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クエスト
カッパの正体とは?
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ハピエルは、カッパの本当のすがたを知るために、夏休みに岩手県に向かいました。ミイラがいる九里寺(きゅうりでら)は王終(おうしゅう)駅から36キロ(九里)ぐらいはなれたところにあります。ハピエルはバスにのって、それから山にのぼって、やっと九里寺につきました。
それは古くてしずかなお寺でした。まわりに人はあまりいません。ミーンミーンというセミの声だけ聞こえます。
お寺の建物の中に入ると、おしょうさんがおきょうをあげていました。ハピエルは、
「あのう、すみません。カッパのミイラを見に来たんですが……。」
と言いました。おしょうさんは、右のほうにあるつくえを指(さ)して、
「あそこにありますよ。」
と言いました。ハピエルはつくえの近くに行きました。すると、その上にはこが見えました。木のはこです。はこをのぞきこむと、中にミイラがありました。小さい頭と体と手と足です。茶色で体に少しだけ毛もついています。ハピエルは、ちょっとこわい、と思いました。
おしょうさんに話を聞くと、今から20年ぐらい前にお寺の屋根(やね)の工事をしたときに出てきたそうです。見つかった時、ミイラはガラスのケースに入っていました。大切にされていたようです。お寺は今から150年ぐらい前に古くなったところを新しいものに変えて直したそうです。ですから、ミイラは少なくともその時から大切にされていたのです。
ハピエルのとなりでは、小さい男の子とお母さんもミイラを見ていました。お母さんに
「これ、猫みたい。ヒロシ、猫だと思う。」
と言いました。男の子はヒロシという名前のようです。お母さんも言いました。
「そうね。猫かもしれないね。」
まさに猫のようです。でも、ハピエルは思いました。
(長い間お寺にあって大切にされていたなら、ただの猫なのだろうか? 本当はいったい何だろう? ミイラよ、教えてくれないか。)
そして、じっと、じいっと、ミイラの顔を見つめました。すると、きゅうに目の前がまっ白になって、ハピエルは体がういたように感じました。
……しばらくすると、どこかから声がしました。
「君はわたしがだれか知りたいのか……?」
しずかですが、ひくくてこわい声です。
「えっ、ここはどこ? どこなんだ?」
ハピエルはさけびました。まわりでブクブクブクブクという音がします。
「まさか、水の中…?」
「ハ~ハハハハハ。よくわかったな。水の中さ。」
「た、たすけてくれ~。」
「ぼくもたすけて~。」
小さい声が聞こえました。子どもの声のようです。ハピエルは
「あっ、さっきとなりでミイラを見ていた子だ! ヒロシくんだ!」
と思いました。
「おーい、だいじょうぶか~?」
「たすけて~。」
さっきより声が小さくなっています。ハピエルはひくい声がした方に向かってさけびました。
「おーい、子どもをたすけてやってくれ~。」
すると、ひくい声が聞こえました。
「君がわたしの本当のすがたを知りたいと思うなら、子どもはわたさない。わたしの本当のすがたはだれにも知られていないのだ。」
「わかった。もう知りたいと思わないから、たすけてあげてくれ~。」
「ハ~ハハハハハ。そうかんたんに~、たすけないぞ~。」
「なんだって~? いったい君はだれなんだ? 出てこい!」
「ケ~ケケケケケ。」
こんどは高い声でだれかがわらいました。目の前にみどりの体が見えました。
「あっ、君はカッパか?」
「ケ~ケケケケケ。そうさ。カッパだよ~。」
カッパの左の手は長くなっていて、子どもをかかえています。
「あっ、だいじょうぶ? ヒロシくんでしょ? だいじょうぶなの?」
「おにいちゃん、たすけて~。」
ヒロシは消えそうな声で言いました。顔の色はこわさで青くなっています。
「おい、カッパ、子どもをわたせ!」
ハピエルはどなりました。
「ケ~ケケケケケ。そうはいかないよ~。」
カッパはふわふわとういて、わらうばかりです。ハピエルはとくいな空手(からて)でカッパをやっつけようと思いました。
「よーし、にげるなカッパ!」
空手のわざ(相手をたおすための型のある動作)をかけようとしますが、水の中なので、うまくいきません。
「ケ~ケケケケケ。やれるもんならやってみろ!」
「待て!」
ハピエルはカッパの足をつかまえました。でも、とてもすべりやすくて、すぐにカッパはにげました。ヒロシはまだカッパのうでの中です。
(こうなったら、うでをねらおう。)
ハピエルは子どもをかかえたカッパのうでの近くに行って、手のよこでたたきました。すると、カッパのうでが切れて、子どもとうでがハピエルのところに流れてきました。
「だいじょうぶ?」
と子どもに声をかけましたが、子どもは答えません。カッパのうでがまだ子どもに巻かれていて、子どもをはなしません。
(ああ、どうしよう。)
ハピエルが困っていると、カッパがさけびました。
「おい、うでを返せ。」
「なんだと。じゃあ、子どもをたすけたら、返してやる!」
ハピエルはどなりました。
「わかった。わかった。子どもはたすけてやる。おい、子どもよ、わたしは猫じゃないからな!早く消えろ!」
そのとたん、カッパのうでが子どもの体からはなれました。ブクブクブクブク……と音がして、子どもは上がっていきました。水の中から出たようです。
(ああ、よかった!)
とハピエルが思ったとき、カッパの切れたうでがカッパのところに流れていって、元のとおりにくっつきました。そして、ハピエルをつかまえようとしたのです。
「やめろ!」
ハピエルはさけびました。自分でも知らないうちに、カッパの頭の皿を手のよこでたたいていました。皿がわれました。カッパはきゅうに元気がなくなりました。そして、カッパは見えなくなって、どこからかわかりませんが、虎(とら)のような生き物が出てきました。
「わたしを見るな~。見ると~帰ることができないぞ~。」
はじめに聞いたひくい声でした。ハピエルは思わず目を閉じました。しばらくしてから目を開けると、赤ちゃんのような小さい子どものような体が遠くに見えました。そのままハピエルは気をうしないました。
どのぐらい時間がたったでしょうか。知らないうちに、ハピエルはお寺のカッパのミイラの前によこになっていました。となりには、ヒロシもいました。お母さんが
「ヒロシ! だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
とひっしに声をかけていました。子どもは目を開けて、
「うん。うん。」
と言っていました。
「ああ、よかった…。お子さんもだいじょうぶですね。」
ハピエルはお母さんに声をかけました。お母さんはなみだ声で、
「だいじょうぶそうです。さっき、あなたとうちの子がきゅうにたおれて、ほんとうにびっくりしました。あなたはだいじょうぶですか。」
「はい、たぶん……。ご心配をおかけしました。」
ハピエルは、ゆめを見ていたのだろうか、と思いました。ハピエルはふしぎなできごとが信じられませんでした。でも、自分の手を見ると、ふしぎ!青いあざ(何かにぶつかった時などにできるもの。血は出ないが、ぶつけた部分の体の色がかわる)ができていました。
(えっ、これ、手のよこでたたいた時にできたあざだ。やっぱりゆめじゃなかったんだ。)
そして、もう一度手を見ました。すると、手の中に白いものがのっています。
(あれっ、この白いのは何? お皿の一部みたい。えっ、まさかカッパのお皿……?)
ハピエルはこわくなりました。
(やっぱりほんとうのことだったんだ…。どうしよう…、どうしてか分からないけどこわい…。)
ハピエルは自分がふるえているのがわかりました。
(このままじゃ、こわくてたまらない。ああ、おしょうさんにそうだんしよう。)
ハピエルはお皿の一部をにぎりしめて、おしょうさんをさがしました。おしょうさんはにわでそうじをしていました。
「おしょうさん、すみません。ちょっといいですか。」
ハピエルはふるえる声で言いました。おしょうさんは
「あれ、ふるえて、どうしましたか。」
と言いました。
「とにかく中に入ってください。」
と言われたハピエルは、お寺の中で おしょうさんに ふしぎなできごとを全部話しました。おしょうさんは言いました。
「カッパは人の気持ちがよくわかるんです。あなたがカッパの本当のすがたを知りたいと強く思っていることがわかったのでしょう。でも、カッパは本当のすがたを知られたくなくて、川の中に連れて行ったのでしょう。とにかく、ぶじでよかった。」
「そうですか……。あの、このお皿の一部はどうしたらいいですか。」
ハピエルはおしょうさんに、お皿の一部を見せました。おしょうさんは言いました。
「そうですね。カッパはうでを切られた時、うでを返して、と言ったのですよね。じゃあ、かけらも返しておきましょう。そうすれば、カッパはもう一度頭にきれいなお皿を作ることができるでしょう。カッパにはそんなふしぎな力があるはずです。いっしょに川に行って、皿の一部を川に返しましょう。わたしはおきょうをあげますよ。」
こうしてハピエルは、おしょうさんといっしょに川にお皿の一部を持っていきました。この日は天気がよくて、川はしずかに流れていました。
「おーい、カッパ。これを見つけてもう一度きれいなお皿を作ってくれ~。」
ハピエルは大きな声でカッパによびかけて、皿の一部を川に投げました。おしょうさんはおきょうをあげました。皿の一部が水面に当たると、水はぐるぐるとうずをまいて皿の一部を水の中に持っていきました。そして、皿の一部は見えなくなりました。おしょうさんのおきょうが終わると、川にできたうずは消えて、しずかな川にもどりました。ハピエルは、皿の一部がカッパのところに帰ったと思いました。おしょうさんも
「皿の一部はカッパのところに帰ったようですね。」
と言いました。
ハピエルは、あの虎のような生き物は何だったんだろう、赤ちゃんのような子どもは何だったんだろう、と思いました。
(あ、あの虎はカッパの本当のすがただったのかな。中国の「水虎」は水に住む虎って言っていたよね。でも、虎って猫と同じ種類だったっけ。ということは、やっぱりあのミイラは猫なのかなあ。猫がカッパの本当のすがたなのかなあ。じゃあ、さいごに遠くに見えたあの子どもは? あっ、そういえば、むかし、食べ物がない時、ころされてしまった子どもたちがカッパのすがたになったっていう古い話があったよね……。)
ハピエルはおしょうさんに、カッパの本当のすがたは何かと聞いてみました。おしょうさんは言いました。
「動物とか、子どもとか、いろいろな話があります。けれども、何が正しいか、今もわかっていないのです。」
やっぱり、カッパの本当のすがたははっきりわかりませんでした。けれども、ハピエルは思いました。
(カッパも知られたくないって思ってるみたいだし、わからなくてもいいのかな。わからないほうがいろいろそうぞうできていいのかな。)
ハピエルは四季市のアパートに帰りました。駅の前では、カッパの像がにっこりわらってむかえてくれました。ここではカッパはかわいらしい顔です。
(ああ、帰ってきた……。)
とハピエルが思った時、どこかから声がしました。
「やあ、ハピエル、お帰りなさい……。」
ハピエルもその声に答えました。
「ただいま! 帰ってきたよ。きみの本当のすがたはわからなかったけどね……。」
それは古くてしずかなお寺でした。まわりに人はあまりいません。ミーンミーンというセミの声だけ聞こえます。
お寺の建物の中に入ると、おしょうさんがおきょうをあげていました。ハピエルは、
「あのう、すみません。カッパのミイラを見に来たんですが……。」
と言いました。おしょうさんは、右のほうにあるつくえを指(さ)して、
「あそこにありますよ。」
と言いました。ハピエルはつくえの近くに行きました。すると、その上にはこが見えました。木のはこです。はこをのぞきこむと、中にミイラがありました。小さい頭と体と手と足です。茶色で体に少しだけ毛もついています。ハピエルは、ちょっとこわい、と思いました。
おしょうさんに話を聞くと、今から20年ぐらい前にお寺の屋根(やね)の工事をしたときに出てきたそうです。見つかった時、ミイラはガラスのケースに入っていました。大切にされていたようです。お寺は今から150年ぐらい前に古くなったところを新しいものに変えて直したそうです。ですから、ミイラは少なくともその時から大切にされていたのです。
ハピエルのとなりでは、小さい男の子とお母さんもミイラを見ていました。お母さんに
「これ、猫みたい。ヒロシ、猫だと思う。」
と言いました。男の子はヒロシという名前のようです。お母さんも言いました。
「そうね。猫かもしれないね。」
まさに猫のようです。でも、ハピエルは思いました。
(長い間お寺にあって大切にされていたなら、ただの猫なのだろうか? 本当はいったい何だろう? ミイラよ、教えてくれないか。)
そして、じっと、じいっと、ミイラの顔を見つめました。すると、きゅうに目の前がまっ白になって、ハピエルは体がういたように感じました。
……しばらくすると、どこかから声がしました。
「君はわたしがだれか知りたいのか……?」
しずかですが、ひくくてこわい声です。
「えっ、ここはどこ? どこなんだ?」
ハピエルはさけびました。まわりでブクブクブクブクという音がします。
「まさか、水の中…?」
「ハ~ハハハハハ。よくわかったな。水の中さ。」
「た、たすけてくれ~。」
「ぼくもたすけて~。」
小さい声が聞こえました。子どもの声のようです。ハピエルは
「あっ、さっきとなりでミイラを見ていた子だ! ヒロシくんだ!」
と思いました。
「おーい、だいじょうぶか~?」
「たすけて~。」
さっきより声が小さくなっています。ハピエルはひくい声がした方に向かってさけびました。
「おーい、子どもをたすけてやってくれ~。」
すると、ひくい声が聞こえました。
「君がわたしの本当のすがたを知りたいと思うなら、子どもはわたさない。わたしの本当のすがたはだれにも知られていないのだ。」
「わかった。もう知りたいと思わないから、たすけてあげてくれ~。」
「ハ~ハハハハハ。そうかんたんに~、たすけないぞ~。」
「なんだって~? いったい君はだれなんだ? 出てこい!」
「ケ~ケケケケケ。」
こんどは高い声でだれかがわらいました。目の前にみどりの体が見えました。
「あっ、君はカッパか?」
「ケ~ケケケケケ。そうさ。カッパだよ~。」
カッパの左の手は長くなっていて、子どもをかかえています。
「あっ、だいじょうぶ? ヒロシくんでしょ? だいじょうぶなの?」
「おにいちゃん、たすけて~。」
ヒロシは消えそうな声で言いました。顔の色はこわさで青くなっています。
「おい、カッパ、子どもをわたせ!」
ハピエルはどなりました。
「ケ~ケケケケケ。そうはいかないよ~。」
カッパはふわふわとういて、わらうばかりです。ハピエルはとくいな空手(からて)でカッパをやっつけようと思いました。
「よーし、にげるなカッパ!」
空手のわざ(相手をたおすための型のある動作)をかけようとしますが、水の中なので、うまくいきません。
「ケ~ケケケケケ。やれるもんならやってみろ!」
「待て!」
ハピエルはカッパの足をつかまえました。でも、とてもすべりやすくて、すぐにカッパはにげました。ヒロシはまだカッパのうでの中です。
(こうなったら、うでをねらおう。)
ハピエルは子どもをかかえたカッパのうでの近くに行って、手のよこでたたきました。すると、カッパのうでが切れて、子どもとうでがハピエルのところに流れてきました。
「だいじょうぶ?」
と子どもに声をかけましたが、子どもは答えません。カッパのうでがまだ子どもに巻かれていて、子どもをはなしません。
(ああ、どうしよう。)
ハピエルが困っていると、カッパがさけびました。
「おい、うでを返せ。」
「なんだと。じゃあ、子どもをたすけたら、返してやる!」
ハピエルはどなりました。
「わかった。わかった。子どもはたすけてやる。おい、子どもよ、わたしは猫じゃないからな!早く消えろ!」
そのとたん、カッパのうでが子どもの体からはなれました。ブクブクブクブク……と音がして、子どもは上がっていきました。水の中から出たようです。
(ああ、よかった!)
とハピエルが思ったとき、カッパの切れたうでがカッパのところに流れていって、元のとおりにくっつきました。そして、ハピエルをつかまえようとしたのです。
「やめろ!」
ハピエルはさけびました。自分でも知らないうちに、カッパの頭の皿を手のよこでたたいていました。皿がわれました。カッパはきゅうに元気がなくなりました。そして、カッパは見えなくなって、どこからかわかりませんが、虎(とら)のような生き物が出てきました。
「わたしを見るな~。見ると~帰ることができないぞ~。」
はじめに聞いたひくい声でした。ハピエルは思わず目を閉じました。しばらくしてから目を開けると、赤ちゃんのような小さい子どものような体が遠くに見えました。そのままハピエルは気をうしないました。
どのぐらい時間がたったでしょうか。知らないうちに、ハピエルはお寺のカッパのミイラの前によこになっていました。となりには、ヒロシもいました。お母さんが
「ヒロシ! だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
とひっしに声をかけていました。子どもは目を開けて、
「うん。うん。」
と言っていました。
「ああ、よかった…。お子さんもだいじょうぶですね。」
ハピエルはお母さんに声をかけました。お母さんはなみだ声で、
「だいじょうぶそうです。さっき、あなたとうちの子がきゅうにたおれて、ほんとうにびっくりしました。あなたはだいじょうぶですか。」
「はい、たぶん……。ご心配をおかけしました。」
ハピエルは、ゆめを見ていたのだろうか、と思いました。ハピエルはふしぎなできごとが信じられませんでした。でも、自分の手を見ると、ふしぎ!青いあざ(何かにぶつかった時などにできるもの。血は出ないが、ぶつけた部分の体の色がかわる)ができていました。
(えっ、これ、手のよこでたたいた時にできたあざだ。やっぱりゆめじゃなかったんだ。)
そして、もう一度手を見ました。すると、手の中に白いものがのっています。
(あれっ、この白いのは何? お皿の一部みたい。えっ、まさかカッパのお皿……?)
ハピエルはこわくなりました。
(やっぱりほんとうのことだったんだ…。どうしよう…、どうしてか分からないけどこわい…。)
ハピエルは自分がふるえているのがわかりました。
(このままじゃ、こわくてたまらない。ああ、おしょうさんにそうだんしよう。)
ハピエルはお皿の一部をにぎりしめて、おしょうさんをさがしました。おしょうさんはにわでそうじをしていました。
「おしょうさん、すみません。ちょっといいですか。」
ハピエルはふるえる声で言いました。おしょうさんは
「あれ、ふるえて、どうしましたか。」
と言いました。
「とにかく中に入ってください。」
と言われたハピエルは、お寺の中で おしょうさんに ふしぎなできごとを全部話しました。おしょうさんは言いました。
「カッパは人の気持ちがよくわかるんです。あなたがカッパの本当のすがたを知りたいと強く思っていることがわかったのでしょう。でも、カッパは本当のすがたを知られたくなくて、川の中に連れて行ったのでしょう。とにかく、ぶじでよかった。」
「そうですか……。あの、このお皿の一部はどうしたらいいですか。」
ハピエルはおしょうさんに、お皿の一部を見せました。おしょうさんは言いました。
「そうですね。カッパはうでを切られた時、うでを返して、と言ったのですよね。じゃあ、かけらも返しておきましょう。そうすれば、カッパはもう一度頭にきれいなお皿を作ることができるでしょう。カッパにはそんなふしぎな力があるはずです。いっしょに川に行って、皿の一部を川に返しましょう。わたしはおきょうをあげますよ。」
こうしてハピエルは、おしょうさんといっしょに川にお皿の一部を持っていきました。この日は天気がよくて、川はしずかに流れていました。
「おーい、カッパ。これを見つけてもう一度きれいなお皿を作ってくれ~。」
ハピエルは大きな声でカッパによびかけて、皿の一部を川に投げました。おしょうさんはおきょうをあげました。皿の一部が水面に当たると、水はぐるぐるとうずをまいて皿の一部を水の中に持っていきました。そして、皿の一部は見えなくなりました。おしょうさんのおきょうが終わると、川にできたうずは消えて、しずかな川にもどりました。ハピエルは、皿の一部がカッパのところに帰ったと思いました。おしょうさんも
「皿の一部はカッパのところに帰ったようですね。」
と言いました。
ハピエルは、あの虎のような生き物は何だったんだろう、赤ちゃんのような子どもは何だったんだろう、と思いました。
(あ、あの虎はカッパの本当のすがただったのかな。中国の「水虎」は水に住む虎って言っていたよね。でも、虎って猫と同じ種類だったっけ。ということは、やっぱりあのミイラは猫なのかなあ。猫がカッパの本当のすがたなのかなあ。じゃあ、さいごに遠くに見えたあの子どもは? あっ、そういえば、むかし、食べ物がない時、ころされてしまった子どもたちがカッパのすがたになったっていう古い話があったよね……。)
ハピエルはおしょうさんに、カッパの本当のすがたは何かと聞いてみました。おしょうさんは言いました。
「動物とか、子どもとか、いろいろな話があります。けれども、何が正しいか、今もわかっていないのです。」
やっぱり、カッパの本当のすがたははっきりわかりませんでした。けれども、ハピエルは思いました。
(カッパも知られたくないって思ってるみたいだし、わからなくてもいいのかな。わからないほうがいろいろそうぞうできていいのかな。)
ハピエルは四季市のアパートに帰りました。駅の前では、カッパの像がにっこりわらってむかえてくれました。ここではカッパはかわいらしい顔です。
(ああ、帰ってきた……。)
とハピエルが思った時、どこかから声がしました。
「やあ、ハピエル、お帰りなさい……。」
ハピエルもその声に答えました。
「ただいま! 帰ってきたよ。きみの本当のすがたはわからなかったけどね……。」
ハピエルは、カッパの正体を知るために、夏休みに岩手県に向かいました。ミイラがいる九里寺(きゅうりでら)は王終(おうしゅう)駅から36キロ(九里)ぐらいはなれたところにあります。ハピエルはバスにのって、それから山にのぼって、やっと九里寺につきました。
それは古くてしずかなお寺でした。まわりに人はあまりいません。ミーンミーンというセミの声だけ聞こえます。
お寺のお堂(どう)中に入ると、おしょうさんがおきょうをあげていました。ハピエルは、
「あのう、すみません。カッパのミイラを見に来たんですが……。」
と言いました。おしょうさんは、右のほうにあるつくえを指(さ)して、
「あそこにありますよ。」
と言いました。ハピエルはつくえに近づきました。すると、その上に はこが見えました。木のはこです。はこをのぞきこむと、中にミイラがありました。小さい頭と体と手足です。茶色で体に少しだけ毛もついています。ハピエルは、ちょっとこわい、と思いました。
おしょうさんに話を聞くと、今から20年ぐらい前にお寺の屋根(やね)の工事をしたときに出てきたそうです。見つかった時、ミイラはガラスのケースに入っていました。大切にされていたようです。お寺は今から150年ぐらい前にたてなおしたそうです。ですから、ミイラは少なくともその時から大切にされていたのです。 ハピエルのとなりでは、小さい男の子とお母さんもミイラを見ていました。お母さんに
「これ、猫みたい。ヒロシ、猫だと思う。」
と言いました。男の子はヒロシという名前のようです。お母さんも言いました。
「そうね。猫かしらね。」
たしかに猫のようです。でも、ハピエルは思いました。
(長い間お寺にあって大切にされていたなら、ただの猫なのだろうか? 正体はいったい何だろう? ミイラよ、教えてくれないか。)
そして、じっと、じいっと、ミイラの顔を見つめました。すると、きゅうに目の前がまっ白になって、ハピエルは体がうきあがったように感じました。
……しばらくすると、どこかから声がしました。
「お前はおれがだれか知りたいのか……?」
しずかですが、ひくくてこわい声です。
「えっ、ここはどこ? どこなんだ?」
ハピエルはさけびました。まわりでブクブクブクブクという音がします。
「まさか、水の中…?」
「ハ~ハハハハハ。よくわかったな。水の中さ。」
「た、たすけてくれ~。」
「ぼくもたすけて~。」
小さい声が聞こえました。子どもの声のようです。ハピエルは
「あっ、さっきとなりでミイラを見ていた子だ! ヒロシくんだ!」
と思いました。
「おーい、だいじょうぶか~?」
「たすけて~。」
さっきより声が小さくなっています。ハピエルはひくい声がした方に向かってさけびました。
「おーい、子どもをたすけてやってくれ~。」
すると、ひくい声が聞こえました。
「お前がおれの正体を知りたいと思うなら、子どもはわたさない。おれの正体はだれにも知られていないのだ。」
「わかった。もう知りたいと思わないから、たすけてあげてくれ~。」
「ハ~ハハハハハ。そうかんたんに~、たすけないぞ~。」
「なんだって~? いったいお前はだれなんだ? 出てこい!」
「ケ~ケケケケケ。」
こんどは高い声でだれかがわらいました。目の前に緑の体が見えました。
「あっ、お前はカッパか?」
「ケ~ケケケケケ。そうさ。カッパだよ~。」
カッパの左手は長くなっていて、子どもをかかえています。
「あっ、だいじょうぶ? ヒロシくんでしょ? だいじょうぶなの?」
「おにいちゃん、たすけて~。」
ヒロシは消えそうな声で言いました。顔は青ざめています。
「おい、カッパ、子どもをわたせ!」
ハピエルはどなりました。
「ケ~ケケケケケ。そうはいかないよ~。」
カッパはふわふわとういて、わらうばかりです。ハピエルはとくいな空手(からて)でカッパをやっつけようと思いました。
「よーし、にげるなカッパ!」
空手のわざをかけようとしますが、水の中なので、うまくいきません。
「ケ~ケケケケケ。やれるもんならやってみろ!」
「待て!」
ハピエルはカッパの足をつかまえました。でも、ぬるぬるしていて、するりとカッパはにげました。ヒロシはまだカッパのうでの中です。
(こうなったら、うでをねらおう。)
ハピエルは子どもをかかえたカッパのうでに近づいて、空手チョップでたたきました。すると、カッパのうでが切れて、子どもとうでがハピエルのところに流れてきました。
「だいじょうぶ?」
と子どもに声をかけましたが、子どもは答えません。カッパのうでがまだ子どもにからまっていて、子どもをはなしません。
(ああ、どうしよう。)
ハピエルが困っていると、カッパがさけびました。
「おい、うでを返せ。」
「なんだと。じゃあ、子どもをたすけたら、かえしてやる!」
ハピエルはどなりました。
「わかった。わかった。子どもはたすけてやる。おい、子どもよ、おれは猫じゃないからな! 早く消えろ!」
そのとたん、カッパのうでが子どもの体からはなれました。ブクブクブクブク……と音がして、子どもは上がっていきました。水の中から出たようです。
(ああ、よかった!)
とハピエルが思ったしゅんかん、カッパの切れたうでがカッパのところに流れていって、元のとおりにくっつきました。そして、ハピエルをつかまえようとしたのです。
「やめろ!」
ハピエルはさけびました。自分でも気がつかないうちに、カッパの頭の皿を空手チョップでたたいていました。皿がわれました。カッパはきゅうに元気がなくなりました。そして、カッパは見えなくなって、どこからかわかりませんが、虎(とら)のような生き物が出てきました。
「おれを見るな~。見ると~帰れないぞ~。」
はじめに聞いたひくい声でした。ハピエルは思わず目をつぶりました。しばらくしてから目を開けると、赤ちゃんのような小さい子どものような体が遠くに見えました。そのままハピエルは気をうしないました。
どのぐらい時間がたったでしょうか。気がつくと、ハピエルはお寺のカッパのミイラの前によこになっていました。となりには、ヒロシもいました。お母さんが
「ヒロシ! だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
とひっしに声をかけていました。子どもは目を開けて、
「うん。うん。」
と言っていました。
「ああ、よかった…。お子さんもだいじょうぶですね。」
ハピエルはお母さんに声をかけました。お母さんはなみだ声で、
「だいじょうぶそうです。さっき、あなたとうちの子がきゅうにたおれて、ほんとうにびっくりしました。あなたはだいじょうぶですか。」
「はい、たぶん……。ご心配をおかけしました。」
ハピエルは、ゆめを見ていたのだろうか、と思いました。ハピエルはふしぎなできごとが信じられませんでした。でも、自分の手を見ると、なんと! 青いあざができていました。
(えっ、これ、空手チョップをした時にできたあざだ。やっぱりゆめじゃなかったんだ。)
そして、もう一度手を見ました。すると、手のひらに白いものがのっています。
(あれっ、この白いのは何? お皿(さら)のかけらみたい。えっ、もしかしてカッパのお皿……?)
ハピエルはこわくなりました。
(やっぱりほんとうのことだったんだ…。どうしよう…、なんだかこわい…。)
ハピエルは自分がふるえているのがわかりました。
(このままじゃ、こわくてたまらない。ああ、おしょうさんにそうだんしよう。)
ハピエルはお皿のかけらをにぎりしめて、おしょうさんをさがしました。おしょうさんはにわでそうじをしていました。
「おしょうさん、すみません。ちょっといいですか。」
ハピエルはふるえる声で言いました。おしょうさんは
「あれ、ふるえて、どうしましたか。」
と言いました。
「とにかく中に入ってください。」
と言われたハピエルは、お寺の中で おしょうさんに ふしぎなできごとを全部話しました。おしょうさんは言いました。
「カッパは人の気持ちがよくわかるんです。あなたがカッパの正体を知りたいと強
く思っていることがわかったのでしょう。でも、カッパは正体を知られたくなく
て、川に引きずりこんだのでしょう。とにかく、ぶじでよかった。」
「そうですか……。あの、このかけらはどうしたらいいですか。」
ハピエルはおしょうさんに、お皿のかけらを見せました。おしょうさんは言いました。
「そうですね。カッパはうでを切られた時、うでを返して、と言ったのですよね。じゃあ、かけらも返しておきましょう。そうすれば、カッパはもう一度頭にきれいなお皿を作ることができるでしょう。カッパにはそんなふしぎな力があるはずです。いっしょに川に行って、かけらを川に返しましょう。わたしはおきょうをあげますよ。」
こうしてハピエルは、おしょうさんといっしょに川にかけらを持っていきました。この日は天気がよくて、川はしずかに流れていました。
「おーい、カッパ。これを見つけてもう一度きれいなお皿を作ってくれ~。」
ハピエルは大きな声でカッパによびかけて、かけらを川に投げました。おしょうさんはおきょうをあげました。かけらが水面(すいめん)に当たると、水はぐるぐるとうずをまいてかけらをまきこみました。そして、かけらは見えなくなりました。おしょうさんのおきょうが終わると、川にできたうずは消えて、しずかな川にもどりました。ハピエルは、かけらがカッパのところに帰ったと思いました。おしょうさんも
「かけらはカッパのところに帰ったようですね。」
と言いました。
ハピエルは、あの虎のような生き物は何だったんだろう、赤ちゃんのような子どもは何だったんだろう、と思いました。
(あ、あの虎はカッパの正体だったのかな。中国の「水虎」は水に住む虎っていうことだったよね。でも、虎って猫と同じ種類(しゅるい)だったっけ。ということは、やっぱりあのミイラは猫なのかなあ。猫がカッパの正体なのかなあ。じゃあ、さいごにとおくに見えたあの子どもは? あっ、そういえば、むかし、食べ物がない時、ころされてしまった子どもたちがカッパの姿になったっていう伝説があったよね……。)
ハピエルはおしょうさんに、カッパの正体は何かと聞いてみました。おしょうさんは言いました。
「動物とか、子どもとか、いろいろな話があります。けれども、何が正しいか、今もわかっていないのです。」
けっきょく、カッパの正体ははっきりわかりませんでした。けれども、ハピエルは思いました。
(カッパも知られたくないって思ってるみたいだし、わからなくてもいいのかな。わからないほうがいろいろそうぞうできていいのかな。)
ハピエルは四季市のアパートに帰りました。駅の前では、カッパのぞうがにっこりわらってむかえてくれました。ここではカッパはかわいらしい顔です。
(ああ、帰ってきた……。)
とハピエルが思った時、どこかから声がしました。
「やあ、ハピエル、お帰りなさい……。」
ハピエルもその声に答えました。
「ただいま! 帰ってきたよ。きみの正体はわからなかったけどね……。」
それは古くてしずかなお寺でした。まわりに人はあまりいません。ミーンミーンというセミの声だけ聞こえます。
お寺のお堂(どう)中に入ると、おしょうさんがおきょうをあげていました。ハピエルは、
「あのう、すみません。カッパのミイラを見に来たんですが……。」
と言いました。おしょうさんは、右のほうにあるつくえを指(さ)して、
「あそこにありますよ。」
と言いました。ハピエルはつくえに近づきました。すると、その上に はこが見えました。木のはこです。はこをのぞきこむと、中にミイラがありました。小さい頭と体と手足です。茶色で体に少しだけ毛もついています。ハピエルは、ちょっとこわい、と思いました。
おしょうさんに話を聞くと、今から20年ぐらい前にお寺の屋根(やね)の工事をしたときに出てきたそうです。見つかった時、ミイラはガラスのケースに入っていました。大切にされていたようです。お寺は今から150年ぐらい前にたてなおしたそうです。ですから、ミイラは少なくともその時から大切にされていたのです。 ハピエルのとなりでは、小さい男の子とお母さんもミイラを見ていました。お母さんに
「これ、猫みたい。ヒロシ、猫だと思う。」
と言いました。男の子はヒロシという名前のようです。お母さんも言いました。
「そうね。猫かしらね。」
たしかに猫のようです。でも、ハピエルは思いました。
(長い間お寺にあって大切にされていたなら、ただの猫なのだろうか? 正体はいったい何だろう? ミイラよ、教えてくれないか。)
そして、じっと、じいっと、ミイラの顔を見つめました。すると、きゅうに目の前がまっ白になって、ハピエルは体がうきあがったように感じました。
……しばらくすると、どこかから声がしました。
「お前はおれがだれか知りたいのか……?」
しずかですが、ひくくてこわい声です。
「えっ、ここはどこ? どこなんだ?」
ハピエルはさけびました。まわりでブクブクブクブクという音がします。
「まさか、水の中…?」
「ハ~ハハハハハ。よくわかったな。水の中さ。」
「た、たすけてくれ~。」
「ぼくもたすけて~。」
小さい声が聞こえました。子どもの声のようです。ハピエルは
「あっ、さっきとなりでミイラを見ていた子だ! ヒロシくんだ!」
と思いました。
「おーい、だいじょうぶか~?」
「たすけて~。」
さっきより声が小さくなっています。ハピエルはひくい声がした方に向かってさけびました。
「おーい、子どもをたすけてやってくれ~。」
すると、ひくい声が聞こえました。
「お前がおれの正体を知りたいと思うなら、子どもはわたさない。おれの正体はだれにも知られていないのだ。」
「わかった。もう知りたいと思わないから、たすけてあげてくれ~。」
「ハ~ハハハハハ。そうかんたんに~、たすけないぞ~。」
「なんだって~? いったいお前はだれなんだ? 出てこい!」
「ケ~ケケケケケ。」
こんどは高い声でだれかがわらいました。目の前に緑の体が見えました。
「あっ、お前はカッパか?」
「ケ~ケケケケケ。そうさ。カッパだよ~。」
カッパの左手は長くなっていて、子どもをかかえています。
「あっ、だいじょうぶ? ヒロシくんでしょ? だいじょうぶなの?」
「おにいちゃん、たすけて~。」
ヒロシは消えそうな声で言いました。顔は青ざめています。
「おい、カッパ、子どもをわたせ!」
ハピエルはどなりました。
「ケ~ケケケケケ。そうはいかないよ~。」
カッパはふわふわとういて、わらうばかりです。ハピエルはとくいな空手(からて)でカッパをやっつけようと思いました。
「よーし、にげるなカッパ!」
空手のわざをかけようとしますが、水の中なので、うまくいきません。
「ケ~ケケケケケ。やれるもんならやってみろ!」
「待て!」
ハピエルはカッパの足をつかまえました。でも、ぬるぬるしていて、するりとカッパはにげました。ヒロシはまだカッパのうでの中です。
(こうなったら、うでをねらおう。)
ハピエルは子どもをかかえたカッパのうでに近づいて、空手チョップでたたきました。すると、カッパのうでが切れて、子どもとうでがハピエルのところに流れてきました。
「だいじょうぶ?」
と子どもに声をかけましたが、子どもは答えません。カッパのうでがまだ子どもにからまっていて、子どもをはなしません。
(ああ、どうしよう。)
ハピエルが困っていると、カッパがさけびました。
「おい、うでを返せ。」
「なんだと。じゃあ、子どもをたすけたら、かえしてやる!」
ハピエルはどなりました。
「わかった。わかった。子どもはたすけてやる。おい、子どもよ、おれは猫じゃないからな! 早く消えろ!」
そのとたん、カッパのうでが子どもの体からはなれました。ブクブクブクブク……と音がして、子どもは上がっていきました。水の中から出たようです。
(ああ、よかった!)
とハピエルが思ったしゅんかん、カッパの切れたうでがカッパのところに流れていって、元のとおりにくっつきました。そして、ハピエルをつかまえようとしたのです。
「やめろ!」
ハピエルはさけびました。自分でも気がつかないうちに、カッパの頭の皿を空手チョップでたたいていました。皿がわれました。カッパはきゅうに元気がなくなりました。そして、カッパは見えなくなって、どこからかわかりませんが、虎(とら)のような生き物が出てきました。
「おれを見るな~。見ると~帰れないぞ~。」
はじめに聞いたひくい声でした。ハピエルは思わず目をつぶりました。しばらくしてから目を開けると、赤ちゃんのような小さい子どものような体が遠くに見えました。そのままハピエルは気をうしないました。
どのぐらい時間がたったでしょうか。気がつくと、ハピエルはお寺のカッパのミイラの前によこになっていました。となりには、ヒロシもいました。お母さんが
「ヒロシ! だいじょうぶ? だいじょうぶ?」
とひっしに声をかけていました。子どもは目を開けて、
「うん。うん。」
と言っていました。
「ああ、よかった…。お子さんもだいじょうぶですね。」
ハピエルはお母さんに声をかけました。お母さんはなみだ声で、
「だいじょうぶそうです。さっき、あなたとうちの子がきゅうにたおれて、ほんとうにびっくりしました。あなたはだいじょうぶですか。」
「はい、たぶん……。ご心配をおかけしました。」
ハピエルは、ゆめを見ていたのだろうか、と思いました。ハピエルはふしぎなできごとが信じられませんでした。でも、自分の手を見ると、なんと! 青いあざができていました。
(えっ、これ、空手チョップをした時にできたあざだ。やっぱりゆめじゃなかったんだ。)
そして、もう一度手を見ました。すると、手のひらに白いものがのっています。
(あれっ、この白いのは何? お皿(さら)のかけらみたい。えっ、もしかしてカッパのお皿……?)
ハピエルはこわくなりました。
(やっぱりほんとうのことだったんだ…。どうしよう…、なんだかこわい…。)
ハピエルは自分がふるえているのがわかりました。
(このままじゃ、こわくてたまらない。ああ、おしょうさんにそうだんしよう。)
ハピエルはお皿のかけらをにぎりしめて、おしょうさんをさがしました。おしょうさんはにわでそうじをしていました。
「おしょうさん、すみません。ちょっといいですか。」
ハピエルはふるえる声で言いました。おしょうさんは
「あれ、ふるえて、どうしましたか。」
と言いました。
「とにかく中に入ってください。」
と言われたハピエルは、お寺の中で おしょうさんに ふしぎなできごとを全部話しました。おしょうさんは言いました。
「カッパは人の気持ちがよくわかるんです。あなたがカッパの正体を知りたいと強
く思っていることがわかったのでしょう。でも、カッパは正体を知られたくなく
て、川に引きずりこんだのでしょう。とにかく、ぶじでよかった。」
「そうですか……。あの、このかけらはどうしたらいいですか。」
ハピエルはおしょうさんに、お皿のかけらを見せました。おしょうさんは言いました。
「そうですね。カッパはうでを切られた時、うでを返して、と言ったのですよね。じゃあ、かけらも返しておきましょう。そうすれば、カッパはもう一度頭にきれいなお皿を作ることができるでしょう。カッパにはそんなふしぎな力があるはずです。いっしょに川に行って、かけらを川に返しましょう。わたしはおきょうをあげますよ。」
こうしてハピエルは、おしょうさんといっしょに川にかけらを持っていきました。この日は天気がよくて、川はしずかに流れていました。
「おーい、カッパ。これを見つけてもう一度きれいなお皿を作ってくれ~。」
ハピエルは大きな声でカッパによびかけて、かけらを川に投げました。おしょうさんはおきょうをあげました。かけらが水面(すいめん)に当たると、水はぐるぐるとうずをまいてかけらをまきこみました。そして、かけらは見えなくなりました。おしょうさんのおきょうが終わると、川にできたうずは消えて、しずかな川にもどりました。ハピエルは、かけらがカッパのところに帰ったと思いました。おしょうさんも
「かけらはカッパのところに帰ったようですね。」
と言いました。
ハピエルは、あの虎のような生き物は何だったんだろう、赤ちゃんのような子どもは何だったんだろう、と思いました。
(あ、あの虎はカッパの正体だったのかな。中国の「水虎」は水に住む虎っていうことだったよね。でも、虎って猫と同じ種類(しゅるい)だったっけ。ということは、やっぱりあのミイラは猫なのかなあ。猫がカッパの正体なのかなあ。じゃあ、さいごにとおくに見えたあの子どもは? あっ、そういえば、むかし、食べ物がない時、ころされてしまった子どもたちがカッパの姿になったっていう伝説があったよね……。)
ハピエルはおしょうさんに、カッパの正体は何かと聞いてみました。おしょうさんは言いました。
「動物とか、子どもとか、いろいろな話があります。けれども、何が正しいか、今もわかっていないのです。」
けっきょく、カッパの正体ははっきりわかりませんでした。けれども、ハピエルは思いました。
(カッパも知られたくないって思ってるみたいだし、わからなくてもいいのかな。わからないほうがいろいろそうぞうできていいのかな。)
ハピエルは四季市のアパートに帰りました。駅の前では、カッパのぞうがにっこりわらってむかえてくれました。ここではカッパはかわいらしい顔です。
(ああ、帰ってきた……。)
とハピエルが思った時、どこかから声がしました。
「やあ、ハピエル、お帰りなさい……。」
ハピエルもその声に答えました。
「ただいま! 帰ってきたよ。きみの正体はわからなかったけどね……。」