腹を減らした人がいるかも。事情を話して、訊いてみましょう」
「じゃあその間俺たちは、学校に備蓄がないか聞いてみるよ」
ヤスさんと芳子さんは小学校の関係者を探しに行った。
オーナーとベレン、あかり、それに歩美さんは避難所を回りながら、食料を持っているかどうか聞いて回った。しかし,避難した人のほとんどは慌てて避難したため食料は持ってきていなかった。
「家になら、保存食があるんだけどねえ」皆、口をそろえてそう言った。
「家が結構遠くてね。もう年だから、あれを歩いて持ってくるのも難しいね。でもここを離れるのも心細いし」
あるおばあさんがそう呟くと、周りの人たちも共感するかのように頷いた。
「確かに、家にあるなら運ぶのは大変そうですね…私たちで手分けしても、200人分は…」
オーナーはそう言って悩ましげに首を傾げる。
「なるほど…」
歩美さんが少し考え込むように呟いた。
「とりあえず、もう一度集まって話し合いましょうか」
ヤスさんたちは小学校の先生と話して戻ってきた。
「どうでした?」
ヤスさんは渋い顔で答える。
「うーん、保存食はあるにはある、が、正直かなり古くて食べられるか怪しいらしい。ちょうどほったらかしなのに気づいて入れ替えようとしていたところにこの台風が来ちまったんだと」
「そうか、それはちょっと…良くないかもしれませんね」
ひろしは深いため息をついた。
みんなが一度集まったところで、歩美さんが淳さんに声をかけた。
「ねえ、今ってもう雨は止んでるの?」
「ああ、止んでるはずだよ」
淳さんは何が何だかわからない様子で怪訝そうに答える.
「あなた、今、軽トラはどこにあるの?」
「け、軽トラ…?あ、ああ、家の前に止めてあるけど」
「…それ,使ってもいい?」
「え?」
そこまで言ってベレンはようやく歩美さんの考えがわかった。
「あのね、食料なんだけど、家にならあるって人が沢山いるの。でもね、お年寄りも多くて、自力で持ってくるのは難しいって人が多いのよね。ここを離れるのはやっぱり心細いし」
淳さんもようやく話の要旨が掴めたみたいだ。
「…つまり?」
「だから、私が軽トラで運ぼうと思って。使っていいでしょ?」
淳さんは少し考え込んだ。その様子は先ほどの歩美さんによく似ていて、やはり夫婦なのだと微笑ましくなる。
「…だめだ」
「!!」
この返事は少し意外だ。てっきり淳さんは奥さんの頼みは断れないタイプかと思っていた。
「どうして?困っている人がいるのよ?それとも歩いて運べっていうの?」
歩美さんは少し怒ったような口調だ。
大柄な淳さんは真面目な顔で、小柄な歩美さんの顔を覗き込むようにしている。
「違う。食料や物資の運搬に軽トラを使うのはいいと思う。でも…」
「でも何よ」
淳さんは奥さんに詰めよられながらも、ここまで寡黙だった淳さんがやや饒舌に続けた.
「でも、君が使うのには反対だ。雨は止んだとはいえ土砂崩れの危険はあるし、うちは川に近いから取りに行くのも少し危ない。それに、女性だけでやるには重労働だ。軽トラで食料を集めて運搬するのは、俺がやる。君にそんな危ないことさせられない。大事な奥さんなんだから」
「「「?!?!」」」
最後の一言を、みんな聞き逃さなかった。
「ば、馬鹿じゃないの?!」
そう叫んだ歩美さんの顔は耳まで真っ赤だ。
淳さんの表情はよく見えないが、耳は同じように真っ赤になっている。
真っ赤になって俯いたまま、歩美さんは淳さんにそっと、呟くように話した。
「…ありがと。じゃ、手伝って」
「もちろん」
ベレンたちはにやけが止まらなかった。
「じゃあ、軽トラとってくるから」
「あ、一人じゃ何かあったときまずいですから、僕も行きますよ」
そう言ったのはひろしだ。
淳さんとひろしは軽トラを持ってくるために歩いて淳さんの家に向かった。
「ふう、嫌になっちゃうよね。この非常時に、みんなの前であんなこと言ってさ」
淳さんとひろしを見送った後、そう言った歩美さんの口調はしかし、今までにないくらい優しげだ.
「えへへ,正直うらやましいです。ねえ、ベレン?」
あかりがそう言うと、ベレンもニコニコしながら答えた。
「そうですね。旦那さん、優しいですね」
歩美さんはまた、耳まで赤くしながら答えた。
「…そうね」
「さ、気を取り直して、とりあえずあの人たちが戻ってくるまではどうする?1時間くらいはかかるわよ」
ベレンはまた少し考えた。
「まず、自宅の食料を持ってきて皆に分けてもいい、って人を探したほうがいいんじゃない?」
横からあかりがそう提案した。
「確かに!そしたら、また聞いて回る?」
「それはちょっと手間じゃない…?」
ここでベレンに考えが浮かんだ。
「そうだ。ちょっと、やりたいことがあるんだけど」
ベレンたちが向かったのは、体育館の二階の放送室だった。
「ここで何するの?」
あかりが不思議そうに尋ねた。
「へへ、まあ見てなって」
ベレンが悪戯っぽく微笑んで、マイクのスイッチを入れた。
『…ガガガ…えーマイクテストマイクテスト。良し』
ギャラリーから下を見ると、ほとんどの避難者が驚いたように見上げている。
『こんにちは。私は東京から来た大学生のベレンと申します。ここに避難している皆さんにお願いがあります』
そこで一息ついて、
『家に食料があるけれども取りに行けないという人はいらっしゃいませんか?私たちは軽トラックを手配し、その食料を運ぶ用意があります。つきましては、運んだ食料をここの皆さんに配ってもよいという方は、私どもにお声がけください。アルゼンチン人なので容姿でわかるかとおもいます。皆さんで助け合ってこの災害を乗り越えましょう。よろしくお願いいたします』
ベレンはできるだけ多くの人に伝わるように、ゆっくりとマイクに向かって喋った。
喋り終えてマイクのスイッチを切ると、あかりが驚いたようにまくし立てた。
「すごーい!ベレン、アナウンス上手…」
「ほんとね、これならたくさんの人が手をあげてくれそう」
歩美さんも感心したように頷いている。
ベレンは少し照れ臭くなった。
階段を降りて体育館の中を歩いていると、早速何人かから声をかけられた。
「放送聞いて、協力したいんだけど…」
「家の脇の倉庫に、乾パンとか缶詰とか入ってるんだけど…」
そんな人が何人かいた。
驚いたのはそのなかに村役場の職員さんがいたことで、
「役場の非常倉庫に食料や物資があったはずです、場所鍵の開け方を知っているので、協力させてほしい」
と言ってくれた。
「ありがたいですけど…勝手にそんなことして大丈夫なんですか?」
とあかりが尋ねると、若い職員さんは首をすくめて、
「村長や偉い人たちはここにはいません。それに、村民の方々が健康的な生活を送れるようにするのが我々の仕事です」
と笑った。
しばらくして、淳さんとひろしが乗った軽トラックが、小谷小学校に到着した。