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音楽は心を癒す
悲しみのサンバ
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Coming soon!
「続きまして、国際総合学部3年生のエスピノサ・ベレン様、よろしくお願いします」
大学の会場では拍手の音がしていた。ベレンはドキドキしながら、ステージに上がって、黒いグランドピアノに向かった。そして、コンサートの観客に向かって、緊張したお辞儀をしてから、ピアノのいすに座った。拍手は少しずつ止んで、静かになった。ベレンは目の前にある楽譜(演奏の仕方が書かれた紙)をじっと見ていた。最後に発表に出たのは子供のころなので、緊張のあまり集中できなくなって、楽譜がまるで外国語のように見えて、手がふるえ始めた。でも、一回目を閉じて、息を大きく吸って、背を伸ばし、けんばん(ピアノのキーボード)をやさしく押してみた。どんどん速度が速くなって、何回も間違えてしまったけれど、ひき続けた。曲をひき終わった時、観客からもう一度拍手をもらった。ベレンは席から立っておじぎをして、ステージから降りて、自分の席に戻った。
「よくがんばったね」と聞いたことのない声が聞こえた。となりの席に座っている女性だった。
「とても緊張した」とベレンはとても小さな声で答えた。
その時、また司会が声を出した。
「続きまして、医学部3年生の清水ユミ様、よろしくお願いします」
それを聞いて、となりの席からの女性は立って、
「私の番だね」と言った。
「がんばって!」
ユミはベレンと目を合わせて、うなずいて、ニコニコ笑った。そして、手にバイオリンを持って、ゆっくりステージに上がった。曲をひき始めたその時、明るく笑っているユミのすがたが急に変わってしまった。堂々とまっすぐに立って、真面目な顔で音楽に集中しているユミははげしくひいていた。弦(楽器の糸)のふるえは、ひいている彼女のからだも一緒にふるえさせていた。素人(プロではない、普通の人)のコンサートに出ているのに、プロのように見えた。ユミが楽器をひいている間、音楽が物語のように感じたベレンはなみだが出るくらい、感動した。
コンサートの後、ベレンはユミを見つけて、話しかけた。
「ユミさんでしょうか。素晴らしい演奏でした。とても感動しました」
「えっ、本当?うれしい。ありがとうございます」とユミは優しく笑った。
「あ、すみません、私の名前はベレンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。ベレンはピアノをひいたんだね。覚えているよ。よくできたと思う」
「いや、すごく緊張して、指がふるえてた」とベレンは笑った。
「わかる、わかる。でもきれいだったよ。ちょっとかなしい音楽だけど。それで、何の曲だったの?」
「それはね、アリエル・ラミレスというアルゼンチンの人が書いた「 La Tristecita 」という曲だよ」
「どういう意味?」
「日本では「かなしみのサンバ」と呼ばれている曲で、もとの曲の名前のスペイン語は日本語では「かなしさ」と言うことができると思う。でも、実は、存在しない言葉なの」
「あ、そうなの?」
「うん。みたら、わかるけれど、使われていない。そして、この曲はもともと歌だったんだ」
「そうなんだ。たしかに歌のようだったね」
「しかも、母の大好きな歌」
「だから、えらんだんだね」とユミはわかるようにうなずいた。
「うん、そう。ユミがひいた曲は?日本の人が作ったものなの?」
「そう言われれば、そうかも」とユミは少し笑った。ベレンはよくわからなかった。
「というのは?」
「自分で作ったんだ」
「本当?すごい!天才(とても才能のある人)だよ」
「いや、そんなことないよ。ぜんぜん。ただの趣味だよ」
ベレンはおどろいて、はげしくひいていたユミのようすを思い出した。趣味には見えないけれど。ユミはベレンのおどろいた顔を見て、また少し笑って、
「もし時間があれば、音楽のサークル(趣味で集まるグループ)に入ってみない?」とたずねた。
大学の会場では拍手の音がしていた。ベレンはドキドキしながら、ステージに上がって、黒いグランドピアノに向かった。そして、コンサートの観客に向かって、緊張したお辞儀をしてから、ピアノのいすに座った。拍手は少しずつ止んで、静かになった。ベレンは目の前にある楽譜(演奏の仕方が書かれた紙)をじっと見ていた。最後に発表に出たのは子供のころなので、緊張のあまり集中できなくなって、楽譜がまるで外国語のように見えて、手がふるえ始めた。でも、一回目を閉じて、息を大きく吸って、背を伸ばし、けんばん(ピアノのキーボード)をやさしく押してみた。どんどん速度が速くなって、何回も間違えてしまったけれど、ひき続けた。曲をひき終わった時、観客からもう一度拍手をもらった。ベレンは席から立っておじぎをして、ステージから降りて、自分の席に戻った。
「よくがんばったね」と聞いたことのない声が聞こえた。となりの席に座っている女性だった。
「とても緊張した」とベレンはとても小さな声で答えた。
その時、また司会が声を出した。
「続きまして、医学部3年生の清水ユミ様、よろしくお願いします」
それを聞いて、となりの席からの女性は立って、
「私の番だね」と言った。
「がんばって!」
ユミはベレンと目を合わせて、うなずいて、ニコニコ笑った。そして、手にバイオリンを持って、ゆっくりステージに上がった。曲をひき始めたその時、明るく笑っているユミのすがたが急に変わってしまった。堂々とまっすぐに立って、真面目な顔で音楽に集中しているユミははげしくひいていた。弦(楽器の糸)のふるえは、ひいている彼女のからだも一緒にふるえさせていた。素人(プロではない、普通の人)のコンサートに出ているのに、プロのように見えた。ユミが楽器をひいている間、音楽が物語のように感じたベレンはなみだが出るくらい、感動した。
コンサートの後、ベレンはユミを見つけて、話しかけた。
「ユミさんでしょうか。素晴らしい演奏でした。とても感動しました」
「えっ、本当?うれしい。ありがとうございます」とユミは優しく笑った。
「あ、すみません、私の名前はベレンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。ベレンはピアノをひいたんだね。覚えているよ。よくできたと思う」
「いや、すごく緊張して、指がふるえてた」とベレンは笑った。
「わかる、わかる。でもきれいだったよ。ちょっとかなしい音楽だけど。それで、何の曲だったの?」
「それはね、アリエル・ラミレスというアルゼンチンの人が書いた「 La Tristecita 」という曲だよ」
「どういう意味?」
「日本では「かなしみのサンバ」と呼ばれている曲で、もとの曲の名前のスペイン語は日本語では「かなしさ」と言うことができると思う。でも、実は、存在しない言葉なの」
「あ、そうなの?」
「うん。みたら、わかるけれど、使われていない。そして、この曲はもともと歌だったんだ」
「そうなんだ。たしかに歌のようだったね」
「しかも、母の大好きな歌」
「だから、えらんだんだね」とユミはわかるようにうなずいた。
「うん、そう。ユミがひいた曲は?日本の人が作ったものなの?」
「そう言われれば、そうかも」とユミは少し笑った。ベレンはよくわからなかった。
「というのは?」
「自分で作ったんだ」
「本当?すごい!天才(とても才能のある人)だよ」
「いや、そんなことないよ。ぜんぜん。ただの趣味だよ」
ベレンはおどろいて、はげしくひいていたユミのようすを思い出した。趣味には見えないけれど。ユミはベレンのおどろいた顔を見て、また少し笑って、
「もし時間があれば、音楽のサークル(趣味で集まるグループ)に入ってみない?」とたずねた。
「続きまして、国際総合学類3年生のエスピノサ・ベレン様、よろしくお願いします」
大学のホールでは拍手の音が鳴り響いた。ベレンはドキドキしながら、舞台に上がって、黒いグランドピアノに近づいた。そして、コンサートのお客さんに向かって、ぎこちなくお辞儀をしてから、ピアノの椅子に座った。拍手はパラパラと止んで、静かになった。ベレンは目の前にある楽譜をじっと見つめていた。最後に公演に参加したのは中学生のころなので、緊張のあまり集中できなくなって、楽譜がまるで外国語のように見えて、手が震え始めた。でも、一瞬目をつぶって、深呼吸をして、背を伸ばし鍵盤を軽く押してみた。どんどんペースが速くなって、何回も間違えてしまったけど、弾き続けた。曲を弾き終わった瞬間、聴衆からまた拍手をもらった。ベレンは席から立ってお辞儀をして、舞台からはけて、自分の席に戻った。
「よく頑張ったね」と聞き覚えのない声が聞こえた。隣の席に座っている女性だった。
「とても緊張した」とベレンはかすれた声で答えた。
途端、また司会が声を出した。
「続きまして、医学類3年生の清水ユミ様、よろしくお願いします」
それを聞いて、隣の席からの女性は立ち上がって、
「私の順番だね」と言った。
「頑張って!」
ユミはベレンと目を合わせて、頷いて、ニコニコ笑った。そして、手にバイオリンを持って、ゆっくり舞台に上がった。曲を弾き始めた瞬間に明るく笑っているユミの姿が急に変わってしまった。仁王立するようにまっすぐ背筋を伸ばして、真面目な表情で音楽に集中しているユミは情熱的に弾いていた。弦の震えは、弾いている彼女の身体も同時に戦慄かせていた。素人のコンサートに出ているのに、プロのように見えた。ユミが弓を動かしている間、音楽が物語るような印象を受けたベレンは涙が出るくらい、感動した。
コンサートの後、ベレンはユミを見つけて、話しかけた。
「ユミさんでしょうか。素晴らしい演奏でした。とてもインスパイアされました」
「えっ、本当?うれしい。ありがとうございます」とユミは優しく微笑んだ。
「あ、すみません、私の名前はベレンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。ベレンはピアノを弾いたんだね。覚えているよ。よくできたと思う」
「いや、すごく緊張して、指が震えてた」とベレンは笑った。
「わかる、わかる。でも綺麗だったよ。ちょっと悲しいメロディーだけど。ちなみに、何の曲だったっけ?」
「それはね、アリエル・ラミレスというアルゼンチンの作曲家によって書かれた「La Tristecita」という曲だよ」
「どういう意味?」
「日本では「悲しみのサンバ」と呼ばれている曲で、原題のスペイン語は日本語では「悲しさ」と訳すことができると思う。でも、正直に言うと、存在しない言葉なの」
「あ、そうなの?」
「うん。みたら、わかるけど、使われていない。そして、この曲はもともと歌だったんだ」
「そっか。確かに歌みたいだったね」
「しかも、母の大好きな歌」
「だから、選んだんだね」とユミはわかるように頷いた。
「うん、そう。ユミが弾いた曲は?日本の作曲家によって書かれたものなの?」
「そう言われれば、そうかも」とユミはクスっと笑った。ベレンはよくわからなかった。
「というのは?」
「自分で作曲したんだ」
「へえ、本当?すごいじゃん!天才だよ」
「いやいや、そんなことないよ。全然。ただの趣味だよ」
ベレンは耳を疑って、情熱的に弾いていたユミの姿を思い出した。趣味には見えないけど。ユミはベレンのびっくりした表情を見て、またニコニコ笑って、
「もし時間があれば、音楽のサークルに参加してみない?」と提案した。
大学のホールでは拍手の音が鳴り響いた。ベレンはドキドキしながら、舞台に上がって、黒いグランドピアノに近づいた。そして、コンサートのお客さんに向かって、ぎこちなくお辞儀をしてから、ピアノの椅子に座った。拍手はパラパラと止んで、静かになった。ベレンは目の前にある楽譜をじっと見つめていた。最後に公演に参加したのは中学生のころなので、緊張のあまり集中できなくなって、楽譜がまるで外国語のように見えて、手が震え始めた。でも、一瞬目をつぶって、深呼吸をして、背を伸ばし鍵盤を軽く押してみた。どんどんペースが速くなって、何回も間違えてしまったけど、弾き続けた。曲を弾き終わった瞬間、聴衆からまた拍手をもらった。ベレンは席から立ってお辞儀をして、舞台からはけて、自分の席に戻った。
「よく頑張ったね」と聞き覚えのない声が聞こえた。隣の席に座っている女性だった。
「とても緊張した」とベレンはかすれた声で答えた。
途端、また司会が声を出した。
「続きまして、医学類3年生の清水ユミ様、よろしくお願いします」
それを聞いて、隣の席からの女性は立ち上がって、
「私の順番だね」と言った。
「頑張って!」
ユミはベレンと目を合わせて、頷いて、ニコニコ笑った。そして、手にバイオリンを持って、ゆっくり舞台に上がった。曲を弾き始めた瞬間に明るく笑っているユミの姿が急に変わってしまった。仁王立するようにまっすぐ背筋を伸ばして、真面目な表情で音楽に集中しているユミは情熱的に弾いていた。弦の震えは、弾いている彼女の身体も同時に戦慄かせていた。素人のコンサートに出ているのに、プロのように見えた。ユミが弓を動かしている間、音楽が物語るような印象を受けたベレンは涙が出るくらい、感動した。
コンサートの後、ベレンはユミを見つけて、話しかけた。
「ユミさんでしょうか。素晴らしい演奏でした。とてもインスパイアされました」
「えっ、本当?うれしい。ありがとうございます」とユミは優しく微笑んだ。
「あ、すみません、私の名前はベレンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。ベレンはピアノを弾いたんだね。覚えているよ。よくできたと思う」
「いや、すごく緊張して、指が震えてた」とベレンは笑った。
「わかる、わかる。でも綺麗だったよ。ちょっと悲しいメロディーだけど。ちなみに、何の曲だったっけ?」
「それはね、アリエル・ラミレスというアルゼンチンの作曲家によって書かれた「La Tristecita」という曲だよ」
「どういう意味?」
「日本では「悲しみのサンバ」と呼ばれている曲で、原題のスペイン語は日本語では「悲しさ」と訳すことができると思う。でも、正直に言うと、存在しない言葉なの」
「あ、そうなの?」
「うん。みたら、わかるけど、使われていない。そして、この曲はもともと歌だったんだ」
「そっか。確かに歌みたいだったね」
「しかも、母の大好きな歌」
「だから、選んだんだね」とユミはわかるように頷いた。
「うん、そう。ユミが弾いた曲は?日本の作曲家によって書かれたものなの?」
「そう言われれば、そうかも」とユミはクスっと笑った。ベレンはよくわからなかった。
「というのは?」
「自分で作曲したんだ」
「へえ、本当?すごいじゃん!天才だよ」
「いやいや、そんなことないよ。全然。ただの趣味だよ」
ベレンは耳を疑って、情熱的に弾いていたユミの姿を思い出した。趣味には見えないけど。ユミはベレンのびっくりした表情を見て、またニコニコ笑って、
「もし時間があれば、音楽のサークルに参加してみない?」と提案した。