Coming soon!

　「着いたよ、上がって。」
　ベレンはルシアを連つれて自分の家に帰った。
　「うわー、ここが日本の家なんだね。」
　ルシアは中に入り、興味きょうみを持った様子ようすで部屋へやのいろいろなところを見ている。
　「泊まりに来ると言っていなかったから、あまり片付かたづけていないの。荷物にもつは私の部屋へやに置いてもいい？」
　ベレンはルシアの荷物にもつを自分の部屋へやに運びながら言った。
　「うん、どこでもいいから適当でいいよ。」
　ルシアはまだ興味きょうみを持った様子ようすで部屋の色々な場所を見ている。
　「このソファ、広げると小さなシングルベッドになるから、うちにいる間はここでがまんして。」
　ベレンは自分の部屋を出て、ルシアの後ろにあるソファを指さした。
　「え？いっしょにねちゃダメなの？」
　ルシアは悲しそうな顔を作ってベレンを見つめる。
　「またそんなこと言って！私たちはもう子供じゃないんだから。ここでねるのがいやなら、どっかのホテルに泊まればいい。」
　ルシアにかまわず、ベレンは部屋を片付かたづけ始める。
　「いやいや、どこでもねるから、そんなこと言わないで。」
　ルシアは急いで笑顔えがおを作った。

　「これ、ココによく似ているね！」
　ルシアは黒ねこのおきものを手に取り、ベレンに向かってふった。
　「きっとココに会いたいよね。」
　「うん、でも国に帰ったらまた会えるから。」
　「それか、その他には、日本でいっぱいあそんでから、いっしょにアルゼンチンに帰ろう！どうせ今休みだし。」
　ルシアは急に大きな声を出し、期待きたいに満みちたように聞こえる。
　「まだ日本に来たばかりだから、そんなに早く帰るわけないでしょ。そもそも交換留学こうかんりゅうがくの期間きかんはそう長くないし、できるだけこっちの文化や生活をたくさん経験けいけんしてみたいんだ。」
ベレンはリビングを片付けながら答えた。
　「そんなに日本が好きなの？」
　ルシアは不満ふまんそうにしている。
　「そうだよ。だから留学りゅうがくするんだもん。」
　「でも…」
　ルシアはまた何か言おうとするが、ベレンに止められた。
　「もういいから、いっしょに片付かたづけると約束やくそくしたじゃない？もう質問をやめて、早く手伝いなさい。」
　「わかった…」

　2時間後、家の片付けを終わらせたベレンとルシアは、とてもつかれてソファにたおれこんだ。
　「ふぅ〜、つかれた。今夜はもう料理を作る元気がないから、外で食べよう。」
　ベレンはソファにたおれこみながら、とてもつかれた様子で提案ていあんした。
　「いいね！何食べようかな？」
　「うーん…せっかく日本に来たんだから、お寿司すしはどう？」
　「焼やいていない魚さかなはちょっときらいなんだけれど…近くに焼肉屋やきにくやかピザ屋はないの？」
　ルシアの表情は一瞬いっしゅんかたまった。
　「私も最初さいしょは慣れなかったから、気持ちがわかる。けれど、せっかく日本に来たんだし、日本の食べ物の文化も経験けいけんしてみたらいいじゃない？」
　ベレンはルシアの表情ひょうじょうを見て、笑顔えがおで言った。
　「とりあえず、今日は一回食べてみよう？もし本当に無理むりなら、帰ってきたらまたピザのデリバリーをたのめばいいから。」
　「ここまで言われると、いやとは言えないじゃない…」
　ルシアはいやそうに承知しょうちした。
　ルシアの表情ひょうじょうがとてもおもしろく、ベレンはつい笑いだした。
　「大丈夫だいじょうぶ。思っているほどこわいものじゃないんだから。」


　夕食の後。

　「どうだった？わるくなかったでしょ？」
　ルシアのこまった顔がおかしく、ベレンはからかわずにはいられなかった。
　「まあ…米だけはよかったかな。」
　ベレンはおさえきれず大笑いした。
　「うける。寿司すしを刺身さしみとご飯で分けて食べる人なんて初めて見たわ。本当に笑っちゃう。」
　「だから言ったじゃない、苦手にがてだって。ベレンが経験けいけんしてみようって言うから行ったんだもん。」
　ルシアは不満ふまんそうに口をとがらせた。
　「あの細い棒ぼうも使いにくかった。食事をとるのに大変だったわ。」
　「それは『お箸はし』と言うの。何回か使えば慣れるから。」
　「いや、いい。次からはフォークとナイフが使える店をさがそう。」
　ルシアは肩をすくめて頭をふった。
　「もうお腹いっぱい？ピザをたのもうか？」
　「ううん、大丈夫だいじょうぶ。おしゃべりしようよ。長い間会っていないから、話したいことがいっぱいあるんだ！」
　ルシアは話を変えて、たちまち元気を取りもどした。
　「何を…話したいの？」
　先ほどまで笑ってルシアをからかっていたベレンは、突然とつぜんためらった。
　「何でもいいよ！たとえば、恋人こいびとのこととか。」
　ルシアはベレンに向かってウィンクをした。
　「今日空港くうこうで会った時、幸い自分は恋人こいびとといっしょに住んでいないって言ったじゃない？日本で恋人こいびとができたんでしょ？」
　「それは、たとえ話だけだから、恋人なんていないよ。」
　ベレンは背中を向けてルシアの目を避さけ、ごまかそうとした。
　「本当にいないの？」
　それでもルシアはあきらめずに、ベレンに近づき、彼女の顔をじっとみてもう一度確認かくにんした。
　「本当にいないよ。もうおそいから、今日は長い時間飛行機ひこうきに乗っていたんだし、もう疲れているでしょ？今日はもう休んで。」
　話が終わった後、ベレンはルシアの反応はんのうを待たずに、自分の部屋に入った。
　「ちょっ…」
　ルシアはベレンが去っていくすがたを見て、言葉につまった。

　その夜、ルシアとベレンは二人ともねむれず、ずっとね返ねがえりを打った。

　ベレンが変わった。
　ルシアはソファにねて、天井てんじょうを見つめながら、ため息が止まらない。
　日本についたばかりで、ベレンと過ごしたのはまだ1日の半分よりも少ない時間だが、二人がむかしほど親しくなくなっているとはっきり感じられた。まるで、むかしのように冗談じょうだんを言ったり、じゃれ合ったりしているように見えるが、二人の間にはすでに無視できないほどの距離きょりがあった。
　大学に進学してから、二人の学校が違うこともあり、徐々じょじょに連絡を取らなくなっていった。ただ、日本に来る前、ルシアは一緒に育った二人の友情は、距離きょりがはなれても影響えいきょうされないと思っていた。
　彼女たちはいつも何でも話し合う友達であり、おたがいの大切な時をたくさん見てきた。初めて自転車に乗れるようになったとき、初めて試合しあいで勝ったとき、初めての恋できずついて泣いたとき。楽しい時でも、悲しい時でも、二人はたがいによりそってきた。
　むかしの二人は、まるで血のつながらない双子ふたごのように、いつもくっついているほど息が合っていた。
　それがいつから変わったのだろう？
　いっしょにそだててきた友情は、これほど弱いものなのか？

　部屋にいるベレンもまた、ルシアと同じように思っている。
　ルシアが日本に来る前は、二人はむかしと変わらず親しく、仲良くできるとベレンは思っていた。しかし、ルシアが目の前に立って初めて、時間と距離きょりがすべてを変えてしまい、二人はもうむかしのようにもどれないことに気が付いた。
　そう思うと、ベレンはふと心が重くなった。
　むかしの二人は、何でも共有できるほどの親友だった。悲しいことがあっても、うれしいことがあっても、おたがが一番話しやすい相手だった。
　しかし今、すべてが変わってしまった。ベレンは過去の一番親しい友人を永遠えいえんにうしなってしまったような気がした。
　大人になるということは、何かを得る一方で、何かを失わなければならないのだろうか？
　布団ふとんに入り、ベレンは思わずため息をついた。

　私たちの間には、もう過去しかのこっていないようだ。

　「着いたよ、上がって。」
　ベレンはルシアを連れて自分の家に帰った。
　「うわー、ここが日本のお家なんだね。」
　ルシアは中に入り、興味津々の顔で部屋を見回っている。
　「泊まりに来るって言っていなかったから、あんまり片付けていないの。荷物は私の部屋に置いてもいい？」
　ベレンはルシアの荷物を自分の部屋に運びながら言った。
　「うん、どこでもいいから適当でいいよ。」
　ルシアはまだ興味津々で部屋を見回っている。
　「このソファ、広げると小さなシングルベッドになるから、うちにいる間はここで我慢して。」
　ベレンは自分の部屋を出て、ルシアの後ろにあるソファを指さした。
　「え？一緒に寝ちゃダメなの？」
　ルシアは情けない顔を作ってベレンを見つめる。
　「またそんなこと言って！私たちはもう子供じゃないんだから。ここで寝るのが嫌なら、どっかのホテルに泊まればいい。」
　ルシアに構わず、ベレンは部屋の片付けを始める。
　「いやいや、どこでも寝るから、そんなこと言わないで。」
　ルシアは急いで笑顔を作った。

　「これ、ココそっくりだね！」
　ルシアは黒猫の置物を手に取り、ベレンに向かって振った。
　「きっとココに会いたいよね。」
　「うん、でも帰国したらまた会えるから。」
　「それか、日本でいっぱい遊んでから、一緒にアルゼンチンに帰ろう！どうせ今休みだし。」
　ルシアは突然声を張り上げ、期待に満ちたように聞こえる。
　「まだ日本に来たばかりだから、そんなに早く帰るわけないでしょ。そもそも交換留学の期間はそう長くないし、できるだけこっちの文化や生活をたくさん体験したいんだ。」
ベレンはリビングを片付けながら答えた。
　「そんなに日本が好きなの？」
　ルシアは口を尖らせる。
　「そうだよ。だから留学するんだもん。」
　「でも…」
　ルシアはまた何か言おうとするが、ベレンに遮られた。
　「もういいから、一緒に片付けるって約束したじゃん？もう質問をやめて、早く手伝いなさい。」
　「わかった…」

　2時間後、家の片付けを終えたベレンとルシアは、疲れ果ててソファに倒れこんだ。
　「ふぅ〜、疲れた。今夜はもう料理を作る気力がないから、外で食べよう。」
　ベレンはソファに倒れこみながら、息も絶え絶えに提案した。
　「いいね！何食べようかな？」
　「うーん…せっかく日本に来たんだから、お寿司はどう？」
　「生魚はちょっと苦手なんだけど…近くに焼肉屋かピザ屋はないの？」
　ルシアの表情は一瞬こわばった。
　「私も最初は慣れなかったから、気持ちがわかる。けど、せっかく日本に来たんだし、地元の食文化も経験してみたらいいじゃない？」
　ベレンはルシアの表情を見て、笑顔で言った。
　「とりあえず、今日は一回試してみよう？もし本当に無理なら、帰ってきたらまたピザのデリバリーを頼めばいいから。」
　「ここまで言われると、断れないじゃん…」
　ルシアは渋々承知した。
　ルシアの表情があまりにも面白く、ベレンはつい笑いだした。
　「大丈夫。思っているほど怖いもんじゃないんだから。」


　夕食の後。

　「どうだった？悪くなかったでしょ？」
　ルシアの困った顔がおかしく、ベレンはからかわずにはいられなかった。
　「まあ…米だけはよかったかな。」
　ベレンは抑えきれず大笑いした。
　「うける。寿司を刺身とシャリで別々に食べる人なんて初めて見たわ。マジで笑っちゃう。」
　「だから言ったじゃん、苦手だって。ベレンが経験してみようって言うから行ったんだもん。」
　ルシアは不満そうに口を尖らせた。
　「あの細い棒も使いにくかった。食事をとるのに大変だったわ。」
　「それは『お箸』って言うの。何回か使えば慣れるから。」
　「いや、いい。次からはフォークとナイフが使える店を探そう。」
　ルシアは肩をすくめて頭を振った。
　「もうお腹いっぱい？ピザを頼もうか？」
　「ううん、大丈夫。おしゃべりしようよ。長い間会っていないから、話したいことがいっぱいあるんだ！」
　ルシアは話題を変えて、たちまち元気を取り戻した。
　「何を…話したいの？」
　先ほどまで笑ってルシアをからかっていたベレンは、突然ためらった。
　「何でもいいよ！たとえば、彼氏のこととか。」
　ルシアはベレンに向かってウィンクをした。
　「今日空港で会った時、幸い自分は彼氏と一緒に住んでいないって言ったじゃん？日本で彼氏ができたんでしょ？」
　「それは、たとえ話だけだから、彼氏なんていないよ。」
　ベレンは背中を向けてルシアの目を避け、ごまかそうとした。
　「本当にいないの？」
　それでもルシアは諦めずに、ベレンに近づき、彼女の顔をジロジロみてもう一度確認した。
　「本当にいないよ。もう遅いから、今日は長時間飛行機に乗っていたんだし、もう疲れているでしょ？今日はもう休んで。」
　話が終わった後、ベレンはルシアの反応を待たずに、自分の部屋に入った。
　「ちょっ…」
　ルシアはベレンが去っていく姿を見て、言葉に詰まった。

　その夜、ルシアとベレンは二人とも眠れず、ずっと寝返りを打った。

　ベレンが変わった。
　ルシアはソファに横たわり、天井を見つめながら、ため息が止まらない。
　日本についたばかりで、ベレンと過ごしたのはまだ半日にも満たないが、二人が昔ほど親しくなくなっているとはっきり感じられた。表向きは、昔のように冗談を言ったり、じゃれ合ったりしているが、二人の間にはすでに無視できないほどの隔たりがあった。
　大学に進学して以来、二人の学校が違うこともあり、次第に連絡を取らなくなっていた。ただ、日本に来る前、ルシアは一緒に育った二人の友情は、距離が離れても影響されないと思っていた。
　彼女たちはいつも何でも話し合う友達であり、お互いの大切な瞬間をたくさん見てきた。初めて自転車に乗れるようになったとき、初めて試合で勝ったとき、初めての恋で傷ついて泣いたとき。楽しい時でも、悲しい時でも、二人は互いに寄り添ってきた。
　かつての二人は、まるで血のつながらない双子のように、いつもくっついているほど息が合っていた。
　それがいつから変わったのだろう？
　一緒に育ってきた友情は、こんなにも脆いものなのか？

　部屋にいるベレンもまた、ルシアと同じ思いを抱いている。
　ルシアが日本に来る前は、二人は昔と変わらず親しく、仲良くできるとベレンは思っていた。しかし、ルシアが目の前に立って初めて、時間と距離がすべてを変えてしまい、二人はもう昔のように戻れないことに気づいた。
　そう思うと、ベレンはふと心が重くなった。
　かつての二人は、何でも分かち合えるほどの親友だった。悲しいことがあっても、嬉しいことがあっても、お互いが一番の話し相手だった。
　しかし今、何もかも変わってしまった。ベレンは過去の最も親しい友人を永遠に失ってしまったような気がした。
　大人になるということは、何かを得る一方で、何かを失わなければならないのだろうか？
　布団にくるまり、ベレンは思わずため息をついた。

　私たちの間には、もう過去しか残っていないようだ。