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音楽のチカラ
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Coming soon!
アレッサンドロは22歳。イタリア、トスカーナ地方(場所の名前)から来た留学生である。
日本に来てから6ヶ月がたち、東京の生活にもやっと慣れてきた。
勉強は大変だけれど、休みの日はいろいろな国から来た留学生の友達と日本の文化や芸術を楽しめる場所に出かけている。
東京は浅草寺(お寺の名前)や明治神宮(神社の名前)のようなお寺や神社などの昔からある場所から、秋葉原(場所の名前)のようなアニメやゲームなどの新しいものまで本当に見るところが多くあきることがない。
アレッサンドロは子どものころから音楽が大好きで、クラシックからポップス、ロックと色々な種類の音楽を聞いている。歌やギターが趣味で、高校生の時はよく友人とパーティーを開いては演奏を楽しんでいた。でも、それほど歌うことがうまいわけじゃないので、一人で歌う自信はないのだけれど。
アレッサンドロは世界で有名な、出身地(生まれた場所)のスターでもあるアンドレア・ボチェッリが大好きである。特にサラ・ブライトマンと2人で歌った「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」は彼のこころを大きくうごかした。
あんな風にドラマチックな歌が演奏できたらどれだけすばらしいことだろうかと夢を見ている。イタリアの曲はオペラのようにオーケストラといっしょに歌う曲が多い。
もし、いいボーカルがいたらきっとそれがすばらしい楽器になるだろうと思っている。
他にはスティングやオアシスも好きでよく聞く。
アレッサンドロの父親はロックが大好きでイタリアの家の中ではいつも音楽がながれていた。
音楽は彼をゆたかにする心の栄養なのだ。
日本では、新宿(東京の場所の名前)のように駅の前で歌っている若い人をあちこちでよく見つける。
楽器はギターだけで歌っているすがたを見るとすごいなと思う。たくさんのファンが集まっている人もいる。そこから大スターになったグループもいるという。
自分にはそんな勇気はないからとてもうらやましい。
いつも友人のアントニーオに自分の夢を話しているだけの毎日だった。
「だれか、ぼくといっしょにバンドをくんでくれる人はいないかな」
「女性のボーカルがいたらもっと自分も力を発揮できるような気がする」
「でもなかなか、いい出会いもないし、さがすことはとてもむずかしい」
アレッサンドロはあせる気持ちもあるが、どうすることもできず家でギターをひき一人で歌う毎日だった。そんなあせる気持ちをたった1人分かってくれたのはアントニーオだった。アントニーオは、ピアノが得意でクラシックやジャズが好きだった。
しかし、残念ながら、勉強が忙しいので今はアレッサンドロとバンドをくむ気持ちはなかった。
そんなある日、二人は、となりの市の大学の学園祭(学校で行われる祭り)に遊びに行った。
大学の学園祭は本当に楽しい。いろいろな国の食べ物が食べられるお店や、講演や研究発表などのたくさんのイベントがある。
また、何個かのバンドの演奏が聞けるというのでとても楽しみにしていた。
14時からの演奏の前に、まず食事をしようとたくさんのお店がならぶ通りを歩いた。どの店からもおいしそうな匂いがする中で、アレッサンドロたちはインドネシア料理の店のナシゴレンを食べた。ナシゴレンはサンバルという調味料が使われた日本の焼き飯のような料理である。焼き飯の上に目玉焼きが乗っているのも特徴である。
とてもおいしかったし、自分でも作れそうだなと思った。
イタリアではパンピッツアやパスタを食べることが多い。アレッサンドロたちも米を食べる習慣が少ない。
たくさんの人たちが食事を楽しんでいる。
ふと、トスカーナの家族を思い出した。
家族は仲が良く、食事はかならずみんなでとり色々な話をしたり時には歌を歌ったりしていたのだ。アレッサンドロは少し、さびしい気持ちになった。
しばらくすると、ライブの時間になり、二人は会場に向かった。
14時からの演奏はダンスパフォーマンス中心のものや、男性と女性のグループや、ロックバンドスタイルなど色々だった。たくさんの観客が声を上げ、みんなおどりながらステージをもりあげている。
4組目のグループになり、ひとりの女の子が静かなバラードの曲を歌っていた。
その曲を聞いたアレッサンドロのとてもおどろいた。
「なんというすばらしい歌声なんだ… あの子は一体だれ?」
アレッサンドロは、いてもたってもいられなくなり、ステージが終わった後でそのバンドをたずねることにした。
ステージのうらに行ってみると、そのグループメンバーが仲間にかこまれ話していた。
しかし、そのボーカルの女の子は見つからなかった。
アレッサンドロは、その中のひとりの男性に声をかけた
「すみません。さっきのボーカルの人に会いたいのですが…」
「ああ、ユミ?ユミはおくにいるよ。きみ、だれ?」
「イタリアから来た留学生のアレッサンドロといいます。
さっきの歌がとてもすばらしかったからどうしても会って話したいです…」
「そうなの?うれしいな。ちょっと待ってて。ねえ、ちょっとユミを呼んできてくれる?」
彼が近くにいた別の女性にたのむと、おくの場所に入っていった。
しばらくして、ユミがアレッサンドロの前にあらわれた。
「何?私、つかれているんだけれど…」
「こんにちは…ぼくはアレッサンドロ、こちらは友達のアントニーオ、きみがユミ?
「そうよ」
「今日のステージ、とてもよかった。感動してなんとかそれを伝えたかったんだ」
「えー 私なんか、たいしたことないよ」
「そんなことない。本当にすばらしかった。あの歌はなんていうの?ぼくは初めて聞いたよ」
「なんていうか、うまく言えないけれど心が熱くなった」
アレッサンドロは全身で気持ちを伝えた。
アントニーオも笑いながら伝えた。
「ぼくもとても感動した。イタリアのひまわり畑を思い出したよ」
ユミはびっくりしたような顔をした。
「そんなこと言われたの初めて。あの歌は『涙そうそう』というの。沖縄(日本の場所の名前)の曲なんだ。
私が一番好きな曲」
「なだそうそう? どんな意味?」
「涙と書いて、なだと読むの。涙がぽろぽろと落ちるようすという意味。作者がはやくに亡くなったお兄さんのことを思い出して書いたの。それに沖縄のグループが曲をつけたの、とても有名な曲よ」
そうだったのか。歌詞の内容はよくわからなかったけれど、感動したのはそんな理由なら理解できる。
アレッサンドロたちはしばらくユミと音楽の話をした。
おどろいたことに、ユミは人の前で歌うのは緊張してしまい、つかれてしまうそうだ。
そういえば、ライブでユミは1曲しか歌わなかったし、いつもはステージに出ることはほとんどないという。
今のバンド仲間は、古い友人たちだから自分の状況を分かってくれる
しかし、いつかはもっと歌ってみたいという気持ちもある
なんてもったいないことだとアレッサンドロは思った。
しばらく話して、二人は連絡先を交換して別れた。
帰る時の道。
「アントニーオ、ぼくはやっとみつけたよ!」
「ユミはぼくの理想のボーカルの声だ、雰囲気を持っている」
「ぼくがギターで彼女のボーカルのバンドを作りたい」
興奮したようにアレッサンドロは話した。
「よかったな、アレッサンドロ。でも彼女はいいよと言うかな、彼女の気持ちがちょっと心配だな。あせらずゆっくりすすめた方がいいよ」
アントニーオは、あせるアレッサンドロの気持ちをおさえるように伝えた。
「そうだね…」
アレッサンドロはどうしたらいいのかわからないまま帰った。
日本に来てから6ヶ月がたち、東京の生活にもやっと慣れてきた。
勉強は大変だけれど、休みの日はいろいろな国から来た留学生の友達と日本の文化や芸術を楽しめる場所に出かけている。
東京は浅草寺(お寺の名前)や明治神宮(神社の名前)のようなお寺や神社などの昔からある場所から、秋葉原(場所の名前)のようなアニメやゲームなどの新しいものまで本当に見るところが多くあきることがない。
アレッサンドロは子どものころから音楽が大好きで、クラシックからポップス、ロックと色々な種類の音楽を聞いている。歌やギターが趣味で、高校生の時はよく友人とパーティーを開いては演奏を楽しんでいた。でも、それほど歌うことがうまいわけじゃないので、一人で歌う自信はないのだけれど。
アレッサンドロは世界で有名な、出身地(生まれた場所)のスターでもあるアンドレア・ボチェッリが大好きである。特にサラ・ブライトマンと2人で歌った「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」は彼のこころを大きくうごかした。
あんな風にドラマチックな歌が演奏できたらどれだけすばらしいことだろうかと夢を見ている。イタリアの曲はオペラのようにオーケストラといっしょに歌う曲が多い。
もし、いいボーカルがいたらきっとそれがすばらしい楽器になるだろうと思っている。
他にはスティングやオアシスも好きでよく聞く。
アレッサンドロの父親はロックが大好きでイタリアの家の中ではいつも音楽がながれていた。
音楽は彼をゆたかにする心の栄養なのだ。
日本では、新宿(東京の場所の名前)のように駅の前で歌っている若い人をあちこちでよく見つける。
楽器はギターだけで歌っているすがたを見るとすごいなと思う。たくさんのファンが集まっている人もいる。そこから大スターになったグループもいるという。
自分にはそんな勇気はないからとてもうらやましい。
いつも友人のアントニーオに自分の夢を話しているだけの毎日だった。
「だれか、ぼくといっしょにバンドをくんでくれる人はいないかな」
「女性のボーカルがいたらもっと自分も力を発揮できるような気がする」
「でもなかなか、いい出会いもないし、さがすことはとてもむずかしい」
アレッサンドロはあせる気持ちもあるが、どうすることもできず家でギターをひき一人で歌う毎日だった。そんなあせる気持ちをたった1人分かってくれたのはアントニーオだった。アントニーオは、ピアノが得意でクラシックやジャズが好きだった。
しかし、残念ながら、勉強が忙しいので今はアレッサンドロとバンドをくむ気持ちはなかった。
そんなある日、二人は、となりの市の大学の学園祭(学校で行われる祭り)に遊びに行った。
大学の学園祭は本当に楽しい。いろいろな国の食べ物が食べられるお店や、講演や研究発表などのたくさんのイベントがある。
また、何個かのバンドの演奏が聞けるというのでとても楽しみにしていた。
14時からの演奏の前に、まず食事をしようとたくさんのお店がならぶ通りを歩いた。どの店からもおいしそうな匂いがする中で、アレッサンドロたちはインドネシア料理の店のナシゴレンを食べた。ナシゴレンはサンバルという調味料が使われた日本の焼き飯のような料理である。焼き飯の上に目玉焼きが乗っているのも特徴である。
とてもおいしかったし、自分でも作れそうだなと思った。
イタリアではパンピッツアやパスタを食べることが多い。アレッサンドロたちも米を食べる習慣が少ない。
たくさんの人たちが食事を楽しんでいる。
ふと、トスカーナの家族を思い出した。
家族は仲が良く、食事はかならずみんなでとり色々な話をしたり時には歌を歌ったりしていたのだ。アレッサンドロは少し、さびしい気持ちになった。
しばらくすると、ライブの時間になり、二人は会場に向かった。
14時からの演奏はダンスパフォーマンス中心のものや、男性と女性のグループや、ロックバンドスタイルなど色々だった。たくさんの観客が声を上げ、みんなおどりながらステージをもりあげている。
4組目のグループになり、ひとりの女の子が静かなバラードの曲を歌っていた。
その曲を聞いたアレッサンドロのとてもおどろいた。
「なんというすばらしい歌声なんだ… あの子は一体だれ?」
アレッサンドロは、いてもたってもいられなくなり、ステージが終わった後でそのバンドをたずねることにした。
ステージのうらに行ってみると、そのグループメンバーが仲間にかこまれ話していた。
しかし、そのボーカルの女の子は見つからなかった。
アレッサンドロは、その中のひとりの男性に声をかけた
「すみません。さっきのボーカルの人に会いたいのですが…」
「ああ、ユミ?ユミはおくにいるよ。きみ、だれ?」
「イタリアから来た留学生のアレッサンドロといいます。
さっきの歌がとてもすばらしかったからどうしても会って話したいです…」
「そうなの?うれしいな。ちょっと待ってて。ねえ、ちょっとユミを呼んできてくれる?」
彼が近くにいた別の女性にたのむと、おくの場所に入っていった。
しばらくして、ユミがアレッサンドロの前にあらわれた。
「何?私、つかれているんだけれど…」
「こんにちは…ぼくはアレッサンドロ、こちらは友達のアントニーオ、きみがユミ?
「そうよ」
「今日のステージ、とてもよかった。感動してなんとかそれを伝えたかったんだ」
「えー 私なんか、たいしたことないよ」
「そんなことない。本当にすばらしかった。あの歌はなんていうの?ぼくは初めて聞いたよ」
「なんていうか、うまく言えないけれど心が熱くなった」
アレッサンドロは全身で気持ちを伝えた。
アントニーオも笑いながら伝えた。
「ぼくもとても感動した。イタリアのひまわり畑を思い出したよ」
ユミはびっくりしたような顔をした。
「そんなこと言われたの初めて。あの歌は『涙そうそう』というの。沖縄(日本の場所の名前)の曲なんだ。
私が一番好きな曲」
「なだそうそう? どんな意味?」
「涙と書いて、なだと読むの。涙がぽろぽろと落ちるようすという意味。作者がはやくに亡くなったお兄さんのことを思い出して書いたの。それに沖縄のグループが曲をつけたの、とても有名な曲よ」
そうだったのか。歌詞の内容はよくわからなかったけれど、感動したのはそんな理由なら理解できる。
アレッサンドロたちはしばらくユミと音楽の話をした。
おどろいたことに、ユミは人の前で歌うのは緊張してしまい、つかれてしまうそうだ。
そういえば、ライブでユミは1曲しか歌わなかったし、いつもはステージに出ることはほとんどないという。
今のバンド仲間は、古い友人たちだから自分の状況を分かってくれる
しかし、いつかはもっと歌ってみたいという気持ちもある
なんてもったいないことだとアレッサンドロは思った。
しばらく話して、二人は連絡先を交換して別れた。
帰る時の道。
「アントニーオ、ぼくはやっとみつけたよ!」
「ユミはぼくの理想のボーカルの声だ、雰囲気を持っている」
「ぼくがギターで彼女のボーカルのバンドを作りたい」
興奮したようにアレッサンドロは話した。
「よかったな、アレッサンドロ。でも彼女はいいよと言うかな、彼女の気持ちがちょっと心配だな。あせらずゆっくりすすめた方がいいよ」
アントニーオは、あせるアレッサンドロの気持ちをおさえるように伝えた。
「そうだね…」
アレッサンドロはどうしたらいいのかわからないまま帰った。
アレッサンドロは22歳。イタリア、トスカーナ地方出身の留学生である。
来日してから半年がたち、東京の生活にもようやく慣れてきた。
勉強は大変だけど、休日はいろいろな国から来た留学生の友達と日本の文化やアートを楽しめる場所に出かけている。
東京は浅草寺や明治神宮のようなお寺や神社などの伝統的な場所から、秋葉原のようなアニメやゲームなどの最先端のものまで本当に見どころが多く飽きることがない。
アレッサンドロは子どものころからから音楽が大好きで、クラシックからポップス、ロックと幅広く聞いている。歌やギターが趣味で、高校生の時はよく友人とパーティーを開いては演奏を楽しんでいた。でも、それほど歌うことがうまいわけじゃないので、一人で歌う自信はないのだけれど。
アレッサンドロは世界的に有名で出身地のスターでもあるアンドレア・ボチェッリの大ファンである。特にサラ・ブライトマンとデュエットで歌った「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」は彼のこころに深く感動をもたらした。
あんな風にドラマチックな歌が演奏出来たらどんなに素晴らしいことだろうかと夢を見ている。イタリアの曲はオペラのようにオーケストラと一緒に歌う曲が多い。
もし、いいボーカルがいたらきっとそれがすばらしい楽器になるだろうと思っている。
他にはスティングやオアシスも好きでよく聞く。
アレッサンドロの父親はロックが大好きでイタリアの家の中ではいつも音楽が流れていた。
音楽は彼を豊かにする心の栄養なのだ。
日本では、新宿のように駅前で歌っている若者をあちこちでよく見かける。
楽器はギターだけで歌っている姿を見るとすごいなと思う。人によってはたくさんのファンが集まっている。そこから大スターになったグループもいるという。
自分にはそんな勇気はないからとてもうらやましい。
いつも友人のアントニーオに自分の夢を話しているだけの毎日だった。
「だれか、僕と一緒にバンドを組んでくれる人はいないかな」
「女性のボーカルがいたらもっと自分も力が出せるような気がする」
「でもなかなか、いい出会いもないし、探すなんてむずかしい」
アレッサンドロは焦る気持ちもあるが、どうすることもできず家でギターを弾き一人で歌う毎日だった。そんな焦る気持ちを唯一分かってくれたのはアントニーオだった。アントニーオは、ピアノが得意でクラシックやジャズが好きだった。
しかし、残念ながら、勉強が忙しいので今のところアレッサンドロとバンドを組む気持ちはなかった。
そんなある日、二人は、隣の市の大学の学園祭に遊びに行った。
大学の学園祭は本当に楽しい。いろいろな国の食べ物が食べられる模擬店や、講演や研究発表などの多くのイベントがある。
また、いくつかのバンドの演奏が聴けるというのでとても楽しみにしていた。
14時からの演奏の前に、まず腹ごなしをしようとたくさんの模擬店が並ぶ通りを歩いた。どの店からもおいしそうな匂いがする中で、アレッサンドロたちはインドネシア料理の店のナシゴレンを食べた。ナシゴレンはサンバルという調味料で味付けした日本の焼き飯のような料理である。焼き飯の上に目玉焼きが乗っているのも特徴である。
とてもおいしかったし、自分でも作れそうだなと思った。
イタリアではパンピッツアやパスタを食べることが多い。アレッサンドロたちも米を食べる習慣が少ない。
たくさんの人たちが食事を楽しんでいる。
ふと、トスカーナの家族を思い出した。
家族は仲が良く、食事は必ず皆でとり様々な議論をしたり時には歌を歌ったりしていたのだ。アレッサンドロは少し、寂しい気持ちになった。
そうこうしているうちに、ライブの時間が近づき二人は会場に向かった。
14時からの演奏はダンスパフォーマンス中心のものや、男女のユニットや、ロックバンドスタイルなど様々だった。たくさんの観客が歓声を上げ、みな踊りながらステージを盛り上げている。
4組目のグループになり、ひとりの女の子が静かなバラードの曲を歌っていた。
その曲を聞いたアレッサンドロの心はカミナリに打たれたように衝撃を受けた。
「なんて素敵な歌声なんだ…. あの子は一体だれ?」
アレッサンドロは、いてもたってもいられなくなり、ステージが終わった後でそのバンドを訪ねることにした。
ステージ裏に行ってみると、そのグループメンバーが仲間に囲まれ雑談していた。
しかし、そのボーカルの女の子は見当たらなかった。
アレッサンドロは、その中のひとりの男性に声をかけた
「すみません。さっきのボーカルの人に会いたいのですが、、」
「ああ、ユミ?ユミは奥にいるよ。きみ、誰?」
「イタリアから来た留学生のアレッサンドロといいます。
さっきの歌がとても素晴らしかったからどうしても会って話したいです….」
「そうなの?うれしいなあ。ちょっと待ってて。ねえ、ちょっとユミを呼んできてくれる?」
彼が近くにいた別の女性に頼むと、奥のスペースに入っていった。
しばらくして、ユミがアレッサンドロの前に現れた。
「何?私、疲れてるんだけど、、」
「こんにちは、、僕はアレッサンドロ、こちらは友達のアントニーオ、君がユミ?
「そうよ」
「今日のステージ、とてもよかった。感動してどうしてもそれを伝えたかったんだ」
「えー 私なんか、たいしたことないよ」
「そんなことない。本当に素晴らしかった。あの歌はなんていうの?僕は初めて聞いたよ」
「なんていうか、うまく言えないけどハートが熱くなった」
アレッサンドロは全身で思いを伝えた。
アントニーオも笑顔で伝えた。
「僕もとても感動した。イタリアのひまわり畑を思い出したよ」
ユミはびっくりしたような顔をした。
「そんなこと言われたの初めて。あの歌は『涙そうそう』っていうの。沖縄の曲なんだ。
私が一番好きな曲」
「なだそうそう? どんな意味?」
「涙って書いて、なだと読むの。涙がぽろぽろと落ちる様子って意味。作者が早くに亡くなったお兄さんのことを思い出して書いたの。それに沖縄のグループが曲をつけたの、とても有名な曲よ」
そうだったのか。歌詞の内容はよくわからなかったけど、心にしみたのはそんな理由なら理解できる。
アレッサンドロたちはしばらくユミと音楽の話をした。
驚いたことに、ユミは人の前で歌うのは緊張してしまい、疲れてしまうそうだ。
そういえば、ライブでユミは1曲しか歌わなかったし、普段はステージに出ることはほとんどないという。
今のバンド仲間は、古い友人たちだから自分の状況を分かってくれる
しかし、いつかはもっと歌ってみたいという気持ちもある
なんてもったいないことだとアレッサンドロは思った。
しばらく話して、二人は連絡先を交換して別れた。
帰り道。
「アントニーオ、僕はやっとみつけたよ!」
「ユミは僕の理想のボーカルの声だ、雰囲気を持っている」
「ぼくがギターで彼女のボーカルのバンドを作りたい」
興奮したようにアレッサンドロは話した。
「よかったな、アレッサンドロ。でも彼女はオーケーするかな、メンタルがちょっと心配だな。焦らずゆっくりすすめた方がいいよ」
アントニーオは、はやるアレッサンドロの気持ちをおさえるように伝えた。
「そうだね….」
アレッサンドロはどうしたらいいのかわからないまま帰途についた。
来日してから半年がたち、東京の生活にもようやく慣れてきた。
勉強は大変だけど、休日はいろいろな国から来た留学生の友達と日本の文化やアートを楽しめる場所に出かけている。
東京は浅草寺や明治神宮のようなお寺や神社などの伝統的な場所から、秋葉原のようなアニメやゲームなどの最先端のものまで本当に見どころが多く飽きることがない。
アレッサンドロは子どものころからから音楽が大好きで、クラシックからポップス、ロックと幅広く聞いている。歌やギターが趣味で、高校生の時はよく友人とパーティーを開いては演奏を楽しんでいた。でも、それほど歌うことがうまいわけじゃないので、一人で歌う自信はないのだけれど。
アレッサンドロは世界的に有名で出身地のスターでもあるアンドレア・ボチェッリの大ファンである。特にサラ・ブライトマンとデュエットで歌った「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」は彼のこころに深く感動をもたらした。
あんな風にドラマチックな歌が演奏出来たらどんなに素晴らしいことだろうかと夢を見ている。イタリアの曲はオペラのようにオーケストラと一緒に歌う曲が多い。
もし、いいボーカルがいたらきっとそれがすばらしい楽器になるだろうと思っている。
他にはスティングやオアシスも好きでよく聞く。
アレッサンドロの父親はロックが大好きでイタリアの家の中ではいつも音楽が流れていた。
音楽は彼を豊かにする心の栄養なのだ。
日本では、新宿のように駅前で歌っている若者をあちこちでよく見かける。
楽器はギターだけで歌っている姿を見るとすごいなと思う。人によってはたくさんのファンが集まっている。そこから大スターになったグループもいるという。
自分にはそんな勇気はないからとてもうらやましい。
いつも友人のアントニーオに自分の夢を話しているだけの毎日だった。
「だれか、僕と一緒にバンドを組んでくれる人はいないかな」
「女性のボーカルがいたらもっと自分も力が出せるような気がする」
「でもなかなか、いい出会いもないし、探すなんてむずかしい」
アレッサンドロは焦る気持ちもあるが、どうすることもできず家でギターを弾き一人で歌う毎日だった。そんな焦る気持ちを唯一分かってくれたのはアントニーオだった。アントニーオは、ピアノが得意でクラシックやジャズが好きだった。
しかし、残念ながら、勉強が忙しいので今のところアレッサンドロとバンドを組む気持ちはなかった。
そんなある日、二人は、隣の市の大学の学園祭に遊びに行った。
大学の学園祭は本当に楽しい。いろいろな国の食べ物が食べられる模擬店や、講演や研究発表などの多くのイベントがある。
また、いくつかのバンドの演奏が聴けるというのでとても楽しみにしていた。
14時からの演奏の前に、まず腹ごなしをしようとたくさんの模擬店が並ぶ通りを歩いた。どの店からもおいしそうな匂いがする中で、アレッサンドロたちはインドネシア料理の店のナシゴレンを食べた。ナシゴレンはサンバルという調味料で味付けした日本の焼き飯のような料理である。焼き飯の上に目玉焼きが乗っているのも特徴である。
とてもおいしかったし、自分でも作れそうだなと思った。
イタリアではパンピッツアやパスタを食べることが多い。アレッサンドロたちも米を食べる習慣が少ない。
たくさんの人たちが食事を楽しんでいる。
ふと、トスカーナの家族を思い出した。
家族は仲が良く、食事は必ず皆でとり様々な議論をしたり時には歌を歌ったりしていたのだ。アレッサンドロは少し、寂しい気持ちになった。
そうこうしているうちに、ライブの時間が近づき二人は会場に向かった。
14時からの演奏はダンスパフォーマンス中心のものや、男女のユニットや、ロックバンドスタイルなど様々だった。たくさんの観客が歓声を上げ、みな踊りながらステージを盛り上げている。
4組目のグループになり、ひとりの女の子が静かなバラードの曲を歌っていた。
その曲を聞いたアレッサンドロの心はカミナリに打たれたように衝撃を受けた。
「なんて素敵な歌声なんだ…. あの子は一体だれ?」
アレッサンドロは、いてもたってもいられなくなり、ステージが終わった後でそのバンドを訪ねることにした。
ステージ裏に行ってみると、そのグループメンバーが仲間に囲まれ雑談していた。
しかし、そのボーカルの女の子は見当たらなかった。
アレッサンドロは、その中のひとりの男性に声をかけた
「すみません。さっきのボーカルの人に会いたいのですが、、」
「ああ、ユミ?ユミは奥にいるよ。きみ、誰?」
「イタリアから来た留学生のアレッサンドロといいます。
さっきの歌がとても素晴らしかったからどうしても会って話したいです….」
「そうなの?うれしいなあ。ちょっと待ってて。ねえ、ちょっとユミを呼んできてくれる?」
彼が近くにいた別の女性に頼むと、奥のスペースに入っていった。
しばらくして、ユミがアレッサンドロの前に現れた。
「何?私、疲れてるんだけど、、」
「こんにちは、、僕はアレッサンドロ、こちらは友達のアントニーオ、君がユミ?
「そうよ」
「今日のステージ、とてもよかった。感動してどうしてもそれを伝えたかったんだ」
「えー 私なんか、たいしたことないよ」
「そんなことない。本当に素晴らしかった。あの歌はなんていうの?僕は初めて聞いたよ」
「なんていうか、うまく言えないけどハートが熱くなった」
アレッサンドロは全身で思いを伝えた。
アントニーオも笑顔で伝えた。
「僕もとても感動した。イタリアのひまわり畑を思い出したよ」
ユミはびっくりしたような顔をした。
「そんなこと言われたの初めて。あの歌は『涙そうそう』っていうの。沖縄の曲なんだ。
私が一番好きな曲」
「なだそうそう? どんな意味?」
「涙って書いて、なだと読むの。涙がぽろぽろと落ちる様子って意味。作者が早くに亡くなったお兄さんのことを思い出して書いたの。それに沖縄のグループが曲をつけたの、とても有名な曲よ」
そうだったのか。歌詞の内容はよくわからなかったけど、心にしみたのはそんな理由なら理解できる。
アレッサンドロたちはしばらくユミと音楽の話をした。
驚いたことに、ユミは人の前で歌うのは緊張してしまい、疲れてしまうそうだ。
そういえば、ライブでユミは1曲しか歌わなかったし、普段はステージに出ることはほとんどないという。
今のバンド仲間は、古い友人たちだから自分の状況を分かってくれる
しかし、いつかはもっと歌ってみたいという気持ちもある
なんてもったいないことだとアレッサンドロは思った。
しばらく話して、二人は連絡先を交換して別れた。
帰り道。
「アントニーオ、僕はやっとみつけたよ!」
「ユミは僕の理想のボーカルの声だ、雰囲気を持っている」
「ぼくがギターで彼女のボーカルのバンドを作りたい」
興奮したようにアレッサンドロは話した。
「よかったな、アレッサンドロ。でも彼女はオーケーするかな、メンタルがちょっと心配だな。焦らずゆっくりすすめた方がいいよ」
アントニーオは、はやるアレッサンドロの気持ちをおさえるように伝えた。
「そうだね….」
アレッサンドロはどうしたらいいのかわからないまま帰途についた。