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アニメ研究会に入る
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Coming soon!
入学式が終わって2人が建物から出ると、たくさんのサークルのかんばんが立っていました。新しい学生たちに入ってもらうために、サークルの学生がかんばんの前で話をしています。
「わあ、すごい。いろいろなサークルがあるんだ」
「シュテファンさんは入りたいサークルはあるの?」
「うん、アニメがすきだから、アニメのサークルにきょうみがあるんだ。カールさんは?」
カールは少し考えてから言いました。
「たぶん勉強でいそがしくなるから、まだかんがえていないんだ。もし時間があったら、かんがえようと思っている」
「そうか。勉強がいちばん大切だ。ぼくもどうしようかな……」
そのとき、目の前に「アニメ研究会」というかんばんが見えました。字のまわりには『天気の子』の絵がかかれています。
「アニメ研究会だ!」
かんばんを見て、シュテファンの声は大きくなってしまいました。
「ちょっと話を聞きに行こうかな」
「わかった。じゃ、またね」
カールは帰っていきました。
シュテファンはアニメ研究会のかんばんの前にいって、『天気の子』の絵を見ていました。すると、日本人の男の学生が近くに来ました。
「こんにちは。留学生の方ですか。アニメにきょうみがありますか。」
「はい、ドイツから来た留学生です。日本のアニメにきょうみがあります。『天気の子』も大すきです」
「じゃ、ぜひ話を聞いてください。この研究会はアニメが好きな人なら、だれでも入れます!」
「そうですか」
「このサークルは、だいたい1週間に2回あつまります。同じことにきょうみがある人であつまるので、その人たちで会える日をきめます」
「同じこと……ですか?」
「ええ。たとえば、アニメの作者についてとか、1990年くらいのアニメについてとか、アニメを作るとか、きょうみのあることについて研究や話をしているんです」
「そうですか。アニメを見て楽しむだけだと思いました」
「いえ、それならそれでもいいんです。アニメを楽しむためにあつまっている人もいますから」
「そうですか。けっこう自由ですね。どこであつまるのですか?」
「大学の2号館の地下にサークルのための部屋があります。その部屋にあつまっています」
「そうですか。ぼくは留学生で、日本にはじめて来ました。勉強や生活になれるまでしんぱいなんですが……」
「それは、だいじょうぶだと思います。この研究会でかならずやることは、年に2回だけです。一つはアニメを見る会です。春にあります。もう一つは文化祭です。秋にあります。あと、さっき言ったあつまりは、なれるまで入らなくてもだいじょうぶです」
「そうですか。じゃあ、ちょっとかんがえます」
シュテファンが言うと、その男の学生は、
「田中ともうします。ぜひよろしくおねがいします。これ持っていってください」
と言って、サークルについて書いてある紙をくれました。うらには田中さんのメールアドレスが書いてありました。
シュテファンは思いました。
(楽しそう。自由そうだし。ともだちもできそうだし。でも、この大学には、ほかにアニメのサークルはあるのかしらべてからにしよう。)
シュテファンは、大学のサークルについてしらべてみました。すると、コスプレのサークルは見つかりましたが、アニメのサークルはほかにありませんでした。
(まず大切なのは勉強で、そのつぎにサークルを考えたいけれど、あのサークルなら、勉強をしながらでも、さんかできそうだ。入ろうかな。)
シュテファンは思いました。
つぎの日、シュテファンは田中さんに入りたいとメールを送りました。すぐに田中さんからメールが来ました。
シュテファンさん
メール、ありがとう! 入ってくれて、ほんとうにうれしいです。
来週、来ることができる日はありますか。
2号館地下のアニメ研究会の部屋に来てください。
かんばんがありますから、すぐわかります。
いつ来るか、おしえてください。
田中
シュテファンはつぎの火曜日の夕方に行くことにしました。
つぎの週の火曜日、シュテファンは2号館の地下に行きました。かいだんを下ると、部屋がならんでいます。部屋の前にはかんばんがあって、サークルの名前が書かれています。
「文学研究会、茶道会、星を見る会、留学生と交流する会……サークルがたくさんあるんだ……」
歩いていくと、前のほうにアニメに出てくるキャラクターのようなものが見えました。
(あれ、「ドラゴンボール」の孫悟空だ!)
近くに行くと、孫悟空のふくを着た人形が立っています。そのとなりに、「コスプレ研究会」と書いてありました。
(調べているときに見たコスプレ研究会だ! メンバーはいつもコスプレをしてるのかな。)
そして、よこを見ると、「アニメ研究会」という字が見えました。
(ここだ!)
入り口のドアはしまっていて、声は聞こえません。シュテファンはノックをしてゆっくりドアを開けました。
「シュテファンさん、いらっしゃい!」
田中さんでした。
「よく来てくれた。待っていました。くわしく話していなかったけど、ぼくは田中広です。アニメ研究会の、みんな『あにけん』とよんでるんだけど、だいひょうをしています。3年生です。よろしくおねがいします。それで、こちらは本田一郎さんと川村なみえさん。2人は2年生」
「本田です。どうぞよろしく」
とあいさつした本田さんは、めがねをかけていてまじめそうな学生です。
「川村です。よろしく」
と小さい声で言った川村さんは、かみがピンクでピンクのふくを着ています。コスプレをしているようです。田中さんは言いました。
「本田さんと川村さんはアニメを作っているんだ。アニメを作る人たちは、あと3人いるんだけれど、今日集まれたのは2人。本田さんも川村さんも絵をかくのがすごく上手なんだ。川村さんは高校生のとき、マンガの大会で金メダルをもらっている。こんどはマンガをアニメにしたくて、この研究会でがんばっている」
「すごい……」
シュテファンはびっくりしました。
「それから、川村さんはコスプレもすきです。いつもコスプレをして大学に来ている」
田中さんは、つづけました。
「こちらは新しく入ったシュテファンさん」
「はじめまして。シュテファンともうします。ドイツからまいりました。経営学部の1年です。どうぞよろしくおねがいします」
「えっ、私も経営学部」
小さい声で川村さんが言いました。
「勉強のことでもサークルの人といろいろと話ができるね」
と田中さんが言いました。
「はい。ありがとうございます」
とシュテファンは言いました。そして思いました。
(ああ、アニメといっしょにいられて、うれしいな! アニメがすきないろいろな人がいて、いろいろなことをしていて、楽しみだな!)
シュテファンの心には少しの「もやもや」もなくて、きたいがあふれていました。
「わあ、すごい。いろいろなサークルがあるんだ」
「シュテファンさんは入りたいサークルはあるの?」
「うん、アニメがすきだから、アニメのサークルにきょうみがあるんだ。カールさんは?」
カールは少し考えてから言いました。
「たぶん勉強でいそがしくなるから、まだかんがえていないんだ。もし時間があったら、かんがえようと思っている」
「そうか。勉強がいちばん大切だ。ぼくもどうしようかな……」
そのとき、目の前に「アニメ研究会」というかんばんが見えました。字のまわりには『天気の子』の絵がかかれています。
「アニメ研究会だ!」
かんばんを見て、シュテファンの声は大きくなってしまいました。
「ちょっと話を聞きに行こうかな」
「わかった。じゃ、またね」
カールは帰っていきました。
シュテファンはアニメ研究会のかんばんの前にいって、『天気の子』の絵を見ていました。すると、日本人の男の学生が近くに来ました。
「こんにちは。留学生の方ですか。アニメにきょうみがありますか。」
「はい、ドイツから来た留学生です。日本のアニメにきょうみがあります。『天気の子』も大すきです」
「じゃ、ぜひ話を聞いてください。この研究会はアニメが好きな人なら、だれでも入れます!」
「そうですか」
「このサークルは、だいたい1週間に2回あつまります。同じことにきょうみがある人であつまるので、その人たちで会える日をきめます」
「同じこと……ですか?」
「ええ。たとえば、アニメの作者についてとか、1990年くらいのアニメについてとか、アニメを作るとか、きょうみのあることについて研究や話をしているんです」
「そうですか。アニメを見て楽しむだけだと思いました」
「いえ、それならそれでもいいんです。アニメを楽しむためにあつまっている人もいますから」
「そうですか。けっこう自由ですね。どこであつまるのですか?」
「大学の2号館の地下にサークルのための部屋があります。その部屋にあつまっています」
「そうですか。ぼくは留学生で、日本にはじめて来ました。勉強や生活になれるまでしんぱいなんですが……」
「それは、だいじょうぶだと思います。この研究会でかならずやることは、年に2回だけです。一つはアニメを見る会です。春にあります。もう一つは文化祭です。秋にあります。あと、さっき言ったあつまりは、なれるまで入らなくてもだいじょうぶです」
「そうですか。じゃあ、ちょっとかんがえます」
シュテファンが言うと、その男の学生は、
「田中ともうします。ぜひよろしくおねがいします。これ持っていってください」
と言って、サークルについて書いてある紙をくれました。うらには田中さんのメールアドレスが書いてありました。
シュテファンは思いました。
(楽しそう。自由そうだし。ともだちもできそうだし。でも、この大学には、ほかにアニメのサークルはあるのかしらべてからにしよう。)
シュテファンは、大学のサークルについてしらべてみました。すると、コスプレのサークルは見つかりましたが、アニメのサークルはほかにありませんでした。
(まず大切なのは勉強で、そのつぎにサークルを考えたいけれど、あのサークルなら、勉強をしながらでも、さんかできそうだ。入ろうかな。)
シュテファンは思いました。
つぎの日、シュテファンは田中さんに入りたいとメールを送りました。すぐに田中さんからメールが来ました。
シュテファンさん
メール、ありがとう! 入ってくれて、ほんとうにうれしいです。
来週、来ることができる日はありますか。
2号館地下のアニメ研究会の部屋に来てください。
かんばんがありますから、すぐわかります。
いつ来るか、おしえてください。
田中
シュテファンはつぎの火曜日の夕方に行くことにしました。
つぎの週の火曜日、シュテファンは2号館の地下に行きました。かいだんを下ると、部屋がならんでいます。部屋の前にはかんばんがあって、サークルの名前が書かれています。
「文学研究会、茶道会、星を見る会、留学生と交流する会……サークルがたくさんあるんだ……」
歩いていくと、前のほうにアニメに出てくるキャラクターのようなものが見えました。
(あれ、「ドラゴンボール」の孫悟空だ!)
近くに行くと、孫悟空のふくを着た人形が立っています。そのとなりに、「コスプレ研究会」と書いてありました。
(調べているときに見たコスプレ研究会だ! メンバーはいつもコスプレをしてるのかな。)
そして、よこを見ると、「アニメ研究会」という字が見えました。
(ここだ!)
入り口のドアはしまっていて、声は聞こえません。シュテファンはノックをしてゆっくりドアを開けました。
「シュテファンさん、いらっしゃい!」
田中さんでした。
「よく来てくれた。待っていました。くわしく話していなかったけど、ぼくは田中広です。アニメ研究会の、みんな『あにけん』とよんでるんだけど、だいひょうをしています。3年生です。よろしくおねがいします。それで、こちらは本田一郎さんと川村なみえさん。2人は2年生」
「本田です。どうぞよろしく」
とあいさつした本田さんは、めがねをかけていてまじめそうな学生です。
「川村です。よろしく」
と小さい声で言った川村さんは、かみがピンクでピンクのふくを着ています。コスプレをしているようです。田中さんは言いました。
「本田さんと川村さんはアニメを作っているんだ。アニメを作る人たちは、あと3人いるんだけれど、今日集まれたのは2人。本田さんも川村さんも絵をかくのがすごく上手なんだ。川村さんは高校生のとき、マンガの大会で金メダルをもらっている。こんどはマンガをアニメにしたくて、この研究会でがんばっている」
「すごい……」
シュテファンはびっくりしました。
「それから、川村さんはコスプレもすきです。いつもコスプレをして大学に来ている」
田中さんは、つづけました。
「こちらは新しく入ったシュテファンさん」
「はじめまして。シュテファンともうします。ドイツからまいりました。経営学部の1年です。どうぞよろしくおねがいします」
「えっ、私も経営学部」
小さい声で川村さんが言いました。
「勉強のことでもサークルの人といろいろと話ができるね」
と田中さんが言いました。
「はい。ありがとうございます」
とシュテファンは言いました。そして思いました。
(ああ、アニメといっしょにいられて、うれしいな! アニメがすきないろいろな人がいて、いろいろなことをしていて、楽しみだな!)
シュテファンの心には少しの「もやもや」もなくて、きたいがあふれていました。
入学式が終わって2人が建物から出ると、いつの間にか、たくさんのサークル活動のかんばんが立っていました。新しい学生たちをサークルにさそうためです。
「わあ、すごいね。いろんなサークルがあるんだね」
「そうだね。シュテファンくんは入りたいサークルはあるの?」
「うん、アニメが好きだから、アニメのサークルにきょうみがあるんだ。カールくんは?」
「うーん、そうだね。たぶん勉強でいそがしくなるから、まだかんがえてないんだ。もし時間があったら、かんがえようと思ってる」
「そうか。そうだよね。勉強が一番大切だよね。ぼくもどうしようかなあ……」
そのとき、目の前に「アニメ研究会」というかんばんが見えました。字のまわりには『天気の子』の絵がかかれていました。
「あっ、アニメ研究会だ!」
気がつくと、シュテファンは大きな声を出していました。
「ちょっと話を聞いてみようかな」
「わかった。じゃ、またね」
カールは帰っていきました。
シュテファンはアニメ研究会のかんばんのところにいって、『天気の子』の絵をじっと見ていました。すると、日本人の男の学生が近くに来ました。
「こんにちは。留学生の方ですか。アニメにきょうみがありますか。」
「はい、ドイツから来た留学生です。日本のアニメにきょうみがあります。『天気の子』も大好きです」
「じゃ、ぜひ話を聞いてください。この研究会はアニメが好きな人なら、だれでもウェルカムです!」
「そうですか」
「だいたい週に2回、活動しています。同じテーマにきょうみがある人でグループを作って、その人たちのスケジュールが合う日にあつまっています。」
「同じテーマ……ですか」
「ええ。たとえば、ある作者のアニメについてとか、1990年代のアニメについてとか、アニメを作るとか、一人ひとりテーマを持って研究や活動をしているんです」
「そうですか。ただアニメを見て楽しんでいるだけじゃないんですね」
「いえ、それならそれでもいいんです。アニメを楽しむというテーマであつまっているグループもありますから」
「そうですか。けっこう自由なんですね。どこで活動しているんですか」
「大学の2号館の地下に部室があって、そこでしています」
「そうですか。ぼくは留学生で、じつは日本にはじめて来ました。勉強や生活になれるまでちょっと心配なんですが……」
「それは大丈夫だと思いますよ。この研究会でかならずやらなければならない活動は、年に2回だけです。一つは春のアニメを見る会、もう一つは秋の文化祭、あと、さっき言ったグループ活動は、なれるまで入らなくてもだいじょうぶです」
「そうですか。じゃあ、ちょっとかんがえてみます」
シュテファンが言うと、その男の学生は、
「田中ともうします。ぜひよろしくおねがいします。これ持っていってください。」
と言って、パンフレットをくれました。うらには田中さんのメールアドレスがありました。
シュテファンは思いました。
(楽しそうだなあ。自由そうだし。友だちもできそうだし。でも、この大学には、ほかにアニメのサークルはあるのかなあ。)
シュテファンは、インターネットで大学のサークルについてしらべてみました。すると、コスプレのサークルは見つかりましたが、アニメのサークルはほかにありませんでした。
(まず大切なのは勉強で、そのつぎにサークルを考えたいけど、あのサークルなら、それができそうだよね。入ってみようかな。)
シュテファンは思いました。
つぎの日、シュテファンは田中さんに入りたいとメールを送りました。すぐに田中さんからメールが来ました。
シュテファンくん
メール、ありがとう! 入ってくれて、ほんとうにうれしいです。
さっそくですが、来週のつごうがいいときに、2号館地下のアニメ研究会の
部室に来てください。かんばんがありますから、すぐわかります。
いつ来るか、れんらくしてください。
田中
シュテファンはつぎの週の火曜日の夕方に行くことにしました。
つぎの週の火曜日、シュテファンは2号館の地下に行きました。通路を入ると、左右に部室がならんでいます。部室の前にはかんばんがあって、サークルの名前が書かれています。
「文学研究会、茶道会、星を見る会、留学生と交流する会……いろんなサークルがあるなあ……」
歩いていくと、前のほうにアニメに出てくるキャラクターのふくが見えました。
(あれ、ドラゴンボールの孫悟空(そんごくう)だ!)
近くに行くと、孫悟空のふくを着たマネキンが立っています。そのとなりに、「コスプレ研究会」と書いてありました。
(あっ、この間ネットで見たコスプレ研究会だ! メンバーはいつもコスプレをしてるのかなあ。)
そして、目をよこに向けると、「アニメ研究会」という字が見えました。
(あっ、ここだ!)
入り口のドアは閉まっていて、声は聞こえません。シュテファンはノックをしてゆっくりドアを開けました。
「やあ、いらっしゃい!」
田中さんでした。
「よく来てくれたね。待ってたよ。くわしく話していなかったけど、ぼくは田中広です。アニメ研究会の、みんなアニ研ってよんでるんだけど、だいひょうをしています。3年生です。よろしくおねがいします。それで、こちらは本田一郎くんと川村なみえさん。2人とも2年生」
「本田です。どうぞよろしく」
とあいさつした本田さんは、めがねをかけていてまじめそうな学生です。
「川村です。よろしく」
と小さい声で言った川村さんは、かみがピンクでピンクのふくを着ています。コスプレをしているようです。田中さんは言いました。
「本田くんと川村さんはアニメ制作のグループで活動してるんだ。アニメ制作のグループは、あと3人いるんだけど、今日集まれたのは2人っていうこと。本田くんも川村さんも絵をかくのがすごく上手なんだよ。川村さんは高校生のとき、マンガコンテストで金メダルをもらってるんだ。こんどはマンガをアニメにしたくて、この研究会でがんばってる」
「す、すごいですね……」
シュテファンはびっくりしました。
「それから、コスプレも好きなんだよね。いつもコスプレをして大学に来てる」
田中さんは続けました。
「こちらは新しく入ったシュテファンくん」
「はじめまして。シュテファンともうします。ドイツからまいりました。経営学部の1年生です。どうぞよろしくおねがいします」
「えっ、私も経営学部」
小さい声で川村さんが言いました。
「勉強のことでもサークルのせんぱいといろいろと話せるといいね。」
と田中さんが言いました。
「はい。ありがとうございます」
とシュテファンは言いました。そして思いました。
(ああ、アニメといっしょにいられて、うれしいな! アニメが好きないろんな人がいて、いろんなことをしてて、楽しみだなあ!)
シュテファンの心には少しの「もやもや」もなくて、きたいがあふれていました。
「わあ、すごいね。いろんなサークルがあるんだね」
「そうだね。シュテファンくんは入りたいサークルはあるの?」
「うん、アニメが好きだから、アニメのサークルにきょうみがあるんだ。カールくんは?」
「うーん、そうだね。たぶん勉強でいそがしくなるから、まだかんがえてないんだ。もし時間があったら、かんがえようと思ってる」
「そうか。そうだよね。勉強が一番大切だよね。ぼくもどうしようかなあ……」
そのとき、目の前に「アニメ研究会」というかんばんが見えました。字のまわりには『天気の子』の絵がかかれていました。
「あっ、アニメ研究会だ!」
気がつくと、シュテファンは大きな声を出していました。
「ちょっと話を聞いてみようかな」
「わかった。じゃ、またね」
カールは帰っていきました。
シュテファンはアニメ研究会のかんばんのところにいって、『天気の子』の絵をじっと見ていました。すると、日本人の男の学生が近くに来ました。
「こんにちは。留学生の方ですか。アニメにきょうみがありますか。」
「はい、ドイツから来た留学生です。日本のアニメにきょうみがあります。『天気の子』も大好きです」
「じゃ、ぜひ話を聞いてください。この研究会はアニメが好きな人なら、だれでもウェルカムです!」
「そうですか」
「だいたい週に2回、活動しています。同じテーマにきょうみがある人でグループを作って、その人たちのスケジュールが合う日にあつまっています。」
「同じテーマ……ですか」
「ええ。たとえば、ある作者のアニメについてとか、1990年代のアニメについてとか、アニメを作るとか、一人ひとりテーマを持って研究や活動をしているんです」
「そうですか。ただアニメを見て楽しんでいるだけじゃないんですね」
「いえ、それならそれでもいいんです。アニメを楽しむというテーマであつまっているグループもありますから」
「そうですか。けっこう自由なんですね。どこで活動しているんですか」
「大学の2号館の地下に部室があって、そこでしています」
「そうですか。ぼくは留学生で、じつは日本にはじめて来ました。勉強や生活になれるまでちょっと心配なんですが……」
「それは大丈夫だと思いますよ。この研究会でかならずやらなければならない活動は、年に2回だけです。一つは春のアニメを見る会、もう一つは秋の文化祭、あと、さっき言ったグループ活動は、なれるまで入らなくてもだいじょうぶです」
「そうですか。じゃあ、ちょっとかんがえてみます」
シュテファンが言うと、その男の学生は、
「田中ともうします。ぜひよろしくおねがいします。これ持っていってください。」
と言って、パンフレットをくれました。うらには田中さんのメールアドレスがありました。
シュテファンは思いました。
(楽しそうだなあ。自由そうだし。友だちもできそうだし。でも、この大学には、ほかにアニメのサークルはあるのかなあ。)
シュテファンは、インターネットで大学のサークルについてしらべてみました。すると、コスプレのサークルは見つかりましたが、アニメのサークルはほかにありませんでした。
(まず大切なのは勉強で、そのつぎにサークルを考えたいけど、あのサークルなら、それができそうだよね。入ってみようかな。)
シュテファンは思いました。
つぎの日、シュテファンは田中さんに入りたいとメールを送りました。すぐに田中さんからメールが来ました。
シュテファンくん
メール、ありがとう! 入ってくれて、ほんとうにうれしいです。
さっそくですが、来週のつごうがいいときに、2号館地下のアニメ研究会の
部室に来てください。かんばんがありますから、すぐわかります。
いつ来るか、れんらくしてください。
田中
シュテファンはつぎの週の火曜日の夕方に行くことにしました。
つぎの週の火曜日、シュテファンは2号館の地下に行きました。通路を入ると、左右に部室がならんでいます。部室の前にはかんばんがあって、サークルの名前が書かれています。
「文学研究会、茶道会、星を見る会、留学生と交流する会……いろんなサークルがあるなあ……」
歩いていくと、前のほうにアニメに出てくるキャラクターのふくが見えました。
(あれ、ドラゴンボールの孫悟空(そんごくう)だ!)
近くに行くと、孫悟空のふくを着たマネキンが立っています。そのとなりに、「コスプレ研究会」と書いてありました。
(あっ、この間ネットで見たコスプレ研究会だ! メンバーはいつもコスプレをしてるのかなあ。)
そして、目をよこに向けると、「アニメ研究会」という字が見えました。
(あっ、ここだ!)
入り口のドアは閉まっていて、声は聞こえません。シュテファンはノックをしてゆっくりドアを開けました。
「やあ、いらっしゃい!」
田中さんでした。
「よく来てくれたね。待ってたよ。くわしく話していなかったけど、ぼくは田中広です。アニメ研究会の、みんなアニ研ってよんでるんだけど、だいひょうをしています。3年生です。よろしくおねがいします。それで、こちらは本田一郎くんと川村なみえさん。2人とも2年生」
「本田です。どうぞよろしく」
とあいさつした本田さんは、めがねをかけていてまじめそうな学生です。
「川村です。よろしく」
と小さい声で言った川村さんは、かみがピンクでピンクのふくを着ています。コスプレをしているようです。田中さんは言いました。
「本田くんと川村さんはアニメ制作のグループで活動してるんだ。アニメ制作のグループは、あと3人いるんだけど、今日集まれたのは2人っていうこと。本田くんも川村さんも絵をかくのがすごく上手なんだよ。川村さんは高校生のとき、マンガコンテストで金メダルをもらってるんだ。こんどはマンガをアニメにしたくて、この研究会でがんばってる」
「す、すごいですね……」
シュテファンはびっくりしました。
「それから、コスプレも好きなんだよね。いつもコスプレをして大学に来てる」
田中さんは続けました。
「こちらは新しく入ったシュテファンくん」
「はじめまして。シュテファンともうします。ドイツからまいりました。経営学部の1年生です。どうぞよろしくおねがいします」
「えっ、私も経営学部」
小さい声で川村さんが言いました。
「勉強のことでもサークルのせんぱいといろいろと話せるといいね。」
と田中さんが言いました。
「はい。ありがとうございます」
とシュテファンは言いました。そして思いました。
(ああ、アニメといっしょにいられて、うれしいな! アニメが好きないろんな人がいて、いろんなことをしてて、楽しみだなあ!)
シュテファンの心には少しの「もやもや」もなくて、きたいがあふれていました。