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書道の天才
日本語の授業で
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Coming soon!
「おはようございます。」
いつも通りのある日、ベレンは日本語のじゅぎょうを受けていた。クラスの人数は少人数で5人程度、今日は漢字について学ぶよていだった。クラスにはブラジル人、中国人もいた。
日本語の先生は、30代前半くらいの若い男性で、ちょっとイケメンだった。黒いかみで、かみを7対3に分けてかき上げている。一緒にじゅぎょうを受けている友だちのアンナは、イケメンだというがベレンはそうでもないと思っていた。みょうじか稲葉(いなば)だったので、心の中ではバンドマンと呼んでいた。アンナは、赤いくせっけのかみと青い目を持った、ヨーロッパから来た女の子だ。歯並びが少し悪く、前歯が出ているのを気にしている。
「この「以」っていう漢字ってひらがなの「い」ににてない?」
授業中にアンナが話しかけてきた。
「授業中よ。うーん。そうかな?」
すぐに、先生が
「良いところに気づきましたね。アンナさん。でも、授業中の無駄話は禁止ですよ。」
少しおこられたけれども、アンナの先生を見る目はあつい。
「今日はひらがなの作り方について少し教えましょう。ひらがなの「い」は漢字の「以」からできたものなんです。日本にはひらがながなくて、中国の漢字を使って日本語の文章を作っていたのです。画数が多くてめんどくさいという理由で、だんだんと簡単にしていったのですよ。だから、ひらがなは漢字から出来ています。」
「へーそうなんですね。先生はとてもくわしいのですね!」
「はい。ぼくは元々書道部でしたから。書道部に入ると自然と分かるようになっていきましたね。」
そういって、先生は「以」という漢字がどのようにして簡単にできたのかをホワイトボードに書いていった。まさにスポーツをやっていそうな見た目なのに、書道を習っていただなんて。
「きれいだ。」
だんだんと「以」の文字が「い」にへんかしていく様子がうつくしく、思わず声に出していた。
「ありがとうございます。」
「そろそろ授業に戻りますね。」
アンナは
「えー」
と言って口をとがらせる。
それからはいつも通りの授業であった。授業が終わるとアンナはすぐに
「もっとひらがなのなり立ちについて教えてほしいです。」
と教卓(きょうたく:先生が使うつくえ)にかけよった。
「いいですよ。たとえば「あ」は……。」
先生の顔はうれしそうだが、早く帰りたがっているようでもあった。手にはかばんを持っていてすぐに出られるかっこうをしていた。アンナを待つベレンも先生の話を聞いていた。
「きれいですね。文字も絵画みたいな美があるのですね。」
「でしょう。書道のうつくしさってあまり知られていないけど、本当にうつくしいでしょう。」
先生はほこらしそうに胸をはった。
「じゃあ、次の授業があるから、もう終わりです。」
「えー。もっと聞きたかったわ。」
アンナはざんねんそうな顔をした。
「じゃあ、先生さようなら。」
「さようなら。また次の授業ね。」
アンナは急いで荷物をまとめた。
「ベレン。待ってくれてありがとう。書道についてどう思った?」
「どうって言われても。うーん。きれいだなとは思ったけど、絵画よりはうつくしさを理解するのはむずかしそうね。」
「ふーん。そう思うんだ。」
「アンナは?」
「うーん。きれいだなとは思ったけど、それで終わりかな。」
「私たちってぜんぜん美とかわかってないね」
「そうねー。」
「ちょっとかなしくなっちゃった。」
「じゃあさ。今度、先生に書道についてもっと教えてもらおうよ。」
「え?先生に?さすがにずうずうしいわよ。」
「ふ。たんじゅんね。先生は書道をやっていた人間よ。人に書道の良さをつたえたいと思っているに違いないわ。」
「アンナからおねがいしてね。」
「いいわよ。まかせて。」
「よろしく。じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
ベレンは次の授業はないから、図書館で時間をつぶそうと思った。アンナは家に帰っていった。歩いている間、外のイチョウの葉の色が少し黄色くなり始めていることに気づいた。ああ、すてきだ。アルゼンチンの家族にも見せたいな、と思った。
いつも通りのある日、ベレンは日本語のじゅぎょうを受けていた。クラスの人数は少人数で5人程度、今日は漢字について学ぶよていだった。クラスにはブラジル人、中国人もいた。
日本語の先生は、30代前半くらいの若い男性で、ちょっとイケメンだった。黒いかみで、かみを7対3に分けてかき上げている。一緒にじゅぎょうを受けている友だちのアンナは、イケメンだというがベレンはそうでもないと思っていた。みょうじか稲葉(いなば)だったので、心の中ではバンドマンと呼んでいた。アンナは、赤いくせっけのかみと青い目を持った、ヨーロッパから来た女の子だ。歯並びが少し悪く、前歯が出ているのを気にしている。
「この「以」っていう漢字ってひらがなの「い」ににてない?」
授業中にアンナが話しかけてきた。
「授業中よ。うーん。そうかな?」
すぐに、先生が
「良いところに気づきましたね。アンナさん。でも、授業中の無駄話は禁止ですよ。」
少しおこられたけれども、アンナの先生を見る目はあつい。
「今日はひらがなの作り方について少し教えましょう。ひらがなの「い」は漢字の「以」からできたものなんです。日本にはひらがながなくて、中国の漢字を使って日本語の文章を作っていたのです。画数が多くてめんどくさいという理由で、だんだんと簡単にしていったのですよ。だから、ひらがなは漢字から出来ています。」
「へーそうなんですね。先生はとてもくわしいのですね!」
「はい。ぼくは元々書道部でしたから。書道部に入ると自然と分かるようになっていきましたね。」
そういって、先生は「以」という漢字がどのようにして簡単にできたのかをホワイトボードに書いていった。まさにスポーツをやっていそうな見た目なのに、書道を習っていただなんて。
「きれいだ。」
だんだんと「以」の文字が「い」にへんかしていく様子がうつくしく、思わず声に出していた。
「ありがとうございます。」
「そろそろ授業に戻りますね。」
アンナは
「えー」
と言って口をとがらせる。
それからはいつも通りの授業であった。授業が終わるとアンナはすぐに
「もっとひらがなのなり立ちについて教えてほしいです。」
と教卓(きょうたく:先生が使うつくえ)にかけよった。
「いいですよ。たとえば「あ」は……。」
先生の顔はうれしそうだが、早く帰りたがっているようでもあった。手にはかばんを持っていてすぐに出られるかっこうをしていた。アンナを待つベレンも先生の話を聞いていた。
「きれいですね。文字も絵画みたいな美があるのですね。」
「でしょう。書道のうつくしさってあまり知られていないけど、本当にうつくしいでしょう。」
先生はほこらしそうに胸をはった。
「じゃあ、次の授業があるから、もう終わりです。」
「えー。もっと聞きたかったわ。」
アンナはざんねんそうな顔をした。
「じゃあ、先生さようなら。」
「さようなら。また次の授業ね。」
アンナは急いで荷物をまとめた。
「ベレン。待ってくれてありがとう。書道についてどう思った?」
「どうって言われても。うーん。きれいだなとは思ったけど、絵画よりはうつくしさを理解するのはむずかしそうね。」
「ふーん。そう思うんだ。」
「アンナは?」
「うーん。きれいだなとは思ったけど、それで終わりかな。」
「私たちってぜんぜん美とかわかってないね」
「そうねー。」
「ちょっとかなしくなっちゃった。」
「じゃあさ。今度、先生に書道についてもっと教えてもらおうよ。」
「え?先生に?さすがにずうずうしいわよ。」
「ふ。たんじゅんね。先生は書道をやっていた人間よ。人に書道の良さをつたえたいと思っているに違いないわ。」
「アンナからおねがいしてね。」
「いいわよ。まかせて。」
「よろしく。じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
ベレンは次の授業はないから、図書館で時間をつぶそうと思った。アンナは家に帰っていった。歩いている間、外のイチョウの葉の色が少し黄色くなり始めていることに気づいた。ああ、すてきだ。アルゼンチンの家族にも見せたいな、と思った。
「おはようございます。」
いつも通りのある日、ベレンは日本語の授業を受けていた。クラスの人数は少人数で5人程度、今日は漢字について学ぶ予定だった。クラスにはブラジル人、中国人もいた。
日本語の授業の先生は30代前半くらいの若い男の先生で、若干イケメンだった。黒髪で髪を7対3でかき上げている。一緒に授業を受けている友達のアンナは、イケメンだというがベレンはそうでもないと思っていた。苗字か稲葉だったので、心の中ではバンドマンと呼んでいた。アンナは赤毛でくせ毛の髪と青い目をしたヨーロッパから来た女の子だ。歯並びが若干悪く、出っ歯なのを気にしている。
「この以っていう漢字ってひらがなの「い」に似てない?」
授業中にアンナが話しかけてきた。
「授業中よ。うーん。そうかな?」
すかさず、先生が
「良いところに気が付きましたね。アンナさん。だけど、授業中の無駄話は禁止ですよ。」
少し怒られたけれども、アンナの先生を見る目は熱い。
「今日はひらがなの成り立ちについて少し教えましょう。ひらがなの「い」は漢字の以からできたものなんです。日本にはひらがなが元々なくて、中国の漢字を当て字にして日本語の文章を作っていたのです。画数が多くて面倒くさいという理由で、だんだんと簡略化していったのですよ。だから、全てのひらがなは漢字から出来ています。」
「へーそうなんですね。先生はとても詳しいのですね!」
「はい。僕は元々書道部でしたから。書道部に入ると自然と分かるようになっていきましたね。」
そういって、先生は以という感じがどのようにして簡略化していったのかをホワイトボードに書いていった。いかにもスポーツをやっていそうな見た目なのに、書道を習っていただなんて。
「綺麗だ。」
だんだんと以の文字が「い」に変化していく様子が美しく、思わず声に出していた。
「ありがとうございます。」
「そろそろ授業に戻りますね。」
アンナは
「えー」
と言って口を尖らせる。
それからはいつも通りの授業であった。授業が終わるとアンナはすぐに
「もっとひらがなの成り立ちについて教えて欲しいです。」
と教卓に駆け寄った。
「いいですよ。例えば「あ」は……。」
先生の顔は嬉しそうだが、早く帰りたがっているようでもあった。手には鞄を持っていてすぐに出られる格好をしていた。アンナを待つベレンも先生の話を聞いていた。
「綺麗ですね。文字も絵画みたいな美があるのですね。」
「でしょう。書道の美しさってあまり知られていないけど、本当に美しいでしょう。」
先生は誇らしそうに胸を張った。
「じゃあ、次の授業があるから、もう終わりです。」
「えー。もっと聞きたかったわ。」
アンナは残念そうな顔をした。
「じゃあ、先生さようなら。」
「さようなら。また次の授業ね。」
アンナは急いで荷物をまとめた。
「ベレン。待ってくれてありがとう。書道についてどう思った?」
「どうって言われても。うーん。綺麗だなとは思ったけど、絵画よりは美しさを理解するのは難しそうね。」
「ふーん。そう思うんだ。」
「アンナは?」
「うーん。綺麗だなとは思ったけど、それで終わりかな。」
「私たちって全然美とかわかってないね」
「そうねー。」
「ちょっと悲しくなっちゃった。」
「じゃあさ。今度、先生に書道についてもっと教えてもらおうよ。」
「え?先生に?さすがに図々しいわよ。」
「ふ。単純ね。先生は書道をやっていた人間よ。人に書道の良さを伝えたいと思っているに違いないわ。」
「アンナからお願いしてね。」
「いいわよ。まかせて。」
「よろしく。じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
ベレンは次の授業は無いから、図書館で時間をつぶそうと思った。アンナは家に帰っていった。歩いている間、外のイチョウの葉の色が若干黄色くなり始めていることに気がついた。ああ、素敵だ。アルゼンチンの家族にも見せたいな、と思った。
いつも通りのある日、ベレンは日本語の授業を受けていた。クラスの人数は少人数で5人程度、今日は漢字について学ぶ予定だった。クラスにはブラジル人、中国人もいた。
日本語の授業の先生は30代前半くらいの若い男の先生で、若干イケメンだった。黒髪で髪を7対3でかき上げている。一緒に授業を受けている友達のアンナは、イケメンだというがベレンはそうでもないと思っていた。苗字か稲葉だったので、心の中ではバンドマンと呼んでいた。アンナは赤毛でくせ毛の髪と青い目をしたヨーロッパから来た女の子だ。歯並びが若干悪く、出っ歯なのを気にしている。
「この以っていう漢字ってひらがなの「い」に似てない?」
授業中にアンナが話しかけてきた。
「授業中よ。うーん。そうかな?」
すかさず、先生が
「良いところに気が付きましたね。アンナさん。だけど、授業中の無駄話は禁止ですよ。」
少し怒られたけれども、アンナの先生を見る目は熱い。
「今日はひらがなの成り立ちについて少し教えましょう。ひらがなの「い」は漢字の以からできたものなんです。日本にはひらがなが元々なくて、中国の漢字を当て字にして日本語の文章を作っていたのです。画数が多くて面倒くさいという理由で、だんだんと簡略化していったのですよ。だから、全てのひらがなは漢字から出来ています。」
「へーそうなんですね。先生はとても詳しいのですね!」
「はい。僕は元々書道部でしたから。書道部に入ると自然と分かるようになっていきましたね。」
そういって、先生は以という感じがどのようにして簡略化していったのかをホワイトボードに書いていった。いかにもスポーツをやっていそうな見た目なのに、書道を習っていただなんて。
「綺麗だ。」
だんだんと以の文字が「い」に変化していく様子が美しく、思わず声に出していた。
「ありがとうございます。」
「そろそろ授業に戻りますね。」
アンナは
「えー」
と言って口を尖らせる。
それからはいつも通りの授業であった。授業が終わるとアンナはすぐに
「もっとひらがなの成り立ちについて教えて欲しいです。」
と教卓に駆け寄った。
「いいですよ。例えば「あ」は……。」
先生の顔は嬉しそうだが、早く帰りたがっているようでもあった。手には鞄を持っていてすぐに出られる格好をしていた。アンナを待つベレンも先生の話を聞いていた。
「綺麗ですね。文字も絵画みたいな美があるのですね。」
「でしょう。書道の美しさってあまり知られていないけど、本当に美しいでしょう。」
先生は誇らしそうに胸を張った。
「じゃあ、次の授業があるから、もう終わりです。」
「えー。もっと聞きたかったわ。」
アンナは残念そうな顔をした。
「じゃあ、先生さようなら。」
「さようなら。また次の授業ね。」
アンナは急いで荷物をまとめた。
「ベレン。待ってくれてありがとう。書道についてどう思った?」
「どうって言われても。うーん。綺麗だなとは思ったけど、絵画よりは美しさを理解するのは難しそうね。」
「ふーん。そう思うんだ。」
「アンナは?」
「うーん。綺麗だなとは思ったけど、それで終わりかな。」
「私たちって全然美とかわかってないね」
「そうねー。」
「ちょっと悲しくなっちゃった。」
「じゃあさ。今度、先生に書道についてもっと教えてもらおうよ。」
「え?先生に?さすがに図々しいわよ。」
「ふ。単純ね。先生は書道をやっていた人間よ。人に書道の良さを伝えたいと思っているに違いないわ。」
「アンナからお願いしてね。」
「いいわよ。まかせて。」
「よろしく。じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
ベレンは次の授業は無いから、図書館で時間をつぶそうと思った。アンナは家に帰っていった。歩いている間、外のイチョウの葉の色が若干黄色くなり始めていることに気がついた。ああ、素敵だ。アルゼンチンの家族にも見せたいな、と思った。