閉じる
閉じる
📌
閉じる
📌
アーティスティック・コラボレーション
ユキの作品作り
現在の再生速度: 1.0倍
Coming soon!
ユキはかなざわ芸術(げいじゅつ)大学の学生です。この大学は「かなざわ」という名前のまちにある大学です。
かなざわは、日本のまんなかあたりの「石川県」の中心のまちです。日本と中国の間の海である日本海に近いです。漢字では「金沢」と書きます。江戸(えど)時代(1603年~1867年)のかなざわは、江戸(今の東京を、昔は「江戸」とよんでいました)、大阪、京都のつぎに大きいまちでした。そして、美術(びじゅつ)や工芸(こうげい)のまちだと言われていました。その時からつづく文化は、今もかなざわの町に生きています。たとえば、きれいな絵がかかれた着物や皿、金ぱくなどが有名です。金ぱくとは、きんぞくの金を、紙のようにうすくのばしたものです。このような芸術品を作る人もたくさんいます。かれらのことを職人(しょくにん)といいます。職人は昔から大切に伝えられてきた作品を今でも作っていて、みらいへと伝えます。しかし昔と同じように作品を作るだけでなく、今の時代に合うように変えて新しい物もいろいろ作っています。このようにして、伝統(でんとう)は時代から時代へと伝えられてきました。
ユキはかなざわで生まれて大人になりました。子どもの時から伝統のある文化や作品が近くにありました。そして、芸術にきょうみを持ちました。よく絵をかいたり、ねんどで人形を作ったりしていました。高校生になると、彫刻(ちょうこく)にきょうみを持ちました。木をけずって、いろいろな形になるのがとてもおもしろかったのです。そして、大学で彫刻を勉強したいと思って、かなざわ芸術大学の美術学部(びじゅつがくぶ)に入りました。
美術学部は4つの学科(がっか)があります。絵画(かいが)学科、彫刻学科、写真学科、デザイン学科です。ユキは彫刻学科(ちょうこくがっか)に入りました。そして4月から2年生になりました。1年生の時は、彫刻のほかに絵や写真やデザイン、そして芸術について広く勉強しました。2年生からは彫刻をくわしく勉強します。ユキは、とだ先生の研究室に入りました。とだ先生は彫刻学科の先生の中で一番年上の先生です。研究室にはユキのほかに2年生が3人います。学生たちはきょうみを持っている材料(ざいりょう)がちがいます。たとえば、木、石、鉄(てつ)などです。ユキは木にきょうみを持っています。木を使って人や動物を生きているようにほりたい、日本的な作品を作りたいと思っています。
5月のある日、とだ先生は学生に彫刻を作ってくるように言いました。
「6月の終わりまでに動物の彫刻を作ってください。どんな動物でもいいです。自分の好きな材料で作ってください。7月に研究室で作品を見せ合って考えたことを言いましょう」
ユキはどんな動物がいいか、考えました。
(犬なら、うちにいるから見やすいけれど、どこにでもいるから、ちがう動物がいいだろう。さるはどうかな。さるなら動物園にいるから見ることができる。)
ユキはそう思って、木を使ってさるの彫刻を作ることにしました。
まず、彫刻に使う木をさがします。かたい木はほりにくいので、やわらかくてきれいに見える木がいいと思いました。どんな木がいいか、わからなかったので、ユキはとだ先生に相談(そうだん)しました。
「とだ先生、木で彫刻を作りたいんですが、どんな木がいいですか」
「ヒノキの木がほりやすいです。やわらかいですから。でも、強いので彫刻にするにはよい木です」
「そうですか。どこで手に入りますか」
「そうですね。大きいものは山に行かないとなかなかありませんが、小さいものなら、材木店(ざいもくてん)やホームセンターで見つかることもあります」
「ありがとうございます。お店に行きます」
ユキは、近くの材木店で、たて40㎝×よこ40㎝×高さ60㎝ぐらいのヒノキを注文(ちゅうもん)しました。来るまで1週間かかると言われました。ユキは注文ができて安心しました。
ユキはヒノキが来るまで、毎日動物園に行って、さるを見て絵を描きました。さるはよく動くので、よく見ることがむずかしいです。それで、ユキは1ぴきだけ見て絵を描くことにしました。お母さんのさるです。このさるは子どものサルよりもゆっくり動くので、ユキは何枚か絵を描くことができました。1週間かけて、やっと絵を描き終わりました。すわっているさるのお母さんの絵です。
(ああ、やっとできた! よかった! これを見て彫刻ができる。)
ユキはまた安心しました。
そして、ユキはヒノキを手に入れることができました。大きさもちょうどよかったです。ユキはヒノキの皮(かわ)をむきました。ヒノキのいいにおいがしました。
(ああ、いいにおい。さあ、ほろう!)
ユキはつくえの上にヒノキをのせました。そして、すぐに彫刻刀(ちょうこくとう)――彫刻に使うナイフのことです――を持って、ヒノキをほり始めました。はじめに大体サルの形になるように、ほります。それから、デッサンを見ながら、細かい所をほっていきます。ユキはさるの毛の1本1本もていねいに細かくほりました。大学の勉強もしながら、毎日ほりつづけて1か月ぐらいたちました。つくえの上には、ユキが描いた絵と同じお母さんのさるがすわっていました。
7月に入って、作った彫刻を見せる日になりました。先生と学生が作品を見て、みんなで意見を言います。研究室には学生たちの作品がならんでいます。石をほって作ったうさぎの彫刻、鉄をまげて作ったへびの彫刻、いろいろな木を合わせて作った鳥の彫刻、そして、ユキのさるの彫刻がありました。とだ先生が言いました。
「みなさん、いい作品ができました。がんばったのがわかります。みなさんの意見を先に聞きましょう。思ったことをどんどん言ってください。それが作った人やみんなにとって勉強になりますから。最後に私から意見を言います」
ユキたち学生は、みんなの作品について意見を言いました。まず、石のうさぎです。
「この石の作品は、ほるのが大変だったと思います」
「石でもうさぎのやわらかい感じが出ています」
「ええ、うさぎのかわいらしさがよくわかります」
つぎに、鉄のへびです。
「すぐにへびだとわかります。へびの気持ちの悪さもわかります」
「鉄をまげるのが大変だったと思います」
「かたい鉄でへびの動きをあらわしているのがおもしろいと思います」
つぎに、木を合わせた鳥です。
「この木の作品は、鳥の体をあらわす木と羽(はね)をあらわす木で、別のしゅるいの木を使っていますが、どうやって木と木をつけたのですか」
「くぎとのりでつけました」
「木のもようが鳥の体と羽に合っていて、いいと思います」
「形は本物の鳥とちがいますが、すぐに鳥だとわかっておもしろいです」
いよいよユキの作品です。
「この木の作品は、本物のさるのようで、とてもきれいな作品です」
「細かくほるのが大変だったと思います」
「ていねいに作っていてすごいと思います」
ユキはひどいことを言われなくて安心しました。
最後に先生が言いました。
「それぞれの作りたいものがよく見える作品だと思います。みなさんの意見も見たようすだけではなくて材料や作ったときのことについても言っていて、よかったです。芸術を考えるとき、いろいろな見方が大切です。では、私からもみなさんの作品について話します」
先生はつづけました。
「石のうさぎはうさぎのあたたかさも分かる彫刻ですね。そこに作った人の感覚(かんかく)がでています。石はかたいので、ほる練習をすると、これからもいい作品ができるでしょう。鉄のへびも、ヘビの動きをよく作れていると思います。鉄で形を作るのはむずかしいですね。いろいろとためしてみると、またおもしろい作品ができるでしょう。木を合わせた鳥は、木のもようをうまく使っています。鳥の体や羽に合ったもようをさがすのは、むずかしかったと思います。よく考えてちょうせんしました。木のさるは、とてもていねいにきれいに作られています。技術(ぎじゅつ)がすばらしいと思います。このさるは、どんなさるですか」
先生はユキに聞きました。
「お母さんのさるです」
とユキが答えました。先生は言いました。
「それが見る人にもわかるように、たとえば、お母さんらしいやさしさやおちつきがあらわせると、さらにいいと思います」
ユキは、そんなことを自分では考えたことがないと思いました。それで、あわてて言いました。
「は、はい。ありがとうございます」
先生はつづけて言いました。
「夏休みに2年生のアートセミナーがあるのを知っていますね。美術学部全員で長野県(ながのけん)に4日間行きます。今回はほかの学生といっしょに作品を作ります。最後に発表(はっぴょう)もします。いっしょに作るあいては、コンピューターが決めます。どの学科のどの学生になるか、わかりません。けれども、そのわからない中から何かを作ることが大切です。いろいろな見方、作り方を勉強することができるでしょう。何かをつかめる作品作りになるといいと思います。今日の発表で学んだことも、うまく使ってください」
学生たちは少し心配(しんぱい)そうに先生の話を聞いていました。
かなざわは、日本のまんなかあたりの「石川県」の中心のまちです。日本と中国の間の海である日本海に近いです。漢字では「金沢」と書きます。江戸(えど)時代(1603年~1867年)のかなざわは、江戸(今の東京を、昔は「江戸」とよんでいました)、大阪、京都のつぎに大きいまちでした。そして、美術(びじゅつ)や工芸(こうげい)のまちだと言われていました。その時からつづく文化は、今もかなざわの町に生きています。たとえば、きれいな絵がかかれた着物や皿、金ぱくなどが有名です。金ぱくとは、きんぞくの金を、紙のようにうすくのばしたものです。このような芸術品を作る人もたくさんいます。かれらのことを職人(しょくにん)といいます。職人は昔から大切に伝えられてきた作品を今でも作っていて、みらいへと伝えます。しかし昔と同じように作品を作るだけでなく、今の時代に合うように変えて新しい物もいろいろ作っています。このようにして、伝統(でんとう)は時代から時代へと伝えられてきました。
ユキはかなざわで生まれて大人になりました。子どもの時から伝統のある文化や作品が近くにありました。そして、芸術にきょうみを持ちました。よく絵をかいたり、ねんどで人形を作ったりしていました。高校生になると、彫刻(ちょうこく)にきょうみを持ちました。木をけずって、いろいろな形になるのがとてもおもしろかったのです。そして、大学で彫刻を勉強したいと思って、かなざわ芸術大学の美術学部(びじゅつがくぶ)に入りました。
美術学部は4つの学科(がっか)があります。絵画(かいが)学科、彫刻学科、写真学科、デザイン学科です。ユキは彫刻学科(ちょうこくがっか)に入りました。そして4月から2年生になりました。1年生の時は、彫刻のほかに絵や写真やデザイン、そして芸術について広く勉強しました。2年生からは彫刻をくわしく勉強します。ユキは、とだ先生の研究室に入りました。とだ先生は彫刻学科の先生の中で一番年上の先生です。研究室にはユキのほかに2年生が3人います。学生たちはきょうみを持っている材料(ざいりょう)がちがいます。たとえば、木、石、鉄(てつ)などです。ユキは木にきょうみを持っています。木を使って人や動物を生きているようにほりたい、日本的な作品を作りたいと思っています。
5月のある日、とだ先生は学生に彫刻を作ってくるように言いました。
「6月の終わりまでに動物の彫刻を作ってください。どんな動物でもいいです。自分の好きな材料で作ってください。7月に研究室で作品を見せ合って考えたことを言いましょう」
ユキはどんな動物がいいか、考えました。
(犬なら、うちにいるから見やすいけれど、どこにでもいるから、ちがう動物がいいだろう。さるはどうかな。さるなら動物園にいるから見ることができる。)
ユキはそう思って、木を使ってさるの彫刻を作ることにしました。
まず、彫刻に使う木をさがします。かたい木はほりにくいので、やわらかくてきれいに見える木がいいと思いました。どんな木がいいか、わからなかったので、ユキはとだ先生に相談(そうだん)しました。
「とだ先生、木で彫刻を作りたいんですが、どんな木がいいですか」
「ヒノキの木がほりやすいです。やわらかいですから。でも、強いので彫刻にするにはよい木です」
「そうですか。どこで手に入りますか」
「そうですね。大きいものは山に行かないとなかなかありませんが、小さいものなら、材木店(ざいもくてん)やホームセンターで見つかることもあります」
「ありがとうございます。お店に行きます」
ユキは、近くの材木店で、たて40㎝×よこ40㎝×高さ60㎝ぐらいのヒノキを注文(ちゅうもん)しました。来るまで1週間かかると言われました。ユキは注文ができて安心しました。
ユキはヒノキが来るまで、毎日動物園に行って、さるを見て絵を描きました。さるはよく動くので、よく見ることがむずかしいです。それで、ユキは1ぴきだけ見て絵を描くことにしました。お母さんのさるです。このさるは子どものサルよりもゆっくり動くので、ユキは何枚か絵を描くことができました。1週間かけて、やっと絵を描き終わりました。すわっているさるのお母さんの絵です。
(ああ、やっとできた! よかった! これを見て彫刻ができる。)
ユキはまた安心しました。
そして、ユキはヒノキを手に入れることができました。大きさもちょうどよかったです。ユキはヒノキの皮(かわ)をむきました。ヒノキのいいにおいがしました。
(ああ、いいにおい。さあ、ほろう!)
ユキはつくえの上にヒノキをのせました。そして、すぐに彫刻刀(ちょうこくとう)――彫刻に使うナイフのことです――を持って、ヒノキをほり始めました。はじめに大体サルの形になるように、ほります。それから、デッサンを見ながら、細かい所をほっていきます。ユキはさるの毛の1本1本もていねいに細かくほりました。大学の勉強もしながら、毎日ほりつづけて1か月ぐらいたちました。つくえの上には、ユキが描いた絵と同じお母さんのさるがすわっていました。
7月に入って、作った彫刻を見せる日になりました。先生と学生が作品を見て、みんなで意見を言います。研究室には学生たちの作品がならんでいます。石をほって作ったうさぎの彫刻、鉄をまげて作ったへびの彫刻、いろいろな木を合わせて作った鳥の彫刻、そして、ユキのさるの彫刻がありました。とだ先生が言いました。
「みなさん、いい作品ができました。がんばったのがわかります。みなさんの意見を先に聞きましょう。思ったことをどんどん言ってください。それが作った人やみんなにとって勉強になりますから。最後に私から意見を言います」
ユキたち学生は、みんなの作品について意見を言いました。まず、石のうさぎです。
「この石の作品は、ほるのが大変だったと思います」
「石でもうさぎのやわらかい感じが出ています」
「ええ、うさぎのかわいらしさがよくわかります」
つぎに、鉄のへびです。
「すぐにへびだとわかります。へびの気持ちの悪さもわかります」
「鉄をまげるのが大変だったと思います」
「かたい鉄でへびの動きをあらわしているのがおもしろいと思います」
つぎに、木を合わせた鳥です。
「この木の作品は、鳥の体をあらわす木と羽(はね)をあらわす木で、別のしゅるいの木を使っていますが、どうやって木と木をつけたのですか」
「くぎとのりでつけました」
「木のもようが鳥の体と羽に合っていて、いいと思います」
「形は本物の鳥とちがいますが、すぐに鳥だとわかっておもしろいです」
いよいよユキの作品です。
「この木の作品は、本物のさるのようで、とてもきれいな作品です」
「細かくほるのが大変だったと思います」
「ていねいに作っていてすごいと思います」
ユキはひどいことを言われなくて安心しました。
最後に先生が言いました。
「それぞれの作りたいものがよく見える作品だと思います。みなさんの意見も見たようすだけではなくて材料や作ったときのことについても言っていて、よかったです。芸術を考えるとき、いろいろな見方が大切です。では、私からもみなさんの作品について話します」
先生はつづけました。
「石のうさぎはうさぎのあたたかさも分かる彫刻ですね。そこに作った人の感覚(かんかく)がでています。石はかたいので、ほる練習をすると、これからもいい作品ができるでしょう。鉄のへびも、ヘビの動きをよく作れていると思います。鉄で形を作るのはむずかしいですね。いろいろとためしてみると、またおもしろい作品ができるでしょう。木を合わせた鳥は、木のもようをうまく使っています。鳥の体や羽に合ったもようをさがすのは、むずかしかったと思います。よく考えてちょうせんしました。木のさるは、とてもていねいにきれいに作られています。技術(ぎじゅつ)がすばらしいと思います。このさるは、どんなさるですか」
先生はユキに聞きました。
「お母さんのさるです」
とユキが答えました。先生は言いました。
「それが見る人にもわかるように、たとえば、お母さんらしいやさしさやおちつきがあらわせると、さらにいいと思います」
ユキは、そんなことを自分では考えたことがないと思いました。それで、あわてて言いました。
「は、はい。ありがとうございます」
先生はつづけて言いました。
「夏休みに2年生のアートセミナーがあるのを知っていますね。美術学部全員で長野県(ながのけん)に4日間行きます。今回はほかの学生といっしょに作品を作ります。最後に発表(はっぴょう)もします。いっしょに作るあいては、コンピューターが決めます。どの学科のどの学生になるか、わかりません。けれども、そのわからない中から何かを作ることが大切です。いろいろな見方、作り方を勉強することができるでしょう。何かをつかめる作品作りになるといいと思います。今日の発表で学んだことも、うまく使ってください」
学生たちは少し心配(しんぱい)そうに先生の話を聞いていました。
ユキは金沢芸術大学の学生です。名前のとおり、この大学は石川県の中心都市、金沢にあります。金沢は日本海の近くで、江戸(えど)時代(1603~1867)には、江戸、大阪、京都のつぎに大きい町だったことがあります。そして、美術(びじゅつ)や工芸(こうげい)の町だと言われていました。その時の伝統的(でんとうてき)な文化は、今も金沢の町に生きています。たとえば、きれいな絵がかかれた着物や皿、紙のようにうすい金ぱくなどが有名です。このような美術、工芸品を作る職人(しょくにん)もたくさんいます。職人は伝統的な技術(ぎじゅつ)を時代に合うようにアレンジして、新しい物もいろいろ作っています。このようにして、伝統が時代から時代へと伝えられてきました。
ユキは金沢で生まれて育ちました。子どもの時から伝統的な文化にかこまれていました。それで、美術や工芸にきょうみを持つようになりました。よく絵をかいたり、粘土(ねんど)で人形を作ったりしていました。高校生になると、彫刻(ちょうこく)にきょうみを持つようになりました。木をほって、いろいろな形になるのがとてもおもしろかったのです。そして、大学で彫刻を勉強したいと思って、金沢芸術大学の美術学部(びじゅつがくぶ)に入りました。
美術学部には絵画(かいが)学科、彫刻学科、写真学科、デザイン学科があります。ユキは4月から彫刻学科(ちょうこくがっか)の2年生になりました。1年生の時は、彫刻の他に絵や写真やデザイン、そして美術についての知識(ちしき)などを勉強しました。2年生からは彫刻の勉強が中心になります。ユキは戸田先生の研究室に入りました。戸田先生は彫刻学科の先生の中で一番年上の先生です。研究室にはユキの他に2年生が3人います。それぞれの学生はきょうみを持っている材料(ざいりょう)がちがいます。たとえば、木、石、鉄(てつ)などです。ユキは木にきょうみを持っています。木を使って人や動物を生きているようにほりたい、日本的な感じの作品を作りたいと思っています。
5月のある日、戸田先生から彫刻の課題(かだい)が出ました。
「6月の終わりまでに動物の彫刻を作ってください。どんな動物でもいいです。自分の好きな材料でやってみてください。7月に研究室で作品の発表会をします。」
ユキはどんな動物がいいか、考えました。
(犬なら、うちにいるから観察(かんさつ)しやすいけど、どこにでもいるから、ちがう動物がいいかもしれない。サルはどうかな。サルなら動物園にいるから観察できるよね。)
ユキはそう思って、木を使ってサルの彫刻を作ることにしました。
まず、彫刻に使う木をさがさなければなりません。硬(かた)い木はほりにくいですから、やわらかくてきれいに見える木がいいと思いました。どんな木がいいか、わからなかったので、ユキは戸田先生に相談(そうだん)しました。
「戸田先生、木で彫刻を作りたいんですが、どんな木がいいですか。」
「ヒノキの木がほりやすいですよ。やわらかいですから。でも、強いですよ。」
「そうですか。どこで手に入りますか。」
「そうですね。大きいものは山に行かないとなかなかありませんが、小さいものなら、材木店(ざいもくてん)やホームセンターで見つかることもありますよ。」
「ありがとうございます。さがしてみます。」
ユキは、近くの材木店で、たて40㎝×よこ40㎝×高さ60㎝ぐらいのヒノキを注文(ちゅうもん)しました。来るまで1週間かかると言われましたが、ユキはほっとしました。
ユキはヒノキが来るまで、毎日動物園に行って、サルを見てデッサンをしました。サルはよく動くので、観察(かんさつ)しにくいです。それで、ユキは1ぴきだけ観察することにしました。お母さんのサルです。このサルは子どものサルより動きがゆっくりしているので、ユキはデッサンをつづけることができました。1週間後(ご)、やっとデッサンが終わりました。すわっているサルのお母さんのデッサンです。
(ああ、やっとできた! よかった! これを見て彫刻ができる。)
ユキはまたほっとしました。
そして、ユキはヒノキを手に入れることができました。大きさもちょうどよかったです。ユキはヒノキの皮(かわ)をむきました。ヒノキのいいにおいがしました。
(ああ、いいにおい。さあ、ほるぞ!)
ユキはつくえの上にヒノキをのせました。そして、すぐに彫刻刀(ちょうこくとう)――彫刻に使うナイフのことです――を持って、ヒノキをほり始めました。はじめに大体サルの形になるように、ほります。それから、デッサンを見ながら、細かい所をほっていきます。ユキはサルの毛の1本1本もていねいに細かくほりました。大学の勉強もしながら、毎日ほりつづけて1か月ぐらいたちました。つくえの上には、デッサンと同じようなお母さんのサルがすわっていました。
7月に入って、課題の発表会の日になりました。先生と学生が作品を見て、みんなで意見を言います。研究室には学生たちの作品がならんでいます。石をほって作ったウサギの彫刻、鉄をまげて作ったヘビの彫刻、木を組み合わせて作ったトリの彫刻、そして、ユキのサルの彫刻がありました。戸田先生が言いました。
「みなさん、それぞれいい作品ができました。がんばったのがわかります。みなさんの意見を先に聞きましょう。思ったことをどんどん言ってください。それが作者やみんなにとって勉強になりますから。最後に私から意見を言いますね。」
ユキたち学生は、それぞれの作品について意見を言いました。まず、石の作品です。
「この石の作品は、ほるのが大変だったと思います。」
「石でもウサギのやわらかい感じが出ていますね。」
「ええ、かわいらしさがよくあらわれていると思います。」
つぎに、鉄の作品です。
「すぐにヘビだとわかります。気持ちの悪さも感じます。」
「この鉄の作品は、鉄をまげるのが大変だったと思います。」
「硬(かた)い鉄でヘビのくねくねした感じをあらわしているのがおもしろいと思います。」
つぎに、木を組み合わせた作品です。
「この木の作品は、トリの体をあらわす木と羽(はね)をあらわす木をつけて組み合わせていますが、どうやって木と木をつけたのですか。」
「くぎとのりでつけました。」
「木のもようがトリの体と羽に合っていて、いいですね。」
「形は本物のトリとちがいますけど、すぐにトリだとわかっておもしろいと思います。」
いよいよユキの作品です。
「この木の作品は、本物のサルのようで、とてもきれいな作品ですね。」
「細かくほるのが大変だったと思います。」
「ていねいに作っていてすごいと思います。」
ユキはネガティブな意見がなくて、ほっとしました。
最後に先生が言いました。
「それぞれ個性的(こせいてき)な作品だと思います。みなさんの意見も見た目だけではなくて作り方についても言っていて、よかったです。美術を考えるとき、いろいろな見方が大切ですね。では、私からもそれぞれの作品について話します。」
先生はつづけました。
「石のウサギはウサギのあたたかさも感じられるような彫刻ですね。そこに作者の感覚(かんかく)があらわれていると思います。石は硬いので、ほる練習をすると、これからもいい作品ができるでしょう。鉄のヘビも、ヘビの動きをよくあらわしていると思います。鉄で形を作るのはむずかしいですね。いろいろとチャレンジしてみると、またおもしろい作品ができるでしょう。木を組み合わせたトリは、木のもようを生かしてトリをあらわしました。トリの体や羽に合ったもようをさがすのは、むずかしかったと思います。よく考えてチャレンジしましたね。木のサルは、とてもていねいにきれいに作られています。技術(ぎじゅつ)がすばらしいと思います。このサルはどんなサルですか。」
先生はユキに聞きました。
「お母さんのサルです。」
とユキが答えました。先生は言いました。
「それが感じられるように、たとえば、お母さんらしいやさしさやおちつきがあらわせると、さらにいいと思います。」
ユキは、そんなことを自分では考えたことがないと思いました。それで、あせって言いました。
「は、はい。ありがとうございます。」
先生はつづけて言いました。
「夏休みに2年生のアートセミナーがあるのを知っていますね。美術学部全員で3泊4日で長野県に行きます。今回は他の学生とコラボレーションをして作品を作ります。最後(さいご)に発表もします。コラボレーションの相手は、コンピューターが決めます。ですから、どの学科のどの学生になるか、わかりません。けれども、そのわからない中から何かを作り出すことが大切です。いろいろな見方、作り方を勉強するチャンスになるでしょう。今日の発表のこともぜひ生かしてください。」
学生たちは少し心配(しんぱい)そうに先生の話を聞いていました。
ユキは金沢で生まれて育ちました。子どもの時から伝統的な文化にかこまれていました。それで、美術や工芸にきょうみを持つようになりました。よく絵をかいたり、粘土(ねんど)で人形を作ったりしていました。高校生になると、彫刻(ちょうこく)にきょうみを持つようになりました。木をほって、いろいろな形になるのがとてもおもしろかったのです。そして、大学で彫刻を勉強したいと思って、金沢芸術大学の美術学部(びじゅつがくぶ)に入りました。
美術学部には絵画(かいが)学科、彫刻学科、写真学科、デザイン学科があります。ユキは4月から彫刻学科(ちょうこくがっか)の2年生になりました。1年生の時は、彫刻の他に絵や写真やデザイン、そして美術についての知識(ちしき)などを勉強しました。2年生からは彫刻の勉強が中心になります。ユキは戸田先生の研究室に入りました。戸田先生は彫刻学科の先生の中で一番年上の先生です。研究室にはユキの他に2年生が3人います。それぞれの学生はきょうみを持っている材料(ざいりょう)がちがいます。たとえば、木、石、鉄(てつ)などです。ユキは木にきょうみを持っています。木を使って人や動物を生きているようにほりたい、日本的な感じの作品を作りたいと思っています。
5月のある日、戸田先生から彫刻の課題(かだい)が出ました。
「6月の終わりまでに動物の彫刻を作ってください。どんな動物でもいいです。自分の好きな材料でやってみてください。7月に研究室で作品の発表会をします。」
ユキはどんな動物がいいか、考えました。
(犬なら、うちにいるから観察(かんさつ)しやすいけど、どこにでもいるから、ちがう動物がいいかもしれない。サルはどうかな。サルなら動物園にいるから観察できるよね。)
ユキはそう思って、木を使ってサルの彫刻を作ることにしました。
まず、彫刻に使う木をさがさなければなりません。硬(かた)い木はほりにくいですから、やわらかくてきれいに見える木がいいと思いました。どんな木がいいか、わからなかったので、ユキは戸田先生に相談(そうだん)しました。
「戸田先生、木で彫刻を作りたいんですが、どんな木がいいですか。」
「ヒノキの木がほりやすいですよ。やわらかいですから。でも、強いですよ。」
「そうですか。どこで手に入りますか。」
「そうですね。大きいものは山に行かないとなかなかありませんが、小さいものなら、材木店(ざいもくてん)やホームセンターで見つかることもありますよ。」
「ありがとうございます。さがしてみます。」
ユキは、近くの材木店で、たて40㎝×よこ40㎝×高さ60㎝ぐらいのヒノキを注文(ちゅうもん)しました。来るまで1週間かかると言われましたが、ユキはほっとしました。
ユキはヒノキが来るまで、毎日動物園に行って、サルを見てデッサンをしました。サルはよく動くので、観察(かんさつ)しにくいです。それで、ユキは1ぴきだけ観察することにしました。お母さんのサルです。このサルは子どものサルより動きがゆっくりしているので、ユキはデッサンをつづけることができました。1週間後(ご)、やっとデッサンが終わりました。すわっているサルのお母さんのデッサンです。
(ああ、やっとできた! よかった! これを見て彫刻ができる。)
ユキはまたほっとしました。
そして、ユキはヒノキを手に入れることができました。大きさもちょうどよかったです。ユキはヒノキの皮(かわ)をむきました。ヒノキのいいにおいがしました。
(ああ、いいにおい。さあ、ほるぞ!)
ユキはつくえの上にヒノキをのせました。そして、すぐに彫刻刀(ちょうこくとう)――彫刻に使うナイフのことです――を持って、ヒノキをほり始めました。はじめに大体サルの形になるように、ほります。それから、デッサンを見ながら、細かい所をほっていきます。ユキはサルの毛の1本1本もていねいに細かくほりました。大学の勉強もしながら、毎日ほりつづけて1か月ぐらいたちました。つくえの上には、デッサンと同じようなお母さんのサルがすわっていました。
7月に入って、課題の発表会の日になりました。先生と学生が作品を見て、みんなで意見を言います。研究室には学生たちの作品がならんでいます。石をほって作ったウサギの彫刻、鉄をまげて作ったヘビの彫刻、木を組み合わせて作ったトリの彫刻、そして、ユキのサルの彫刻がありました。戸田先生が言いました。
「みなさん、それぞれいい作品ができました。がんばったのがわかります。みなさんの意見を先に聞きましょう。思ったことをどんどん言ってください。それが作者やみんなにとって勉強になりますから。最後に私から意見を言いますね。」
ユキたち学生は、それぞれの作品について意見を言いました。まず、石の作品です。
「この石の作品は、ほるのが大変だったと思います。」
「石でもウサギのやわらかい感じが出ていますね。」
「ええ、かわいらしさがよくあらわれていると思います。」
つぎに、鉄の作品です。
「すぐにヘビだとわかります。気持ちの悪さも感じます。」
「この鉄の作品は、鉄をまげるのが大変だったと思います。」
「硬(かた)い鉄でヘビのくねくねした感じをあらわしているのがおもしろいと思います。」
つぎに、木を組み合わせた作品です。
「この木の作品は、トリの体をあらわす木と羽(はね)をあらわす木をつけて組み合わせていますが、どうやって木と木をつけたのですか。」
「くぎとのりでつけました。」
「木のもようがトリの体と羽に合っていて、いいですね。」
「形は本物のトリとちがいますけど、すぐにトリだとわかっておもしろいと思います。」
いよいよユキの作品です。
「この木の作品は、本物のサルのようで、とてもきれいな作品ですね。」
「細かくほるのが大変だったと思います。」
「ていねいに作っていてすごいと思います。」
ユキはネガティブな意見がなくて、ほっとしました。
最後に先生が言いました。
「それぞれ個性的(こせいてき)な作品だと思います。みなさんの意見も見た目だけではなくて作り方についても言っていて、よかったです。美術を考えるとき、いろいろな見方が大切ですね。では、私からもそれぞれの作品について話します。」
先生はつづけました。
「石のウサギはウサギのあたたかさも感じられるような彫刻ですね。そこに作者の感覚(かんかく)があらわれていると思います。石は硬いので、ほる練習をすると、これからもいい作品ができるでしょう。鉄のヘビも、ヘビの動きをよくあらわしていると思います。鉄で形を作るのはむずかしいですね。いろいろとチャレンジしてみると、またおもしろい作品ができるでしょう。木を組み合わせたトリは、木のもようを生かしてトリをあらわしました。トリの体や羽に合ったもようをさがすのは、むずかしかったと思います。よく考えてチャレンジしましたね。木のサルは、とてもていねいにきれいに作られています。技術(ぎじゅつ)がすばらしいと思います。このサルはどんなサルですか。」
先生はユキに聞きました。
「お母さんのサルです。」
とユキが答えました。先生は言いました。
「それが感じられるように、たとえば、お母さんらしいやさしさやおちつきがあらわせると、さらにいいと思います。」
ユキは、そんなことを自分では考えたことがないと思いました。それで、あせって言いました。
「は、はい。ありがとうございます。」
先生はつづけて言いました。
「夏休みに2年生のアートセミナーがあるのを知っていますね。美術学部全員で3泊4日で長野県に行きます。今回は他の学生とコラボレーションをして作品を作ります。最後(さいご)に発表もします。コラボレーションの相手は、コンピューターが決めます。ですから、どの学科のどの学生になるか、わかりません。けれども、そのわからない中から何かを作り出すことが大切です。いろいろな見方、作り方を勉強するチャンスになるでしょう。今日の発表のこともぜひ生かしてください。」
学生たちは少し心配(しんぱい)そうに先生の話を聞いていました。