Coming soon!
Coming soon!
小学校の体育館には、200人ほどが避難していた。
学校の倉庫にあった毛布を受け取り、空いているスペースを探していると、ふと声をかけられた。
「おお、誰かと思ったらそこのペンションの!」
「ああ、ヤスさん、ご無沙汰してます」
オーナーの表情が少し緩む。どうやら知り合いみたいだ。
「この人たちは、お客さん?一緒に避難してきたのかい?」
「そうです、いやあ災難なことになっちまって…」
「まあこっち来いよ。知り合いは一人でも多い方が心強いってもんだ」
オーナーに声をかけたのは、ヤスさん、と呼ばれるおじさんだった。ヤスさんに連れられて体育館の奥の方のスペースに行くと、すでに何人か集まっている。皆知り合いなのだろう、オーナーが来ると親しげに話しかけてきた。そしてそのペンションの宿泊客であるベレン達にも、気遣いながら話しかけてくれた。
オーナーがベレン達に、集まっている人の紹介をしてくれた。
「一人ずつ紹介するね。最初に話しかけてきたこのおじさんが近くで食堂をやっているヤスさん」
「おじさん、じゃなくておにいさん、だろ?」
ヤスさんは悪戯っぽく笑う。
「で、その隣のお姉さんが奥さんの芳子さん、実は料理は芳子さんの方が美味い」
「もうお姉さんなんて年じゃないわよ、相変わらず口が達者ね」
芳子さんは微笑んだ。
「このガタイのいいお兄さんが農家の淳さん。通称喋る筋肉」
「どうも、喋る筋肉です」
淳さんは幅の広い肩をゆらゆらと揺らす。
「で、その隣が奥さんの歩美さん。実は旦那さんを尻に敷いているって噂だ」
「もう、そんなわけないでしょ?ねえ?」
小柄な女性はけらけら笑って隣に視線を送る。
「…はい、それはもう」
淳さんは首をすくめて答えた。その様子をみた周りからはドッと笑い声が起こった。
その後、オーナーはベレン達の紹介もしてくれた。
初めて会う人たちだったが、みんな優しい人ですぐに打ち解けることができた。雨の降る夜更けの避難所で、ベレン達は少し緊張を緩めた。
時刻は深夜の4時をまわったころ、避難所で毛布にくるまってうとうとしていると、突然地響きがして、大きな音が聞こえた。直後、天井の電気が消えた。
避難所は急に騒がしくなった。すぐに非常用電源で明かりがつき、落ち着きを取り戻したが、村の広い範囲が停電しているようだった。しかし、暗いうちでは何が起こったのかもわからない。
「とにかく、日が昇らないとどうしようもない。明るくなるまで待とう」
そうひろしが言って、ベレン達はまた眠ることにした。
毛布の中でくるまっていたが、不安感は強くなるばかりで目はさえていた。
朝になって、雨は小降りになった。そしてようやく情報が集まってきた。ベレンが持ってきていたラジオを皆で集まって聞いている。
『…このうち、長野県小谷村では、大規模な土砂崩れが発生し、村内全域で停電が発生している模様です。また、この土砂崩れの影響で』
「土砂崩れ、だって?」
オーナーとヤスさんが同時に声をあげた。
ベレンのラジオからはそのまま災害情報が流れ続ける。
『この土砂崩れの影響で,国道148号が白馬大池駅北側で寸断、また下里瀬トンネルの南側入り口も崩れた土砂によって埋まり、復旧の目途が立たない状況です』
淳さんが眉間にしわを寄せる。
「…このニュースが本当だとすると、まずいな」
ひろしが同じように深刻な表情でこくりと頷いた。
ベレンとあかりはまだ事態が読み込めていない。
「まずいって、何が?」
恐る恐るベレンが聞いて、ひろしが答えようとしたとき、その答えはラジオから流れてきた。
『…このうち長野県小谷村では、村内の主要幹線道路が寸断され、自衛隊や消防車両などが救助に迎えず、計150世帯が孤立した状態になっているとのことです』
「!!」
「そう、そういうこと。ここは谷合の村だからね。村内の南北を結ぶ道路の両端が寸断されたら、孤立してしまうんだね」
ヤスさんが頭を掻いた。
芳子さんが心配そうにつぶやく。
「どのくらいで解消されるんだろうね…」
ヤスさんが芳子さんに優しく話しかけた。
「なに、大丈夫だ。すぐに助けが来る。なんせここに救助に来るのは松本駐屯地の第13普通科連隊だからな。日本最強の山岳部隊だ」
オーナーが隣で続ける。
「そうですよ。そんなにはかからないはずです。ただ、おそらく数日は自活しなくてはいけませんが…」
避難所に避難しているのはおよそ200人。多くの世帯は停電しているため、自宅に戻って普段通り暮らすのは難しいだろう。
「それならみんなでここで助け合ったほうがいいだろうな」
ヤスさんがそう言った。
避難所での、共同生活が始まった。