根拠
言語能力の髄とも言える語彙力はどのように身につけることができますか?母語であっても第2言語以降であっても、私たちは語彙力の大半を、読書を通して習得していると考えられます(Krashen 1989)。これはアカデミック語彙についても同様で、専門的な読み物のみならず、楽しみながら読むものから多くの単語を身につけています。McQuillian (2020)によると、世界的に人気が高い児童文学のハリーポッターシリーズにはアカデミック・ワード・リスト(AWL)に載っている単語の85%が収容されています。そしてMason(2007)で示されている多読による語彙習得の高い効率性を考えると、ハリーポッターシリーズを単に読ませると、これらの重要な単語の20%〜50%の習得が期待でき、従来の教え方より1.6〜4倍の効率性になります(McQuillian 2020)。アカデミック場面で使われる語彙を楽しい読み物を通して身につけることの一つの大きな利点としては、持続可能性です。言語習得は年単位で考える必要があります。好きな読み物を楽しみながら日本語に接していくと、学習者は疲弊することなく、無理なく言語習得の長い道のりを最後まで歩んでいけるようになります。
問題
多読の高い効果を示す研究は数多くあり、言語習得への有効性が広く認められています。英語教育のために魅力的なグレイデッド・リーダーは非常に多く存在するが、日本語教育のための多読資料は存在するものの、まだ十分にありません。また、割合として子ども向けと捉えられかねない内容を取り上げる読み物が多く、成人学習者にとって魅力的に感じるものもまだまだ少ないです。
解決を目指して:TsukuBOOKの目的について
TsukuBOOKには、日本語教育のために読者を惹きつけるような面白い多読コンテンツを作成し提供する目的があります。公開当時には独自のコンテンツ作成チームによって執筆されたオリジナルな短編小説を26話提供しています。これらのお話はまず上級レベル(〜N2)の日本語でまず用意して、その後、中級(〜N4)と初級(〜N5)レベルに合わせて書き直していく作業をしています。また、これから新しいタイトルも増やしていく予定です。このような形で、コンテンツが少しずつ増えていくので、利用者に「次のストーリー」を期待しながらそれぞれのコンテンツをたくさん楽しんでいただきたいです。
引用文献
- Krashen, S. (1989). We acquire vocabulary and spelling by reading: Additional evidence for the input hypothesis. The Modern Language Journal, Volume 73(4): 440–463.
- Mason, B. (2007). The efficiency of self-selected reading and hearing stories on adult second language acquisition. In Selected papers from the sixteenth International Symposium on English Teaching (pp. 630–633). Crane Publishing Company.
- McQuillan, J. (2020). Harry Potter and the Prisoners of Vocabulary Instruction: Acquiring academic language at Hogwarts. Reading in a Foreign Language, Volume 32(2): 122–142.
TsukuBOOKコンテンツ制作チーム
監修
- ブッシュネル ケード(筑波大学准教授)
- 関崎 博紀(筑波大学准教授)
- チョーハン アヌブティ(筑波大学助教)
コンテンツ作成
- 阿部 春香
- キムチュク スヴェトラーナ
- 菅野 沙也香
- 新家 理沙
- 劉 楚帆
- 河辺 優菜
- 金 慧欣
- 澤田 絵里
- 高岡 紗那
- 水田 遼太郎
事務サポート
- 石原 真理子
- 軽部 絵美
- 地引 紀子
- 日野 則子