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② タンデムパートナー
Coming soon!
Coming soon!
イベントの次の日の夜、早速あかりからメッセージが届いた。
[昨日の話の続きだけど、来週末の日曜日、お昼にご飯に行かない?日本食レストランに連れていってあげる!ひろしも一緒で良いかしら?]
[もちろんです。楽しみにしています!]
来週末が待ち遠しい。スマホの画面を見つめ、ワクワクしながら布団にくるまった。
集合場所は近くの駅前。初めていく場所で、人も随分多かった。少しだけ迷ってうろうろしていると、聞き覚えのある声がした。
「ベレン、こっちこっち!」遠くから女の子が楽しそうに手を振っている。あかりだ。隣にはひろしもいる。集合時間の少し前だが、二人とも先についていたみたいだ。日本人らしい、時間に厳格な行動に素直に感心しながら、ベレンは二人の傍に駆け寄った。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
ひろしがにこにこと笑いながら答える
「いや、そんなことないよ。俺らも今ついたところ」
「なら良かったです」
あかりはもう先に歩き出していた。
「ちょっと、二人とも、早くいこうよ!」
今日の日本食レストランはあかりが予約してくれたみたいだ。
「お気に入りのお店なの。お寿司がとびきり美味しいところ」
スシ、名前しか聞いたことのない異国の食べ物だ。外国人にも人気らしい。
日本に来て少し経つが、ベレンはまだ食べたことがなかった。
「スシ、とは生の魚を食べるのですよね?」
「そうよ。海外では考えられないでしょう?生魚なんて」
いたずらっぽく笑いながらあかりが答える
そうなのだ。ベレンはそもそもあまり魚を食べる習慣がなく、特に好きでもなかった。
「そうです、だから、少しだけ、不安です。火を通さない魚なんて…食あたりになりそうです」
ひろしはにっこりと笑って、教えてくれた。
「大丈夫だよ。アルゼンチンで食べている魚は川魚が多いみたいだけど、寿司は海の魚が主だからね」
彼の笑顔は人を安心させる力があるみたいだ。
他愛もない話をしているうちに、店についたみたいだ。
「『百聞は一見にしかず』。日本の古い諺よ。まずは食べてみなさい!」
見慣れない暖簾に少しばかり尻込みするベレンをあかりは店の中に押し込んだ。その後ろからひろしが入っていった。
席に着くと、あかりはベレンに、
「料理だけど、こちらで選んで良い?いくつかおすすめがあるのよ」といい、慣れた様子で次々に料理を注文した。
店内からは不思議な匂いが漂っている。指摘すると、
「ああ、これは酢飯の匂いだよ。寿司は酢飯の上に刺身がのっているんだ」とひろしが教えてくれた。
あかりは大きな円筒形のコップに並々と緑色の茶を入れて持ってきた。
「寿司を食べるとのどが乾くから、おおきな湯呑でたくさんお茶を飲むのよ」
酢飯、湯呑…入店して数分で知らない事だらけだ。そうこうしているうちに、あかりが頼んだ料理が次々に届き始めた。小さな魚の切り身が同じく小さく丸まったご飯の上に乗っている。
「これがスシ、ですか…不思議な見た目です。どうやって食べるのですか?」
ひろしが食べ方を実演しながら教えてくれた。
「こうして…醤油につけるんだ。そして、一口で食べる」
「なるほど…たくさんの種類がありますね。どれから食べたらいいのでしょう?」
あかりが待ってましたとばかりに答えた。
「おすすめは、これとこれ、サーモンと鮪、それに穴子ね!私は穴子が一番好き!」
「サーモンはわかります。マグロは、ツナのことでしょう?でも、アナゴ…?とは?何でしょう?」
ひろしが手元のスマートフォンで画像検索してくれた。
「穴子はこんな魚だよ。確かに日本近海にしかいないから、知らないのも無理はないかも」
そこには龍のような、鋭い牙をもつ獰猛そうな魚が映っていた。
「すごい…」
あかりがじれったそうにいう
「まずは食べてみなさいよ!話はそれから!」
あかりが選んでくれた三種類、ひとつずつ食べてはベレンはその美味しさに驚愕した。
「どれも美味しい!特に穴子!こんな怖い見た目なのにとても美味しいです!」
あかりとひろしは満足そうに頷いている。
それから、ベレンは二人のおすすめを次々に食べ、お喋りを続けた。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
店からの帰り道、あかりが思わぬ話を持ち出してきた。
「ひろし、あなた、いまスペイン語を勉強中でしょ?苦戦しているみたいじゃない」
ひろしは頷く。
「うん、まあ…」
「で、ベレンはもちろん日本語を勉強中よね?」
「ええ、でも、まだ難しいところも多いです」
あかりの真意を掴めないまま、ベレンは応じた。
あかりは続ける。
「で、私、思いついたの。ひろしがベレンに日本語を教えて、ベレンがひろしにスペイン語を教えればいいじゃない!こういうの、タンデムパートナーって言うのよ」
ベレンとひろしは驚いたようにお互いを見た。
しばしの沈黙の後、ひろしが少しだけ恥ずかしそうにはにかんで言った。
「ええと、もしベレンさえよければ、お願いできないかな?」
「はい、私でよければ…こちらこそよろしくお願いします」
あかりはずっと嬉しそうだ。
「じゃあ決まりね!二人とも、上手くやりなさいよ!」
その日はそのまま解散になり、次の週末から一週間に一度、ひろしとベレンのタンデムパートナーとしてのレッスンが始まった。
[昨日の話の続きだけど、来週末の日曜日、お昼にご飯に行かない?日本食レストランに連れていってあげる!ひろしも一緒で良いかしら?]
[もちろんです。楽しみにしています!]
来週末が待ち遠しい。スマホの画面を見つめ、ワクワクしながら布団にくるまった。
集合場所は近くの駅前。初めていく場所で、人も随分多かった。少しだけ迷ってうろうろしていると、聞き覚えのある声がした。
「ベレン、こっちこっち!」遠くから女の子が楽しそうに手を振っている。あかりだ。隣にはひろしもいる。集合時間の少し前だが、二人とも先についていたみたいだ。日本人らしい、時間に厳格な行動に素直に感心しながら、ベレンは二人の傍に駆け寄った。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
ひろしがにこにこと笑いながら答える
「いや、そんなことないよ。俺らも今ついたところ」
「なら良かったです」
あかりはもう先に歩き出していた。
「ちょっと、二人とも、早くいこうよ!」
今日の日本食レストランはあかりが予約してくれたみたいだ。
「お気に入りのお店なの。お寿司がとびきり美味しいところ」
スシ、名前しか聞いたことのない異国の食べ物だ。外国人にも人気らしい。
日本に来て少し経つが、ベレンはまだ食べたことがなかった。
「スシ、とは生の魚を食べるのですよね?」
「そうよ。海外では考えられないでしょう?生魚なんて」
いたずらっぽく笑いながらあかりが答える
そうなのだ。ベレンはそもそもあまり魚を食べる習慣がなく、特に好きでもなかった。
「そうです、だから、少しだけ、不安です。火を通さない魚なんて…食あたりになりそうです」
ひろしはにっこりと笑って、教えてくれた。
「大丈夫だよ。アルゼンチンで食べている魚は川魚が多いみたいだけど、寿司は海の魚が主だからね」
彼の笑顔は人を安心させる力があるみたいだ。
他愛もない話をしているうちに、店についたみたいだ。
「『百聞は一見にしかず』。日本の古い諺よ。まずは食べてみなさい!」
見慣れない暖簾に少しばかり尻込みするベレンをあかりは店の中に押し込んだ。その後ろからひろしが入っていった。
席に着くと、あかりはベレンに、
「料理だけど、こちらで選んで良い?いくつかおすすめがあるのよ」といい、慣れた様子で次々に料理を注文した。
店内からは不思議な匂いが漂っている。指摘すると、
「ああ、これは酢飯の匂いだよ。寿司は酢飯の上に刺身がのっているんだ」とひろしが教えてくれた。
あかりは大きな円筒形のコップに並々と緑色の茶を入れて持ってきた。
「寿司を食べるとのどが乾くから、おおきな湯呑でたくさんお茶を飲むのよ」
酢飯、湯呑…入店して数分で知らない事だらけだ。そうこうしているうちに、あかりが頼んだ料理が次々に届き始めた。小さな魚の切り身が同じく小さく丸まったご飯の上に乗っている。
「これがスシ、ですか…不思議な見た目です。どうやって食べるのですか?」
ひろしが食べ方を実演しながら教えてくれた。
「こうして…醤油につけるんだ。そして、一口で食べる」
「なるほど…たくさんの種類がありますね。どれから食べたらいいのでしょう?」
あかりが待ってましたとばかりに答えた。
「おすすめは、これとこれ、サーモンと鮪、それに穴子ね!私は穴子が一番好き!」
「サーモンはわかります。マグロは、ツナのことでしょう?でも、アナゴ…?とは?何でしょう?」
ひろしが手元のスマートフォンで画像検索してくれた。
「穴子はこんな魚だよ。確かに日本近海にしかいないから、知らないのも無理はないかも」
そこには龍のような、鋭い牙をもつ獰猛そうな魚が映っていた。
「すごい…」
あかりがじれったそうにいう
「まずは食べてみなさいよ!話はそれから!」
あかりが選んでくれた三種類、ひとつずつ食べてはベレンはその美味しさに驚愕した。
「どれも美味しい!特に穴子!こんな怖い見た目なのにとても美味しいです!」
あかりとひろしは満足そうに頷いている。
それから、ベレンは二人のおすすめを次々に食べ、お喋りを続けた。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
店からの帰り道、あかりが思わぬ話を持ち出してきた。
「ひろし、あなた、いまスペイン語を勉強中でしょ?苦戦しているみたいじゃない」
ひろしは頷く。
「うん、まあ…」
「で、ベレンはもちろん日本語を勉強中よね?」
「ええ、でも、まだ難しいところも多いです」
あかりの真意を掴めないまま、ベレンは応じた。
あかりは続ける。
「で、私、思いついたの。ひろしがベレンに日本語を教えて、ベレンがひろしにスペイン語を教えればいいじゃない!こういうの、タンデムパートナーって言うのよ」
ベレンとひろしは驚いたようにお互いを見た。
しばしの沈黙の後、ひろしが少しだけ恥ずかしそうにはにかんで言った。
「ええと、もしベレンさえよければ、お願いできないかな?」
「はい、私でよければ…こちらこそよろしくお願いします」
あかりはずっと嬉しそうだ。
「じゃあ決まりね!二人とも、上手くやりなさいよ!」
その日はそのまま解散になり、次の週末から一週間に一度、ひろしとベレンのタンデムパートナーとしてのレッスンが始まった。