Coming soon!
Coming soon!
『台風12号は強い勢力を維持したまま本州を縦断し、明日午後には日本海側に抜ける予定で…』
アナウンサーの声が心なしか冷酷に聞こえる。
「ふう、ついてないなあ…」
ベレンはそう呟いてペンションの食堂のテレビを眺めた。
せっかくの長期休暇に、大学の友人であるひろしやあかりと一緒に山登りに来たというのに、恐らく明日は山には行けないだろう。いや、大雨が降った後とあればしばらくは難しそうだ。
「しょうがないよベレン、この雨だもん。まあ明日は旅館でゆっくりしよう?」
あかりはそう言って夕食の焼き魚の骨を器用に取り除いている。
「そうそう、せっかくの休みにこんな長閑な場所でゆっくり過ごせるなんてそれもまたいいじゃないか」
ひろしがにっこりと微笑む。
二人がどんなに慰めてもこの旅行の言い出しっぺであるベレンの気持ちは晴れなかった。二人にも登山の面白さを知ってほしかったのに…テレビ中の気象図にある台風のマークを、ベレンは恨めしそうに見つめるばかりだ。
外の雨は強くなり、木造のペンションの窓ガラスは音を立てて震えた。
「小谷村でこんな大雨は珍しいね」
厨房から出てきたオーナーはそう呟いて申し訳なさそうに首をすくめた。
「そうなんですか?」
「ああ、日本アルプスがあるからね、台風や雨雲が西から来てもほとんど防がれるものなんだ」
だが今回は違った。大きな勢力となった台風12号は、名古屋方面から上陸するとまっすぐに本州を縦断しながらこの長野県を通過しようとしているのだ。
「まあ、お嬢ちゃんたちはツイてなかったね。明日は美味しいものでも作るからさ、元気出して」
「ありがとうございます」
ベレンはオーナーの心遣いがありがたかった。天候に恵まれなかったのは本当に不運としか言いようがなかった。
そのままだらだらとおしゃべりをしていたが、消灯時間になり、ベレンたちは部屋に戻って布団に入った。
雨と風はどんどん強くなっていた。