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笑い飛ばせ!
ルカ、茶道からまなぶ
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ルカは中田さんから、つぎの土曜日に青山先生の茶道のたいけん教室があると聞きました。ルカはすぐにもうしこみました。
土曜日、ルカは授業(じゅぎょう)をする建物(たてもの)の2階にある、お茶室にむかいました。入ると、8畳(はちじょう= やく13㎡)の和室(わしつ)で、もう5人の学生がすわっています。みんな正座(せいざ)をしています。ルカも3人目と4人目の間のあいているところに正座をしました。ルカは長い時間、正座ができるかどうか、少し心配でしたが、
(でも、心の勉強だから、がんばらないと。)
と、自分に言いました。
先生が入ってきました。うすい茶色のきものをきています。先生は正座をして学生たちの方をむいて、たたみに両手をついておじぎをしてから話し始めました。
「みなさん、今日は来てくださって、ありがとうございます。青山ともうします。ときどきこちらの山川体育大学で茶道のたいけん教室をしています。じゅうどう、けんどう、などの日本の武道(ぶどう)をする学生さんがよくいらっしゃいます。今日は留学生のかたもいらっしゃいますね。どうぞリラックスをして茶道をたいけんしてください。こちらに弟子(でし)、私の生徒(せいと)ですが、西田さんがすわります。西田さんと同じようにやってみてください。西田さんは茶道のきまりと同じようにやってくれます。」
「はじめまして。西田です。よろしくおねがいします。しつもんがあったら、何でも聞いてください。」
ルカは、西田さんのまねをすればいいんだ、と思って、少し安心しました。
それから、先生が西田さんの前にお菓子(かし)をはこんできました。もみじのかたちの赤いお菓子です。先生は西田さんの前に正座をして、お菓子を西田さんのほうにむけておきました。そして、たたみに両手をついておじぎをしました。西田さんも同じようにおじぎをしました。西田さんはせつめいしました。
「お茶の席(せき)では、お茶がメインですから、はじめにお菓子を食べます。また、お茶をきゅうに飲むと、胃(い)によくないことがあります。ですから、はじめにお菓子を食べておきます。お菓子はあまいですが、お茶は少しにがいです。口の中でちょうどいいハーモニーになるんですよ。」
「これはもみじのお菓子ですが、何か意味があるんですか。」
と、学生が聞くと、
「はい。お菓子はその時のきせつをあらわしています。今は秋ですがから、今日は赤くなったもみじのお菓子になっています。」
と、西田さんはこたえました。みんなしずかに聞いています。ルカもしずかに聞いていましたが、じつは心の中では
(きれいでおいしそうなお菓子、早く食べたいなあ。)
と思っていました。
そのあと、先生が一人ひとりにお菓子を持ってきました。ルカの前にもお菓子が来て、先生がおじぎをした時、ルカもおじぎをしました。そして、お菓子を食べました。あまくておいしいお菓子でした。ルカはしあわせな気持ちになりました。
(何だか気持ちがおちつく感じ。ふしぎだなあ。しあわせな感じ・・・。)
それから、先生が釜(かま)の前にすわって、お茶をたてはじめました。抹茶(まっちゃ)のこなを茶わんに入れて、釜のお湯(ゆ)を入れて、まぜるのです。そして、西田さんの前にお茶を持ってきました。お菓子の時と同じように、先生も西田さんもおじぎをしています。西田さんはもう一度おじぎをして、
「お先にいただきます。」
と言いました。ルカはそれを見ながら、
(こういうおじぎやあいさつがきまりなんだね。)
と思って、しあわせな気持ちを味(あじ)わっていたのですが、きゅうにその気持ちがどこかに飛(と)んで行ったのです。
(いたたたたた。足がいたい。しびれて何も感じない。どうしよう。がまんできないよ・・・。)
お茶室の中は、あいかわらず、しずかでおちついた感じです。先生が茶わんにお湯を入れる音やお茶をたてる音しか聞こえません。
(だめだめ! 声を出しちゃだめ! もう少しのがまん・・・。)
ルカは自分に言いました。でも、足をもぞもぞ動かしています。そうしないと、足がおかしくなりそうでした。
そんなことはぜんぜん知らない先生が、ルカの前にお茶を持ってきました。先生がおじぎをしたので、ルカも、足をもぞもぞさせながら、おじぎをし・・・ようとした時、とうとうバランスをくずして体が前にたおれてしまいました。そして、顔が茶わんの上にのったのです。
「えっ、どうなってるの? たすけて~!!」
ルカは小さい声で言いました。顔を上げると、高い鼻(はな)の先が緑(みどり)色になっています。鼻がお茶の中に入ってしまったのです。学生たちはみんな、下をむいてわらうのをがまんしていましたが、とうとう一人がふき出しました。すると、ほかの学生たちもゲラゲラとわらい出しました。しずかだったお茶室は、わらい声でいっぱいになりました。
先生はびっくりして、
「だいじょうぶですか。あつくなかったですか。」
と言って、紙でルカの鼻をふきました。ルカは
「だいじょうぶです。でも、立てない・・・。足がぜんぜん動かない・・・。」
と言いましたが、はずかしさと足のいたさで顔が真っ赤(まっか)です。それを見て、わらっていた学生たちも心配になりました。1人の学生が
「だいじょうぶですか。先生、ちょっと足をもんでもいいですか。」
と言うと、先生は
「ありがとうございます。おねがいします。」
と言いました。すると、学生たちがあつまってきて
「ちょっと足をのばしてください。」
と言ったので、ルカは、足を前にのばしました。学生たちはみんなでルカの両足をもみました。
しばらくすると、ルカは足首(あしくび)が動くようになりました。
「みなさん、ありがとうございます。もうだいじょうぶです。せっかくのたいけん教室がへんなことになって、ほんとうにすみませんでした。先生、お茶のいろいろなきまりがあったと思いますが、そのとおりにできなくなって、ほんとうにすみませんでした。」
すると、先生が言いました。
「いいえ。茶道のきまりはまもるためにあるのではありません。どうしてそのきまりがあるのかを知って、それを心にきざんで生かすためにあるのです。たとえば、ほかの人より先にお茶を飲む時に『お先にいただきます』と言うのは、ほかの人を思う気持ちから来ているのですよね。そういうことを知ってその人の生きかたに生かすということです。ですから、今日のお茶会はとてもいい会になったと思います。みなさん、ルカさんの気持ちがわかってルカさんをたすけたのですから。それに、ルカさんもみなさんや私たちのことを気にしてくださっているのですから。」
先生の話を聞いて、ルカも学生たちもみんな、心から茶道の心がわかったと思いました。そしてルカは思いました。
(ああ、心の勉強って、こういうことだったんだ。)
その後、ルカはじゅうどう部とすもう部に元気に帰ってきました。あいかわらず、どちらの部でも、じゅうどうのわざもすもうのわざもれんしゅうしています。でも、かった時に大きい声でよろこぶことは、もうありません。あいてを思う心がよくわかったのですから。
土曜日、ルカは授業(じゅぎょう)をする建物(たてもの)の2階にある、お茶室にむかいました。入ると、8畳(はちじょう= やく13㎡)の和室(わしつ)で、もう5人の学生がすわっています。みんな正座(せいざ)をしています。ルカも3人目と4人目の間のあいているところに正座をしました。ルカは長い時間、正座ができるかどうか、少し心配でしたが、
(でも、心の勉強だから、がんばらないと。)
と、自分に言いました。
先生が入ってきました。うすい茶色のきものをきています。先生は正座をして学生たちの方をむいて、たたみに両手をついておじぎをしてから話し始めました。
「みなさん、今日は来てくださって、ありがとうございます。青山ともうします。ときどきこちらの山川体育大学で茶道のたいけん教室をしています。じゅうどう、けんどう、などの日本の武道(ぶどう)をする学生さんがよくいらっしゃいます。今日は留学生のかたもいらっしゃいますね。どうぞリラックスをして茶道をたいけんしてください。こちらに弟子(でし)、私の生徒(せいと)ですが、西田さんがすわります。西田さんと同じようにやってみてください。西田さんは茶道のきまりと同じようにやってくれます。」
「はじめまして。西田です。よろしくおねがいします。しつもんがあったら、何でも聞いてください。」
ルカは、西田さんのまねをすればいいんだ、と思って、少し安心しました。
それから、先生が西田さんの前にお菓子(かし)をはこんできました。もみじのかたちの赤いお菓子です。先生は西田さんの前に正座をして、お菓子を西田さんのほうにむけておきました。そして、たたみに両手をついておじぎをしました。西田さんも同じようにおじぎをしました。西田さんはせつめいしました。
「お茶の席(せき)では、お茶がメインですから、はじめにお菓子を食べます。また、お茶をきゅうに飲むと、胃(い)によくないことがあります。ですから、はじめにお菓子を食べておきます。お菓子はあまいですが、お茶は少しにがいです。口の中でちょうどいいハーモニーになるんですよ。」
「これはもみじのお菓子ですが、何か意味があるんですか。」
と、学生が聞くと、
「はい。お菓子はその時のきせつをあらわしています。今は秋ですがから、今日は赤くなったもみじのお菓子になっています。」
と、西田さんはこたえました。みんなしずかに聞いています。ルカもしずかに聞いていましたが、じつは心の中では
(きれいでおいしそうなお菓子、早く食べたいなあ。)
と思っていました。
そのあと、先生が一人ひとりにお菓子を持ってきました。ルカの前にもお菓子が来て、先生がおじぎをした時、ルカもおじぎをしました。そして、お菓子を食べました。あまくておいしいお菓子でした。ルカはしあわせな気持ちになりました。
(何だか気持ちがおちつく感じ。ふしぎだなあ。しあわせな感じ・・・。)
それから、先生が釜(かま)の前にすわって、お茶をたてはじめました。抹茶(まっちゃ)のこなを茶わんに入れて、釜のお湯(ゆ)を入れて、まぜるのです。そして、西田さんの前にお茶を持ってきました。お菓子の時と同じように、先生も西田さんもおじぎをしています。西田さんはもう一度おじぎをして、
「お先にいただきます。」
と言いました。ルカはそれを見ながら、
(こういうおじぎやあいさつがきまりなんだね。)
と思って、しあわせな気持ちを味(あじ)わっていたのですが、きゅうにその気持ちがどこかに飛(と)んで行ったのです。
(いたたたたた。足がいたい。しびれて何も感じない。どうしよう。がまんできないよ・・・。)
お茶室の中は、あいかわらず、しずかでおちついた感じです。先生が茶わんにお湯を入れる音やお茶をたてる音しか聞こえません。
(だめだめ! 声を出しちゃだめ! もう少しのがまん・・・。)
ルカは自分に言いました。でも、足をもぞもぞ動かしています。そうしないと、足がおかしくなりそうでした。
そんなことはぜんぜん知らない先生が、ルカの前にお茶を持ってきました。先生がおじぎをしたので、ルカも、足をもぞもぞさせながら、おじぎをし・・・ようとした時、とうとうバランスをくずして体が前にたおれてしまいました。そして、顔が茶わんの上にのったのです。
「えっ、どうなってるの? たすけて~!!」
ルカは小さい声で言いました。顔を上げると、高い鼻(はな)の先が緑(みどり)色になっています。鼻がお茶の中に入ってしまったのです。学生たちはみんな、下をむいてわらうのをがまんしていましたが、とうとう一人がふき出しました。すると、ほかの学生たちもゲラゲラとわらい出しました。しずかだったお茶室は、わらい声でいっぱいになりました。
先生はびっくりして、
「だいじょうぶですか。あつくなかったですか。」
と言って、紙でルカの鼻をふきました。ルカは
「だいじょうぶです。でも、立てない・・・。足がぜんぜん動かない・・・。」
と言いましたが、はずかしさと足のいたさで顔が真っ赤(まっか)です。それを見て、わらっていた学生たちも心配になりました。1人の学生が
「だいじょうぶですか。先生、ちょっと足をもんでもいいですか。」
と言うと、先生は
「ありがとうございます。おねがいします。」
と言いました。すると、学生たちがあつまってきて
「ちょっと足をのばしてください。」
と言ったので、ルカは、足を前にのばしました。学生たちはみんなでルカの両足をもみました。
しばらくすると、ルカは足首(あしくび)が動くようになりました。
「みなさん、ありがとうございます。もうだいじょうぶです。せっかくのたいけん教室がへんなことになって、ほんとうにすみませんでした。先生、お茶のいろいろなきまりがあったと思いますが、そのとおりにできなくなって、ほんとうにすみませんでした。」
すると、先生が言いました。
「いいえ。茶道のきまりはまもるためにあるのではありません。どうしてそのきまりがあるのかを知って、それを心にきざんで生かすためにあるのです。たとえば、ほかの人より先にお茶を飲む時に『お先にいただきます』と言うのは、ほかの人を思う気持ちから来ているのですよね。そういうことを知ってその人の生きかたに生かすということです。ですから、今日のお茶会はとてもいい会になったと思います。みなさん、ルカさんの気持ちがわかってルカさんをたすけたのですから。それに、ルカさんもみなさんや私たちのことを気にしてくださっているのですから。」
先生の話を聞いて、ルカも学生たちもみんな、心から茶道の心がわかったと思いました。そしてルカは思いました。
(ああ、心の勉強って、こういうことだったんだ。)
その後、ルカはじゅうどう部とすもう部に元気に帰ってきました。あいかわらず、どちらの部でも、じゅうどうのわざもすもうのわざもれんしゅうしています。でも、かった時に大きい声でよろこぶことは、もうありません。あいてを思う心がよくわかったのですから。
ルカは中田さんから、つぎの土曜日に青山先生の茶道のたいけん教室があると聞きました。ルカはすぐにもうしこみました。
土曜日、ルカは授業(じゅぎょう)をする建物(たてもの)の2階にある、お茶室に向かいました。入ると、8畳の和室で、もう5人の学生がすわっています。みんな正座(せいざ)をしています。ルカも3人目と4人目の間のあいているところに正座をしました。ルカは長い時間、正座ができるかどうか、少し心配でしたが、
(でも、心の勉強だから、がんばらないと。)
と、自分に言いました。
先生が入ってきました。うすい茶色のきものをきています。先生は正座をして学生たちの方を向いて、たたみに両手をついておじぎをしてから話し始めました。
「みなさん、今日は来てくださって、ありがとうございます。青山ともうします。ときどきこちらの山川体育大学で茶道のたいけん教室をしています。じゅうどう、けんどう、などの日本の武道(ぶどう)をする学生さんがよくいらっしゃいます。今日は留学生のかたもいらっしゃいますね。どうぞリラックスをして茶道をたいけんしてください。こちらに弟子(でし)、私の生徒(せいと)ですが、西田さんがすわります。西田さんと同じようにやってみてください。西田さんは茶道のきまりと同じようにやってくれます。」
「はじめまして。西田です。よろしくおねがいします。しつもんがあったら、何でも聞いてください。」
ルカは、西田さんのまねをすればいいんだ、と思って、少し安心しました。
それから、先生が西田さんの前にお菓子をはこんできました。もみじの形の赤いお菓子です。先生は西田さんの前に正座をして、お菓子を西田さんのほうにむけておきました。そして、たたみに両手をついておじぎをしました。西田さんも同じようにおじぎをしました。西田さんはせつめいしました。
「お茶の席では、お茶がメインですから、はじめにお菓子を食べます。また、お茶をきゅうに飲むと、胃(い)によくないことがあります。ですから、はじめにお菓子を食べておきます。お菓子はあまいですが、お茶は少しにがいです。口の中でちょうどいいハーモニーになるんですよ。」
「これはもみじのお菓子ですが、何か意味があるんですか。」
と、学生が聞くと、
「はい。お菓子はその時のきせつをあらわしています。今は秋ですがから、今日は赤くなったもみじのお菓子になっています。」
と、西田さんはこたえました。みんなしずかに聞いています。ルカもしずかに聞いていましたが、じつは心の中では
(きれいでおいしそうなお菓子、早く食べたいなあ。)
と思っていました。
そのあと、先生が一人ひとりにお菓子を持ってきました。ルカの前にもお菓子が来て、先生がおじぎをした時、ルカもおじぎをしました。そして、お菓子を食べました。あまくておいしいお菓子でした。ルカはしあわせな気持ちになりました。
(何だか気持ちがおちつく感じ。ふしぎだなあ。しあわせな感じ・・・。)
それから、先生が釜(かま)の前にすわって、お茶をたてはじめました。抹茶(まっちゃ)のこなを茶わんに入れて、釜のお湯(ゆ)を入れて、まぜるのです。そして、西田さんの前にお茶を持ってきました。お菓子の時と同じように、先生も西田さんもおじぎをしています。西田さんはもう一度おじぎをして、
「お先にいただきます。」
と言いました。ルカはそれを見ながら、
(こういうおじぎやあいさつがきまりなんだね。)
と思って、しあわせな気持ちを味(あじ)わっていたのですが、きゅうにその気持ちがどこかに飛(と)んで行ったのです。
(いたたたたた。足がいたい。しびれて何も感じない。どうしよう。がまんできないよ・・・。)
お茶室の中は、あいかわらず、しずかでおちついた感じです。先生が茶わんにお湯を入れる音やお茶をたてる音しか聞こえません。
(だめだめ! 声を出しちゃだめ! もう少しのがまん・・・。)
ルカは自分に言いました。でも、足をもぞもぞ動かしています。そうしないと、足がおかしくなりそうでした。
そんなことはぜんぜん知らない先生が、ルカの前にお茶を持ってきました。先生がおじぎをしたので、ルカも、足をもぞもぞさせながら、おじぎをし・・・ようとした時、とうとうバランスをくずして体が前にたおれてしまいました。そして、顔が茶わんの上に乗ったので
す。
「えっ、どうなってるの? たすけて~!!」
ルカは小さい声で言いました。顔を上げると、高い鼻(はな)の先が緑(みどり)色になっています。鼻がお茶の中に入ってしまったのです。学生たちはみんな、下をむいてわらうのをがまんしていましたが、とうとう一人がふき出しました。すると、他の学生たちもゲラゲラとわらい出しました。しずかだったお茶室は、わらい声でいっぱいになりました。
先生はびっくりして、
「だいじょうぶですか。あつくなかったですか。」
と言って、紙でルカの鼻をふきました。ルカは
「だいじょうぶです。でも、立てない・・・。足がぜんぜん動かない・・・。」
と言いましたが、はずかしさと足のいたさで顔が真っ赤(まっか)です。それを見て、わらっていた学生たちも心配になりました。1人の学生が
「だいじょうぶですか。先生、ちょっと足をもんでもいいですか。」
と言うと、先生は
「ありがとうございます。おねがいします。」
と言いました。すると、学生たちが集まってきて
「ちょっと足をのばしてください。」
と言ったので、ルカは、足を前にのばしました。学生たちはみんなでルカの両足をもみました。
しばらくすると、ルカは足首が動くようになりました。
「みなさん、ありがとうございます。もうだいじょうぶです。せっかくのたいけん教室がへんなことになって、ほんとうにすみませんでした。先生、お茶のいろいろなきまりがあったと思いますが、そのとおりにできなくなって、ほんとうにすみませんでした。」
すると、先生が言いました。
「いいえ。茶道のきまりはまもるためにあるのではありません。どうしてそのきまりがあるのかを知って、それを心にきざんで生かすためにあるのです。たとえば、ほかの人より先にお茶を飲む時に『お先にいただきます』と言うのは、ほかの人を思う気持ちから来ているのですよね。そういうことを知ってその人の生きかたに生かすということです。ですから、今日のお茶会はとてもいい会になったと思います。みなさん、ルカさんの気持ちがわかってルカさんを助けたのですから。それに、ルカさんもみなさんや私たちのことを気にしてくださっているのですから。」
先生の話を聞いて、ルカも学生たちもみんな、心から茶道の心がわかったと思いました。そしてルカは思いました。
(ああ、心の勉強って、こういうことだったんだ。)
その後、ルカはじゅうどう部とすもう部に元気に帰ってきました。あいかわらず、どちらの部でも、じゅうどうのわざもすもうのわざもれんしゅうしています。でも、かった時に大きい声でよろこぶことは、もうありません。あいてを思う心がよくわかったのですから。
土曜日、ルカは授業(じゅぎょう)をする建物(たてもの)の2階にある、お茶室に向かいました。入ると、8畳の和室で、もう5人の学生がすわっています。みんな正座(せいざ)をしています。ルカも3人目と4人目の間のあいているところに正座をしました。ルカは長い時間、正座ができるかどうか、少し心配でしたが、
(でも、心の勉強だから、がんばらないと。)
と、自分に言いました。
先生が入ってきました。うすい茶色のきものをきています。先生は正座をして学生たちの方を向いて、たたみに両手をついておじぎをしてから話し始めました。
「みなさん、今日は来てくださって、ありがとうございます。青山ともうします。ときどきこちらの山川体育大学で茶道のたいけん教室をしています。じゅうどう、けんどう、などの日本の武道(ぶどう)をする学生さんがよくいらっしゃいます。今日は留学生のかたもいらっしゃいますね。どうぞリラックスをして茶道をたいけんしてください。こちらに弟子(でし)、私の生徒(せいと)ですが、西田さんがすわります。西田さんと同じようにやってみてください。西田さんは茶道のきまりと同じようにやってくれます。」
「はじめまして。西田です。よろしくおねがいします。しつもんがあったら、何でも聞いてください。」
ルカは、西田さんのまねをすればいいんだ、と思って、少し安心しました。
それから、先生が西田さんの前にお菓子をはこんできました。もみじの形の赤いお菓子です。先生は西田さんの前に正座をして、お菓子を西田さんのほうにむけておきました。そして、たたみに両手をついておじぎをしました。西田さんも同じようにおじぎをしました。西田さんはせつめいしました。
「お茶の席では、お茶がメインですから、はじめにお菓子を食べます。また、お茶をきゅうに飲むと、胃(い)によくないことがあります。ですから、はじめにお菓子を食べておきます。お菓子はあまいですが、お茶は少しにがいです。口の中でちょうどいいハーモニーになるんですよ。」
「これはもみじのお菓子ですが、何か意味があるんですか。」
と、学生が聞くと、
「はい。お菓子はその時のきせつをあらわしています。今は秋ですがから、今日は赤くなったもみじのお菓子になっています。」
と、西田さんはこたえました。みんなしずかに聞いています。ルカもしずかに聞いていましたが、じつは心の中では
(きれいでおいしそうなお菓子、早く食べたいなあ。)
と思っていました。
そのあと、先生が一人ひとりにお菓子を持ってきました。ルカの前にもお菓子が来て、先生がおじぎをした時、ルカもおじぎをしました。そして、お菓子を食べました。あまくておいしいお菓子でした。ルカはしあわせな気持ちになりました。
(何だか気持ちがおちつく感じ。ふしぎだなあ。しあわせな感じ・・・。)
それから、先生が釜(かま)の前にすわって、お茶をたてはじめました。抹茶(まっちゃ)のこなを茶わんに入れて、釜のお湯(ゆ)を入れて、まぜるのです。そして、西田さんの前にお茶を持ってきました。お菓子の時と同じように、先生も西田さんもおじぎをしています。西田さんはもう一度おじぎをして、
「お先にいただきます。」
と言いました。ルカはそれを見ながら、
(こういうおじぎやあいさつがきまりなんだね。)
と思って、しあわせな気持ちを味(あじ)わっていたのですが、きゅうにその気持ちがどこかに飛(と)んで行ったのです。
(いたたたたた。足がいたい。しびれて何も感じない。どうしよう。がまんできないよ・・・。)
お茶室の中は、あいかわらず、しずかでおちついた感じです。先生が茶わんにお湯を入れる音やお茶をたてる音しか聞こえません。
(だめだめ! 声を出しちゃだめ! もう少しのがまん・・・。)
ルカは自分に言いました。でも、足をもぞもぞ動かしています。そうしないと、足がおかしくなりそうでした。
そんなことはぜんぜん知らない先生が、ルカの前にお茶を持ってきました。先生がおじぎをしたので、ルカも、足をもぞもぞさせながら、おじぎをし・・・ようとした時、とうとうバランスをくずして体が前にたおれてしまいました。そして、顔が茶わんの上に乗ったので
す。
「えっ、どうなってるの? たすけて~!!」
ルカは小さい声で言いました。顔を上げると、高い鼻(はな)の先が緑(みどり)色になっています。鼻がお茶の中に入ってしまったのです。学生たちはみんな、下をむいてわらうのをがまんしていましたが、とうとう一人がふき出しました。すると、他の学生たちもゲラゲラとわらい出しました。しずかだったお茶室は、わらい声でいっぱいになりました。
先生はびっくりして、
「だいじょうぶですか。あつくなかったですか。」
と言って、紙でルカの鼻をふきました。ルカは
「だいじょうぶです。でも、立てない・・・。足がぜんぜん動かない・・・。」
と言いましたが、はずかしさと足のいたさで顔が真っ赤(まっか)です。それを見て、わらっていた学生たちも心配になりました。1人の学生が
「だいじょうぶですか。先生、ちょっと足をもんでもいいですか。」
と言うと、先生は
「ありがとうございます。おねがいします。」
と言いました。すると、学生たちが集まってきて
「ちょっと足をのばしてください。」
と言ったので、ルカは、足を前にのばしました。学生たちはみんなでルカの両足をもみました。
しばらくすると、ルカは足首が動くようになりました。
「みなさん、ありがとうございます。もうだいじょうぶです。せっかくのたいけん教室がへんなことになって、ほんとうにすみませんでした。先生、お茶のいろいろなきまりがあったと思いますが、そのとおりにできなくなって、ほんとうにすみませんでした。」
すると、先生が言いました。
「いいえ。茶道のきまりはまもるためにあるのではありません。どうしてそのきまりがあるのかを知って、それを心にきざんで生かすためにあるのです。たとえば、ほかの人より先にお茶を飲む時に『お先にいただきます』と言うのは、ほかの人を思う気持ちから来ているのですよね。そういうことを知ってその人の生きかたに生かすということです。ですから、今日のお茶会はとてもいい会になったと思います。みなさん、ルカさんの気持ちがわかってルカさんを助けたのですから。それに、ルカさんもみなさんや私たちのことを気にしてくださっているのですから。」
先生の話を聞いて、ルカも学生たちもみんな、心から茶道の心がわかったと思いました。そしてルカは思いました。
(ああ、心の勉強って、こういうことだったんだ。)
その後、ルカはじゅうどう部とすもう部に元気に帰ってきました。あいかわらず、どちらの部でも、じゅうどうのわざもすもうのわざもれんしゅうしています。でも、かった時に大きい声でよろこぶことは、もうありません。あいてを思う心がよくわかったのですから。