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消えゆく縁
ルシアとの再会
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Coming soon!
花火大会の日。
花火が次から次へと空に打ち上がって咲く。船の中からは歓声がやまない。
しかしその中に、花火を楽しむ気のない明らかに海外から来た少女の二人がいた。
「もうアルゼンチンに帰りたい。」
少女の一人が急に立ち上がり、席から去った。
「一体どうしたの?」
もう一人の少女はこまりながら、つい大きな声を出してしまった。
「いつもそういう風に…」
「何かあったら言ってよ!」
去っていく少女は止まらなかった…
「ただ、ここにいたくなくなかったから。」
少女はこちらを見ることなく階段を下りていった。
「もう好きにして!」
一週間前。
いつもと同じ休みの朝、思いがけない電話が来た。
「もしもし?」
「もしもし、私だよ。」
電話のむこうはベレンにとってよく聞いた声だった。
「ルシア?」
ベレンは少しおどろいた声をした。
「そうそう、私のことをわすれていないわよね?」
電話のむこうの人はかるく笑った。
「まさか、本当に久しぶりね。でもどうして電話してきたの?何かあったの?」
「何もなかったら電話できないの?」
「そんなことはないよ。ただ、しばらく連絡を取っていなかったから、ちょっとびっくり しただけ。最近はどう?元気?」
ルシアはまったくむかしと同じようだ。ベレンは言葉にならず感動して、小さくため息をついた。
ベレンとルシアはこどものころからの親友だ。小学校から高校までずっと同じ学校に通っていたが、大学に進学する時に別々の学校に入学してはなれることになった。二人の学校が遠くはなれているため、ベレンがまだアルゼンチンにいたころから、二人が顔を合わせることはほとんどなかった。くわえて、ベレンは今日本に留学しており、ルシアと話すことがますます少なくなった。
「いつもと変わらないよ。トレーニングばっかり!今シーズンもあまり調子がよくなくて、この間もコーチからおこられたばかりなの。」
ベレンは少し機嫌が悪そうだなと思ったが、ルシアはすぐに話を変えた。
「ベレンは?日本での生活にもう慣れた?」
「うん、もう慣れたよ。こっちで新しい友達にも出会えたし、いろいろ新しいことも学んだから、毎日楽しいよ。ところで…」
「来週、私が日本にあそびに行こうか!」
ベレンがまだ話している途中で、ルシアは話し始めた。
「え?」
「学校が来週から冬の休みに入るから、暇だし。日本は今、夏でしょう?日本に行って、いっしょにあそぼう!」
「ええと…」
ベレンはどう答えていいのか少しまよっていた。
「どうしたの?もしかして都合が悪いの?」
ルシアの声は少しおちこんでいるように聞こえる。
「いや、そういうわけじゃないけれど…でも、本当に来るの?すごく急じゃない?日本とアルゼンチンはかなりはなれているし。」
なぜ自分がためらったのか、ベレンもわからないが、ルシアをゆずらなかった。
「日本に行ったことがないもん!それに、私たちはもうずいぶん会っていないじゃない?会いたいよ!」
「わかったわかった。いつ来るつもりなの?準備しておくから。」
多分、ルシアはどうしても日本に行きたいようだ。
「来週の水曜日あたりかな…学校が終わったらすぐ行くよ。ベレンもそろそろ休みに入るでしょう?」
ベレンがことわる気がないのを見て、ルシアはまた元気を出した。
「うん、まだ授業がのこっているけれど、来週まではほとんど終わるから大丈夫。」
「やった!じゃあ決まりね!来週日本で会おう!」
ルシアが全身を動かして喜んでいる様子はまるで目の前にいるかのようだ。そう思うと、ベレンはかるく笑った。
「それじゃあ、また来週。」
電話を切った後、ベレンはしばらくスマートフォンを見つめていた。
ルシアと最後に会ったのはいつだっただろう。むかし、いっしょに学校に行ったりあそんだりしたのがまるで昨日のことのように思えるが、いつの間にか二人の間にびみょうな距離感を感じてしまったようだ。
「でも、たしかにしばらく会っていないね。来週の時間をあけておこうか。」
羽田空港(日本の空港の名前)。
時間はすぎ、すぐにルシアが日本に来る日がやってきた。
「ベレン!」
出迎え口に立つベレンは、だれかが遠くから自分の名前を呼ぶのを聞いた。
声がするほうを見ると、大きく手をふっている女の子がいた。
「ベレン!」
背が高く、かみを一つに高くむすんだ栗色のはだの女の子がベレンのほうに向かってくる。
「ルシア、こっちこっち。」
ベレンも笑顔でルシアに手をふる。
「ベレン!本当にひさしぶり!」
ルシアが近くにきて、ベレンにだきついた。
「なんかむかしとちがう雰囲気がしているみたいだね。」
ルシアはベレンの手をとり、笑った。
「そう?私は変わってないよ、何も。」
ルシアはむかしと同じように情熱的で、何も変わっていないように見える。
しかし、なぜか、ベレンの体が少し緊張するような感じがした。
「予約したホテルはどこなの?とりあえず荷物を置いておこう。」
その変な気持ちをおさめるため、ベレンは急いで話を変えた。
「ホテル?予約していないよ。ひさしぶりだし、いっしょに泊まるに決まっているでしょう!」
ルシアは少し笑ってベレンのうでを取った。
「えっ?」
ベレンはかたまった。
「こんなのなんで先に言わなかったの?」
「だって、言う必要あるの?むかしいっしょにあそんでいた時、いつも同じ部屋でねていたんじゃん?」
ルシアもかたまった。ベレンがこんな反応をするとは思わなかった。先ほどベレンの腕を取っていた手も力が抜けた。
「あのころは私たちまだ子供だったから、おたがの家に遊びに行って、たまに泊まったりするのは確かに大したことがないけど、今回はちがうでしょう?」
ルシアはうなずいた。
「もし日本に来ている間、私の家に泊まりたいなら、先に声をかけてくれるべきじゃない?」
ルシアはだんだん頭を下げていった。
「ルシアが悪いと言っているわけじゃない。ただ、泊まりに来るなら、私も部屋を片付けておかなきゃだから。」
ルシアの様子を見て、ベレンもこれ以上きびしいことは言えなくなった。
「運良く私今一人でくらしているけれど、もし恋人といっしょに住んでいたら、どうするつもり?」
ルシアは頭を下げたままだった。
「まあ、しかたない。私の家に泊まってもいいけれど、先に言わなかったから、後で部屋を片付けるのを手伝ってね。」
ここまで言われて、ルシアはようやく顔を上げ、目をかがやかせてベレンを見た。
「わかった!」
「じゃあ、行こう。」
それで、二人は空港を出てベレンの家に向かった。
花火が次から次へと空に打ち上がって咲く。船の中からは歓声がやまない。
しかしその中に、花火を楽しむ気のない明らかに海外から来た少女の二人がいた。
「もうアルゼンチンに帰りたい。」
少女の一人が急に立ち上がり、席から去った。
「一体どうしたの?」
もう一人の少女はこまりながら、つい大きな声を出してしまった。
「いつもそういう風に…」
「何かあったら言ってよ!」
去っていく少女は止まらなかった…
「ただ、ここにいたくなくなかったから。」
少女はこちらを見ることなく階段を下りていった。
「もう好きにして!」
一週間前。
いつもと同じ休みの朝、思いがけない電話が来た。
「もしもし?」
「もしもし、私だよ。」
電話のむこうはベレンにとってよく聞いた声だった。
「ルシア?」
ベレンは少しおどろいた声をした。
「そうそう、私のことをわすれていないわよね?」
電話のむこうの人はかるく笑った。
「まさか、本当に久しぶりね。でもどうして電話してきたの?何かあったの?」
「何もなかったら電話できないの?」
「そんなことはないよ。ただ、しばらく連絡を取っていなかったから、ちょっとびっくり しただけ。最近はどう?元気?」
ルシアはまったくむかしと同じようだ。ベレンは言葉にならず感動して、小さくため息をついた。
ベレンとルシアはこどものころからの親友だ。小学校から高校までずっと同じ学校に通っていたが、大学に進学する時に別々の学校に入学してはなれることになった。二人の学校が遠くはなれているため、ベレンがまだアルゼンチンにいたころから、二人が顔を合わせることはほとんどなかった。くわえて、ベレンは今日本に留学しており、ルシアと話すことがますます少なくなった。
「いつもと変わらないよ。トレーニングばっかり!今シーズンもあまり調子がよくなくて、この間もコーチからおこられたばかりなの。」
ベレンは少し機嫌が悪そうだなと思ったが、ルシアはすぐに話を変えた。
「ベレンは?日本での生活にもう慣れた?」
「うん、もう慣れたよ。こっちで新しい友達にも出会えたし、いろいろ新しいことも学んだから、毎日楽しいよ。ところで…」
「来週、私が日本にあそびに行こうか!」
ベレンがまだ話している途中で、ルシアは話し始めた。
「え?」
「学校が来週から冬の休みに入るから、暇だし。日本は今、夏でしょう?日本に行って、いっしょにあそぼう!」
「ええと…」
ベレンはどう答えていいのか少しまよっていた。
「どうしたの?もしかして都合が悪いの?」
ルシアの声は少しおちこんでいるように聞こえる。
「いや、そういうわけじゃないけれど…でも、本当に来るの?すごく急じゃない?日本とアルゼンチンはかなりはなれているし。」
なぜ自分がためらったのか、ベレンもわからないが、ルシアをゆずらなかった。
「日本に行ったことがないもん!それに、私たちはもうずいぶん会っていないじゃない?会いたいよ!」
「わかったわかった。いつ来るつもりなの?準備しておくから。」
多分、ルシアはどうしても日本に行きたいようだ。
「来週の水曜日あたりかな…学校が終わったらすぐ行くよ。ベレンもそろそろ休みに入るでしょう?」
ベレンがことわる気がないのを見て、ルシアはまた元気を出した。
「うん、まだ授業がのこっているけれど、来週まではほとんど終わるから大丈夫。」
「やった!じゃあ決まりね!来週日本で会おう!」
ルシアが全身を動かして喜んでいる様子はまるで目の前にいるかのようだ。そう思うと、ベレンはかるく笑った。
「それじゃあ、また来週。」
電話を切った後、ベレンはしばらくスマートフォンを見つめていた。
ルシアと最後に会ったのはいつだっただろう。むかし、いっしょに学校に行ったりあそんだりしたのがまるで昨日のことのように思えるが、いつの間にか二人の間にびみょうな距離感を感じてしまったようだ。
「でも、たしかにしばらく会っていないね。来週の時間をあけておこうか。」
羽田空港(日本の空港の名前)。
時間はすぎ、すぐにルシアが日本に来る日がやってきた。
「ベレン!」
出迎え口に立つベレンは、だれかが遠くから自分の名前を呼ぶのを聞いた。
声がするほうを見ると、大きく手をふっている女の子がいた。
「ベレン!」
背が高く、かみを一つに高くむすんだ栗色のはだの女の子がベレンのほうに向かってくる。
「ルシア、こっちこっち。」
ベレンも笑顔でルシアに手をふる。
「ベレン!本当にひさしぶり!」
ルシアが近くにきて、ベレンにだきついた。
「なんかむかしとちがう雰囲気がしているみたいだね。」
ルシアはベレンの手をとり、笑った。
「そう?私は変わってないよ、何も。」
ルシアはむかしと同じように情熱的で、何も変わっていないように見える。
しかし、なぜか、ベレンの体が少し緊張するような感じがした。
「予約したホテルはどこなの?とりあえず荷物を置いておこう。」
その変な気持ちをおさめるため、ベレンは急いで話を変えた。
「ホテル?予約していないよ。ひさしぶりだし、いっしょに泊まるに決まっているでしょう!」
ルシアは少し笑ってベレンのうでを取った。
「えっ?」
ベレンはかたまった。
「こんなのなんで先に言わなかったの?」
「だって、言う必要あるの?むかしいっしょにあそんでいた時、いつも同じ部屋でねていたんじゃん?」
ルシアもかたまった。ベレンがこんな反応をするとは思わなかった。先ほどベレンの腕を取っていた手も力が抜けた。
「あのころは私たちまだ子供だったから、おたがの家に遊びに行って、たまに泊まったりするのは確かに大したことがないけど、今回はちがうでしょう?」
ルシアはうなずいた。
「もし日本に来ている間、私の家に泊まりたいなら、先に声をかけてくれるべきじゃない?」
ルシアはだんだん頭を下げていった。
「ルシアが悪いと言っているわけじゃない。ただ、泊まりに来るなら、私も部屋を片付けておかなきゃだから。」
ルシアの様子を見て、ベレンもこれ以上きびしいことは言えなくなった。
「運良く私今一人でくらしているけれど、もし恋人といっしょに住んでいたら、どうするつもり?」
ルシアは頭を下げたままだった。
「まあ、しかたない。私の家に泊まってもいいけれど、先に言わなかったから、後で部屋を片付けるのを手伝ってね。」
ここまで言われて、ルシアはようやく顔を上げ、目をかがやかせてベレンを見た。
「わかった!」
「じゃあ、行こう。」
それで、二人は空港を出てベレンの家に向かった。
花火大会当日。
花火が次々と空に舞い上がって咲く。船の中からは賞賛の声が絶えない。
しかしその中に、花火を楽しむ気のない明らかに異国から来た二人の少女がいた。
「もうアルゼンチンに帰りたい。」
少女の一人が突然立ち上がり、席を立った。
「一体どうしたの?」
もう一人の少女は戸惑いながら、つい声を荒げてしまった。
「いつもそんなふうに…」
「何かあったら言ってよ!」
去っていく少女は止まらなかった。。
「ただ、ここにいたくなくなかったから。」
少女は振り返ることなく階段を下りていった。
「もう好きにして!」
一週間前。
いつもと同じ週末の朝、予期せぬ電話が来た。
「もしもし?」
「もしもし、私だよ。」
電話の向こうはベレンにとって馴染み深い声だった。
「ルシア?」
ベレンは少し驚いた声をした。
「そうそう、私のことを忘れていないわよね?」
電話の向こうの人は軽く笑った。
「まさか、本当に久しぶりね。でもどうして電話してきたの?何かあったの?」
「何もなかったら電話できないの?」
「そんなことはないよ。ただ、しばらく連絡を取っていなかったから、ちょっとびっくり しただけ。最近はどう?元気?」
ルシアはまったく昔と同じようだ。ベレンは感慨深げに小さくため息をついた。
ベレンとルシアは子供の頃からの親友だ。小学校から高校までずっと同じ学校に通っていたが、大学に進学する際に別々の学校に入学して離れ離れになった。二人の学校が遠く離れているため、ベレンがまだアルゼンチンにいた頃から、二人が顔を合わせることはほとんどなかった。加えて、ベレンは今日本に留学しており、ルシアと話すことがますます少なくなった。
「いつもと変わらないよ。トレーニングばっかり!今シーズンもあんまり調子がよくなくて、この間もコーチからお説教を受けたばかりなの。」
ベレンは少し不機嫌そうだなと思ったが、ルシアはすぐに話題を変えた。
「ベレンは?日本での生活にもう慣れた?」
「うん、もう慣れたよ。こっちで新しい友達にも出会えたし、いろいろ新しいことも学んだから、毎日楽しいよ。ところで…」
「来週、私が日本に遊びに行こうか!」
ベレンがまだ話している最中、ルシアは割り込んできた。
「え?」
「学校が来週から冬休みに入るから、暇だし。日本は今、夏でしょう?日本に行って、一緒に遊ぼう!」
「ええと…」
ベレンはどう答えていいのか一瞬迷っていた。
「どうしたの?もしかして都合が悪いの?」
ルシアの声は少ししょんぼりしているように聞こえる。
「いや、そういうわけじゃないけど…でも、本当に来るの?急すぎない?日本とアルゼンチンはかなり離れているし。」
なぜ自分が躊躇したのか、ベレンもわからないが、ルシアを譲らなかった。
「日本に行ったことがないもん!それに、私たちはもうずいぶん会っていないじゃない?会いたいよ!」
「わかったわかった。いつ来るつもりなの?準備しておくから。」
どうやらルシアはどうしても日本に行きたいようだ。
「来週の水曜日あたりかな…学校が終わったらすぐ行くよ。ベレンもそろそろ休みに入るでしょう?」
ベレンが断る気がないのを見て、ルシアはまた元気を出した。
「うん、まだ授業が残っているけど、来週まではほとんど終わるから大丈夫。」
「やった!じゃあ決まりね!来週日本で会おう!」
ルシアが身振り手振りで喜んでいる様子はまるで目の前にいるかのようだ。そう思うと、ベレンは軽く笑った。
「それじゃあ、また来週。」
電話を切った後、ベレンはしばらくスマートフォンを見つめていた。
ルシアと最後に会ったのはいつだっただろう。昔、一緒に学校に行ったり遊んだりしたのがまるで昨日のことのように思えるが、いつの間にか二人の間に微妙な距離感を感じてしまったようだ。
「でも、確かにしばらく会っていないね。来週の時間を空けておこうか。」
羽田空港。
時は流れ、あっという間にルシアが来日する日がやってきた。
「ベレン!」
出迎え口に立つベレンは、誰かが遠くから自分の名前を呼ぶのを聞いた。
声がするほうを追うと、力強く手を振っている女の子がいた。
「ベレン!」
背が高く、高いポニーテールを結んでいる栗色の肌の女の子がベレンのほうに向かってくる。
「ルシア、こっちこっち。」
ベレンも笑顔でルシアに手を振る。
「ベレン!本当に久しぶり!」
ルシアが近づいてきて、ベレンに抱きついた。
「なんか昔と違う雰囲気がしているみたいだね。」
ルシアはベレンの手を取り、顔に笑みがこぼれる。
「そう?私は変わってないよ、何もかも。」
ルシアは相変わらず情熱的で、何も変わっていないように見える。
しかし、なぜだかわからないが、ベレンの体が少しこわばった感じがした。
「予約したホテルはどこなの?とりあえず荷物を置いておこう。」
その妙な気持ちを収めるため、ベレンは急いで話題を変えた。
「ホテル?予約していないよ。久しぶりだし、一緒に泊まるに決まっているでしょう!」
ルシアは微笑んでベレンの腕を取った。
「えっ?」
ベレンは固まった。
「こんなのなんで事前に言わなかったの?」
「だって、言う必要あんの?昔一緒に遊んでいた時、いつも同じ部屋で寝ていたんじゃん?」
ルシアも固まった。ベレンがこんな反応をするとは思わなかった。先ほどベレンの腕を取っていた手も緩めた。
「あのころは私たちまだ子供だったから、お互いの家に遊びに行って、たまに泊まったりするのは確かに大したことがないけど、今回は違うでしょう?」
ルシアは頷いた。
「もし日本に滞在している間、私の家に泊まりたいなら、事前に声をかけてくれるべきじゃない?」
ルシアはだんだん頭を下げていった。
「ルシアを責めているわけじゃない。ただ、泊まりに来るなら、私も部屋を片付けておかなきゃだから。」
ルシアの様子を見て、ベレンもこれ以上厳しいことは言えなくなった。
「幸い私今一人暮らしだけど、もし彼氏と一緒に住んでいたら、どうするつもり?」
ルシアは頭を下げたままだった。
「まあ、しょうがない。私の家に泊まってもいいけど、事前に言わなかったから、後
で部屋の片付けを手伝ってね。」
ここまで言われて、ルシアはようやく顔を上げ、目を輝かせてベレンを見た。
「了解!」
「じゃあ、行こう。」
それで、二人は空港を出てベレンの家に向かった。
花火が次々と空に舞い上がって咲く。船の中からは賞賛の声が絶えない。
しかしその中に、花火を楽しむ気のない明らかに異国から来た二人の少女がいた。
「もうアルゼンチンに帰りたい。」
少女の一人が突然立ち上がり、席を立った。
「一体どうしたの?」
もう一人の少女は戸惑いながら、つい声を荒げてしまった。
「いつもそんなふうに…」
「何かあったら言ってよ!」
去っていく少女は止まらなかった。。
「ただ、ここにいたくなくなかったから。」
少女は振り返ることなく階段を下りていった。
「もう好きにして!」
一週間前。
いつもと同じ週末の朝、予期せぬ電話が来た。
「もしもし?」
「もしもし、私だよ。」
電話の向こうはベレンにとって馴染み深い声だった。
「ルシア?」
ベレンは少し驚いた声をした。
「そうそう、私のことを忘れていないわよね?」
電話の向こうの人は軽く笑った。
「まさか、本当に久しぶりね。でもどうして電話してきたの?何かあったの?」
「何もなかったら電話できないの?」
「そんなことはないよ。ただ、しばらく連絡を取っていなかったから、ちょっとびっくり しただけ。最近はどう?元気?」
ルシアはまったく昔と同じようだ。ベレンは感慨深げに小さくため息をついた。
ベレンとルシアは子供の頃からの親友だ。小学校から高校までずっと同じ学校に通っていたが、大学に進学する際に別々の学校に入学して離れ離れになった。二人の学校が遠く離れているため、ベレンがまだアルゼンチンにいた頃から、二人が顔を合わせることはほとんどなかった。加えて、ベレンは今日本に留学しており、ルシアと話すことがますます少なくなった。
「いつもと変わらないよ。トレーニングばっかり!今シーズンもあんまり調子がよくなくて、この間もコーチからお説教を受けたばかりなの。」
ベレンは少し不機嫌そうだなと思ったが、ルシアはすぐに話題を変えた。
「ベレンは?日本での生活にもう慣れた?」
「うん、もう慣れたよ。こっちで新しい友達にも出会えたし、いろいろ新しいことも学んだから、毎日楽しいよ。ところで…」
「来週、私が日本に遊びに行こうか!」
ベレンがまだ話している最中、ルシアは割り込んできた。
「え?」
「学校が来週から冬休みに入るから、暇だし。日本は今、夏でしょう?日本に行って、一緒に遊ぼう!」
「ええと…」
ベレンはどう答えていいのか一瞬迷っていた。
「どうしたの?もしかして都合が悪いの?」
ルシアの声は少ししょんぼりしているように聞こえる。
「いや、そういうわけじゃないけど…でも、本当に来るの?急すぎない?日本とアルゼンチンはかなり離れているし。」
なぜ自分が躊躇したのか、ベレンもわからないが、ルシアを譲らなかった。
「日本に行ったことがないもん!それに、私たちはもうずいぶん会っていないじゃない?会いたいよ!」
「わかったわかった。いつ来るつもりなの?準備しておくから。」
どうやらルシアはどうしても日本に行きたいようだ。
「来週の水曜日あたりかな…学校が終わったらすぐ行くよ。ベレンもそろそろ休みに入るでしょう?」
ベレンが断る気がないのを見て、ルシアはまた元気を出した。
「うん、まだ授業が残っているけど、来週まではほとんど終わるから大丈夫。」
「やった!じゃあ決まりね!来週日本で会おう!」
ルシアが身振り手振りで喜んでいる様子はまるで目の前にいるかのようだ。そう思うと、ベレンは軽く笑った。
「それじゃあ、また来週。」
電話を切った後、ベレンはしばらくスマートフォンを見つめていた。
ルシアと最後に会ったのはいつだっただろう。昔、一緒に学校に行ったり遊んだりしたのがまるで昨日のことのように思えるが、いつの間にか二人の間に微妙な距離感を感じてしまったようだ。
「でも、確かにしばらく会っていないね。来週の時間を空けておこうか。」
羽田空港。
時は流れ、あっという間にルシアが来日する日がやってきた。
「ベレン!」
出迎え口に立つベレンは、誰かが遠くから自分の名前を呼ぶのを聞いた。
声がするほうを追うと、力強く手を振っている女の子がいた。
「ベレン!」
背が高く、高いポニーテールを結んでいる栗色の肌の女の子がベレンのほうに向かってくる。
「ルシア、こっちこっち。」
ベレンも笑顔でルシアに手を振る。
「ベレン!本当に久しぶり!」
ルシアが近づいてきて、ベレンに抱きついた。
「なんか昔と違う雰囲気がしているみたいだね。」
ルシアはベレンの手を取り、顔に笑みがこぼれる。
「そう?私は変わってないよ、何もかも。」
ルシアは相変わらず情熱的で、何も変わっていないように見える。
しかし、なぜだかわからないが、ベレンの体が少しこわばった感じがした。
「予約したホテルはどこなの?とりあえず荷物を置いておこう。」
その妙な気持ちを収めるため、ベレンは急いで話題を変えた。
「ホテル?予約していないよ。久しぶりだし、一緒に泊まるに決まっているでしょう!」
ルシアは微笑んでベレンの腕を取った。
「えっ?」
ベレンは固まった。
「こんなのなんで事前に言わなかったの?」
「だって、言う必要あんの?昔一緒に遊んでいた時、いつも同じ部屋で寝ていたんじゃん?」
ルシアも固まった。ベレンがこんな反応をするとは思わなかった。先ほどベレンの腕を取っていた手も緩めた。
「あのころは私たちまだ子供だったから、お互いの家に遊びに行って、たまに泊まったりするのは確かに大したことがないけど、今回は違うでしょう?」
ルシアは頷いた。
「もし日本に滞在している間、私の家に泊まりたいなら、事前に声をかけてくれるべきじゃない?」
ルシアはだんだん頭を下げていった。
「ルシアを責めているわけじゃない。ただ、泊まりに来るなら、私も部屋を片付けておかなきゃだから。」
ルシアの様子を見て、ベレンもこれ以上厳しいことは言えなくなった。
「幸い私今一人暮らしだけど、もし彼氏と一緒に住んでいたら、どうするつもり?」
ルシアは頭を下げたままだった。
「まあ、しょうがない。私の家に泊まってもいいけど、事前に言わなかったから、後
で部屋の片付けを手伝ってね。」
ここまで言われて、ルシアはようやく顔を上げ、目を輝かせてベレンを見た。
「了解!」
「じゃあ、行こう。」
それで、二人は空港を出てベレンの家に向かった。