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妖怪の囁き・上
都市外れの田舎
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バスは遅れそうだった。バス停にはベレンしかいなかった。だんだん暗くなってきた。ベレンはケータイを取って、時間を見た。やっぱりバスが来るはずの時間はすぎていたけど、なかなか来なかった。どうしよう。駅まで歩いて行くと、終電(しゅうでん:1日のさいごの電車のこと)でも間に合わないだろう。じつは今バスが来ても、もうダメだ。都市からだいぶ離れているところにいるから、終電も早い。そうだんできる人もいないし。ここはほとんど車すら走らない田舎だから、バスを待つしかできないかな。たぶん駅まで着いたら、とまる場所があるかもとベレンは考えた。とたん、小さくて、白い車が来た。そして、ベレンの前に止まった。
「今日のバスはもう、ないね」と車の中にいた女の人が言った。
「えっ、本当ですか。でも、インターネットのスケジュールによると、17時半発のバスがあるそうです。もう17時45分なのに」
「それはね、そのスケジュールは間違えているものね。乗る人がいないので、ずっと前からあの時間のバスがキャンセルになった」
そうですか、とベレンは言った。ほかに何と答えたらいいのかわからなかった。バスが来ないなら、どうすればいいかもわからなかった。
「どこに行くの?」と女の人はやさしく言った。
「駅までですが」
「終電にはもう間に合わないみたいだね」女の人は時計に目を落とした。その村のバスと電車のことにくわしい。ここに住んでいたらしい。
「すみませんが、このあたりにはホテルとかありませんか」とベレンはたずねた。
女の人は少し考えてから、うなずいた。そして、ベレンを車で送るとさそった。
「私はベレンと言います。よろしくお願いします」と車に乗ってからベレンは言った。
「高橋です。こちらこそよろしく」
高橋の側から見ると、車の窓の外に森のけしきが見えた。ベレンの側から見ると、畑ばかりだった。
「どちらの国の方なの?」
「アルゼンチンから来ました」
「おっ、アルゼンチン!遠いね」
「そうですね」
「じゃあ、留学とかで来たのか」
「はい、そうです。高橋さんはこの村の出身ですか」
「ええ。生まれてからずっとここに住んでいる」
ベレンは高橋をそっと見た。見た目からすると、40代の女の人だ。黒くて、かたまでの長さの髪で、目が大きい。彼女は笑うと、なぜか猫みたいになる。そして、運転に自信があるように見えた。
「ベレンさんは、なんでこんなところに?」
いい質問だ。なんでこんなところにいるのかな。かんこうちもあまりないし。山と森と田んぼしかない。山登りが好きなベレンは今朝来てから、すぐ山に登ろうとした。だが、駅からも大分はなれている山だし、着くまで思ったより長い時間がかかった。そして、かんこうの山に見えなかった。ケーブルカーなどもないし、登っている人も少なかった。でも、それは別に問題ない。自然がきれいなところだからだ。山にある小さなたきや森の音をききながら、登るのは気持ちがよかった。リラックスもできるし。また、山のトップに着いた時の満足感もすばらしかった。けしきはすてきで、絵のようなたにや緑の海のような森が広がっていた。そのけしきに感動したので、時間をわすれてしまった。
「正直に言うと、指さしました」とベレンは答えた。
「はっ?」
「地図を開いて、目を閉じて、指さしました。どこかに行きたかったのですけど、場所はなかなか決められなかったからです」
「おもしろい方法だね」と高橋は笑った。
「だから、ここにいるのはぐうぜんです」
高橋の顔にふしぎなひょうじょうが出て、また猫のように見えるようになった。
「なら、今向かっている旅館について聞いたことがないでしょ」と高橋は少しミステリアスな声で言った。
「ないですが…もしかしたら、有名ですか」
「まあ、有名っていうより…かいだんで知られている旅館だ」
「かいだんって?」
建物の上下の階など、高さの違う場所をつなぐかいだんではないかなとベレンは思った。
「あっ、幽霊(ゆうれい:死んだ人のたましい)などについての話で知られているところだ」
「その旅館では幽霊が出るんですか」
「いろいろなうわさがあるよ。怖くないの?」
ベレンは少しだまってから、
「幽霊をあまり信じていませんから、大丈夫だと思います。でも、どうしてその旅館についてそういううわさがあるのですか」と言った。
「むかしは、旅館じゃなくて、ただの家だった。その家にはある夫婦が二人なかよく暮らしていた。でも、ある日、奥さんは病気になって、あたまがくるったらしい。自分の夫が本物じゃなくて、化け物(ばけもの:怖いものや変なかたちをした生き物)だと信じるようになった。彼女を殺したい化け物だと。だから、夫が寝ている時、大きいナイフを取って、彼を殺した」
ベレンはとりはだが立った。
「殺された化け物は本当のすがたを見せるはずだった。でも、血だらけのナイフを持っている奥さんの前ではただの人だった。死んでいる夫。間違えたと分かった奥さんはさけび、大きい声で泣き出した。そして、数日たってから、かなしさで死んだ。だから、今でもこの旅館では彼女のさけびごえが聞こえる。夜中にろうかを歩いている奥さんのすがたを見た人もいる」
ベレンは何も言わずに、血だらけのナイフと顔の白い女の幽霊について考えた。一回考えたら、もう頭からはなれなくなった。
「着いた」
「今日のバスはもう、ないね」と車の中にいた女の人が言った。
「えっ、本当ですか。でも、インターネットのスケジュールによると、17時半発のバスがあるそうです。もう17時45分なのに」
「それはね、そのスケジュールは間違えているものね。乗る人がいないので、ずっと前からあの時間のバスがキャンセルになった」
そうですか、とベレンは言った。ほかに何と答えたらいいのかわからなかった。バスが来ないなら、どうすればいいかもわからなかった。
「どこに行くの?」と女の人はやさしく言った。
「駅までですが」
「終電にはもう間に合わないみたいだね」女の人は時計に目を落とした。その村のバスと電車のことにくわしい。ここに住んでいたらしい。
「すみませんが、このあたりにはホテルとかありませんか」とベレンはたずねた。
女の人は少し考えてから、うなずいた。そして、ベレンを車で送るとさそった。
「私はベレンと言います。よろしくお願いします」と車に乗ってからベレンは言った。
「高橋です。こちらこそよろしく」
高橋の側から見ると、車の窓の外に森のけしきが見えた。ベレンの側から見ると、畑ばかりだった。
「どちらの国の方なの?」
「アルゼンチンから来ました」
「おっ、アルゼンチン!遠いね」
「そうですね」
「じゃあ、留学とかで来たのか」
「はい、そうです。高橋さんはこの村の出身ですか」
「ええ。生まれてからずっとここに住んでいる」
ベレンは高橋をそっと見た。見た目からすると、40代の女の人だ。黒くて、かたまでの長さの髪で、目が大きい。彼女は笑うと、なぜか猫みたいになる。そして、運転に自信があるように見えた。
「ベレンさんは、なんでこんなところに?」
いい質問だ。なんでこんなところにいるのかな。かんこうちもあまりないし。山と森と田んぼしかない。山登りが好きなベレンは今朝来てから、すぐ山に登ろうとした。だが、駅からも大分はなれている山だし、着くまで思ったより長い時間がかかった。そして、かんこうの山に見えなかった。ケーブルカーなどもないし、登っている人も少なかった。でも、それは別に問題ない。自然がきれいなところだからだ。山にある小さなたきや森の音をききながら、登るのは気持ちがよかった。リラックスもできるし。また、山のトップに着いた時の満足感もすばらしかった。けしきはすてきで、絵のようなたにや緑の海のような森が広がっていた。そのけしきに感動したので、時間をわすれてしまった。
「正直に言うと、指さしました」とベレンは答えた。
「はっ?」
「地図を開いて、目を閉じて、指さしました。どこかに行きたかったのですけど、場所はなかなか決められなかったからです」
「おもしろい方法だね」と高橋は笑った。
「だから、ここにいるのはぐうぜんです」
高橋の顔にふしぎなひょうじょうが出て、また猫のように見えるようになった。
「なら、今向かっている旅館について聞いたことがないでしょ」と高橋は少しミステリアスな声で言った。
「ないですが…もしかしたら、有名ですか」
「まあ、有名っていうより…かいだんで知られている旅館だ」
「かいだんって?」
建物の上下の階など、高さの違う場所をつなぐかいだんではないかなとベレンは思った。
「あっ、幽霊(ゆうれい:死んだ人のたましい)などについての話で知られているところだ」
「その旅館では幽霊が出るんですか」
「いろいろなうわさがあるよ。怖くないの?」
ベレンは少しだまってから、
「幽霊をあまり信じていませんから、大丈夫だと思います。でも、どうしてその旅館についてそういううわさがあるのですか」と言った。
「むかしは、旅館じゃなくて、ただの家だった。その家にはある夫婦が二人なかよく暮らしていた。でも、ある日、奥さんは病気になって、あたまがくるったらしい。自分の夫が本物じゃなくて、化け物(ばけもの:怖いものや変なかたちをした生き物)だと信じるようになった。彼女を殺したい化け物だと。だから、夫が寝ている時、大きいナイフを取って、彼を殺した」
ベレンはとりはだが立った。
「殺された化け物は本当のすがたを見せるはずだった。でも、血だらけのナイフを持っている奥さんの前ではただの人だった。死んでいる夫。間違えたと分かった奥さんはさけび、大きい声で泣き出した。そして、数日たってから、かなしさで死んだ。だから、今でもこの旅館では彼女のさけびごえが聞こえる。夜中にろうかを歩いている奥さんのすがたを見た人もいる」
ベレンは何も言わずに、血だらけのナイフと顔の白い女の幽霊について考えた。一回考えたら、もう頭からはなれなくなった。
「着いた」
バスは遅れそうだった。バス停にはベレンしかいなかった。段々暗くなってきた。ベレンはスマホを取り出して、時間を確認した。やっぱりバスが来るはずの時間は過ぎていたけど、なかなか来なかった。どうしよう。駅まで歩いて行くと、終電でも間に合わないだろう。実は今バスが来ても、もうダメだ。都会から大分離れているところにいるから、終電も早い。相談できる人もいないし。ここはほとんど車すら走らない田舎だから、バスを待つしかできないかな。たぶん駅まで着いたら、泊まる場所があるかもとベレンは考えた。途端、小さくて、白い車が来た。そして、ベレンの前に止まった。
「今日のバスはもう、ないね」と車の中にいた女の人が言った。
「えっ、本当ですか。でも、ネットの時刻表によると、17時半発のバスがあるそうです。もう17時45分なのに」
「それはね、その時刻表は間違えているものね。乗る人がいないので、ずっと前からあの時間のバスがキャンセルになった」
そうですか、とベレンは言った。他に何と答えたらいいのかわからなかった。バスが来ないなら、どうすればいいかもわからなかった。
「どこに行くの?」と女の人は優しく言った。
「駅までですが」
「終電にはもう間に合わないみたいだね」女の人は腕時計に目を落とした。地元のバスと電車のことに詳しい。このあたりに住んでいたらしい。
「すみませんが、この周辺にはホテルとかありませんか」とベレンは尋ねた。
女の人は少し考えてから、頷いた。そして、ベレンを車で送ると誘った。
「私はベレンと言います。よろしくお願いします」と車に乗ってからベレンは言った。
「高橋です。こちらこそよろしく」
高橋の側から見ると、車の窓の外に森の景色が見えた。ベレンの側から見ると、畑ばかりだった。
「どちらの国の方なの?」
「アルゼンチンから来ました」
「おっ、アルゼンチン!遠いね」
「そうですね」
「じゃあ、留学とかで来たのか」
「はい、そうです。高橋さんはこの村の出身ですか」
「ええ。生まれてからずっとここに住んでいる」
ベレンは高橋をコッソリと見た。見た目からすると、40代の女の人だ。黒くて、肩までの長さの髪で、目が大きい。顔に浮かべている微笑みは、なぜか猫みたいな印象だった。そして、運転に自信があるように見えた。
「ベレンさんは、なんでこんなところに?」
いい質問だ。なんで都市外れの田舎にいるのかな。観光地もあまりないし。山と森と畑しかない。山登りが好きなベレンは今朝来てから、すぐ山に登ろうとした。だが、駅からも大分離れている山だし、ふもとに着くまで思ったより長い時間がかかった。そして、観光の山に見えなかった。ケーブルカーとかロープウェイもないし、登っている人も少なかった。でも、それは別に問題ない。自然に恵まれているところだからだ。山にある小さな滝や森のせせらぎを聴きながら、登るのは気持ちがよかった。すごく癒される。また、頂上に着いた時の達成感も素晴らしかった。頂上からの景色は息を呑むようで、絵のような谷や色彩の海のような森が広がっていた。その景色に感動したので、時間を忘れてしまった。
「正直に言うと、指さしました」とベレンは答えた。
「はっ?」
「関東の地図を開いて、目をつぶって、指さしました。どこかに行きたかったのですけど、場所はなかなか決められなかったからです」
「おもしろい方法だね」と高橋は笑った。
「だから、ここにいるのは偶然です」
高橋の顔に不思議な表情がでて、また猫のような微笑みが現れた。
「なら、今向かっている旅館について聞いたことがないでしょ」と高橋は少し神秘的な声で言った。
「ないですが…もしかしたら、有名ですか」
「まあ、有名っていうより…怪談で知られている旅館だ」
「かいだんって?」
建物の一つの階から他の階に通ずるかいだんではないかなとベレンは思った。
「あっ、幽霊などについての話で知られている所だ」
「その旅館では幽霊が出るんですか」
「いろいろな噂があるよ。怖くないの?」
ベレンは少し黙ってから、
「幽霊をあまり信じていませんから、大丈夫だと思います。でも、どうしてその旅館についてそういう噂があるのですか」と言った。
「昔は、旅館じゃなくて、ただの家だった。その家にはある夫婦が二人なかよく暮らしていた。でも、ある日、奥さんは病気になって、頭が狂ったらしい。自分の旦那が本物じゃなくて、化け物だと信じるようになった。彼女を殺したい化け物だと。だから、旦那が寝ている時、大きいナイフを取って、彼を殺した」
ベレンは鳥肌が立った。
「殺された化け物は本物の姿を見せるはずだった。でも、血だらけのナイフを持っている奥さんの前ではただの人だった。死んでいる旦那。間違えたと分かった奥さんは怒鳴り、怒りや後悔で大きい声で泣き出した。そして、数日たってから、悲しさで死んだ。だから、今でもこの旅館では彼女の叫び声が聞こえる。夜中に廊下を歩いている奥さんの姿を見た人もいる」
ベレンは黙ったまま、血だらけのナイフと顔の白い女の幽霊を想像した。一回想像したら、もう頭から離れなくなった。
「到着だ」
「今日のバスはもう、ないね」と車の中にいた女の人が言った。
「えっ、本当ですか。でも、ネットの時刻表によると、17時半発のバスがあるそうです。もう17時45分なのに」
「それはね、その時刻表は間違えているものね。乗る人がいないので、ずっと前からあの時間のバスがキャンセルになった」
そうですか、とベレンは言った。他に何と答えたらいいのかわからなかった。バスが来ないなら、どうすればいいかもわからなかった。
「どこに行くの?」と女の人は優しく言った。
「駅までですが」
「終電にはもう間に合わないみたいだね」女の人は腕時計に目を落とした。地元のバスと電車のことに詳しい。このあたりに住んでいたらしい。
「すみませんが、この周辺にはホテルとかありませんか」とベレンは尋ねた。
女の人は少し考えてから、頷いた。そして、ベレンを車で送ると誘った。
「私はベレンと言います。よろしくお願いします」と車に乗ってからベレンは言った。
「高橋です。こちらこそよろしく」
高橋の側から見ると、車の窓の外に森の景色が見えた。ベレンの側から見ると、畑ばかりだった。
「どちらの国の方なの?」
「アルゼンチンから来ました」
「おっ、アルゼンチン!遠いね」
「そうですね」
「じゃあ、留学とかで来たのか」
「はい、そうです。高橋さんはこの村の出身ですか」
「ええ。生まれてからずっとここに住んでいる」
ベレンは高橋をコッソリと見た。見た目からすると、40代の女の人だ。黒くて、肩までの長さの髪で、目が大きい。顔に浮かべている微笑みは、なぜか猫みたいな印象だった。そして、運転に自信があるように見えた。
「ベレンさんは、なんでこんなところに?」
いい質問だ。なんで都市外れの田舎にいるのかな。観光地もあまりないし。山と森と畑しかない。山登りが好きなベレンは今朝来てから、すぐ山に登ろうとした。だが、駅からも大分離れている山だし、ふもとに着くまで思ったより長い時間がかかった。そして、観光の山に見えなかった。ケーブルカーとかロープウェイもないし、登っている人も少なかった。でも、それは別に問題ない。自然に恵まれているところだからだ。山にある小さな滝や森のせせらぎを聴きながら、登るのは気持ちがよかった。すごく癒される。また、頂上に着いた時の達成感も素晴らしかった。頂上からの景色は息を呑むようで、絵のような谷や色彩の海のような森が広がっていた。その景色に感動したので、時間を忘れてしまった。
「正直に言うと、指さしました」とベレンは答えた。
「はっ?」
「関東の地図を開いて、目をつぶって、指さしました。どこかに行きたかったのですけど、場所はなかなか決められなかったからです」
「おもしろい方法だね」と高橋は笑った。
「だから、ここにいるのは偶然です」
高橋の顔に不思議な表情がでて、また猫のような微笑みが現れた。
「なら、今向かっている旅館について聞いたことがないでしょ」と高橋は少し神秘的な声で言った。
「ないですが…もしかしたら、有名ですか」
「まあ、有名っていうより…怪談で知られている旅館だ」
「かいだんって?」
建物の一つの階から他の階に通ずるかいだんではないかなとベレンは思った。
「あっ、幽霊などについての話で知られている所だ」
「その旅館では幽霊が出るんですか」
「いろいろな噂があるよ。怖くないの?」
ベレンは少し黙ってから、
「幽霊をあまり信じていませんから、大丈夫だと思います。でも、どうしてその旅館についてそういう噂があるのですか」と言った。
「昔は、旅館じゃなくて、ただの家だった。その家にはある夫婦が二人なかよく暮らしていた。でも、ある日、奥さんは病気になって、頭が狂ったらしい。自分の旦那が本物じゃなくて、化け物だと信じるようになった。彼女を殺したい化け物だと。だから、旦那が寝ている時、大きいナイフを取って、彼を殺した」
ベレンは鳥肌が立った。
「殺された化け物は本物の姿を見せるはずだった。でも、血だらけのナイフを持っている奥さんの前ではただの人だった。死んでいる旦那。間違えたと分かった奥さんは怒鳴り、怒りや後悔で大きい声で泣き出した。そして、数日たってから、悲しさで死んだ。だから、今でもこの旅館では彼女の叫び声が聞こえる。夜中に廊下を歩いている奥さんの姿を見た人もいる」
ベレンは黙ったまま、血だらけのナイフと顔の白い女の幽霊を想像した。一回想像したら、もう頭から離れなくなった。
「到着だ」