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カフェ・クロニクル
ベレンの悩み
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「はぁ…」
今月また電気代が上がったな…
支払(しはら)い請求書(せいきゅうしょ)(お金を払(はら)う必要(ひつよう)があることを伝(つた)える書類)を見て大きく息(いき)をはいたベレン。
最近、ベレンはどうしたらよいか不安に思っている。
何を隠(かく)そう、日本で勉強する上で必要な高い費用(ひよう)のためだ。
奨学金(しょうがくきん)(勉強をサポートしてくれるお金)をもらって日本で勉強するとはいえ、それはやっと授業を受(う)けるためのお金を払えるぐらいだ。住むためのお金や生活のためのお金など、授業を受(う)けるためのお金以外の出ていくお金は、全部(ぜんぶ)ベレンが解決(かいけつ)しなければならない。それに、ベレンは今、東京の学校に通っている。日本で最(もっと)も物の値段(ねだん)が高い街(まち)に住めば、生活のためのお金の出はさらに多い。
それを知った上でお金をためて日本に来たのだが、実際(じっさい)に日本に来たら、思っていないところでお金を使うことがやはり多かった。
これからまだ一年ほど日本にいるベレンにとって、それは不安に感(かん)じるものだ。
「はぁぁ…」
またため息がでる。
「このままじゃダメだ。そろそろアルバイトとか始めないと。」
日本に来てすぐにアルバイトを始めないのには理由があるのだ。
短(みじか)い間の交換留学(こうかんりゅうがく)(学校が決(き)めたプログラムで、学生が別の学校に行ったり、他(ほか)の学校の学生が自分の学校に来たりする留学のこと)とはいえ、新しい生活に慣(な)れるまでに時間がかかるし、毎日日本語で勉強し、生活するのも簡単(かんたん)なことではない。だから、できるだけ学校での勉強に集中するよう、最初(さいしょ)はアルバイトとかちっとも考えなかった。
しかし、厳(きび)しい今の状況(じょうきょう)を目の前にして、日本で留学している間、どう生きていくのかをもう一度考えなければならないのだ。アルバイトはしない、という考えはもうやめるしかないようだ。
「よし!もっと自由に考えよう!」
自分の顔(かお)を叩(たた)き、元気を出そうとするベレン、やっと決めたようだ。
「でも、どんなバイトがいいかな…」
アルバイトをすることを決めたが、はっきりと何をしたらいいのかがまだわからない。
元気になったばかりのベレンは、また落(お)ち込(こ)んでしまった。
アルバイトをするといっても、何でもいいというわけではないのだ。
まず、学校の勉強はやはり一番大事なので、長く働(はたら)きすぎて勉強ができなくなってはいけない。だから、長い時間働くアルバイトはしないことだ。
また、とても難(むずか)しい仕事もなし。理由は先ほどと同じで、勉強の時間が取(と)れなくなるからだ。
それから、最も大事なのは給料(働いたことでもらうお金)だ。お金のために働こうとするのに、給料がとても低(ひく)くても困(こま)るだろう。
「あぁぁ!もうわからない!」
ベレンは考え込んで、困った顔をする。
「誰(だれ)かに相談(そうだん)したいなぁ…」
「ベレン!」
後ろを見ると、手を振(ふ)りながら歩いてくるアカリがいた。
アカリとは、スペイン語の国際交流(こくさいこうりゅう)イベント(いろいろな国の人と会うイベント)で会った。
出会って間もないが、アカリはいつも元気で明るく、年齢(ねんれい)が一緒だし、二人はすぐに親しくなった。
「授業もう終わった?ちょうど今ご飯に行くところだけど、一緒に行かない?」
いつもの明るいにっこりした顔だ。
「ちょっとやることがあるから、今日は難しいんだ。」
「ベレン、なんか元気ないね、どうしたの?」
ベレンは答えず、ただ前に歩く。
「あたしに何か手伝えることはない?」
「勉強とかで困ってる?」
アカリはもちろん諦(あきら)めず、ベレンの後ろを追(お)う。
「ベレン、なんか言ってよ。」
「もしかしたら、あたし力になれるかもしれないよ!」
しかたなく、ベレンはその場で止まった。
本当に、この子のやる気には勝(か)てないな。
「実(じつ)は、不安に思っていることがあるんだ。」
「ずっと誰かに相談したいと思っている。」
「でも、すぐに終わる話じゃないけど、この後時間ある?」
やっと話してくれたベレンを見て、アカリはうれしそうな顔をした。
「もちろんよ!」
アカリは胸(むね)を強く叩く。
「行こうか!どこか探(さが)して、ゆっくり話そう。」
「ここだ!」
「ほら、早く来て!」
アカリは店のドアを片方の手で押(お)し開けながら、後ろで立ったままのベレンに向(む)かって手を振って呼(よ)ぶ。
「ここはなんだ…」
ガラスでできている花屋(花を売っているお店)のようなこの店にベレンは驚(おどろ)いている。
紫陽花(あじさい)が咲(さ)く時期なので、店の周(まわ)りに青と紫(むらさき)の紫陽花がお互(たが)いにきれいに見え、店の周りを花が天然のフェンスを作っている。そのフェンスの後ろには、大きな窓(まど)がいくつもあり、店の中を見ると、天井(てんじょう)からぶら下がっている蔓(つる)がある。さらに奥(おく)を見ると、ほとんど天井と同じ高さの木でできた四角(しかく)い棚(たな)が壁(かべ)にかけてあり、その棚には、驚くほどの数(かず)の観葉植物(かんようしょくぶつ)(部屋に置(お)く植物)が並(なら)んでいる。観葉植物はそれぞれ違(ちが)うが、驚くことに、それらが置かれた位置(いち)が変(へん)だと感じず、ここだけの特別なバランスが感じられる。
まだ早いためか、店の中にはあまり客(きゃく)はおらず、店員たちはきちんと注文を取(と)ったり、食事を運んだりしている。
店の外は暑(あつ)くてなにか忙(いそが)しい感じがしているが、店の中はみんな穏(おだ)やかに笑(わら)っていて、落ち着いた雰囲気(ふんいき)で少し場に合(あ)わない感じがした。
「ここにこんな店があるなんて、知らなかった…」
まだ目の前の光景(こうけい)に驚いているベレンは呟(つぶや)いた。
「素敵(すてき)なお店でしょ~」
「ほら、中に入って。」
アカリはにっこり笑って手を差し出し、動かずにいるベレンを店の中に引きずり込んだ。
「いらっしゃいませ!」
店の中に入ると、すぐに冷房からの冷たい風を感じ、べたついていた肌がすぐにすっきりした。
なんて気持ちがいい温度差だろう。
まだ夏真っ盛りではないが、最近は気温が高く、少し動いただけでおでこに汗をかいてしまい、外にいることが大変になっている。この冷たい空気は、店の中を特別な場所のように感じさせる。
「これは…」
さっき窓から見えた店の中の緑は、実際に店に入ってみるとほんの一部にすぎないことがわかる。
カウンターの横から窓の前まで、店のいたるところにいろいろな観葉植物がある。
「まるで植物園みたい…」
ベレンは思わずあちこちにある緑を見ていた。
「何をボーッとしているの?」
ベレンの肩をポン叩きながら、アカリが尋ねた。
「いや、なんかここは植物園みたいだな…って。」
「プッ。」
アカリは笑いをこらえきれなかった。
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
一人の店員が笑顔で迎えてくれた。
「あ、二名です!」
「では、空いているお好きな席へどうぞ。」
「はい。」
「ベレン、どこがいい?」
「うーん、どこがいいかな…」
二人はしばらく店の中を見渡している。
「あそこはどう?」
アカリはとても大きなブラッサイアが置かれている隅にある窓に近い席をさしながら尋ねた。
「うん!いいと思う!」
2人は窓の近くに座った。
「さあ、教えて!何を不安に思っているの?」
アカリは待てずに尋ねた。
すると、ベレンは最近ずっと不安に思っている経済面の問題やアルバイト探しのことを全部話した。
「なるほど~つまり今はどんなアルバイトにしたらいいか迷ってるってことね?」
ベレンはうなずいた。
「じゃあ、この店はどう思う?」
アカリはニコニコして言った。
「え?急に?」
「うーん…いいお店だと思うよ。とても落ち着けて、リラックスできる。なんで急に聞くの?」
「もし、この店みたいなところでアルバイトできたらどう思う?」
「えっ?」
ベレンはびっくりした。
「それはありがたい話だけど…でもこんなところで働いたことがないし、お客さんと接した経験もなくて、今の私の日本語レベルじゃ足りないんじゃないかなって…」
ベレンは自信なく頭を下げた。
「何言ってんのよ!ベレンの日本語力はもう十分だよ!」
「もっと自分に自信を持たなくちゃ!」
「まぁ、もちろんベレンがどう思うかだよ。」
「でも、もし興味があるなら、私が紹介できるってこと!」
アカリは目を大きくしてベレンの返事を待っている。
「ありがとう。」
「うーん、じゃあこの店で働くってことになるの?」
「違うよ!」
アカリは笑いそうになった。
「でも同じようなカフェなんだ。というか、私が今アルバイトしてるところなのだけど。」
「そこの雰囲気もこの店と似ているの。」
「さっき、アルバイトをすると勉強できなくなるんじゃないかって心配してたでしょ?」
「その店は、お昼の12時過ぎからお店をあけるから。週2回休みがあるし、働く時間はあんまり長くないの。」
「働く日時も調整できるから、ベレンにちょうどじゃないかと思ったの!」
アカリの話を聞きながら、ベレンはだんだん興味を持ち始めた。
「でも…」
「でも何?」
「でも、コーヒー豆については少し勉強しないと…」
「最初は少し時間がかかるかもしれないけど、私が手伝うから心配ない!」
アカリは自信を持って言った。
「急いで決めなくてもいいから。ゆっくり考えてくれればいいの。」
今月また電気代が上がったな…
支払(しはら)い請求書(せいきゅうしょ)(お金を払(はら)う必要(ひつよう)があることを伝(つた)える書類)を見て大きく息(いき)をはいたベレン。
最近、ベレンはどうしたらよいか不安に思っている。
何を隠(かく)そう、日本で勉強する上で必要な高い費用(ひよう)のためだ。
奨学金(しょうがくきん)(勉強をサポートしてくれるお金)をもらって日本で勉強するとはいえ、それはやっと授業を受(う)けるためのお金を払えるぐらいだ。住むためのお金や生活のためのお金など、授業を受(う)けるためのお金以外の出ていくお金は、全部(ぜんぶ)ベレンが解決(かいけつ)しなければならない。それに、ベレンは今、東京の学校に通っている。日本で最(もっと)も物の値段(ねだん)が高い街(まち)に住めば、生活のためのお金の出はさらに多い。
それを知った上でお金をためて日本に来たのだが、実際(じっさい)に日本に来たら、思っていないところでお金を使うことがやはり多かった。
これからまだ一年ほど日本にいるベレンにとって、それは不安に感(かん)じるものだ。
「はぁぁ…」
またため息がでる。
「このままじゃダメだ。そろそろアルバイトとか始めないと。」
日本に来てすぐにアルバイトを始めないのには理由があるのだ。
短(みじか)い間の交換留学(こうかんりゅうがく)(学校が決(き)めたプログラムで、学生が別の学校に行ったり、他(ほか)の学校の学生が自分の学校に来たりする留学のこと)とはいえ、新しい生活に慣(な)れるまでに時間がかかるし、毎日日本語で勉強し、生活するのも簡単(かんたん)なことではない。だから、できるだけ学校での勉強に集中するよう、最初(さいしょ)はアルバイトとかちっとも考えなかった。
しかし、厳(きび)しい今の状況(じょうきょう)を目の前にして、日本で留学している間、どう生きていくのかをもう一度考えなければならないのだ。アルバイトはしない、という考えはもうやめるしかないようだ。
「よし!もっと自由に考えよう!」
自分の顔(かお)を叩(たた)き、元気を出そうとするベレン、やっと決めたようだ。
「でも、どんなバイトがいいかな…」
アルバイトをすることを決めたが、はっきりと何をしたらいいのかがまだわからない。
元気になったばかりのベレンは、また落(お)ち込(こ)んでしまった。
アルバイトをするといっても、何でもいいというわけではないのだ。
まず、学校の勉強はやはり一番大事なので、長く働(はたら)きすぎて勉強ができなくなってはいけない。だから、長い時間働くアルバイトはしないことだ。
また、とても難(むずか)しい仕事もなし。理由は先ほどと同じで、勉強の時間が取(と)れなくなるからだ。
それから、最も大事なのは給料(働いたことでもらうお金)だ。お金のために働こうとするのに、給料がとても低(ひく)くても困(こま)るだろう。
「あぁぁ!もうわからない!」
ベレンは考え込んで、困った顔をする。
「誰(だれ)かに相談(そうだん)したいなぁ…」
「ベレン!」
後ろを見ると、手を振(ふ)りながら歩いてくるアカリがいた。
アカリとは、スペイン語の国際交流(こくさいこうりゅう)イベント(いろいろな国の人と会うイベント)で会った。
出会って間もないが、アカリはいつも元気で明るく、年齢(ねんれい)が一緒だし、二人はすぐに親しくなった。
「授業もう終わった?ちょうど今ご飯に行くところだけど、一緒に行かない?」
いつもの明るいにっこりした顔だ。
「ちょっとやることがあるから、今日は難しいんだ。」
「ベレン、なんか元気ないね、どうしたの?」
ベレンは答えず、ただ前に歩く。
「あたしに何か手伝えることはない?」
「勉強とかで困ってる?」
アカリはもちろん諦(あきら)めず、ベレンの後ろを追(お)う。
「ベレン、なんか言ってよ。」
「もしかしたら、あたし力になれるかもしれないよ!」
しかたなく、ベレンはその場で止まった。
本当に、この子のやる気には勝(か)てないな。
「実(じつ)は、不安に思っていることがあるんだ。」
「ずっと誰かに相談したいと思っている。」
「でも、すぐに終わる話じゃないけど、この後時間ある?」
やっと話してくれたベレンを見て、アカリはうれしそうな顔をした。
「もちろんよ!」
アカリは胸(むね)を強く叩く。
「行こうか!どこか探(さが)して、ゆっくり話そう。」
「ここだ!」
「ほら、早く来て!」
アカリは店のドアを片方の手で押(お)し開けながら、後ろで立ったままのベレンに向(む)かって手を振って呼(よ)ぶ。
「ここはなんだ…」
ガラスでできている花屋(花を売っているお店)のようなこの店にベレンは驚(おどろ)いている。
紫陽花(あじさい)が咲(さ)く時期なので、店の周(まわ)りに青と紫(むらさき)の紫陽花がお互(たが)いにきれいに見え、店の周りを花が天然のフェンスを作っている。そのフェンスの後ろには、大きな窓(まど)がいくつもあり、店の中を見ると、天井(てんじょう)からぶら下がっている蔓(つる)がある。さらに奥(おく)を見ると、ほとんど天井と同じ高さの木でできた四角(しかく)い棚(たな)が壁(かべ)にかけてあり、その棚には、驚くほどの数(かず)の観葉植物(かんようしょくぶつ)(部屋に置(お)く植物)が並(なら)んでいる。観葉植物はそれぞれ違(ちが)うが、驚くことに、それらが置かれた位置(いち)が変(へん)だと感じず、ここだけの特別なバランスが感じられる。
まだ早いためか、店の中にはあまり客(きゃく)はおらず、店員たちはきちんと注文を取(と)ったり、食事を運んだりしている。
店の外は暑(あつ)くてなにか忙(いそが)しい感じがしているが、店の中はみんな穏(おだ)やかに笑(わら)っていて、落ち着いた雰囲気(ふんいき)で少し場に合(あ)わない感じがした。
「ここにこんな店があるなんて、知らなかった…」
まだ目の前の光景(こうけい)に驚いているベレンは呟(つぶや)いた。
「素敵(すてき)なお店でしょ~」
「ほら、中に入って。」
アカリはにっこり笑って手を差し出し、動かずにいるベレンを店の中に引きずり込んだ。
「いらっしゃいませ!」
店の中に入ると、すぐに冷房からの冷たい風を感じ、べたついていた肌がすぐにすっきりした。
なんて気持ちがいい温度差だろう。
まだ夏真っ盛りではないが、最近は気温が高く、少し動いただけでおでこに汗をかいてしまい、外にいることが大変になっている。この冷たい空気は、店の中を特別な場所のように感じさせる。
「これは…」
さっき窓から見えた店の中の緑は、実際に店に入ってみるとほんの一部にすぎないことがわかる。
カウンターの横から窓の前まで、店のいたるところにいろいろな観葉植物がある。
「まるで植物園みたい…」
ベレンは思わずあちこちにある緑を見ていた。
「何をボーッとしているの?」
ベレンの肩をポン叩きながら、アカリが尋ねた。
「いや、なんかここは植物園みたいだな…って。」
「プッ。」
アカリは笑いをこらえきれなかった。
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
一人の店員が笑顔で迎えてくれた。
「あ、二名です!」
「では、空いているお好きな席へどうぞ。」
「はい。」
「ベレン、どこがいい?」
「うーん、どこがいいかな…」
二人はしばらく店の中を見渡している。
「あそこはどう?」
アカリはとても大きなブラッサイアが置かれている隅にある窓に近い席をさしながら尋ねた。
「うん!いいと思う!」
2人は窓の近くに座った。
「さあ、教えて!何を不安に思っているの?」
アカリは待てずに尋ねた。
すると、ベレンは最近ずっと不安に思っている経済面の問題やアルバイト探しのことを全部話した。
「なるほど~つまり今はどんなアルバイトにしたらいいか迷ってるってことね?」
ベレンはうなずいた。
「じゃあ、この店はどう思う?」
アカリはニコニコして言った。
「え?急に?」
「うーん…いいお店だと思うよ。とても落ち着けて、リラックスできる。なんで急に聞くの?」
「もし、この店みたいなところでアルバイトできたらどう思う?」
「えっ?」
ベレンはびっくりした。
「それはありがたい話だけど…でもこんなところで働いたことがないし、お客さんと接した経験もなくて、今の私の日本語レベルじゃ足りないんじゃないかなって…」
ベレンは自信なく頭を下げた。
「何言ってんのよ!ベレンの日本語力はもう十分だよ!」
「もっと自分に自信を持たなくちゃ!」
「まぁ、もちろんベレンがどう思うかだよ。」
「でも、もし興味があるなら、私が紹介できるってこと!」
アカリは目を大きくしてベレンの返事を待っている。
「ありがとう。」
「うーん、じゃあこの店で働くってことになるの?」
「違うよ!」
アカリは笑いそうになった。
「でも同じようなカフェなんだ。というか、私が今アルバイトしてるところなのだけど。」
「そこの雰囲気もこの店と似ているの。」
「さっき、アルバイトをすると勉強できなくなるんじゃないかって心配してたでしょ?」
「その店は、お昼の12時過ぎからお店をあけるから。週2回休みがあるし、働く時間はあんまり長くないの。」
「働く日時も調整できるから、ベレンにちょうどじゃないかと思ったの!」
アカリの話を聞きながら、ベレンはだんだん興味を持ち始めた。
「でも…」
「でも何?」
「でも、コーヒー豆については少し勉強しないと…」
「最初は少し時間がかかるかもしれないけど、私が手伝うから心配ない!」
アカリは自信を持って言った。
「急いで決めなくてもいいから。ゆっくり考えてくれればいいの。」
「はぁ…」
今月また電気代が上がったな…
支払い請求書を見てため息をついたベレン。
最近、ベレンは悩んでいる。
何を隠そう、日本留学の高額な費用のためだ。
奨学金を受給しての留学とはいえ、それはギリギリ授業料を支払える程度だ。家賃や生活費など、授業料以外の支出は、すべてベレン自身がなんとかしなければならない。しかも、ベレンは今、東京の学校に通っている。日本で最も物価が高い街に暮らせば、生活費の出費はなおさら多い。
それを覚悟して貯金しておいて日本に来たのだが、実際に日本に来たら、予想していないところでの支出がやはり多かった。
これからまだ一年ほど日本に滞在するベレンにとって、それは悩むものだ。
「はぁぁ…」
またため息が漏れる。
「このままじゃいけないんだ。そろそろアルバイトとか始めないと。」
日本に来てすぐにアルバイトを始めないのには理由があるのだ。
短期の交換留学とはいえ、新しい環境に慣れるまでに時間がかかるし、毎日日本語で勉強し、生活するのも容易なことではない。だから、できるだけ学業に専念するよう、最初はアルバイトとかちっとも考えなかった。
しかし、厳しい現実を目の前にして、日本で留学している間、どう生きていくのかを考え直さなければならないのだ。アルバイトはしない、という考えはもう捨てざるを得ないようだ。
「よし!柔軟に考えよう!」
自分の顔を叩き、元気を出そうとするベレン、ようやく決意したようだ。
「でも、どんなバイトがいいかな…」
アルバイトをすることを決心したが、具体的に何をしたらいいのかがまだわからない。
元気を取り戻したばかりのベレンが、またへこたれるようになった。
アルバイトをするといっても、何でもいいというわけではないのだ。
まず、学業はやはり一番大事なので、長く働いて勉強に影響が出てはいけない。だから、長時間勤務のアルバイトは避けることだ。
次に、難易度が高すぎる仕事もなし。理由は前述と同じで、勉強の時間が取れなくなるからだ。
それから、最も肝心なのは給料だ。お金のために働こうとするのに、給料が低すぎても困るだろう。
「あぁぁ!もうわからない!」
ベレンは頭を抱えて、眉をひそめる。
「誰かに相談したいなぁ…」
「ベレン!」
振り向くと、手を振りながら歩いてくるアカリがいた。
アカリとは、スペイン語の国際交流イベントで知り合った。
知り合って間もないが、アカリはいつも元気で明るく、同い年だし、二人はすぐに親しくなった。
「授業もう終わった?ちょうど今ご飯に行くんだけど、一緒に行かない?」
いつもの明るい笑顔だ。
「ちょっとやることがあるから、今日は難しいんだ。」
「ベレン、なんか元気ないみたいだね、どうしたの?」
ベレンは答えず、ただ前に歩く。
「あたしに何か手伝えることはない?」
「勉強とかで困ってる?」
アカリはもちろん諦めず、ベレンを追いかける。
「ベレン、なんか言ってよ。」
「もしかしたら、あたし力になれるかもしれないよ!」
しかたなく、ベレンは立ち止まった。
本当に、この子の熱意にかなわないな。
「実は、悩んでいることがあるんだ。」
「ずっと誰かに相談したいと思っている。」
「でも、すぐに終わる話じゃないけど、この後時間ある?」
やっと話してくれたベレンを見て、アカリは顔を輝かせた。
「もちろんよ!」
アカリは胸を強く叩く。
「行こうか!どこか探して、ゆっくり話そう。」
「ここだ!」
「ほら、早く来て!」
アカリは店の扉を片手で押し開けながら、後ろでぼーっとしているベレンに向かって手招きする。
「ここはなんだ…」
ガラス張りの花屋のようなこの店にベレンは目を見張っている。
紫陽花が咲く時期なので、店の周りに青と紫の紫陽花が映え合い、店の周りを花が天然のフェンスを作っている。そのフェンスの後ろには、大きな窓がいくつもあり、そこから店内を見ると、天井から垂れ下がっている蔓がある。さらに視線を奥に移すと、ほぼ天井と同じ高さの木製の四角い棚が壁に立てかけてあり、その棚には、驚くほどの数の観葉植物が並んでいる。観葉植物はひとつひとつ異なっているが、不思議なことに、その配置に違和感がなく、ここならではの独自の調和が感じられる。
まだ早いためか、店内にはあまり客はおらず、店員たちは整然と注文を取ったり、食事を運んだりしている。
店の外は暑くてせわしない空気がしているが、店内はみんな穏やかな笑顔を浮かべており、ゆったりとした雰囲気で少し場違いな感じがした。
「ここにこんな店があるなんて、知らなかった…」
まだ目の前の光景に驚いているベレンは呟いた。
「素敵なお店でしょ~」
「ほら、中に入って。」
アカリはにっこり笑って手を伸ばし、じっと動かずにいるベレンを店の中に引っ張り込んだ。
「いらっしゃいませ!」
店内に踏み入れると、すぐに冷房からの冷たい風を感じ、ベタベタしていた肌が一瞬ですっきりした。
なんと心地よい温度差だろう。
まだ真夏ではないが、このところの気温の上昇で、少し動いただけで額に大汗をかき、屋外にいることがもはや一種の修行のようなものになっている。この冷たい空気は、店の中を異空間のようにしている。
「これは…」
先ほど窓から見えた店内の緑は、実際に店に入ってみると氷山の一角にすぎないことがわかる。
カウンターの横から窓の前まで、店内のいたるところに様々な観葉植物がある。
「まるで植物園みたい…」
ベレンの視線は思わずあちこちにある緑を追っていく。
「何をボーッとしているの?」
ベレンの肩をパッと叩くと、アカリが尋ねた。
「いや、なんかここは植物園みたいだな…って。」
「プッ。」
アカリは笑いをこらえきれなかった。
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
一人の店員が笑顔で出迎えてきた。
「あ、二名です!」
「では、空いているお好きな席へどうぞ。」
「はい。」
「ベレン、どこがいい?」
「うーん、どこがいいかな…」
二人はしばらく店内を見回している。
「あそこはどう?」
アカリは巨大なブラッサイアが置かれている隅にある窓側の席を指差しながら尋ねた。
「うん!いいと思う!」
2人は窓際に座った。
「さあ、教えて!何を悩んでるの?」
アカリは我慢できずに尋ねた。
すると、ベレンは最近ずっと悩んでいる経済面の問題やアルバイト探しのことをすべて話した。
「なるほど~つまり今はどんなアルバイトにしたらいいか迷ってるってことね?」
ベレンはうなずいた。
「じゃあ、この店はどう思う?」
アカリは目を細めた。
「え?急に?」
「うーん…いいお店だと思うよ。居心地がよくて、リラックスできる雰囲気がしている。なんで急に聞くの?」
「もし、この店みたいなところで働けたらどう思う?」
「えっ?」
ベレンは戸惑った。
「それはありがたい話だけど…でもこんなところで働いたことがないし、接客の経験もなくて、今の私の日本語レベルじゃ足りないんじゃないかなって…」
ベレンは自信なさげに頭を下げた。
「何言ってんのよ!ベレンの日本語力はもう十分だよ!」
「もっと自分に自信を持たなくちゃ!」
「まぁ、もちろんベレンの考え次第だよ。」
「でも、もし興味があるなら、私が紹介できるってこと!」
アカリは目を丸くしてベレンの返事を待っているように見つめている。
「ありがとう。」
「うーん、じゃあこの店で働くってことになるの?」
「違うよ!」
アカリは吹き出しそうに笑った。
「でも同じくカフェなんだ。っていうか、私が今バイトしてるところなのだけど。」
「そこの雰囲気もこの店と似ているの。」
「さっき、アルバイトをすると勉強に影響がでるんじゃないかって心配してたでしょ?」
「その店は、正午過ぎから営業を始めるから。週2回定休があるし、働く時間はそんなに長くないの。」
「シフトも調整できるから、ベレンにぴったりじゃないかと思ったの!」
アカリの話を聞きながら、ベレンは徐々に興味が湧いてきた。
「ただ…」
「ただ何?」
「ただ、コーヒー豆の知識はある程度勉強しないと…」
「最初は少し時間がかかるかもしれないけど、私が手伝うから心配ない!」
アカリは自信たっぷりに胸を張った。
「急いで決めなくてもいいから。ゆっくり考えてくれればいいの。」
今月また電気代が上がったな…
支払い請求書を見てため息をついたベレン。
最近、ベレンは悩んでいる。
何を隠そう、日本留学の高額な費用のためだ。
奨学金を受給しての留学とはいえ、それはギリギリ授業料を支払える程度だ。家賃や生活費など、授業料以外の支出は、すべてベレン自身がなんとかしなければならない。しかも、ベレンは今、東京の学校に通っている。日本で最も物価が高い街に暮らせば、生活費の出費はなおさら多い。
それを覚悟して貯金しておいて日本に来たのだが、実際に日本に来たら、予想していないところでの支出がやはり多かった。
これからまだ一年ほど日本に滞在するベレンにとって、それは悩むものだ。
「はぁぁ…」
またため息が漏れる。
「このままじゃいけないんだ。そろそろアルバイトとか始めないと。」
日本に来てすぐにアルバイトを始めないのには理由があるのだ。
短期の交換留学とはいえ、新しい環境に慣れるまでに時間がかかるし、毎日日本語で勉強し、生活するのも容易なことではない。だから、できるだけ学業に専念するよう、最初はアルバイトとかちっとも考えなかった。
しかし、厳しい現実を目の前にして、日本で留学している間、どう生きていくのかを考え直さなければならないのだ。アルバイトはしない、という考えはもう捨てざるを得ないようだ。
「よし!柔軟に考えよう!」
自分の顔を叩き、元気を出そうとするベレン、ようやく決意したようだ。
「でも、どんなバイトがいいかな…」
アルバイトをすることを決心したが、具体的に何をしたらいいのかがまだわからない。
元気を取り戻したばかりのベレンが、またへこたれるようになった。
アルバイトをするといっても、何でもいいというわけではないのだ。
まず、学業はやはり一番大事なので、長く働いて勉強に影響が出てはいけない。だから、長時間勤務のアルバイトは避けることだ。
次に、難易度が高すぎる仕事もなし。理由は前述と同じで、勉強の時間が取れなくなるからだ。
それから、最も肝心なのは給料だ。お金のために働こうとするのに、給料が低すぎても困るだろう。
「あぁぁ!もうわからない!」
ベレンは頭を抱えて、眉をひそめる。
「誰かに相談したいなぁ…」
「ベレン!」
振り向くと、手を振りながら歩いてくるアカリがいた。
アカリとは、スペイン語の国際交流イベントで知り合った。
知り合って間もないが、アカリはいつも元気で明るく、同い年だし、二人はすぐに親しくなった。
「授業もう終わった?ちょうど今ご飯に行くんだけど、一緒に行かない?」
いつもの明るい笑顔だ。
「ちょっとやることがあるから、今日は難しいんだ。」
「ベレン、なんか元気ないみたいだね、どうしたの?」
ベレンは答えず、ただ前に歩く。
「あたしに何か手伝えることはない?」
「勉強とかで困ってる?」
アカリはもちろん諦めず、ベレンを追いかける。
「ベレン、なんか言ってよ。」
「もしかしたら、あたし力になれるかもしれないよ!」
しかたなく、ベレンは立ち止まった。
本当に、この子の熱意にかなわないな。
「実は、悩んでいることがあるんだ。」
「ずっと誰かに相談したいと思っている。」
「でも、すぐに終わる話じゃないけど、この後時間ある?」
やっと話してくれたベレンを見て、アカリは顔を輝かせた。
「もちろんよ!」
アカリは胸を強く叩く。
「行こうか!どこか探して、ゆっくり話そう。」
「ここだ!」
「ほら、早く来て!」
アカリは店の扉を片手で押し開けながら、後ろでぼーっとしているベレンに向かって手招きする。
「ここはなんだ…」
ガラス張りの花屋のようなこの店にベレンは目を見張っている。
紫陽花が咲く時期なので、店の周りに青と紫の紫陽花が映え合い、店の周りを花が天然のフェンスを作っている。そのフェンスの後ろには、大きな窓がいくつもあり、そこから店内を見ると、天井から垂れ下がっている蔓がある。さらに視線を奥に移すと、ほぼ天井と同じ高さの木製の四角い棚が壁に立てかけてあり、その棚には、驚くほどの数の観葉植物が並んでいる。観葉植物はひとつひとつ異なっているが、不思議なことに、その配置に違和感がなく、ここならではの独自の調和が感じられる。
まだ早いためか、店内にはあまり客はおらず、店員たちは整然と注文を取ったり、食事を運んだりしている。
店の外は暑くてせわしない空気がしているが、店内はみんな穏やかな笑顔を浮かべており、ゆったりとした雰囲気で少し場違いな感じがした。
「ここにこんな店があるなんて、知らなかった…」
まだ目の前の光景に驚いているベレンは呟いた。
「素敵なお店でしょ~」
「ほら、中に入って。」
アカリはにっこり笑って手を伸ばし、じっと動かずにいるベレンを店の中に引っ張り込んだ。
「いらっしゃいませ!」
店内に踏み入れると、すぐに冷房からの冷たい風を感じ、ベタベタしていた肌が一瞬ですっきりした。
なんと心地よい温度差だろう。
まだ真夏ではないが、このところの気温の上昇で、少し動いただけで額に大汗をかき、屋外にいることがもはや一種の修行のようなものになっている。この冷たい空気は、店の中を異空間のようにしている。
「これは…」
先ほど窓から見えた店内の緑は、実際に店に入ってみると氷山の一角にすぎないことがわかる。
カウンターの横から窓の前まで、店内のいたるところに様々な観葉植物がある。
「まるで植物園みたい…」
ベレンの視線は思わずあちこちにある緑を追っていく。
「何をボーッとしているの?」
ベレンの肩をパッと叩くと、アカリが尋ねた。
「いや、なんかここは植物園みたいだな…って。」
「プッ。」
アカリは笑いをこらえきれなかった。
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
一人の店員が笑顔で出迎えてきた。
「あ、二名です!」
「では、空いているお好きな席へどうぞ。」
「はい。」
「ベレン、どこがいい?」
「うーん、どこがいいかな…」
二人はしばらく店内を見回している。
「あそこはどう?」
アカリは巨大なブラッサイアが置かれている隅にある窓側の席を指差しながら尋ねた。
「うん!いいと思う!」
2人は窓際に座った。
「さあ、教えて!何を悩んでるの?」
アカリは我慢できずに尋ねた。
すると、ベレンは最近ずっと悩んでいる経済面の問題やアルバイト探しのことをすべて話した。
「なるほど~つまり今はどんなアルバイトにしたらいいか迷ってるってことね?」
ベレンはうなずいた。
「じゃあ、この店はどう思う?」
アカリは目を細めた。
「え?急に?」
「うーん…いいお店だと思うよ。居心地がよくて、リラックスできる雰囲気がしている。なんで急に聞くの?」
「もし、この店みたいなところで働けたらどう思う?」
「えっ?」
ベレンは戸惑った。
「それはありがたい話だけど…でもこんなところで働いたことがないし、接客の経験もなくて、今の私の日本語レベルじゃ足りないんじゃないかなって…」
ベレンは自信なさげに頭を下げた。
「何言ってんのよ!ベレンの日本語力はもう十分だよ!」
「もっと自分に自信を持たなくちゃ!」
「まぁ、もちろんベレンの考え次第だよ。」
「でも、もし興味があるなら、私が紹介できるってこと!」
アカリは目を丸くしてベレンの返事を待っているように見つめている。
「ありがとう。」
「うーん、じゃあこの店で働くってことになるの?」
「違うよ!」
アカリは吹き出しそうに笑った。
「でも同じくカフェなんだ。っていうか、私が今バイトしてるところなのだけど。」
「そこの雰囲気もこの店と似ているの。」
「さっき、アルバイトをすると勉強に影響がでるんじゃないかって心配してたでしょ?」
「その店は、正午過ぎから営業を始めるから。週2回定休があるし、働く時間はそんなに長くないの。」
「シフトも調整できるから、ベレンにぴったりじゃないかと思ったの!」
アカリの話を聞きながら、ベレンは徐々に興味が湧いてきた。
「ただ…」
「ただ何?」
「ただ、コーヒー豆の知識はある程度勉強しないと…」
「最初は少し時間がかかるかもしれないけど、私が手伝うから心配ない!」
アカリは自信たっぷりに胸を張った。
「急いで決めなくてもいいから。ゆっくり考えてくれればいいの。」