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　音楽サークルと言っても、アンサンブル（演奏えんそうするためのグループ）ではなく、ただ音楽の好きな人のグループだった。毎週一緒に練習れんしゅうしたり、音楽について話したりするものだ。最初はユミを含めて、3人だったが、他の2人は最近勉強でいそがしくなり、いつも参加できなくなったらしい。だから、ユミが一人で練習れんしゅうすることがしばしばだった。
「じゃあ、他のメンバーはどんな楽器がひけるの？」とベレンは音楽サークル用の教室を見ながら、言った。
「一人はギターで、もう一人はボーカルだよ」
「そうなの？ギターとボーカルはいい組み合わせだね」
「そう。だから、2人はよく一緒に練習したり、演奏えんそうしたりしているよ」
「3人で演奏しないの？」
「たまにするんだけれど、バイオリンは少しマッチしない場合が多いかも」
「あ、なるほど。でも、バイオリンとピアノの組み合わせはよくマッチするね」
「でしょ？だから、ベレンが参加できてうれしいよ」とユミは笑った。
　ベレンはピアノのいすに座って、けんばん（ピアノのキーボード）を見た。さっきのコンサート以前、ピアノを練習したのは中学校の時以来なのに、いつもピアノを見ると、ピアノの先生の声を思い出した。「指の動きが遅いよ、ベレン」「うちでもっとがんばって練習する必要があるね」「もしかして勉強できないの？いつも同じまちがいばかり」「そのままだとピアニスト（プロのピアノの演奏者）になれないよ、絶対」
　ベレンは子どもの時、プロのピアニストになりたかった。ピアノをひくのが好きだったから、7歳から14歳までピアノ教室に通っていた。最初は先生によくほめられて、レッスンも演奏もとても楽しかった。でも、年をかさねるにつれ、だんだんと先生の期待が大きくなって、その期待にこたえられなかった。そして、毎日練習したりして、いっしょけんめいがんばっていたのに、先生からおこられてばかりだった。先生のきびしさというより、ひどさのせいで、練習はくるしいだけになった。ある日、先生とひどいけんかをして、ピアノをやめた。ピアニストになる夢も忘れてしまって、そこからしばらくピアノをひかなくなった。
「どうかしたの？」とユミがベレンの様子を見て、心配しんぱいそうに言った。
「いや、別に。いろいろ思い出しただけ」
「私で良かったら話聞くよ」
ベレンはため息をついて、ユミにすべてを話した。ユミはうなずきながら、ていねいに聞いていた。そして、話が終わったあと、少しだまってから、言った。
「それは大変だったね。夢があったけど、さいごには辛い経験けいけんになったって」
「そうだね。先生とのけんかの後、長い間ピアノのけんばんをさわれなくて」
「気持ちはわかるよ」とユミは困ったように笑った。
「もうピアニストになれないのはまちがいないけど、ただの趣味しゅみとして続けたいなと思っている。でも、いつもひいているとき、なにかにじゃまされているように感じる」
「でも、さっきのコンサートに出たでしょ。どんなことも小さなことからやっていこうね」
　ベレンは笑って、うなずいた。けんばんにまた目を落として、軽く簡単なメロディーをひき始めた。ユミもバイオリンを出して、ピアノに向かった。
「あっ、この曲、知ってる！一緒にひいてみようか」と言って、ベレンとともにゆっくりひき始めた。こうやって、一緒に練習したり、音楽について話したりしながら、ベレンとユミのはじめての練習が行われた。

　音楽サークルと言っても、アンサンブルではなく、ただ音楽の好きな人の集団だった。毎週一緒に練習したり、音楽について話したりするものだ。最初はユミを含めて、3人だったが、他の2人は最近勉強で忙しくなり、毎回参加できなくなったらしい。だから、ユミが一人で練習することがしばしばだった。
「じゃあ、他のメンバーはどんな楽器が弾けるの？」とベレンは音楽サークル用の教室を見学しながら、言った。
「一人はギタリストであり、もう一人はボーカルだよ」
「へー、そうなの？ギターとボーカルはいい組み合わせだね」
「そうそう。だから、2人はよく一緒に練習したり、演奏したりしているよ」
「3人で演奏しないの？」
「たまにするんだけれど、バイオリンは少し合わない場合が多いかも」
「あ、なるほど。でも、バイオリンとピアノのデュエットはよくマッチするね」
「でしょ？だから、ベレンが参加できて嬉しいよ」とユミは歯を見せた。
　ベレンはピアノの椅子に座って、鍵盤に目を落とした。さっきのコンサート以前、ピアノを練習したのは中学校の時以来なのに、毎回ピアノを見ると、ピアノの先生の声が頭の中に浮かんだ。「指の動きが遅いよ、ベレン」「うちでもっと熱心に練習する必要があるね」「もしかして勉強できないの？毎回同じ間違いを繰り返してる」「そのままだとピアニストになれないよ、絶対」
　ベレンは子どもの時、プロのピアニストになりたかった。ピアノを弾くのが好きだったから、7歳から14歳までピアノ教室に通っていた。最初は先生によくほめられて、レッスンも演奏もとても楽しかった。でも、年を重ねるにつれ、段々段々先生の期待が大きくなって、その期待に応えられなかった。そして、毎日練習したりして、一所懸命頑張っていたのに、先生からほとんど批判しかされなかった。先生の厳しさというより、残酷さのせいで、レッスンは拷問のような感覚になった。ある日、先生とひどい喧嘩をして、ピアノをやめた。ピアニストになる夢も忘れてしまって、そこから数年間ピアノに近づかなかった。
「どうかしたの？」とユミがベレンの様子を見て、心配そうに言った。
「いや、別に。いろいろ思い出しただけ」
「私で良かったら話聞くよ」
ベレンはため息をついて、ユミにすべて打ち明けた。ユミは頷きながら、丁寧に聞いていた。そして、話が終わったあと、少し黙ってから、言った。
「それは大変だったね。夢があったけど、結局トラウマになったって」
「そうだね。先生との喧嘩の後、長い間ピアノの鍵盤を触れなくて」
「気持ちはわかるよ」とユミの顔に苦いほほ笑みが出た。
「もうピアニストになれないのは間違いないけど、ただの趣味として続けたいなと思っている。でも、毎回弾いているとき、障壁があるような気がする」
「でも、さっきのコンサートに出たでしょ。千里の道も一歩からね」
　ベレンは笑って、頷いた。鍵盤にまた目を落として、軽く簡単なメロディーを弾き始めた。ユミもバイオリンを出して、ピアノに近づいた。
「あっ、この曲、知ってる！一緒に弾いてみようか」と言って、ベレンとともにゆっくり弾き始めた。こうやって、一緒に練習したり、音楽について話したりしながら、ベレンとユミのはじめての練習が行われた。