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⑥ 偶然の出会い
Coming soon!
Coming soon!
「たまたま二人が一緒にいたんじゃないの?別に手を繋いでいたり、キスしていたりとかじゃないし。」
「ここで勝手に推測しているより、本人に直接聞いてみたら?」
バレンタインデーの顛末を聞いた姉は電話の中でこう言った。
ベレンが姉と話してから、もう何日か経った。アカリと直接話す勇気がなかなか出なかった。ヒロシとアカリのメッセージにもだんだん反応したくなくなった。会話が続かないように、「なるほど」「そっか」みたいな簡単なことしか返事しなかった。なぜなら、バレンタインデーに見た二人の姿を思い出したら、もう二度と頭から離れなくなったからだ。そして、心の底から悲しさが湧き上がってきた。「幸せそうだったな。あの二人は。絶対に邪魔になりたくない」とベレンは思って、ヒロシのことが好きだという気持ちを捨てることにした。でも、気持ちってコントロールできないものだから、やっぱりつらい思いから抜け出しにくい。「どうしよう。嫌な気持ちを切り替えないと!」とベレンは考えて、散歩に行ってきた。悲しいとき、町の景色を眺めながら歩くのが一番いいかもしれない。
歩けば歩くほど気分が少しよくなったというような気がしたベレンは、ついに大きなデパートに着いた。ショッピングもいいかもと思って、中に入った。3階では人気そうな本屋があり、ここに行くことにした。ベレンはもともと読書が好きだけど、日本語で読むのはまだ難しかった。スペイン語なら、様々な作品に興味があり、時々静かに本と一緒に時間を過ごすことが好きだった。日本語の場合は、マンガみたいなものなら、問題ないが、実際にもっと複雑な小説を読めるようになりたかったんだ。なので、時々本屋に行って、人間ドラマ、ミステリーなどの小説の本棚にある文庫とその中身を見たり、さっと読んだりしてみていた。そして、タイトルを読んでから、何についての話かなと思って、ストーリーを想像してみるのが好きだった。今日も本棚を通って、色々なタイトルを読みながら、中身について考えてみた。でも、なかなか集中できなかった。どんなタイトルでも、結局ラブストーリーじゃないかと思うようになった。その時、「同時代ゲーム」という文庫が目についた。それを出して、表紙にある絵をみた。抽象的な絵画作品のようだった。砂の景色の中に砂からできた大きい目があって、その目の下に涙。恋愛の本の表紙じゃなさそうだけど、なぜか心に響いた。砂であっても時々悲しくなるだろう。
「おい!ベレンじゃないか」と聞き覚えのある声がした。短髪で、明るい表情の女性だった。こんなところで出会ったのか。やっぱり運が悪い。
「久しぶりだな!何してるの?本を買うの?」とアカリが言った。
「いや、別に。ただ見ているだけ」
「そっか。どんな本なの?」
アカリがベレンの手にある本を取って、表紙を見た。
「へー、大江健三郎か」
言葉が出てこられないベレンが目を伏せた。
「不思議な絵の表紙だね」とアカリがいつも通り笑顔で言った。
「そうかも。でも、面白そう。読んだことある?」
実はアカリと話す気がなかったけど、会話をうまく終えることができなかった。
「いや、聞いたことあるけど。ベレンがそんな小説が好き?」
「もともと小説が好きだけど、普段はスペイン語で読んでいる。でも、この本の場合はタイトルしかわからない。中身を見ると、日本語を勉強したことないというような気がするよ」
「わかるよ」とアカリが笑った。
「実はね、あたしにとっても、大江健三郎のものは分かりにくいよ。日本語は母語なのに」
会話が続けば続くほど、失恋のことを忘れるぐらいベレンの気分がよくなってきた。確かに、スペイン語の国際交流イベントの時からベレンとアカリは親しい友だちになった。
本屋を出た二人は一緒にコーヒーを飲みに行った。コーヒーショップには開いている席がなかったので、注文を取ったあと、またデパートの中を歩くことにした。そして、歩いている際、アカリは急に会話のテーマを変えた。
「あのさ。実はね、私明日デートに行く」
「デート?」
「うん。バレンタインデーに告白したね。その時から付き合い始めた」
ベレンはアカリが言ったことを聞いた途端、心臓が止まりそうになった。またバレンタインデーの二人の姿が頭の中に浮かんでいた。やっぱりアカリとヒロシが付き合っている。
「だからデパートにきて、何か買おうかなと思って。デートのためにね」
ベレンは涙が出そうになったけど、何とか我慢した。こんなところで泣くわけにはいかないだろう。
「そっか」と力のない声で答えた。
「どうしたの?なんでそんな顔?」
ベレンはアカリとの会話から長い間逃げた。長すぎるかもしれない。もう逃げ道がなかった。
「実は、バレンタインデーのことって、見たよ」
「どういうこと?」
アカリはまったくわからない顔をした。
「アカリと……ヒロシ」
ヒロシの名前が口から出てこなくなったけど、ベレンは溜息をつき、文章を終えることができた。
「へー、ほんと?じゃあ、なんで挨拶をしに来なかったの?」
「だって、告白だから、邪魔になりたくなかった」
アカリの目が点になって、飲んでいたコーヒーでむせた。
「何言ってるの、ベレン!」とアカリが大きい声で笑い始めた。
「告白ってヒロシに関係ないよ。相手は他の人だよ」
「えっ、マジで?」
「当たり前じゃん!私とヒロシってただ幼馴染だから」
ベレンは胸をなで下して、思わずアカリをギュッと抱きしめた。
「ここで勝手に推測しているより、本人に直接聞いてみたら?」
バレンタインデーの顛末を聞いた姉は電話の中でこう言った。
ベレンが姉と話してから、もう何日か経った。アカリと直接話す勇気がなかなか出なかった。ヒロシとアカリのメッセージにもだんだん反応したくなくなった。会話が続かないように、「なるほど」「そっか」みたいな簡単なことしか返事しなかった。なぜなら、バレンタインデーに見た二人の姿を思い出したら、もう二度と頭から離れなくなったからだ。そして、心の底から悲しさが湧き上がってきた。「幸せそうだったな。あの二人は。絶対に邪魔になりたくない」とベレンは思って、ヒロシのことが好きだという気持ちを捨てることにした。でも、気持ちってコントロールできないものだから、やっぱりつらい思いから抜け出しにくい。「どうしよう。嫌な気持ちを切り替えないと!」とベレンは考えて、散歩に行ってきた。悲しいとき、町の景色を眺めながら歩くのが一番いいかもしれない。
歩けば歩くほど気分が少しよくなったというような気がしたベレンは、ついに大きなデパートに着いた。ショッピングもいいかもと思って、中に入った。3階では人気そうな本屋があり、ここに行くことにした。ベレンはもともと読書が好きだけど、日本語で読むのはまだ難しかった。スペイン語なら、様々な作品に興味があり、時々静かに本と一緒に時間を過ごすことが好きだった。日本語の場合は、マンガみたいなものなら、問題ないが、実際にもっと複雑な小説を読めるようになりたかったんだ。なので、時々本屋に行って、人間ドラマ、ミステリーなどの小説の本棚にある文庫とその中身を見たり、さっと読んだりしてみていた。そして、タイトルを読んでから、何についての話かなと思って、ストーリーを想像してみるのが好きだった。今日も本棚を通って、色々なタイトルを読みながら、中身について考えてみた。でも、なかなか集中できなかった。どんなタイトルでも、結局ラブストーリーじゃないかと思うようになった。その時、「同時代ゲーム」という文庫が目についた。それを出して、表紙にある絵をみた。抽象的な絵画作品のようだった。砂の景色の中に砂からできた大きい目があって、その目の下に涙。恋愛の本の表紙じゃなさそうだけど、なぜか心に響いた。砂であっても時々悲しくなるだろう。
「おい!ベレンじゃないか」と聞き覚えのある声がした。短髪で、明るい表情の女性だった。こんなところで出会ったのか。やっぱり運が悪い。
「久しぶりだな!何してるの?本を買うの?」とアカリが言った。
「いや、別に。ただ見ているだけ」
「そっか。どんな本なの?」
アカリがベレンの手にある本を取って、表紙を見た。
「へー、大江健三郎か」
言葉が出てこられないベレンが目を伏せた。
「不思議な絵の表紙だね」とアカリがいつも通り笑顔で言った。
「そうかも。でも、面白そう。読んだことある?」
実はアカリと話す気がなかったけど、会話をうまく終えることができなかった。
「いや、聞いたことあるけど。ベレンがそんな小説が好き?」
「もともと小説が好きだけど、普段はスペイン語で読んでいる。でも、この本の場合はタイトルしかわからない。中身を見ると、日本語を勉強したことないというような気がするよ」
「わかるよ」とアカリが笑った。
「実はね、あたしにとっても、大江健三郎のものは分かりにくいよ。日本語は母語なのに」
会話が続けば続くほど、失恋のことを忘れるぐらいベレンの気分がよくなってきた。確かに、スペイン語の国際交流イベントの時からベレンとアカリは親しい友だちになった。
本屋を出た二人は一緒にコーヒーを飲みに行った。コーヒーショップには開いている席がなかったので、注文を取ったあと、またデパートの中を歩くことにした。そして、歩いている際、アカリは急に会話のテーマを変えた。
「あのさ。実はね、私明日デートに行く」
「デート?」
「うん。バレンタインデーに告白したね。その時から付き合い始めた」
ベレンはアカリが言ったことを聞いた途端、心臓が止まりそうになった。またバレンタインデーの二人の姿が頭の中に浮かんでいた。やっぱりアカリとヒロシが付き合っている。
「だからデパートにきて、何か買おうかなと思って。デートのためにね」
ベレンは涙が出そうになったけど、何とか我慢した。こんなところで泣くわけにはいかないだろう。
「そっか」と力のない声で答えた。
「どうしたの?なんでそんな顔?」
ベレンはアカリとの会話から長い間逃げた。長すぎるかもしれない。もう逃げ道がなかった。
「実は、バレンタインデーのことって、見たよ」
「どういうこと?」
アカリはまったくわからない顔をした。
「アカリと……ヒロシ」
ヒロシの名前が口から出てこなくなったけど、ベレンは溜息をつき、文章を終えることができた。
「へー、ほんと?じゃあ、なんで挨拶をしに来なかったの?」
「だって、告白だから、邪魔になりたくなかった」
アカリの目が点になって、飲んでいたコーヒーでむせた。
「何言ってるの、ベレン!」とアカリが大きい声で笑い始めた。
「告白ってヒロシに関係ないよ。相手は他の人だよ」
「えっ、マジで?」
「当たり前じゃん!私とヒロシってただ幼馴染だから」
ベレンは胸をなで下して、思わずアカリをギュッと抱きしめた。