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先生と一緒いっしょに書道しょどうをやることを約束やくそくした日がやってきた。ベレンとアンナはとても楽しみにしていた。先生が書道しょどうを教えてくれることを同じクラスの劉（りゅう）さんにも話すと、さんかしたいといったのでベレン、アンナ、劉（りゅう）さんの三人で教わることになった。劉（りゅう）さんはめがねをかけた男の子で、中国からの留学生りゅうがくせいだ。

日本語の授業じゅぎょうの時の先生は、いつもと違ちがって黒いエプロンをしていた。そして、授業じゅぎょうが終わるとすぐに
「机と教卓きょうたくを後ろにいどうしてほしい」
と言った。そして、静しずかにじゅんびを始めた。劉（りゅう）さんがすばやく動くので、ベレンとアンナの仕事はなくなり、先生の行動こうどうをじっと見ていた。書道しょどうの道具どうぐが入っているかばんから文鎮（ぶんちん：紙かみをおさえるための重おもい道具どうぐ）、硯（すずり：墨（すみ）をすりおろすためのきぐです。墨汁（ぼくじゅう）を作るために使う）、筆（ふで）、半紙（はんし：うすい紙かみの一種）、布製の下敷き（ふせいのしたじき：書くときに紙かみの下にしくぬのの道具どうぐ）、墨汁（ぼくじゅう：描くための黒いインク）、新聞紙しんぶんしをとり出した。新聞紙しんぶんしをゆかにしき、布製の下敷き（ふせいのしたじき）の上に半紙（はんし）をおいた。そして、墨汁（ぼくじゅう）を硯（すずり）の上にたらした。
近くで見ていたベレンたちは墨汁（ぼくじゅう）の特別なかおりを感かんじた。
「わあ。薬くすりみたいなにおい。」
「墨汁（ぼくじゅう）のにおいだな。墨汁（ぼくじゅう）は膠（にかわ：物をくっつけるための液だ。のりみたいだ）、煤（すす：もやしたものから出る黒いこな）と香料（こうりょう：いいかおりを出すための材料ざいりょう）で作られるのです。さあ、今から始めるよ。」
先生は筆（ふで）を持ち、硯（すずり）の墨汁（ぼくじゅう）を墨（すみ）にすわせた。硯（すずり）の上で筆先（ふでさき）をきれいにして、力を入れてちゅうごしのしせいで半紙（はんし）に文字もじを書き始めた。
まよいのない筆（ふで）づかいを３人はいきをひそめて見守みまもった。筆（ふで）は先生の手の下でおどっているかのようだった。３０びょうほどで作品さくひんはしあがった。何だろうと思っていたら、半紙（はんし）に書かれた文字もじは「思い出」だった。
「じゃあ、きみたちもやってみて。まずはベレンさんから。」
初めて筆（ふで）を持ち半紙（はんし）に筆（ふで）をおいた。おいた筆（ふで）でとりあえず「心」と書こうとしたけれどあまりうまくいかなかった。筆（ふで）を持つ手がふるえてしまい、文字もじが思ったように書けない。
「心をもっと意識いしきして、力をぬいて書いてみてください。」
先生の声こえが静しずかにベレンに語りかけるようだった。
ベレンはしんこきゅうをして、心の内うちに集中しゅうちゅうし、もう一度筆（ふで）を持って文字もじを書き始めた。ゆっくりとした動きで、筆（ふで）が半紙（はんし）にふれる。心の中で「心」という言葉ことばをくりかえし考えながら、力をぬいて文字もじを書きすすめる。
少しずつなれてきたのか、ベレンの手はふるえがなくなり、文字もじもなめらかになっていく。しばらくして、完成かんせいした作品さくひんを見てベレンは少しおどろいた顔かおを見せた。
「いいですね、ベレンさん。心のこもった作品さくひんです。」
先生がほめると、ベレンは恥はずかしそうに笑わらった。
「ありがとうございます、先生。」
次つぎにアンナがやってみた。アンナの手も最初さいしょは不安定ふあんていだったが、ベレンと同じように、だんだんなれてきた。そして、アンナもすてきな作品さくひんを完成かんせいさせた。
最後さいごに劉（りゅう）さんがやってみた。劉（りゅう）さんはしんけんな表情ひょうじょうで文字もじを書きすすめ、みごとな作品さくひんをしあげた。
三人の作品さくひんを見て、先生は満足まんぞくそうな表情ひょうじょうをうかべた。
「すばらしいですね、みなさん。書道しょどうは自分の内面ないめんを表現ひょうげんするすばらしい手段しゅだんです。これからも楽しんでつづけてください。」

先生と一緒に書道をやることを約束した日がやってきた。ベレンとアンナはとても楽しみにしていた。先生が書道を教えてくれることを同じクラスの劉さんにも話すと、参加したいといったのでベレン、アンナ、劉さんの三人で教わることになった。劉さんは眼鏡をかけた男の子で、中国からの留学生だ。

日本語の授業の時の先生は、普段と違って黒いエプロンをしていた。そして、授業が終わるとすぐに
「机と教卓を後ろに移動してほしい」
と言った。そして、黙々と準備を始めた。劉さんがてきぱきと移動させるから、ベレンとアンナの仕事はなくなってしまい、先生の一挙手一投足に注目した。書道の道具が入っているバックから文鎮、硯、筆、半紙、布製の下敷き、墨汁、新聞紙を取り出した。新聞紙を床に敷き、布製の下敷きの上に半紙を置いた。そして、墨汁を硯の上にたらした。
近くで見ていたベレンたちは墨汁独特のかぐわしい香りを感じた。
「わあ。薬みたいな匂い。」
「墨汁の匂いだな。墨汁は膠、煤と香料で作られるのです。さあ、今から始めるよ。」
先生は筆を持ち、硯の墨汁を墨に吸わせた。筆先を硯の上で整えると、勢いよく中腰の体制で半紙に文字を書き始めた。
迷いのない筆遣いを３人は固唾をのんで見守った。筆は先生の手の下で踊っているかのようだった。３０秒ほどで作品は仕上がった。何だろうと思っていたら、半紙に書かれた文字は「思い出」だった。
「じゃあ、君たちもやってみて。まずはベレンさんから。」
初めて筆を持ち半紙に筆をおいた。置いた筆でとりあえず「心」と書こうとしたけれどあまりうまくいかなかった。筆を持つ手が震えてしまい、文字が思ったように書けない。
「心をもっと意識して、力を抜いて書いてみてください。」
先生の声が静かにベレンに語りかけるようだった。
ベレンは深呼吸をして、心の内に集中し、再び筆を持って文字を書き始めた。ゆっくりとした動きで、筆が半紙に触れる。心の中で「心」という言葉を反芻しながら、力を抜いて文字を書き進める。
少しずつ慣れてきたのか、ベレンの手は震えが収まり、文字も滑らかになっていく。やがて、完成した作品を見てベレンは少し驚いたような表情を浮かべた。
「いいですね、ベレンさん。心のこもった作品です。」
先生が褒めると、ベレンは照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます、先生。」
次にアンナが挑戦した。アンナの手も最初は不安定だったが、ベレンと同様に徐々に慣れてきた。そして、アンナも素敵な作品を完成させた。
最後に劉さんが挑戦した。劉さんは真剣な表情で文字を書き進め、見事な作品を仕上げた。
三人の作品を見て、先生は満足そうな表情を浮かべた。
「素晴らしいですね、みなさん。書道は自分の内面を表現する素晴らしい手段です。これからも楽しんで続けてください。」